ふと思い立って日本海を見てきました。
例によってうちのTOが、お付き合いで立ち寄った久美浜のお洒落ホテルに
こんどは家族を連れて是非泊まりに来たいと思い立ち計画した一泊旅行。
行き先は京都府京丹後市久美浜です。
わたしは久美浜という地名に激しく聞き覚えがありました。
それもそのはず、久美浜というのは、京都府と言いながら兵庫県の真裏の日本海側にあり、
わたしは小さい時に家族旅行で何度か、そのときは車で海水浴に行ったことがあるからです。
TOの口から「久美浜」という言葉が出て、また行くことになったとき、
不思議な縁を感じたのですが、この度は家族は家族でもわたしの夫と息子と、
車ではなく新幹線で関東から向かうことになったわけです。
ニコンのカメラと望遠レンズを持ってきながらメモリーカードを忘れるという、
サザエさん的痛恨のミスに気がついたのは、京都駅から福知山で乗り換え、
豊岡という駅に着いて、二時間に一本しかない京丹後鉄道の電車を撮ろうとしたとき。
「メモリーカード忘れた。あの電車撮っといて」
息子が呆れながらiPhoneで撮ってくれたのが上の写真。
しかし、同時にわたしは、下手なカメラよりずっとマシなレンズ付きの
iPadairを、カード会社のポイント交換で手に入れたばかりだったのを思い出し、
この後からiPadを使って写真を撮りました。
なんだか気のせいか、あまりニコンと変わらない気がするなあ・・。
本当はこの前日京都に一泊して、翌日早くホテル入りする予定だったのですが、
息子の学校の用事が後からわかったため、TOに遅れて夜のチェックインになり(T_T)
ホテルの部屋を見て、もったいないことをしたと心から悔やみました。
階段を上っていくと、小さな扉があり、ここが部屋の入り口です。
はしゃいで踊っている人あり。
内部はこのようなヨーロッパの田舎風。
梁が出ていてまだ木のにおいも真新しい、このホテルは1年前に
大々的にこれらのコテージ風の客室が点在するタイプに改装したそうです。
どうですかこのおしゃれな水回り。
この会社は神戸のアパレル輸入会社で、この地に倉庫を持っていて、
最初は2部屋だけの小さな宿を経営していたそうですが、このたび規模を拡張し、
ついでに洗練されたオーベルジュとしてリオープンしたというわけ。
ユナイテッドアローズやトゥモローランドなどにも輸入した衣料を卸しているそうで、
おしゃれなのも激しく納得です。
水回りが完璧なのはホテルとしてポイント高し。
床の木材は滑らかで清潔、裸足で歩き回ってもまったくOK。
アメニティもAESOP(イソップ)のソープ類を使うなど、一味違います。
私たちの部屋の地下に、倉庫と洗濯場があって、そこに入っていけるのも
なんとなく日本離れ?していましたが、その地下の床になぜか入り込んでしまったらしい
サワガニがいました。
かわいそうに、食べるものがなくつい最近お亡くなりになったようです。
遅くに到着したのでさっそく夕食をいただきました。
この季節だというのに夜は寒く、また夜遅かったのでカフェインの入っていない暖かいものを、
と頼むと、バーベナの葉のハーブティーを出してくれました。
軽いコースの前菜はカツオのマリネや貝、キスみたいな魚のフライ。
オコゼのフライとアスパラガス。
このオコゼは絶品でした。
和牛のステーキ。
こうして写真に撮ると大きく見えますが、実寸は2㎝×4㎝×5mmくらい。
しかし味が濃厚で旨味のある肉は少しで十分でした。
アメリカ人なら少なすぎて暴れるレベルですが、こんな滋味溢れるステーキも、また、
アメリカではお目にかかることのないレベルです。
ディナーのメインディッシュはアクアパッツァ。
アサリは半分くらい残りましたが、二匹の白身の魚は柔らかくて味が濃く、都会のホテルで出される
「ソースは濃厚だけど身はパサパサで残念」な白身魚とは格が違いました。
味付けもガーリックをメインに、オリーブオイルと香草と塩だけ。
デザートは甘い甘いイチゴを使ったパンナコッタ。
クラムのシャリっとした食感が味を引き締めていました。
部屋に戻って一応インターネットを試してみましたが、まったく通じず。
当然ながら部屋にWiFiなど通っていません。
「これはインターネットは忘れて過ごせということね」
と肝に銘じ、おとなしく?iPadにダウンロードしてあった本を読みながら寝ました。
ちなみに今読んでいるのは「二つの祖国」(日系二世の記事を書くために読み直し)です。
明けて翌日。
改めて見る部屋の中は、わたしたちがボストンの郊外で泊まったことのある、
優に築150年は超えた民宿の部屋をそのまま現代に蘇らせたようでした。
カーテンも窓枠もないガラスの窓。
このあたりは現代風です。
外に緑が見えていますが、この向こう側は海だそうです。
これは息子のとったiPhone写真。
私のとった写真より、手すりの影の映り方が綺麗だったのでこちらを採用。
ここでのんびりお茶を飲むこともできます。
冷蔵庫には水と桑茶のペットボトルが人数分用意され、コーヒーや紅茶を
