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呉海軍墓地~重巡洋艦「熊野」と「栗田雲隠れ」の真相

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前回の「呉海軍墓地」シリーズ、「三隈」の項で何度か出てきた
重巡洋艦「熊野」慰霊碑も、もちろんこの一角にあります。


 ところで、わたしの育った地域には「熊野神社」という小さな神社がありました。
初詣や夏祭りには、町の人々が足を向ける地元の神社で、「熊野神社」というと
わたしにとってイコールこれだったのですが、実は和歌山県田辺市にある
熊野本宮大社の「分霊」された神社だったようです。

戦艦「伊勢」に、伊勢神宮と同じ神様を祀る神社があったように、
この「熊野」の中にも紀伊田辺の「熊野本宮大社」の本殿を模した艦内神社があり、
毎月1日には熊野神社例祭が行われていたそうです。


「熊野」は少し前まで「新宮川」とされていた紀伊半島の旧「熊野川」
から取られた艦名で、重巡洋艦でありながらこれも軽巡の規格である川の名前です。
重巡なら「山」のはずなので。
ちなみに熊野古道という熊野三山に通じる参詣道がありますが、
この場合の山は本宮、速玉、那智神社という熊野の三神社のことであって、
もちろん重巡「熊野」のいわれではありません。

話が出たのでついでに余談を。

1090年に白河法皇のご参詣に始まり江戸時代まで盛んだった熊野詣では、
1900年には下火となり、参道だった道も地元の人々の生活道路としてのみ知られていました。

そこに改めて着目した最初の人物は和歌山県出身の医師で、子規の流れをくむ
ホトトギス派俳人だった福本鯨洋という人物だそうです。
鯨洋は、また熊野九十九王子すべてを吟行し、踏破したとのことです。 
その後「熊野古道」はまた人々の訪れるところとなり、
2000年にはユネスコの世界遺産として登録されました。



さて、「熊野」は最初に二等巡洋艦(軽巡)として建造されたのですが、
後から主砲を換装し、重巡になったので名前はそのまま残されました。

「重巡だけど川の名前を持つ」

つまり、もとは軽巡だったけど重巡になりました、なフネは多いが、
その逆がないのはなぜかというと、これは重巡と軽巡の規格の違いにあります。

単純に言うと両者の違いは主砲の口型の大きさだけなんですね、ええ。

驚きましたか?私も今驚きました(笑)

そもそも、何度となく語ってきたあのロンドン軍縮会議で

カテゴリーA「一等巡洋艦(重巡)」(155~203mm)
カテゴリーB「二等巡洋艦(軽巡)」(155mm以下)

というカテゴリーを決めたのが「軽重」分けの始まりです。

これもついでなので、この辺の経緯を説明しましょう。
わかりやすくするためにお芝居形式でやります。


=1921年 ワシントン=

日本米英仏伊「第一次世界大戦の戦勝国で軍艦の保有量決めようず」

米英「じゃ早速だけど米英:日で5対3な」

日「そ、そんな・・・せめて10対7に」

米英「もう決まったことですからwww」

伊仏「・・・・・・・・」(どちらも比率1.75)


ワシントン会議後

日「くそー、こうなったら条約ギリギリの大きさの巡洋艦作ったる!
  補助艦艇ならいくら作ってもいいんだろ!どやあ!」(古鷹できる)

米英「お、その手があったか。それじゃこっちも条約ギリギリで巡洋艦作ったる」

ー競争激化ー

日本「どやあ!」(妙高型:妙高、那智、足柄、羽黒できる)
  「どやあ!」(高雄型:高雄、愛宕、麻耶、鳥海できる)

米英「(むっ・・・・こ、こいつら・・・)←脅威を感じる
 
=1930年=

米英「えー、それではロンドンで補助艦艇保有割合についての会議をしまーす」

日「えっ」

米英「重巡は米英日で10対8対6ね。んで軽巡は10対13対6。
  伊仏は・・まあどうでもいいか会議来てないし」

伊仏「・・・・・・」

日「しゃあない、水雷艇にできるだけ武器搭載したる!どやあ!」

=友鶴事件発生=

日「・・・積みすぎてひっくり返ってしもうた」\(^o^)/

=第4艦隊事件発生=

日 \(^o^)/

=第二次ロンドン軍縮会議=

日「もう日本は軍縮会議脱退します。国連からも脱退したことだし。
 今までいろいろお世話になりました」(棒)

米英「ぐぬぬぬ・・・」


日「ひゃっはー!今までの条約もみんな破棄じゃあ!
 軽巡の主砲皆取り替えて重巡にしたるわい!」


軽巡であった最上型(最上、三隈、鈴谷、熊野)、利根型(利根、筑摩)を
全て重巡にしてしまう



これらが重巡でありながらなぜ川の名前を持っているかにはこういう理由があったのです。
そうだったのかー(←)


