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アメリカスシ事情2015

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去年、ボストンにある「ヒスパニック回転寿し」に突入して、
死んだ気でくそまずい(あらお下品)スシもどきを食し、やはりアメリカのスシは
多民族共生の社会の常として本流とは遠く離れ混迷を極めているということを
あらためて確認したエリス中尉ですが、今年もアメリカのスシ事情をリサーチしてまいりました。

TOいうところの「食べる芸術」であるスシが、海を隔てた海外でもてはやされた結果、
それに便乗し、それらしいものの威光を利用して銭稼ぎ(まあお下品)しようとする
有象無象の姿が見えて来る、というのも毎年感じるところではありますが、
「ご飯を丸めて魚の屍体を乗っけただけの食べ物」であるスシのあり方を知ることは、
その国における日本の何たるかを知ることでもあるのです。

大袈裟だな。



さて、まずは第一次アメリカ滞在最後の夕食となっったニューベリーストリートの
「スナッピー・スシ」のメニューをご覧ください。
そもそも「スナッピー」なる単語をスシと結びつけようというセンスからして
とても日本人が経営しているとは思えない当店ではありますが、
わたしと連れ合いがここに入ることにしたのは、まさに「怖いもの見たさ」。
ちなみに「snappy」の意味は、もともと「冷え冷えした気候」「パチパチ音」ですが、
それから生じて、

元気のいい・活発な・てきぱきした・しゃれた・粋な

といったイメージがあります。

「Make it snappy!」

というと、さっさとやったらんかい、といった意味ですね。
で、メニューですが、スパイシーマヨ入りロブスターロールとか、必ずアボカドを使うとか、
レインボウと称して何でもかんでも魚肉を詰め込み、とかいったセンスは、
もはやスシという名を借りたケイオス(混沌)な何か、としか思えません。

だいたいアメリカ人、シンプルな握りだけで旨い鮨が作れないんだな。
なもんで、それらをごまかすため、サルサとかスパイシーマヨとかわさびバターとか、
味の強いもので生臭さを覆い隠したゴテゴテのスシもどきばかりになってしまうんですよ。



この店において何も期待するものはない、と瞬時にメニューを見て判断したわたしは、
豆腐サラダ(サラダに豆腐を乗せたもの」を頼んだに終わったのですが、
TOが注文したこの「ベジタブル・スシ」はなかなかの(見)ものでした。

キュウリ巻きならぬアボカド巻き、うなぎの色をしたキノコ乗せ。
コーンの「イクラ」の上に何やら唐辛子系のものを乗せた軍艦巻き。
マグロではなくビーツを乗せた握り、そしてこれ。



なんかマグロみたいですか〜?
これは一口食べて

「ん・・・?・・・・ん〜〜〜〜?」

そう、それは時差を置いて猛烈に辛くなってくる「唐辛子ずし」。
パプリカかと思って何の疑いもなく一口食べたものの、
あまりのからさのインパクトにそれ以上食べることもできませんでした。
しかも、しばらくは唇がヒリヒリして他のものを食べる気にならなかったという・・。

というわけで、ここのスシも日本人から見ると、

「こういうジャンルの食べ物も別にあってもよいが、
できれば寿司と名乗るのはやめていただきたい」

という、ありがちなアメリカすしから一歩も出ていない代物となっていました。



さて、時間を少し遡り、ニューヨークにミュージカルを観に行った時の話を。
行ったことがある方はご存知でしょうが、ニューヨークというのはまさに魔都、
汚くて雑駁でごみごみした街に、時折世にも美しいものが点在しているという、
とてもではないけれど一言で語ることを許さないそれこそ混沌の街です。



そんなニューヨークで受け入れられているらしいスーパーグループの

「スーパードライストア」極度乾燥(しなさい)。

日本語のキッチュなロゴがうけて今や世界中で展開しているブランドですが、
米国のビンテージ生地と日本に触発されたデザインを取り入れています。
お土産に買って帰ろうかな、と思いましたが、よく考えればイギリスのメーカーなのよね。



ニューヨークの街角には屋台の食べ物屋がたくさん軒を連ねています。
近くのオフィスワーカーの間で評判らしく、12時になると同時に長蛇の列ができていた
ファラフェル屋があるとおもったら、観光客も相手にしない屋台があったり。
歩きながらとか外で食べるのが平気なアメリカ人は、こんな屋台で
ランチを済ませてしまうこともしょっちゅうの模様です。
映画やテレビ番組でも、紙パックのチャイニーズデリを箸で食べるシーンが多いでしょ?



