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「宗谷」~南極料理人

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今日は久しぶりに連休に見学した「宗谷」の話題をお届けします。
(実はまだ全然終わってないのよ)


「士官」に対して、海保ではその他を「科員」というそうです。
ここからは科員用の寝室となります。



科員用寝室は部屋によりますが、だいたいベッドが4つあります。

わたしは長期にわたる集団生活を経験したことがないのですが、
起きている時も寝ている時も他人と一緒というのはさぞかし精神的に来るだろうなと思います。

先日当ブログで海軍兵学校67期の練習航海の写真をあげましたが、その中に
一人になれる空間がないので、大荒れの海にもかかわらず外に出て
煙突に張り付いていた旧兵学校の練習艦隊勤務の乗員が写っていましたね。

個室がもらえる船長や機関長はともかく、その他の船員は時々そういう場所で
一人になる瞬間でもなければとても持たなかったのではないでしょうか。



この部屋の主だった科員は、昭和53年の「宗谷」解役の日、居室の壁に
こう書き残しました。

「偉大な宗谷よ さようなら いつの日か又逢いに来る」

彼はこの年の3月に、あの稚内での「宗谷」の大救出劇に携わった科員です。
2ヶ月後の観艦式の際、海保長官を乗せて、晴れがましい航海を行い、
「宗谷」が引退した後、彼は約束通りここに来ることができたでしょうか。



二人部屋はさらに狭い・・・。
プライバシーなどつまみにしたくともありません。
せめてベッドの上の段で寝たい・・・とか?



しかし狭いながらも楽しい我が家。
気の合う仲間がいれば過酷な船内生活だって苦にならないのさ!

という内容かどうかはわかりませんが、ギターを奏で歌い、くつろぐ科員たち。
ベッドの上の人はこれでくつろぐことができるのかというくらい無理な姿勢ですが、
実際にもこうやって余暇をすごしていたのでしょう。

当時は今ほど喫煙が悪ということにはなっていなかったため、船室で
普通にタバコを吸っていたようです。



あのー、隊員さん、ヅラがずれてるんですけど・・。

南極観測に赴く隊員たち、中でも越冬する隊員たちは、乗船するギリギリに
丸坊主にしてしまい、1年間だいたい散髪なしで過ごしたそうです。

ヒゲも生えま~すぶしょ~お~ひ~げ~♪ ってか?



手前のもベッドだとすればなんと5人部屋です。



軍艦民間船問わずどこの船でもそうですが、甲板に近いところから
階級的に「上」の人の居住区となっていました。
軍隊なら士官、客船なら1等先客。

科員の居住区は「宗谷」でも甲板レベルの士官専用室の階下にあり、
この階には彼らの「食」を支える施設も一緒にありました。
ここは「冷蔵小出し庫」といって、船艙の冷凍庫から出してきた
肉や野菜などの食材をキッチンで使いやすいように入れておいた冷蔵庫です。

ちなみに現在の「冷凍商品」というものはもともと南極観測隊派遣がきっかけで
本格的に実用化されたってご存知でした?




ここも冷蔵庫だと思うのですが、棚の中央に、



サンタのビーフカレー3キロ入りがポツンと置かれていました。
南極観測のために二幸食品が納入していた業務用カレーです。
これ、もちろん中に今も入ってますよね?カレー。

隊員一人の健康を保持する食糧は越冬隊員1人につき約1トンです。
肉、魚、野菜などは冷凍品が主であり、これが1年分積み込まれていました。
食品もお酒なども量はふんだんにありで不自由はありません(生まぐろはないそうです)。

 

キッチンかと思いましたが、そうではなく食器室だそうです。
少し広めの家庭のキッチンくらいの大きさです。



倒れやすいカップなどはこのホルダーにおいたものと思われます。
食器は動揺によって滑り出てこないように、戸棚の中に差し込み式で収納しました。

第一次南極観測隊のとき、「宗谷」は台風に遭遇しています。
揺れ止めであるビルジキールを砕氷の邪魔になるだろうと撤去していたため、
「宗谷」は無茶苦茶に揺れました。

ケープタウン沖で暴風圏内に突入したときには、30°~40°、最大60度まで揺れ、
甲板にいた樺太犬たちが、危うく海に落ちるところだったと言われています。



もしかしたらお皿はシンクで手洗いだったのでしょうか。
・・・・・まさか、多い時で150名分の食器を?