ところで前回、ミッドウェー海戦の時に「最上」が「三隈」に衝突したのち、
旗艦だったこの「熊野」が無事な「鈴谷」(すすやですよ、すずやではなく)を連れて
怪我した同士を組ませて帰投させた、という件を、

「艦には艦の論理がある」

として一定の理解を示した当ブログですが、 もう一度検証しておきましょう。

まず、なぜミッドウェー作戦でこの4隻が単独行動していたかというと、
山本GF長官の命により、第二戦隊はミッドウェー島基地を破壊しに行くところでした。
今や空母4隻が失われた海軍、機動部隊と基地隊に挟み撃ちにされる危険があったからです。

4隻が単縦陣で航行していると米潜水艦が現れました。
これを回避するために先頭の旗艦「熊野」が一斉回頭を命じたのですが、
同じ命令を二回発したため、続く3隻に混乱が起こります。
(つまりこのときの「熊野」の命令の出し方が悪かったということなんですが)
前回も書いたようにこれで「最上」が「三隈」に衝突。

そのあと「熊野」は「鈴谷」だけを連れて聯合艦隊に合流をするとして、
この損傷した「最上」と「三隈」に駆逐艦「荒潮」「朝潮」の護衛をつけ、
放置して現場を離脱します。

「熊野」が、というよりこの場合は栗田少将の命令だったことをお忘れなきよう。

しかし、山本長官の懸念は大当たり。
取り残された「最上」「三隈」そして駆逐艦2隻は米軍機動部隊と基地飛行隊に波状攻撃で挟み撃ちされ、
「三隈」喪失、「最上」大破。

ところでこの間、離脱した「熊野」と「鈴谷」は何をしていたのでしょうか。


先日お話しした映画「ファイナルカウントダウン」では、空母「ニミッツ」が
丸1日太平洋で行方不明になっていたことを、カーク・ダグラス扮する艦長が艦隊司令に

「太平洋で丸1日行方不明になるとはなんたる海軍だ!」

と叱責されていましたが、実はこのときの「熊野」と「鈴谷」も、
太平洋で丸一日行方不明になっていたのです。
「なんたる海軍」だったのです。
この間、無線を封鎖したまま航行していた「熊野」「鈴谷」は、7日になって

「三隈と最上の救出に手を貸せ」

という命令が出てから、初めて自艦の位置を明らかにしたのでした。
なんたる海軍だ、とはどこからも叱責されたり責任を取らされなかったものの、
この時に第二艦隊通信参謀中島親孝少佐は

「どうも困った部隊である」

と評しています。
この中島少佐は、そもそもこの戦隊にミッドウェー基地を攻撃させる作戦も
地理的に距離が遠すぎ、無茶な作戦だとして

「いつもながら困った戦隊である」

と言っていたそうで、これ全く同じセリフなんですけど。
この人の口癖だったんでしょうか(笑)
しかもその命令、元を手繰れば山本五十六なんですけど。

「いつもながら困った五十六である」

とは言わなかったのか。
この命令には「横暴だ」(「最上」航海長)「空母4隻やられて血迷ったか」
(第7艦隊主席参謀)などと皆が不満を口にしていました。
つまり山本長官さえこの命令を出さなければ、っていうのが現場の総意だったようなのですが。


戦後、栗田はこのときのことを


「そんなことが起こっているとは知らなかった」

と言いました。
これは横にいた「熊野」艦長に言わせると言い逃れで、後に


聯合艦隊に合流すると「最上」と「三隈」の救助に行かされるので、
栗田はそれを避けるために合流せずに雲隠れしていた

という意味の証言をしているのです。
何か横で見ていて思うところがあったのでしょうか。


前回「フネにはフネの論理がある」という一面からお話ししてみたこの事件、
内部の証言を加えて内側から見ると、また違う景色が見えてくるのがわかります。

というか、やっぱり栗田健男って・・?とどうしても思ってしまうわけですが、
栗田中将の立場からこの行動の弁護ができる方、おられませんか。 



ミッドウェーの後、栗田少将は第7艦隊の司令を交代させられました。
これはやはり引責というものであったと思われます。


1941年12月8日以降、「熊野」はマレー、ミッドウェー、ソロモン、マリアナと
主要な戦地には全て赴いて戦い抜きました。
そしてルソン島沖で「タイコンデロガ」の艦載機攻撃によってついに武運尽き撃沈されました。


「熊野」の「艦これ」での運は(100点満点の?)5。

昭和19年11月まで何度か傷つきながらもとにかく生き残ったのに
どうしてこんなに「運」が低いかというと、その最後のわずか一ヶ月の間、
「熊野」は魚雷6本(もしくは8本)、爆弾を10発受けるという不運が重なった結果、
満身創痍のままに戦没を遂げたからだそうです。


最後の最後まで乗員は本土帰還を目指して対空戦闘、そしてその都度応急修理に奮闘しましたが、
彼女が日本の港に錨を下す日は二度とやってきませんでした。

合掌。







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