今日は終戦記念日なので戦争映画の感想をお送りします。
昭和19年の松竹映画「浮沈艦撃沈」を観ました。
監督はマキノ正博。
男前である・・・。
いきなり余談ですが、マキノ監督はサッカーファンで、
あの「ドーハの悲劇」となった試合の最中、つまり「悲劇の起こる前」に、
日本の勝利を確信しながら亡くなったという話を知ってしまいました。
・・せめて「悲劇」を知らず、勝てると思ったまま逝ったのは、
こういっては何ですが、幸せな最後だったんじゃーないでしょうか。
さて、4月23日公開ということは、海軍では「竹槍事件」の後で、
「我に飛行機を与えよ」
が血の叫びであったほど戦力に困窮をきわめていた時期です。
料亭やバー、待合茶屋などの料飲施設が閉鎖され、
宝塚歌劇団は休演、松竹少女歌劇団は挺身隊になり、
夕刊は廃止されたのもちょうどこの頃でした。
つまり、国民が肌で感じるほどに敗戦色が明らかになって
歌舞音曲、映画の類いは自粛の嵐が吹き荒れたのです。
これはそんなころに制作された作品です。
タイトルの前に出て来ます。
五七五になっていますね。
マキノ監督というと「早撮り」のできる名手、
というイメージがありますが、この時期、おそらくマキノは
巷に払底し、自粛ムードの吹き荒れる映画界で、
なおかつ今映画を撮るためには、とにもかくにも軍をスポンサーに
戦意高揚ものをするしかない、と割り切ったのでしょう。
どんな制限があっても、その中で得心の行く映画を撮ることが
自分なら出来る、という挟持を持っていたのかもしれません。
極力経費を切り詰めた感漂うタイトル。
昭和16年の晩秋のこと。
昭和精機という民間工場に社長が令嬢を伴って洗われるところから
映画は始まります。
工場まで長距離らしい汽車に乗ってやって来るところを見ると、
この工場はどこか地方(おそらく長野あたり)にあり、
オーナー社長は東京に住んでいるのだと思われます。
社長の乗った車に、警備員は勿論、社員も全員敬礼しています。
昔はそういうものだったのでしょうか。
そこに主人公の大川(佐分利信)登場。
この映画では工員Bを演じています。
全く兄に似ていない妹。
兄に弁当を二つ渡しますが、空気読まない兄は
「誰の?豪勢だな」
「あのひとの」
「あの人って誰だ」
はあ、そういう方がおられるわけですね。
しかし兄はそう言うなり妹のおでこを弾き、娘は
「兄さんのいぢわる!」
ところでお断りしておきますが、この映画映像は勿論、
音質が限りなく悪いので、昔の人の言い回しと相まって、
何を言っているのかわからないところ多数。
この場面もしょっぱなから全く意味が分かりません。
「あのひと」というのは、妹が思いを寄せている工員C、宮原。
もう一人の主人公でもあります。
大川と宮原が呼び出されて社長室に行くと、
当社の社長である東野英治郎がコートを着たまま座っています。
社長の用件は、
「海軍省の藤原少佐が増産を10割増しでお願いしてきたので、
それを受けていただけないか頼みにきた」
しかも、合格台だけで、です。
「無理です」「できません」
皆即座に反対しますが、社長は、藤原少佐から言われた
「海軍はそれだけのものを必要としているのです」
という言葉に、こころを打たれ、造って上げたい、造りたい、
と思った、としみじみと語ります。
その様子に、皆とりあえず努力してみようという空気になるのですが、
クールな大川は大反対。
「弁当箱作るのと話は違うんですよ。兵器なんですよ」
この、大川の右に座っている坊主頭の工員Cが、
大川妹の意中の人である宮原。
宮原は「引き受けてもいいのではないかと思う」
と大川に反論します。
ん・・・・・これは・・・。
安部徹じゃないですかー!
