空挺レンジャーシリーズ、最終回です。
今や空挺レンジャーのバッジを獲得するための訓練は最終局面を迎えました。
生存自活訓練で極限下にも生き延びられるだけの術を、
というよりその覚悟を学んだ訓練生たち。
最後の試練に向かって出発します。
赤銅色に陽焼けした顔とはまるで別の体のような彼らの足。
おそらくバディ同士だと思いますが、テーピングをし合います。
いわゆる「サロンPス」状のものです。
ごつごつした軍靴の中で痛めつけられっぱなしなのでしょう。
自衛隊員はほぼ確実に「水虫」持ちだという話もありますが、
彼はバディの足をまるで慈しむように丁寧に包帯を巻いていきます。
そして、汗で流れた偽装メイクを「お化粧直し」してから出発です。
山中をただ黙々と歩き続ける学生達。
明らかに傷みをこらえてか、脚を引きずっている人もいます。
しかしふと思ったのですが、これを撮っているカメラマンは
ずっとこの山中彼らと行動を共にしているわけで・・・。
おそらくカメラのための「やらせ」などは絶対にしないでしょうから、
撮り直しのきかないシーン含め、スタッフは大変な苦労をしたでしょう。
撮影はライトの全く使えない山中の闇の中でも行われます。
眼だけを野生動物のように光らせて地面に座り、休憩する隊員達を
赤外線カメラが追います。
これもまた想定の邪魔をしないようにという配慮でしょう。
そしていよいよ最終想定が始まりました。
銃の点検をする「〜〜良し、〜〜良し」という確認の声だけが
朝の想定拠点を賑わせます。
腕に赤十字の腕章をした陸曹が、皆にテーピングを行います。
装備の余りの重さに首肩をやられてしまったのか。
もう今やどこかにテープを巻いていない隊員はいません。
膝もやられているものが多く、満身創痍といった様相を呈しています。
そして偵察が開始されます。
偵察員、斥候は4人の模様。
そして途中経過は省略して(笑)夜の飛行場に走る火花、
爆破成功です。
画面が明るくなると同時に音楽の調子が変わりました。
「♪ぱっぱぱぱー」(どっどどそー)
というブラスのこれでもかって感じの晴れやかな響き。
そう、これで終わったのです。
全て想定が終了したのです。
このファンファーレ風のかっちょいい音楽は、彼らの健闘と、
そして苦難の果てに得た栄光を讃えて高らかに鳴り響きます。
しかし、山中を行く彼らはまだ表情をこわばらせたまま。
全員で無事に山を下りて初めて想定終了です。
皆さんも学校時代遠足のときに言われませんでしたか?
「家に帰るまでが遠足」
って。
え?一緒にすんな?
群馬から習志野に帰るヘリコプターの中で
「任務終了」
の紙を見せられる瞬間まで、彼らはまだバッジをもらうことが決まっていません。
しかし・・・・。
山から降り、宿舎に向かうトラックに乗り込む瞬間、
迷彩に彩られた学生の頬が緩み、歯が見えます。
バディ同士、しっかり握り合う手と手。
こんなときでも、いやこんなときだからでしょう。
あくまでも彼らは寡黙です。
しかし、トラックに乗り込んだ後、
「やっと終わったよ」
そういう隣の学生の言葉に顔を綻ばす隊員。(冒頭写真)
宿舎に帰ってきた彼らを迎えるのは、紅白の煙幕です。
降下始めの訓練展示で「炎」として扱われるあれですね。
「自衛太鼓」のメンバーも来ているのか、派手な太鼓の音も聴こえます。
駐屯地のメンバーに拍手で迎えられ、
今や真っ赤になってしまったスモークの中に整列する学生たち。
状況終了の報告です。
「任務完遂し、異常なく帰還しましたああ!」
「はい、おめでとう、ご苦労さん!」
これだけです。
ていうか、やっぱりこの世界、言葉は要らないよね。
建物の前に女性が二人立っていますが、これは既婚者の学生の妻が
わざわざ状況終了の儀式を見届けるために馳せ参じたものと思われます。
wikiからの転載。
ほとんど黄緑に迷彩メイクを施した隊員は、
アップにすると分かりますが、涙を流しています。
隊長を輪の真ん中にして乾杯。
何の乾杯だろう。
やっぱり水?
