女性として初めての大西洋横断(ただし操縦はしていない)
という快挙を成し遂げ、一躍時の人となったアメリア。
プロデューサーであるジョージ・パットナムと、
互いを縛らないという「契約」をして、結婚しました。
その意図や内実はどうあれ、彼女は「パットナム夫人」となったわけで、
やはり人気があった日本でも、「アメリア・イヤハート」というよりも
「パットナム夫人」で通っていたこともあるくらいです。
前にも何度か、当時の女性で飛行家を目指す者は、大なり小なり
「女」を売り物にしてパトロンがつかないことには、
そのきっかけもつかめない、と書いたことがありますが、
この結婚もまた、彼女が飛行家として夢を叶えるための「手段と契約」
であったと考えるのが妥当でしょう。
そういうのが「真実の愛」というのかということはさておいて、
パットナムとアメリアの間の「男と女の部分」というのは、
その殆どが飛行機をなかだちとした「利害の一致」のうえに、
まるで添え物のように派生してきたといえます。
もちろんそれはいい悪いで語れることではありません。
世の中にはそういった結びつきも珍しくはないですし、なにより
お互いを必要とすることが「愛」なのだとしたら、
この夫婦の間にも確かに愛が存在したと言えるからです。
さて、お話に戻りましょう。
このブログでもルイーズセイデン、パンチョバーンズ、ルースエルダー、
これらの飛行家たちを語るとき、必ず触れてきた女子だけの飛行レース、
「パウダー・パフ・ダービー」
の様子が描かれます。
アメリアの隣はこれも当ブログでお話ししたことのある天才飛行家、
エリノア・スミス。
実際のダービー参加者の服装をかなり正確に再現しています。
「たぶんわたしが勝つわ」
野心家のエリノアがパットナムに言い放つと、彼は
「アメリアが優勝すれば女性パイロットに有益だ。
世間も男と同様に扱うようになる」
と暗に邪魔をするなと言いたげに切り捨てます。
アメリアを演出するために策士ともなったパットナムの
「黒い」一面を彷彿とさせます。
これは実際のパウダー・パフの映像より。
このレースのオーガナイザーそのものがアメリアだったことが
このときわかりました(笑)
墜落している飛行機からはパイロットが這い出していて、
彼女が無事だったことが分かるのですが、実はこのとき、
アメリアは一度機を墜落させているのです。
このレースは9都市を9日間かけて飛ぶものだということですが、
おそらく飛行場に到着したとき、先着のパイロットとの時差を計り、
次の日の出発のときにハンディをつけるという方法だったと思われます。
飛行機がすぐに修理できれば遅れは取り戻せます。
墜落したのに3位にまで追い上げることができたというのは、
パットナムの力であり、また彼女の実力だったということでしょう。
観客の中には、パイロットの家族が。
女の子を抱いているのが一位になったルイーズ・セイデンの夫、
「セイデン」を作った飛行機会社のオーナー、フォン・セイデン。
さすがに似た俳優を配しています。
ルイーズもアメリアのように、財力があり社会的にも
力のある男性の庇護があって初めて空を飛べたのです。
彼女はビーチクラフト社のビーチ社長に気に入られたのが
きっかけで飛行機の世界に入ってきた女性でした。
左側の女性はおそらくパンチョ・バーンズという設定でしょう。
彼女については「リアル・キャラクター」というサブタイトルで
このブログでもお話ししました。
アメリアが優勝を讃えているときのルイーズ・セイデン。
家庭的な女性ということを強調したのかもしれませんが、
華奢でボーイッシュな写真が残されているルイーズとはかなりイメージが違います。
このときに、アメリアの主導で「99’S」(ナインティナインズ)
という女性パイロットのクラブが作られたことを知りました。
ナインティナインズは現在も女性のパイロットの組織、
教育機関として存続しています。
The Ninyty-Nines
彼女は自分だけが傑出していればいいとは考えず、
常に女性パイロットの地位を向上させることを
主目的に活動をしていたようです。
勿論その中で自分がトップであるという自信があってのことでしょう。
さてこちらはパットナム家。