「乙女のいる基地」で、イケメン中尉役をしていた安部徹。
このころはまだ後年の悪役面ではなく、二枚目っぽい
青年を演じることが多かったんですね。
対立する大川と宮原。
宮原は
「夜業(残業)を毎晩やればいいと思う」
と意見具申し、さらに、稼働させすぎると危険な「6号機械」
も、自分が責任を持つ!と言い張ります。(ここ伏線ね)
「藤原少佐がそこまでいうからには、海軍は
本当に我々の製品を必要としているんだと思います」
議論が紛糾する中、やたらかっこいい工場長が
引き受けよう、と鶴の一声。
これで決まりです。
皆に礼をいいながら昏倒する社長。
社長は元々病におかされ、東京で療養をしていたのでした。
しかし、工員なんてその日ちゃんと働けばいいと思っていて、
何かあれば休みたがるような奴ばかり。
この工員(ばみさんと言っているので多分場見とか馬見とか)、
リューマチを理由に夜業をサボろうとしますが、班長は
「リューマチが悪いんで休ませて下さい」
「何の町?」
「町じゃなくてリューマチ!」
「ああー」(マッチを出す)
「マッチじゃなくてリューマチですよ!」
「何言ってんだよ!」
「リューマチ!!!!」
パントマイムで痛いフリまで披露するばみさん。
こんなシーンなのに長回しで、まるでコントを見るようです。
「兄さん、宮原さんにお弁当渡してくれなかったの?」
「忘れた」
「まあ、今頃お腹空かしてるわ」
「いやいや、どっかで食べてるよ」
「むきー!」
場面は変わって社長の休憩している宿。
「宮原くん、さっきはありがとう」
そして、実は・・・、と、藤原少佐から
アメリカからの工業機械が禁輸になったことを聴いた話をします。
そうなんですよね。
工業機械だけでなくね。
「日本で作るより外国から輸入した方が安くていいものが手に入る、
として、国内企業を疎かにしてきた我々資本家にも一旦の責任がある」
「我々の仲間に慧眼の士がいれば、金がかかろうとも
日本製品の研究開発を続け、改良を重ねたことだろう」
うーん・・・・。
これ、もしかしたら本作品のテーマにかかわっている部分でしょうかね。
社長令嬢は桑野通子。美人です。
この女優さんは、2年後、妻子ある男性の子供を身ごもり、
子宮外妊娠による出血多量で、死亡しています。
31歳でした。
右が、昭和精機に以来を持ち込んだ藤原少佐(高田浩吉)と
上官の栗山大佐。(小澤栄太郎)
「昭和精機が依頼を承諾してきました」
「それは『X−62』兵器の『Z部』を依頼した会社でしたね」
うーむ。
「X62」の「Z部」とな。
これは戦時中の作品なのでこのような暗号めいた言い方をしていますが、
ストーリーの後半から引っ張ってきた情報によると、
このとき海軍が依頼した魚雷がマレー沖海戦で
「プリンスオブウェールズ」と「レパルス」を沈めた、
ということなので、正解は「91式魚雷」。
「91式魚雷の信管」
とか当てはめてみると、ああ、と納得しますね。
しかし、こういう民間工場に依頼するとき、
おそらく名称は機密性のためやはり本編のように
暗号のように称していたのかもしれません。
藤原「あの兵器は実験の結果優秀な成績をおさめたので
大量製作の通達がまいりました。
出来るだけ多く、出来るだけ早くと。
それで10割の増産を依頼しました」
栗山「しかし相手は軍人ではないのだからなあ」
藤原「今はそういうことを言っている場合ではないと思います。
ただ口に出して言えないだけで・・・」
そして、引き受けてくれたことを互いに
「ありがたいことだ」と喜び合うのでした。
ここで桑野大佐は重大な発言をします。
これは海軍省が国民に向けて啓蒙したかった部分でもあると思うのですが、
資料を示しながら
「見たまえ、これが、ガソリンが一滴も入らなくなったときの
我が国のガソリン貯蔵量だ。
毎日どんどん無くなっている。
とにかく入る道がないんだからねえ。
この量を毎日眺めているとわしはいても立ってもいられん気持ちになるよ。
この事実一つ知らせてやっても国民は奮起するんだろうが、
発表できぬことだからやむをえん。
いまはただただ心を鬼にして作ってもらうより仕方がないんだ」
しかしそんな海軍の心国民知らず。
夜業を命じられた工員達は文句たらたらです。
「なんでこんな魚雷ばかりつくんないといけないんだ?」
「海軍はシナの沿岸部にいるんだろ?
まさかジャンクを魚雷で狙うんじゃないだろうな!」
どっと湧く工員達。
とにかく夜業なんてみなお断りなのです。
リューマチだといって夜業をサボった「ばみさん」などその典型。
飲み屋でくだを巻いて夜業への不満をぶちまけるのでした。
(冒頭画像)
「夜業手当!くそくらえだ!
