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空挺レンジャー〜「生存自活」

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「生存自活」とは陸上自衛隊の用語です。

任務を完遂するためにいかなる状況でも一定期間山野に潜伏し、
そこで「生存」するために「自活」する術のことをいいます。
読んで字の通りですが、この4文字には冒頭写真のような
「蛇の踊り食い」というイメージが人口に膾炙してしまいました。

自衛隊には「生存自活セット」というものがあります。
いかなる場所の生存自活をも可能にするための装備一式を言います。

・仮眠シート(優れた透湿防水性および保温性を備えたポンチョ形式のシート)
・2人用天幕(約4kgと軽量で、コンパクトに折り畳める)
・緊急信号セット(昼間用ミラー、夜間用指向性信号など)
・携帯浄水具(逆浸透膜で2人分の浄水が可能。)
・携帯採暖具(複数の燃種が仕様可能な、携帯コンロ)
・携帯調理具
・水嚢

Rightwingより)

仮眠シートや天幕もセットに入っていますが、この訓練での「生存自活」は、
隊員に極限を体験させるために「寝かせない」というのも含みますから、
レンジャー訓練には必要ないんですけどね(T_T)



山地潜入訓練。

山地の移動に必要な技能を身につけるために行います。
前回、ゴムボートで渓流を移動していましたが、あれはこのなかの
「水路潜入」というものです。



こちらは空路潜入のための降下誘導。
空挺部隊の主力を誘導する訓練です。



下からトランシーバーで航空機に向かって

「用意、用意、用意」
「降下降下降下」

と声をかけます。
大事なことだから三回ずつ言うんですねわかります。 


グラウンドや朝霞のフィールドに降りるのと違い、山中では
落下傘の降下は大変危険なものに違いありません。

おそらく長年積み重ねてきたここでの訓練から、比較的安全な場所を選定し、
誘導のマニュアルもある程度決まっているのだとは思われますが、
誘導が拙ければ降下するのがいくら空挺団でも、事故にも直結します。




要人の救出訓練には、ムード満点の?廃屋が舞台となります。



航空部隊隊長との打ち合わせ。
同じ陸自でもパイロットはやはりレンジャー隊員とは雰囲気が全く異なります。

そういえば岡山で会った元パイロットの1佐も、こういう雰囲気だったな。
具体的に何が違う、と聞かれると困りますが。


これは何を打ち合わせているかと云うと夜間行う飛行場襲撃想定の段取り。
敵の飛行場を襲撃する、即ちこのパイロットは敵の役のようです。




山中を黙々と行く隊列。
紺色のキャップは「気持ち!」と訓示していた偉い人ですが、
一人だけ荷物を持たず、しかも杖をついて歩いております。

とはいえ、この年齢になって30歳は下の隊員達と一緒に
山中を歩いているのですから、やはり腐っても元レンジャーです。



ぬかるんだ崖をすべりながら登り、あるときは倒木をくぐりながら、
あるときは足首まで浸かって沢を渡ります。




こんな重装備で沢で足を滑らせ転ぶ隊員もいますが、
周りは勿論本人も声一つあげません。



わずかに与えられた休息時間には無表情で濡れた地面に座り込み、
ほとんど虚脱状態で過ごします。

彼らはこわばった無表情のままで、ただこの試練が過ぎるのを待ちます。

アメリカ軍なら誰かが気の利いたジョークをかますところですが、
残念ながら日本陸軍ではその手のユーモアは伝統的に継承されていないようです。
逆に下手な冗談を言おうものならまわりから冷ややかな眼で見られるだけでなく、
下手したら上官から叱られそうな雰囲気です。

練習艦隊出航に当たって海幕長がわざわざ「伝統のユーモア精神を発揮して」
と訓示をする海自とは良くも悪くもカルチャーが違います。

まあ、カルチャー以前にやってることも全く違うんですけどね。



この訓練はまだ「生存自活」ではありません。
したがって、食事は携行食料です。
パック詰めにした「ミリめし」を袋から直接。
「砂入りのごはん」ではないことが救いでしょうか。



休憩が終わって立ち上がるときには大抵一人では無理なので、
周りが手を貸します。

この訓練の目的の一つに

「同期との絆を深める」

というものがあります。
二人一組でバディとなり、お互いを助け合って訓練に耐えます。

己が厳しい時に他者を慮んばかるのが真の勇者である。

これがレンジャーのモットーでもあるのです。



音楽がいきなり不気味になりました(おいおい・・・)

いよいよ生存自活の象徴、別名

「蛇やカエルを生で食う訓練」

が始まったのです。




これは勿論いざというときに生存するため、山中で採れるものの
見分け方(食べられるかどうか)、そしてどのようにして食べるか、
ということを実践的に学ぶための訓練なので、山菜やキノコなども食べますが、
あえて蛇やカエルに挑戦させることは、通過儀礼のようにも見えます。

