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空挺レンジャー〜「きもち!」

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「空挺レンジャー」、続きです。

想定は全部で6つ。
基礎的なものから応用想定までが行われます。
レンジャー隊員として必要な設定を想定したものです。



戦闘隊が潜入を開始しました。
ここは敵の勢力圏という設定です。
先頭を歩いているのは「戦闘隊長」。

想定前に皆階級章を取っていましたが、それはこの
戦闘隊長の下に入る、という意思表示でもあります。



部下に指示を与えつつ進む隊長。



任務は敵の勢力圏に隠密に潜在し、補給路の遮断、
あるいは橋梁やトンネルの破壊などを行うことです。



山中に潜在し襲撃する拠点を定め、ここで作戦を確認。



この戦闘隊長もまた襟の階級章を取ってしまっています。
その代わりなのか、右腕に腕章を巻いていて、おそらくこれが
戦闘隊長の唯一の印なのではないかと思われます。

この幹部隊員は長身痩躯、しかし筋骨隆々のイケメンです。
何と言っても引き締まった体躯にきりっとした眼がよろしい。

山中深くとはいえ、隠密に行動するせいか、隊長の声は
つねにひそひそ声で、部下も周りに集まってそれを聞きます。



斥候が偵察を開始しました。
どうやら橋を爆破するため爆薬を仕掛けるようです。



橋の下でマニュアルを見ていると・・・・

「えー、爆薬の仕掛け方は、と・・・・・」

(違うと思う)



仮想敵が視察にやってきました。
なるほど、敵の役をする隊員も随行しているわけですね。

敵が通過する間、息をのんで草むらに身を隠す戦闘隊。



早速爆薬を仕掛けます。
実行は夜間です。
それまでの間、潜伏基地では状況を想定し、計画を立てます。



夜になって仮想敵がまた再び橋を渡るときを見計らって、爆破を行います。

「成功!」「成功!」「成功!」

皆が口々に叫びます。
この爆薬は本物で、一応爆発はしています。
もちろん仮想敵を本当に吹っ飛ばすわけにはいかないので、
おそらく爆薬の量で調整するのだと思いますが、それにしても
どちらにとっても危険な訓練ではあります。



おそらく真夜中だと思いますが、帰ってきて帰還報告。
このときの敬礼は、額にではなく、左手を体の反対側にやり、
掌を下に向ける変わった敬礼をしています。
隊長は普通の敬礼です。



そして、帰ってきたからと言ってすぐに寝られるわけではありません。
さっそく本日の講評が行われます。
隊長も基地に残っていたからといって寝ていたわけではなさそうです。

隊長の前にはたたみ1畳半ほどの大きさのジオラマがありますが、
これはこの宿舎に備えられているようです。
長いレンジャー訓練の歴史の中で誰か有志が製作し、
それ以来ずっと使われ続けているのでしょう。

この映画は至る所で彼らの隊内での会話が収録されていますが、
残念なことに訥々としたインタビューと違って殆どが巻き舌で、
語尾に「おい〜」みたいなのが聴こえるのがわかるだけ。
あとはほとんど何を言っているのか判別不能でした。



さらに居室(板に畳を敷いてある)で想定の調整。
それが終わったら次は装備の手入れなど。
なかなか寝かせてもらえません。



タバコを吸う隊員は多いようです。
スポーツクラブなら「タバコは体力の低下が云々」なんて言われそうですが、
自衛隊ではタバコは推奨とは言わないまでもOKのようです。
まあ、もうここまで来たら吸いたいだけ吸わせてやれよ、って感じもします。

旧軍の昔から兵隊とタバコは切っても切れないもののようですが、
陸自はその傾向を引き継いでいるのでしょうか。



こうやってようやく一日目が終わりました。
誰が作ったか眼鏡をかけたてるてる坊主。
訓練のとき雨が降るのは泣きっ面に蜂というものでしょう。
できれば想定がすむまで降らないでほしい、という切実な願いです。


ところでこの宿舎は全体が写ったのを見ると学校の校舎のようです。
廃校になった校舎を自衛隊が買い上げたのでしょうか。







彼らの最大の楽しみは食事でしょう。
自衛隊の誇る野外炊事機がここにも出動して、管理班員が食事を作ります。

どう見ても手の込んだものではありませんが、これから始まる
山中でのサバイバル訓練のことを考えれば、暖かくて好きなだけ
胃の腑に食べ物を納められるというのはそれだけでどんな豪華な食事より
彼らにはありがたいものに違いありません。

想定から帰ってきた学生にはおかゆなど胃に優しいものが与えられます。



明けて翌朝、生徒隊が整列をしました。
想定出発の挨拶です。
隊長は短く「頑張ってこい」と一言。



迷彩メイクも万全です。
出発に当たっては司令官始め全員が外に出て、車に手を振って見送りをします。
勿論先ほど調理をしていた管理班の皆さんも。



さて、次の想定は?