いくらもらったて使う暇がなきゃしょうがあるめえ」
増産によるフル回転で古いアメリカの機械である6号機械は
故障と、万が一の暴発が懸念されています。
ここでも
「国産の機械を使ったほうがいいのに」
と、内需の必要性を示唆するセリフ(笑)
ある若い工員は里帰りを許され実家に帰省します。
「すごいなあ兄ちゃん、背広着てる」
「いいだろ、これ150円もしたんだぞ」
兄弟にはお土産、母親にはたくさんの現金を。
おまけになにやらいいにおいまでさせて・・。
香水です。
残業で使う暇がないのでお金がどんどんたまっているのは
この17歳の工員も同じなのでした。
宮原の父親は栗山大佐の江田島時代の教官でした。
懐かしげに思い出を語る栗山。
しかし沈んだ顔の宮原は部品が足りないこと、
工作機械も十分でないことを沈痛な顔で訴えます。
「輸入品のみに頼っていたからなあ・・・」
はい、またもや「内需の重要性」来ましたー。
なんと栗山大佐も国産機械の使用を宮原に薦めるのでした。
ところで、帰省してありあまる給金で贅沢をしているのを
百姓の兄に見とがめられた工員。
兄はもう工場をやめさせる!と怒り心頭です。
「150円もするべらぼうな服を来て胸くそ悪い匂いをさせて
手みやげ代わりにババア子供に10円札を紙くずみたいに撒きやがる」
まあ、ちょっとは嫉妬みたいなのもあるかもしれません。
「ぬかすことが生意気に、兄さんより金持ちだ と!」
そこで班長は兄を説得にかかります。
この課程がすごい。
いきなり
「今お国はシナで戦っています。
シナの後ろにはイギリスとアメリカが付いている。
このごろでは日本に対してもうけんか腰です。
たとえばですね、通商条約が破棄とか資金凍結とか」
いやいやいやいや(笑)
いきなり話がそこからいきますか。
「今までの取引も金の融通も全部やめてですよ?
日本をどうにかして困らせてやろう、そしてシナに勝たせよう、
そればかりじゃありませんよ?
ABCDという、ニッポンをこの、取り囲んでですよ?
そしてじりじりじりじりじりじり押して来る」
百姓のお兄ちゃんにABCDってすんなり理解できるのかしら。
それはともかく、これそのとおりですよね。
戦中から日本は、我が国のおかれた立場をこうやって説明していたのね。
「このままでいってごらんなさい、日本は今に干上がっちまう。
なあああにくそ、ニッポンはつおいんだぞ、と、
そんななめたことをすると今に酷い目に遭わすぞと、
脅かすのにはですね、
戦争に使う道具をたくさん作らなきゃならない」
おお!
皆さん、これどう思います?
工場の班長のセリフの今現在における汎用性。
実際はこの工場で作っていた魚雷は脅かすためではなく
実際に敵に使用されたわけなのですが、
庶民がまだ「開戦」など夢にも思わないころにさえ、
やはり武力による抑止力を持たなければいけないと
感じていた、というセリフです。
実際に開戦前夜、武力増強を「抑止力」と考えていた国民が
果たしてどのくらいいたかはわかりませんが、
少なくともこの論理は真理でもあるのです。
世界はあくまでも悪意に満ちている、という前提で語ると
いつの時代にも同じ結論が出て来るものだとおもうのですが、
どんなにその「悪意の証拠」を突きつけられても、
決して我が国は攻めて来られない、と思い込んでいる日本人が
なぜか日本にはたくさんいるんですよね・・。
班長は、
「海軍さんが2倍作れといっているので、やらなければならない。
もしだめなら首脳部は腹を切る覚悟でやっているのですから、
今三郎くん一人減られると困るんです」
と兄を説得します。
なんたる説得力(笑)
寝ている社長の元に、宮原と工場長が報告にやってきます。
病気で倒れて寝ているのにタバコを吸っている社長(笑)
このころはタバコが体に悪いと言う認識はなかったのです。
工場の様子を聴かれて口ごもり、あからさまに挙動不審な様子で
うまく行っている、と答える2人。
これじゃうまくいっていないって言っているのも同然です。
しかしながらだんだん工員達の間にもやる気が出てきました。
サボっていた馬見さんも真面目に働いていますよ。
ところが好事魔多し。
(って、まさにこういうときに使うんですね)
古くて懸念されていた6号機械が、やはり使用に耐えかね、
いきなり爆発してしまったのです。
どうなる昭和精機!
続く。