レンジャー経験者に言わせると「虫は御馳走」の範疇なのだとか。

一度こういう体験をしてしまえば大概の状況は耐えられるという効果を
期しての、つまりメンタルの訓練です。

頭を落とした蛇の一端を銜えたまま、盛んに尻尾を動かす胴体から
皮を剥いで行き、それをそのまま食す。

こんな体験をすれば、おそらくどのような食生活にも耐えられるでしょう。
ついでに日々の普通の食事に対する感謝も無茶苦茶深まりそうです(笑)


わたしの知人に元海軍軍人(学徒)を父親に持つアメリカ人がいます。
大戦中、彼の父の乗った戦艦がUボートに撃沈されたあと、
彼はボートで漂流し、南米の海岸に漂着して命を長らえたのだそうですが、
そこで最初に飲んだ泥水は彼に取って

「今まで飲んだどんなものよりも甘く、美味しかった」

のだそうです。
ちなみに彼の乗ったフネを撃沈したUボートは救命筏の前に浮上し、

「やあ諸君、君たちの艦を撃沈して誠に申し訳なかった」

と律儀に敬礼していったとのこと。
敬礼の後にご丁寧にも「水は持っているのか」と聞いたそうですが、
「ない」というとそのまま去って行ったそうです。

てか、くれる気ないのなら聞くなよ。



こんな体験に比べれば、生命の危険のない訓練で鶏を捌いて食べるなど、
極限なんて言ったら罰が当たるかもしれません。

きっと鶏だって農家から盗んでくるわけではないだろうし。 



ここでの調理は「解体調理」。
後ろに火が燃えているのですが、どうも焼かないで喰らうようです。
写真ではかえるさんの頭を包丁で殴って気絶させております。

これは食用蛙なので、たぶん焼いて食べればかなりグルメ的に
イケるのではないかと思われますが、やっぱり原型のまま食する模様。

向こう側にあるのは剥いだ蛇の皮。



「これはチキン、これはチキンの手羽先だ」

自分に言い聞かせながら食べているのかもしれません。
学生は一切を無表情で黙々と口にしています。
もしわたしがこのようなものを食べねばならない状況になれば
やはり同じようになると思います。

余計な感情を一切取り払い、今このときが通過するのを待つ。

これを乗り越えて手にする栄光のためでもあり、これもそのための
試練だと最初から納得している人間の表情です。

これだけ一般人の間にも「生存自活」の何たるかが有名になり、
どんな訓練を経てそこに到達するかを知り抜いてなお、
レンジャーに挑戦する若者がいるのです。

「レンジャー」という存在が表すのは、自衛隊の精強さの象徴というだけではなく、
その高みを目指そうとする若者達がこの日本にいるという事実、
そんな彼らが我が国の防衛を担ってくれるということでもあります。



火があったのは飯盒で白飯を炊いたからであるようです。
ご飯は食べられるのですね。
砂は入っているかもしれませんが、辛うじて暖かいご飯は。

しかし、だからといって

「いや、わたしはおかずなしで結構です」

というわけにはいきません。
とにかくこういったものを口にすることに意味があるのです。

なぜならこれはイニシエーションなのですから。 



そんな皆さんにカメラを向け感想を聞く非情の映画クルー。

「とにかくきついです」

「眠くて、腹が減って、喉が渇いて・・・非情に疲れてます」


まあ、それしか感想はないでしょう。



彼の答えによると、すでにケガ人や体調を壊した学生もいるようです。
全員で卒業したいという彼ですが、果たしてどうなるでしょうか。



彼は学生隊長、つまり幹部で、次代の教官でもあります。
驚くなかれ、彼は辛いと思ったことはないので乗り切って行ける、
と笑みを浮かべて言い切りました。



一番辛いことは、と聞かれて、彼は「睡魔との戦い」だといいました。
空腹と乾きはある程度我慢できるけれど、寝られないのが一番辛い、と。

眠いと判断力が失われ、事故を起こすこともあります。
夜の想定では、前の者のヘルメットの後ろに付けられた蛍光の目印を
目印に前について行くのですが、それが一瞬で掻き消え、
次の瞬間遥か下の谷底からうめき声が聞こえて来る、
などということはしょっちゅうあるのだそうです。



平地では何でもないことも山地では思うようにいかない、
それを身を以て知ったと語る学生。

彼が手にしているのは木切れで作った箸です。

しかし、そんな辛さは彼らにとって「想定内」。
終了後、駐屯地に胸を張って凱旋すること、
そして、胸にレンジャーバッジをつけることを励みに
6想定全てを耐え抜くという決意を言葉少なに語るのでした。



「これ(レンジャー)に憧れて、これになりたくて来ているんだから」



次回最終回に続きます。






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