ラッセルホブスのケトルで沸かして飲むこともできますが、
部屋にあった注意書きによると、飲み物、とくにお酒の持ち込みは禁止されているようでした。
ちなみにワインボトル一本の持ち込みに1000円かかるとのことです。
部屋に続くエントランス。
くまさんのいるところで靴を脱ぎ、階段を上がると部屋の扉があります。
こういうインテリアはいかにもフランス風だなと思ったのですが、
さらにこの外観を見て、昔パリ郊外のトロワという街の、
というホテルに泊まったのを思い出しました。
今久しぶりにHPをみると、チューダー朝風とでもいうのか、ずいぶんこれとは違いますが、
レンガを重ねた感じと、古い建築によく使われる、建具の黒い金属の使い方などは同じです。
このホテルを造るにあたっては、主にドイツの建築を実際に見に行って参考にしたそうです。
ここの自慢は朝ごはんなのだそうで、メインはこの温野菜。
生野菜やパンなどはビュッフェ形式で取りますが、この温野菜や、
卵料理は運んできてくれます。
今回はホワイトオムレツは頼まず、普通のオムレツをいただきました。
食事をしていたら庭の柵の向こう側に雉がきていました。
「今晩のディナーはキジの料理?」
と息子。
昨夜、久美浜の駅からここに来るまでの山道(街灯などまったくなし)を走っていると、
道の脇にシカがいましたし、ヘッドライトの前をわざわざ横切るタヌキもいました。
もちろんイノシシなどもたくさんいそうです。
ガーデニングも大変力を入れているそうで、わたしたちが次にここを通った時、
従業員がラベンダーの花がら摘みをしていました。
向こうにはオリーブの木もあります。
山間地帯で湿度が低めなので、イギリス風のガーデニングも可能なのでしょう。
こういったスレートを積み重ねたものも、ドイツから仕入れてきたアイディアで、
この石は普通の石を薄く切り出して、それを何層にも重ねたものなのですが、
その作業は全て、当ホテルのスタッフが手仕事で行ったものなのだとか。
マキを積み重ねておくための小屋。
わたしたちの泊まった部屋の廊下部分。
この雨樋を見ていただければ、ヨーロッパ風を再現するのに細部までこだわっているかが
お分かり頂けると思います。
街中にいきなりある、内部だけ作り込まれた結婚式場の、あのハリボテ感など微塵もなく、
ここが京田辺市の山中であることを忘れさせてくれます。
しかし、それは自然も一体となったもので、決して日本を否定するものではありません。
いわば「こんなのも日本でできるんですよ」「これも日本なんですよ」といったコンセプト。
温泉もない、近くに海水浴場もない、ただ自然と料理とホテルそのものを楽しむホテル。
こういうオーベルジュ型のホテルが日本にも随分増えてきたと思いますが、
有名な観光地ではないところは、中国人の観光客がまず来ないのが大きなメリットで、
敷地内に中国語やハングルの文字を見ずにすむのはたいへんうれしいことです(笑)
まったくの山間部にあるこの一帯は、耳をすますと四方からいろんな鳥の声が聞こえます。
ウグイスがさかんにホーホケキョを聞かせてくれました。
テラコッタのバードバスにも鳥が水浴びに来るようです。
近くにはハイキングもできる遊歩道もあります。
これはホテル所有のハーブ畑。
ハーブ畑はホテルの道を挟んで反対側の山の斜面にあり、登っていくと
昔このホテルがレストランにしていた建物がありました。
ここも十分おしゃれで、今倉庫になっているだけというのはなんとも勿体無い気がします。
ここに設えられたテラスから久見浜湾を望む眺望はこの通り、絶景です。
久美浜というのは地図を見ていただければお分かりですが、日本海から深くくりこんだ、
まるで湖のような形の湾で、まるで江田島の江田湾のように、内海は波一つたちません。
こういうところから望む湾は、まるで山間の湖のように見えます。
景色を見ていると、建物のそばにいたネコが近寄ってきました。
すごく人懐こくて、尻尾を触っても嫌がりません。
シャム猫とキジ猫がミックスされた変わった毛色です。
わたしたちに近づいてきたのは彼女の時間つぶしだった模様。
まずはその辺の草を食べ(毛が抜ける時期なので?)、
その辺ですりすりして、
散々遊んでいるところを見せてくれていましたが、下の山道に車が来たとたん、
(わたしたちには見えていましたが、彼女には見えなかったはずなのに)
音だけで聞き分けたのか、時間つぶしをやめ、
さっさと下から続く道の方へ移動。
車から降りてきたのはホテルの従業員の方。
倉庫の前に歩いていくホテルの人に走ってついていきます。
なんと、このネコはホテルの「公式飼い猫」。
平日は専門で面倒を見ている人がいて、餌の時間も決まっているのですが、
この日はその人が休みなので、かわりの人がその時間にえさやりのためにここにきたのです。
9時20分という「餌やりタイム」に1分も違わず。
ホテルの人が袋から出しているのは獣医さんから処方されたおくすり。