朝食を終えたパットナム夫妻がくつろいでいます。
新聞を読む夫に向かって妻が言い出したのは、
「ソロで大西洋を飛びたいの」
このとき、パットナムは
「リンドバーグから5年経つが、単独飛行に成功した者はいない。
14人が挑戦し、そして死んだ」
とその申し出を否定します。
しかし、
「口先だけの人生なら死んだ方がましだわ」
というアメリアの決意に、パットナムもその夢を叶える気になるのでした。
ここで実写フィルム挿入。
飛行機の左に立つのがアメリアで、右がパットナムだと思われます。
1932年5月20日。
アメリア・イヤハートは、今度こそ「乗客」ではなく、
実際に操縦桿を握り、たった一人で大西洋を飛ぶことになりました。
14人が亡くなっている大西洋単独飛行への挑戦。
「わたしならできるわ」
言い切ったアメリアの技術を信じているとはいえ、パットナムは
これが最後になるかもしれない彼女の姿を食い入るように眺めるのでした。
今度も目標はニューファンドランド島です。
しかし強い北風と氷および機体の不調に翻弄されます。
恐怖で涙ぐむような夜が開け、朝日と共に彼女が見たのは・・
陸地でした。
最初の「荷物」として飛んだときにはウェールズに降りましたが、
今回もまたニューファンドランドではなくアイルランドに流されました。
つまり、二回とも若干「行き過ぎた」ということになります。
彼女がアイルランドに着陸したと聞いたパットナムは
震える声で
「ワンダフル、ワンダフルニュース!」
と叫びます。
すぐさま船でアメリアを迎えにヨーロッパにやってくるパットナム。
2人はホテルのロビーで固く抱き合います。
さて、それからが大変(笑)
アメリアを使ったありとあらゆるコマーシャルが作られました。
話題となった人物をアイコンとして商品広告に使うという現象の
いわば走りであり、2014年現在でも
「アメリア・イアハート効果」
という、つまり
「最初の成功ではないが、切り口を変えれば
最初に成功したのと同じ、あるいはそれ以上の成功とされる」
というモデルケースに喩えられることもあります。
このときのアメリアの広告媒体への露出はそれほど凄まじかった、
ということの証明といえましょう。
彼女が実際に出演したコマーシャルフィルムの再現と思われます。
地球儀が振り向けばそれはアメリア・イヤハート。
イーストマン・コダックカメラのCF。
彼女の露出は凄まじいものでしたから、動画も含め
数多くの写真が残されています。
実際の彼女の服装を再現したシーンも多数。
当時のアメリカ人の中でドイツ系の彼女は目立って背が高く、
しかも華奢でモデル体型。
顔のアップ写真より、動画等で全身像を見ると、
すらりとした長身から醸し出される雰囲気は実に魅力的です。
当時の彼女がアイドルとして絶大な人気があり、
企業という企業が「イヤハート効果」をあてにしたのも
当然と言えましょう。
そして、そんな彼女の演出を手がけたのが夫のパットナムでした。
次の挑戦への資金稼ぎとして広告収入を必要とするアメリアにとっても
この現象は歓迎すべきだったのです。
いまやセレブレティのアメリア、大統領夫人のエレノア・ルーズベルトも
この国民的英雄には近づくことの出来る存在。
彼女をパーティの席から夜間飛行に連れ出し操縦席に座らせ、
一瞬手を離して「操縦させてやり」おばちゃんおおはしゃぎ。
「貞操観念は持っていない」
と結婚に際して宣言したアメリア。
世界の有名人となり、人妻にもかかわらず近づいて来る男性も。
ウェストポイント士官学校で航空学の教官であったユージーン・ヴィダル。
彼の写真は見つかりませんでしたが、作家となった息子のゴア
(この映画にも子供時代のゴアが登場する)はかなりの美男であるので、
ジーンもまた魅力的な男性だったのでしょう。
演じたユアン・マクレガーはその雰囲気を伝えているに違いありません。
彼はそれだけでなく10種競技でオリンピックにも出たスポーツ万能。
口先で金を稼いできただけの夫が彼と比べて男として見劣りした、
と考えられなくもありません。
ジーンもまた、エレノアに
「写真で見るよりずっと美しい」
などといいますが、これは先ほども書いたようにエレノアは
皆にそう言われていたようです。