ニューヨークには計3日、いずれもノーウォークから1時間かけて通いましたが、
そのうち1日はミュージカルのマチネが始まるまでの間、近代美術館を見学し、
さらにレストランで食事をとるという作戦でいきました。
外のテーブルに座りたければ並ばなくてはいけませんでしたが、どこでもよければ
すぐに席に案内してもらうことができました。



冷たいスープは具として野菜や穀類が浮かせてあり、具沢山な一品。



さすがここも美術館の併設レストランだけあって、彩りが芸術的です。
これは、とてもそう見えませんが、サラダ・ニソワーズ。
茶色い肉のようなものは、なんとツナです。



アスパラガスとキュウリのサラダ。



斜め向かいのテーブルには、白いドレスと白いリボンでおめかしした
かなりかわいい女の子が座っていましたが、アメリカにはありがちなパターンで、
彼女もあと25年たてば向かいの姿になる運命だと思うとなんだか残念なような(すみません)

まあ、アメリカ人も「東洋人は赤ちゃんの時あんなにかわいいのに、なぜ・・」
とか思っているらしいですから、お互い様ですけどね。



デザートはニューヨークチーズケーキだったはずだが、クリームに覆われて見えぬ(笑)



さて、その次の日、またしてもミュージカルのマチネを観にニューヨークにきたわたしたちは、
ふとわたしが街を見回していて見つけたストリートの角の2階にあるフードコートにきてみました。
新しいビルの階段を上っていくと、法被を着た日本人がいて、

「いらっしゃいませ!」

と挨拶してくれたので、てっきりわたしたちが日本人だからかと思っていたのですが、
この「いらっしゃいませ」攻撃は、「KURO-OBI」というラーメン屋の従業員全員が
声をそろえてやっていたのでした。



「すごい活気だねえ」

「東京のイタリアンやフレンチででボナセーラ!とかシルブプレ!とか日本人がやるようなもんかしら」




こちらの寿司コーナーも、カウンターの中には日本人らしき板前が一人入っていて、
あとは非日本人で占められていましたが、皆キビキビ働いています。
こういう雰囲気の中で仕事をしていると、ヒスパニックもアメリカ系も、
妙にきちんと働いているように見えるから(働いてるんですけど)不思議です。



お寿司もいいけど、この日は夕食に寿司田を予約してもらったので、
ラーメンを食べてみることにしました。
いつぞやコメント欄に「一風堂のラーメンを食べながら」と書いた時のもので、
この「黒帯」というのは一風堂の支店?であるらしいことがわかったからです。
トッピングに頼んだ卵は見事に半熟で、チャーシューも適度な大きさ。
アメリカで食べるものなのに量もそんなに多くなく、二種類用意されたスープも美味しかったです。



窓際に面したカウンターに座って日本風ラーメンをいただきました。
向かいはピザ屋。
ニューヨークはイタリア系の移民も多く、おいしいピザが食べられます。



この日、ミュージカルが終わってから渋滞を避けるため、(ハドソンリバー沿いの道は
帰宅ラッシュで4時くらいからとんでもなく混む)夕ご飯を食べて帰ることにしました。
MOMAにいく途中に見つけた「寿司田」。
一度くらいアメリカでまともな寿司を食べてみようということになったのです。

ニューヨークの寿司と言えば、911の跡地がまだ「グラウンド・ゼロ」と呼ばれていた頃、
わたしたち夫婦は、まだ2歳くらいだった息子を連れて旅行に行き、
築地の寿司◯ニューヨーク支店で嫌な目にあったことがあります。

うちの息子は外で泣いたことはもちろん、大声を上げることも一度もない、
まるでぬいぐるみのようなおとなしい子供でしたが、
それでも我々は、日本で鮨屋に連れて行ったことはありませんでしたし、
そのときも他のお客の迷惑にならないように、開店してすぐの5時半に予約をいれました。
しかし、寿司◯の女店主は、わたしたちを見るなりあからさまに憎々しげに睨みつけ、
鮨屋に子供連れで来るな!というオーラ全開で敵意をむき出しにしてきました。

結局その店でも息子は大人しくていてぬいぐるみ同様だったのですが、
そもそも日本人の家族連れが気に入らない風だった彼女は、
帰る段になってTOがお勘定を払っている時にわたしの横の息子がドアに触ったところ、
とんできて叱りつけ(本当)、ぶつぶつ言いながらそこを布で拭いて見せました。