と思ったら、後ろに立っている隊員が日本酒の酒瓶を持っていました。
こんな空きっ腹に日本酒飲んで大丈夫なんですか。
「乾杯!」
折りに付けて感動がわき上がって来るらしく、涙をためている者も。
下戸で飲めないらしい隊員は、一口だけ飲んで後を隣の者に注いでいました。
ていうか、空挺レンジャーでもお酒飲めない人がいるとは驚きです。
この隊員は、飲んだ後しばらく空を見つめていましたが、
「やっと普通の人に戻れそう・・」
とつぶやきました。
その言い方が「あまりにも普通の人」っぽいのでそっちの方が驚きです。
ただでさえ体力が常人より優れている自衛官の中でも
「あれは特別」
と言われているのがこの空挺レンジャー。
超人じみた体力の、化け物のような特別な人間だけがそう呼ばれる、
わたしたちはそういうイメージを彼らに持っているのですが、
彼らにも「そうなった瞬間」があるのです。
「最初からプロだった人間はいない」
そんな言葉が浮かびます。
そして、第一空挺団の隊歌が流れ、皆が手拍子で迎える中、
想定を終了した戦闘隊が凱旋帰還してきます。
全員自衛隊員なので誰も傘をさしておらず分かり難いですが、
この日の習志野はどうも雨が降っているようです。
♪わが征く空は紺碧に わが立つ野辺は深みどり
この国に生きこの国を
守らんとこそ習志野に 誓いて集う空挺団♪
「大空に咲け らっかさん〜」
第一空挺団長はニコニコしながらリズムに合わせて首を振っています。
陸将補可愛いよ陸将補。
こんな陸将補もかつては同じ晴れがましい凱旋をしてきた日があったのです。
彼らに敬礼しながら脳裏にはかつての思い出が過るのかもしれません。
自衛隊の幹部陸曹の教育は普通は別に行うものですが、
空挺団では全ての過程で一緒に訓練を行います。
同じ訓練を通じて互いの区分を認め合うことが
精強化につながっている、というものだそうです。
後ろにいるのは学生隊長だった幹部。
泥にまみれて眼を血走らせていたのが嘘のように爽やかな顔つき。
こざっぱりとした制服姿もまた素敵ではないですか。
因みに彼は、
「辛いと思ったことはない」
と微笑みながら答えていましたが、想定後には涙を滴らせ
うつむく姿もまたちゃんと映像に残されています。
泣いてもいいんですよ、隊長。
レンジャー訓練が終わった直後から、彼ら幹部は
教官となるための各種教育を受けます。
次回は教官として山に行くのでしょう。
教団に立っているのもかつてのレンジャー訓練参加者であり、教官です。
レンジャー徽章の中央の金剛石は「固い意志」を表し、
これを囲む月桂冠は「栄光」の象徴です。
「空挺レンジャー助教・教官として22回参加する。」
11年間の間レンジャー訓練を見つめてきた杖。
冬季遊撃レンジャーの訓練風景。
冬季遊撃レンジャーの資格は、冬季戦技教育隊で10週間の
「冬季遊撃課程教育」を修了することによって得られます。
積雪の山岳地帯における戦闘、ゲリラ戦を行う部隊で、
スキー・装具を装着してのリペリング降下訓練や、雪中内の宿営訓練、
フル装備を背負ってのスキー行進訓練、遭難者救出訓練等も行います。
訓練は北海道のニセコ山中で行われ、マイナス40度の体感温度の中、
凍ったレーションを食べるなど、壮絶を極めるものとなります。
常に凍傷や遭難の危険にさらされるため、
教官・助教も含めた教育参加隊員は命がけで訓練を行っているそうです。
ついていけない隊員は、失格となり原隊に送り返されます。
さて、訓練が終了したのち、装備を背負った学生が草原に向かいます。
杖をついて脚を引きずる者も・・。
彼らが待つのは習志野に帰るために乗るCH。
待ちきれないように皆走り出します。
そしてその機中・・・。
この一瞬を皆は待ち望んでいたのです。
「任務完遂」
この文字を見る瞬間を。
何も説明は要りますまい。
彼らレンジャー隊員に取ってレンジャー資格をとったことは通過点に過ぎません。
これ以降、「日本最強の精鋭部隊の一員」という重みと責任が
常に彼らの双肩にかかってくるのです。
しかし・・・。
今は存分に泣き、喜びに酔ってください。
その涙は、自分の手でつかみとった栄光を飾るにふさわしく、
まるでレンジャー徽章の中央の金剛石のように輝いています。
(シリーズ終わり)