あるホテルでお酒と音楽に酔い、2人はそのまま・・・(ありがち)
しかしそれが夫に気づかれないわけはありません。
いくら「自由にさせること」を条件として結婚したとしても、
ジョージにだって男として、夫としてのプライドってもんがあります。
ジーン親子をパットナム家に泊めた後、
「わたしのいないときだけはやめてくれ」
と苦渋の表情で言い渡すジョージ。
まあもっともですな。
そのことを思い出し涙を浮かべる「現在飛行中」のアメリア。
「貞操観念は問わないで自由にやらせてくれ」
という彼女の申し出に了承したのはジョージなのですが、そこで
開き直ることができなかったのは彼女の善良さというものでしょう。
結婚が自分の飛行の夢を叶えるための手段と嘯こうと思えば
このときもおそらくできたはずですが、彼女は
それをしませんでした。
そんなある日、遠征先に電話をかけてきて、アメリアが書いた
ジーンへのラブレターを見つけ、電話で本人に朗読して聞かせる夫。
「今日あなたの手に触れ顔を見る喜び(中略)
あなたと過ごした温かな夜の星を思い出す・・。
美しい詩をありがとう。
・・・・・・But I've never see it.」
(わたしは見たことがないが)」
それだけでしたが、アメリアはジーンに別れを言い渡します。
ジョージを愛していたから、とも言えますが、それより
ジョージの存在は彼女に取って
「空を飛ぶ夢を叶えるために必要」
で、恋愛と空を飛ぶこと、どちらかを選べと言われたら、彼女は
何のためらいもなく恋愛を切り捨てることができたのです。
危機は去り、互いの必要性を認識し合う2人。
何度も言うようですが、これもきっと「愛」。
さっそくやり手のパットナムは世界一周用の飛行機のための資金を
ある大学の協力を取り付け調達してきます。
何と8万ドル。
感激してアメリアはジョージに抱きつきます。
ジーンと別れて帰ってきた甲斐がありましたね(棒)
ジーンは世界一周の計画が危険だと忠告に来ます。
何が何でも挑戦したいアメリアと、妻をこの男から
取り返してやったぜ!状態のパットナムは彼の進言を一蹴し、
「いつもアメリアの心配をしてくれてありがとう。
夕食でも一緒にどう?」
と余裕たっぷりに言い放つのでした。
結果として実際はこのときのジーンの忠告通りのことが起こり、
アメリアは命を失うことになるのですが・・・。
夫婦の元を去っていくジーン。
「彼には理解できないよ」
彼に理解できないこと、とは、世界一周への挑戦の意義か、
アメリアが自分を捨てた理由、どちらの意味だったのでしょうか。
世界一周は単独ではなく、腕利きのナビを雇うことにしました。
それが、アメリアと共に太平洋で永遠に姿を消すことになる
フレッド・ヌーナンです。
空中給油が不可能だと悟ったアメリアは、フレッドが
給油のためにそこに着陸できなければ命はないという
長さ3キロの島を見つける使命をこのナビに託すことにします。
赤道上最長距離を一周する飛行に飛び立つアメリアの
ロッキード・エレクトラ。(実物)
世紀の瞬間を捕らえるため、記者がわざわざハワイまで
出発の様子を見に来ています。
ハワイのフラダンスに送られて搭乗し、離陸しようとしますが、
懸念された通り燃料が重すぎて滑走路でクラッシュ。
一瞬にして絶たれた夢。
呆然とするアメリア。
しかし、パットナムがそれを許容し、「夢を叶えるため」
かれらは彼らの「最後のフライト」に向けて歩を進めるのでした。
壊れた機体を修理しての挑戦です。
「自分の力量にあの事故で不安を感じませんか?」
記者会見に置ける記者の質問も今回は辛辣です。
そしてついに1937年6月1日がやってきました。
フロリダ州マイアミからアメリアとヌーナンの乗った
ロッキード・エレクトラが出発する日が。
「これを飛んだら引退ですか?」
そういう質問に対し、彼女は
「命のある限りわたしは飛び続けるわ」
と答えるのでした。
命のある限り。
それは本当のことになります。
出発前の最後のひととき、喧噪からはなれて2人で
別れの言葉を交わし合います。
「元気で戻ってきてくれ」
「約束する」
そしてアメリアは飛び立っていきました。
二度とジョージの元に戻ることのないフライトに・・・。
続く。