しかし、アメリカ人の客の子供が騒ぎながらカウンターでコーラを飲んでいても
別人のようにお愛想をするという、実にわかりやすいクズでした。

彼女以外の板前さんや男性の店員が、なんとも言えないすまなそうな顔をして
こちらを終始見ていたのが忘れられません。

我が家的には「少しおかしな人がいる鮨屋」として記憶に留められた伝説の店だったのですが、
その後程なくして潰れたという話を聞きました。

「やっぱりね」

「あんな接待していたら日本人はいかなくなるよ」

「同じ日本人でも、アメリカ人同僚と来ていたビジネスマンには愛想よかったじゃない」

「そのビジネスマンが休暇の時に家族を連れてくるという可能性もあるんだけどね」

なるほど、それで潰れてしまったわけですね。ざまあ・・いや、なんでもない(笑)



さて、この寿司田には、旅行を手配するクレジット会社のデスクに予約をいれてもらいました。
あの寿司◯でもそういう予約をしていたら少しは態度も違ってきたのかもしれませんが。

ここは、築地の名店(寿司◯も一応そうですが)であり、従業員が全員日本人。
職人さんはもちろんのこと、お運びの人も全員日本人です。
おそらくニューヨークでは「本物の日本の寿司」として有名なのに違いありません。

もちろんそれは「高い」ということと同義語でもあります。



しかし、ラーメンを食べてからあまり時間が経っていなかったため、
あまりお腹が空いていたなかったのも事実。
せっかく花板さんらしき人に握ってもらえることになったのに、
あまり次々と頼まない「儲からない客」ですみません、なオーダーとなりました。

まず、刺身の盛り合わせを頼んだ後、なぜか揚げ出し豆腐とか(笑)

花板さん(推定)は、ご旅行ですか、などと聞いてこられ、それがきっかけにしばらく
ニューヨークにおける寿司事情を少しばかり伺うことができたのですが、
まず、この寿司田だけでもニューヨークにはいくつもあり、この店は2号店であること、
第1号店はもうオープンして30年にもなることを知りました。
30年前というと、スシがなぜか「健康食」としてもてはやされたころでしょうか。
その後ブームを経て今の「誰でも食べられる日本食」に落ち着くまで、
このお店も27年間ニューヨークの本格的スシの店としてここでやってきたわけです。

このお店はネタを決まったところと契約して仕入れており、
そこは信用の置けるところであるわけですが、中国系が5番街などに開く大きなスシ(もどき)屋は、
どうにも仕入れが怪しいということは言われているのだそうで。
それでなくても中国系の仕入れ業者は怖くて使えないのだそうです。

「酷いのになると魚肉に虫がいるんですよ。目で見えるほど」

ひえええ。そんなの新鮮以前の問題じゃないですか。

「わたしたちはホールフーズで刺身なんかを買っているんですが」

「ホールフーズなんかはちゃんとしたところから仕入れていますよ」

「とんでもなく高いですけどね」

「高くなってしまうのは仕方ないですね。刺身で食べられる魚となると」



話はそのうち寿司職人の育成の話になりました。

「わたしの頃は技術は体で覚えろでしたから、怒鳴られるのはもちろん手や足もでましたが、
今の子は叱られるとやめてしまうんですよ。
ご父兄が出てきて文句を言われたりしたら何も指導できません」

職人が育たない日本。
刀鍛冶の問題でこんな話をしたことがありますが、伝統芸能に限らず、
こんなところにも日本の将来が不安になるような現象が・・。

寿司職人がアメリカの永住権を取りやすいのは有名な話ですが、
腕一本でアメリカに挑戦してやる!みたいな職人志向の若者も減ってきているんでしょうか。




せっかく花板さんの握りなのに、あまり「儲からない」ネタばかりで(納豆巻きとか)
申し訳なく思った、というわけではありませんが、最後にふと炙りものが食べたくなり、
何ができるか聞いてみたところ、金目鯛がいけるというのでいただいてみました。

ほとんど火にかざしただけの金目を塩だけで食べるこのお寿司は絶品でしたが、
一皿26ドル、つまり一個13ドルのお値段だったことが判明。
これ二つでスナッピーズシの「野菜握りセット」と同じくらいという・・。

このコストパフォーマンスに値打ちを認められるアメリカ人って、
果たしてニューヨークに何人くらいいるんでしょうか。




 


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