最近このネコ、とらじろう(女の子なのに・・)は歯を抜いたため、
抗生物質を投与されているのですが、ドライのキャットフードが食べられなくなり、
缶詰の半生タイプを与えられているのだそうです。
その辺の山を駆け回って自由に遊んでいるとらじろうですが、
ここでごはんがもらえるため、ほとんどこの辺りでうろうろしているそうです。
下に降りてくることはほとんどないのですが、牛肉を焼く匂いがするときだけ、
キッチンの外側に来て、もらえるのを待っているのだとか。
ネコのくせに牛食べるのか・・・。
お食事終了。
左にある小屋はとらじろうの邸宅で、冬は雪が多いこの辺りの気候のため、
毛布をかぶせた箱のなかに「ネコつぐら」を入れ、さらにはその下に
電気式の暖房シートを仕込んだ完璧な仕様です。
冬はずっとこのなかにいてご飯の時しか出てきません。
給水中。
さすがはおしゃれなホテルの飼い猫なので、餌入れもホーローのパンケース。
積み重ねたレンガの棚といい、こんなところも手を抜きません。
食事が終わったので満足した彼女はわたしたちの相手になってくれました。
例によって一番可愛がってくれそうな人(わたし)を見極めるや、
足元に寝転んで撫でてくれアピール。
ところでこのホテルは、ホリディホームといいます。
久美浜に行かれたらぜひ、というか、ホテルに宿泊する「だけ」に行く価値のあるホテルです。
ドイツ風の建築にはメルセデスがよく似合う。
ここには取引先、たとえばユナイテッドアローズやトゥモローランドの偉い人も泊まりにきます。
元々はそういう取引先の人たちを泊めるために宿泊できる施設を作ったのだとか。
歩いて5分ほどのところにキャンプ場があり、海岸に面していました。
向こう側は市役所や学校などのある久美浜町の中心部分。
ところで部屋のテレビ台になっていたこのタンス、どう見ても江戸年間のものです。
鍵のかかるバーが前に設えていることといい、
タンスの引き出しに「証書(旧字体)」「田」などのラベルがあることから、
昔、役所や銀行のようなところで使われていた書類入れではないかと思われました。
さて、ホテルをチェックアウトして久美浜の駅で電車を待っているわけですが、
ホテルには元々の本業であるアパレルのブティックもありまして、
記念にと横縞のTシャツと麻のスカート、ワンピースなどを購入しました。
ここが輸入しているストライプのシャツですが、元々はフランス海軍の
あの赤と白のセーラー服の内側に切るシャツを納入していたメーカー。
つまり、海軍御用達です。
そういうブランドならではの横縞Tシャツは、着心地がよくシルエットもそこそこタイトで、
元々持ってきたファリエロ・サルティのストールと合わせてもいけます。
帰りに駅まで送ってくださったホテルの女性従業員が、
「そういった大人っぽい着こなしをしていただけると嬉しいです。
たいていカジュアルに着られるので」
と褒めてくださいました。
この会社はビルケンシュトックなども輸入しています。
向こう側にやってきたカラフルな電車。
久美浜を通るこの路線は「京丹後鉄道」といい、JRではありません。
昔廃線になりそうになったのを、地元の第三セクターが買い取り経営しています。
2時間に1本の運行だそうですが、交通が前線バスになるというのも
地元の人たちにとっては不便になるということだったのでしょう。
ちなみに会社は北近畿タンゴ鉄道といいます。
タンゴは丹後とダンスのタンゴをかけて、あえてカタカナです。
私たちの乗る電車がやってきました。
ご覧の通り、まったく電車らしくないテーブル付きの席で、二両のうちこちらは
指定席、そして注文すれば食事もできます。
わたしたちはたった二駅だけなので飲み物だけいただきました。
豊岡駅にあっという間に到着。
西舞鶴方面まで行けば、長時間乗れるうえに天橋立も見られるのですが、
今日は時間がありませんでした。
豊岡というのは「カバンの街」だそうです。
駅のホームに「カバンの自動販売機」がありました。
1500円で、ケースに入ったエコバッグが買えます。
「コウノトリの郷」という駅名もあったほどで、この辺はコウノトリの生息地。
車窓から田んぼに降り立つコウノトリの姿をわたしたちも目撃しました。
というわけで、京都に到着したのは4時。
12時半の久美浜初の電車に乗って3時間半です。
お腹が空ききってていたので、駅ビルにある「はしたて」に車内から予約を取り、
このような「金目鯛つくし」のお膳に舌鼓を打ちました。
金目鯛の丼と、金目鯛のフライが乗った冷麺。
この日は京都に一泊してから翌日家に帰りました。
慌ただしい旅行でしたが、久美浜にいた15時間(たった15時間・・・)だけが、
まるで時間が止まったかのようなゆったりとした気分になれました。
わたしは結局三度目の久美浜となったわけですが、
民宿から水着のまま歩いて海岸に行った、昔の記憶を呼び起こすものは何もなく、
新しいコンセプトの癒しの空間が、ここを全く初めての土地のように感じさせました。