隊長の説明によると、

1、倒木によって敵の先頭車両を停止する
2、84(ハチヨン)で敵の車両を撃破
3、MGで制圧
4、対戦車地雷を埋設

ハチヨンとはおそらく84mm無反動砲
(カールグスタフM2、スウェーデン・ボフォース社製)
のことであろうと思われます。

MGとは機関銃のことで、戦闘職種、普通科始め施設科、
特に特科や戦車の情報中隊や偵察小隊、偵察隊で扱います。



夜間の想定を成功させ、またまた次の日。
肩までの草むらを歩いていたかと思ったらこんどはゴムボートの移動。



輸送ヘリの誘導も行います。
ヘリに信号を送る紅白の旗を持った信号員は、
後ろにぴったりと教官(先任?)が立ち、二人羽織のようにして
学生に指導しながら誘導を行います。

全部学生に任せて失敗があると取り返しがつかないからですね。

ヘリには学生を含め戦闘隊が皆乗り込みました。
今日はヘリで帰還する模様。



唯一、想定中笑いが漏れた瞬間。
背嚢を真ん中の学生が持ち上げて背負ったとき、付けていた小さな
招集用の鐘が「からんからん」と鳴ってしまいます。

「シマッタ」

そんな顔でにやっとした彼の元に上官がやってきて鐘をつかみ
大々的に鳴らし始めました。



するとにこりともせずに回りに立っていた学生達は何も言われないのに
すぐさま棟の方へ向かって駆け出して行きます。

これは非常呼集の合図でもあったのでした。
鳴らしてしまった学生は、ついでにちょっと叱られたようです。

相変わらず皆巻き舌で上官が全く何を言っているのか聞き取れませんでしたが。



基礎訓練で馬鹿たれ呼ばわりしていた一番偉い人の訓示。

「自分に負けるな!」

これはわかる。

「途中相反する面もあるんだけどね。
たとえばどういうことかというと、生存自活等教育受けて、
現地あるものをね、できるだけ最終両立して、
とにかく体力付けて、任務を完遂しなさい」

うーん、偉い人、わたしにはさっぱり意味が分かりませんっ!
何と何が相反するのか。
「現地あるもの」って?
「現地にあるもの」=つまり生存自活で食べる地産地消もの?

これ、皆はわかっているんだろうか。

「後それとは別にね、最初の皆のその

き も ち ! (両手を出す)

やる気を見せるように、以上!」

まあ、これも、何となくわかる。
きもちだよ、やる気のきもち。(たぶん)



なんて言うんでしょうか。
至る所で巻き舌で発せられる命令なんかを聞いていても、つくづくこの世界では
「言葉」というものが実質あまり意味を持っていない気がします。

たとえば海自などにあるのは海軍伝統に培われた行動基準、
—それを「海軍精神」とでも言うのでしょうが—
で、その規則や慣例、カルチャーはたどって行けば全てそこに帰結するわけですが、
そういった世界が全てきっちりとした明文化が可能であるのに対し、
この山中での訓練においては行動の第一義は何をおいてもフィジカルであり、
精神性においては与えられた試練をやり遂げるための、たとえば「頑張る」とか
「耐える」、これ以外の言葉は全く意味を持っていないやに思われます。


海の上で戦う海軍は、その巨大な艦を人間の力で操作することから始まります。
一人の力ではそれを動かすことすらできないのであり、しかもその共同作業は
言葉を介在させずには何も機能せず何物も成立しません。

しかし、一人一人の肉体を武器の一つとして戦う部隊においては
むしろ言葉は不要どころか邪魔になることすらあるわけです。

大隊長の訓示から小隊長の命令にいたるまで、ここで発せられる言葉が
言っては何ですが「言葉としてあまり意味を持っていない」、
もっとはっきり言うと、口に出した瞬間それが稚拙にすら感じるのも、
彼らが「機能的に言葉を発することを任務に要求されていないから」
ということもできるかもしれません。

「陸自と空自の違い」というのを何度か、あくまでもイメージで語ってきましたが、
もしかしたらここに根源的な相違があるせいなのか、とふと思ったわたしです。 



続く。

 (注・冒頭写真は竹野内豊ではありません)

 


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