アメリアとフレッド・ヌーナンが、最後の飛行に出発しました。
彼らが見たであろう景色が次々と息をのむような美しさで
画面に登場します。
アメリアは8mm映写機を携え、給油と休息のために立ち寄った
それぞれの土地で、撮影をしていました。
最後のフライトの前、重量を軽くするために彼女はそれらを
パットナムの元に送り返していたそうです。
アメリアの世界一周への飛行を告げるラジオの前の
ジーンの息子、ゴア。
ゴア・ヴィダルは長じて小説家、脚本家になりました。
「ベン・ハー」「パリは燃えているか」
手がけた映画ではこれらを知らない人はいないでしょう。
アナーキーな行動と同性愛者であったことでも有名です。
その姿を見るジーン・ヴィダル。
危険だと進言したのを「元恋人の横やり」のように
捉えられた彼としては複雑だったでしょう。
パプアニューギニアのラエに到着。
ラエ、というと、日本の海軍航空隊基地があったところです。
ここを前線基地として戦闘をしていたのが、あの台南航空隊ですが、
それもこの後数年後のことになります。
そして、このラエが、アメリアとヌーナンの最後の中継地となります。
ここで不可思議なサイドストーリーが紛れ込んできます。
ヌーナンは酒に問題がある、という人物評を聞いていたアメリアですが、
本人の「仕事に影響を及ぼしたことはない」
という言葉を信じてナビに採用した経緯があります。
最初の大西洋横断のときのパイロットが二日酔いだったとき、
彼女は自分の父の酒癖が自分をいつも失望させてきた、
と強い調子でなじったというシーンがありました。
本当だったかどうかは分かりませんが、この映画ではそれが
このシーンへの伏線となっています。
このとき、酔ったヌーナンはアメリアに
「あんたは夫に誠実ではない」
とジーン・ヴィダルのことを仄めかし、
「結婚相手を愛していてもそう言う関係はアリだろう?
大抵の男たちにそれが可能なように」
と、暗に自分と関係することを誘うのです。
アメリアとフレッド・ヌーナンはこのあと太平洋に没し、
世界一周のこの飛行中、二人の関係がどうであったかは
二人しか知りません。
なのに、結果的に最後の夜となったこの日、ヌーナンが
こういう形でアメリアを侮辱した、とするこのエピソードは、
随分フレッドを馬鹿にしているようにも、また下種の勘繰りとも思われ、
この映画に対する評価に微妙なものを与えます。
大変深読みするならば、ヌーナンは本能的に自分の死が
間近にある、あるいはこの飛行が成功しない可能性が
非常に大きなものであると感じていたがため、
刹那的な「男の本能」としてそれを求めた、という表現かもしれません。
それが本当だったとしても、男はともかく女のアメリアには、
とてもそんな気にはなれなかったでしょう。
侮蔑と非難の目を男に向けるアメリア。
彼女自身も、夫を裏切っていたという「脛に傷持つ身」であるため、
一方的に相手の無礼を切り捨てられないというジレンマがあります。
ちょうどそのとき、夫のジョージ・パットナムから
無線の連絡が入りました。
心から相手を心配している夫の声に触れ、
ざわめいていた彼女の心は感謝であふれます。
しかし彼は彼女がヌーナンのことを言うとき声が沈んでいる、
ということを微妙に察知します。
パットナムはこういうことも含めて後に本を書いています。
もしかしたらこういうアメリアの小さな異変に
何かがあったのかもしれないと悟ったのかもしれません。
確かに彼らの結婚は、女流飛行家とその夢を叶えるための
スポンサーの結びつきでしたが、だからといってそれが
本当の愛ではないなどと一体誰に言えるでしょうか。
パットナムの著書によると、この無線でアメリアは
「これを『ラストフライト』にするわ」
終わったら飛行機を降りるから二人で暮らそう、と言ったとされます。
次の日、お酒が覚めて我に返ったヌーナンとアメリアを乗せ、
飛行機は東へ、ハウランド島へと向かいます。
全長3キロしかなく発見に困難を極める島。
ここで給油できなければ生還は不可能であるが故に
腕利きのヌーナンが雇われたのでした。
出発直後から無線での連絡が取れなくなります。
パットナムは無線連絡を沿岸警備隊の協力を得て行っていました。
アメリカの沿岸警備隊は海軍と同様の組織で、階級も同じ、
制服もセーラー服と同じです。
中継地であるハウランド島沿岸には飛行支援のために沿岸警備隊アイタスカ号が
停泊し、割り当てコールサインKHAQQを用い、通信を行っていました。
KHAQQをコールするときには、
King, How, Able, Qween, Qween
と発音します。
この「キング・ハウ・エイブル・クィーン・クィーン」
が最後まで絶望的な響きで何度も何度も繰り返されるのです。
アイタスカ号の通信海曹はパイプを吸いながら
アメリア機との通信業務に当たっています。
この見張り水兵は、上官が来るまで居眠りをしていました。
やって来た上官は方向探知器が切れたままになっているのに気づきます。
「いつからだ・・・バッテリーが切れている」
これって、もしかしてアメリアの遭難の原因が
この若い水兵の居眠りにあったってことなんでしょうか。
イヤハート機からはアイタスカに何度も無線が届きます。
しかし、アイタスカからの音声をアメリアは聞き取ることが出来ません。
無線トラブルであると判断した海曹は、モールス信号を
送ることを決定します。
そして、彼らとアメリアの間に生存を賭けた必死の呼びかけが始まります。
「キング・ハウ・エイブル・クィーン・クィーン、聞こえますか」
「こちらキング・ハウ・エイブル・クィーン・クィーン」
「こちらアイタスカ号、キング・ハウ・エイブル・クィーン・クィーン聞こえますか」
・・・・・・・・。
最終回に続く 。