非常ベルみたいですが、どうも電気のスイッチのようです。



そしてこれがキッチン。
冒頭写真のように、マネキンを二人投入して力の入った展示をしております。

調理担当は、海保や半蔵門にある某結婚式場等の民間から、プロのコックが2名隊員として参加します。
「南極調理人」の西村は海保の主計科職員という設定でした。
主計科はその階級が

主計長、首席主計士、主任主計士、主計士、主計士補

となっていて、これもだいぶ海自とは違います。



今夜の献立は鮭のムニエルのアスパラガス添え。
葉物の野菜はありませんが、冷凍野菜や常温で保存ができる野菜なら食べることができます。

昭和基地ではかいわれなどを栽培していますが、その係は「農協」と呼ばれているのだとか。

なぜかテーブルに牛丼と味噌汁がありますが、特別注文か、それとも賄い食?
最初の南極観測隊は総勢130名でしたから、それだけの食を用意するのは大変な作業だったでしょう。



加工品の持ち込みは限られていたため、作れるものは船内で作りました。
見えているパン焼き機は電気式。
電気釜はもちろんのこと、豆腐製造機まで備えていたと言います。

 

キッチン近くの機械室。
キッチンで使うほとんどの器具が電気式だったのでここにあるんですね。



航行中の水は全て汲み置きですが、南極に着けば、氷を加工して水を作ることができました。
これは、ミネラルを含んだとても美味しい水だったのではないかと思われます。
「南極料理人」でも全員がスコップで雪原を丸い形に掘り、雪を集めて水を作っていましたね。

これから観る方のためにあえて詳しくは書きませんが、

「伊勢海老が昭和基地で見つかったんですよ」

「じゃー、今夜はエビフライだな」

「ほかにもあるでしょう。刺身とか。すりつぶすとか」

「えっびふっらい! えっびふっらい!」

・・・という、あのシーンです。 



大きな”ざる”の向こうには圧力釜が見えていますね。
圧力釜がなぜ必要かというと、場所によっては直火では気圧が上がらないからです。



南極だから寒いし、調理人はその点火が使えていいだろうと思ったら大間違い。
インド洋を南下しているとき、太陽は沈まないのですから、猛烈な暑さとなります。
特に左舷側の窓からは24時間太陽が差し込む状態でしたから、
左舷に窓のあるこのキッチンでは、調理に当たる乗員は地獄の釜の中にいるようだったでしょう。

 

科員食堂。
南極観測船当時h、観測隊員用の食堂になっていました。
ゲームボードなどが見えますが、娯楽室を兼ねていました。
クーラーはあったようです。

 

冷蔵庫にステレオ。
このタイプは南極観測船当時からずっとあったものかもしれません。
どちらにも東芝のロゴが控えめに付けられています。 
当時の最新型を、各有名企業はこぞって「宗谷」に納入しました。



納入したと言えばこの色鉛筆もそうです。
この色鉛筆は、第一次越冬隊の立見辰男辰雄隊長が使用したもので、
気温の低い南極でも使用できるように特別に三菱鉛筆が製作しました。

気温が低いと色鉛筆がどうなるのかはわかりませんが、とにかく、
あらゆる有名企業がこぞって南極観測に企業協力をしたのです。
食料品、日用品、観測機器、住宅、衣類・・・・・。
およそ1,000社が南極で使用出来る商品、機器、機材を研究・開発に携わり、
このときに開発使用されたのが緒となって、現在も使われているという例がいくつもあるのです。

東京通信工業所の盛田昭夫、井深大らは、マイナス50度の気温、風速100mのブリザードの中でも
使用可能なバッテリーの受信機を、トランジスタラジオを作った独自技術を生かして提供しました。
この会社は、その後SONYと社名を変えました。

本田宗一郎のHONDAは凍らないオイルを使った風力発電機を開発し、無料で南極探検隊に提供しました。

マイナス50度の世界では、住むところを作るにも鉄や釘は使えません。
日本伝統の木組みによる組み立て式住宅に、断熱効果を得るために檜の板を6枚合わせた
パネルの壁を使用した昭和基地の建物は、東京タワーを建設した竹中工務店が手がけました。
それをアレンジし商品化したものが、現在の「プレハブ住宅」です。



朝日新聞が提唱した一大イベントは、国民に希望をもたらしました。



南極観測に日本が参加することが決まって、「宗谷」が魔改造されたときの
竣工記念パンフレット。

日付は昭和31年10月17日となっています。



「宗谷」の外側につけられていてあらゆる彼女の苦難を知っている船舶番号札。



朝日新聞社が歌詞を公募してできた歌、

「南極観測隊の歌」と「南極の日の丸」。


日の丸の旗なびかせて 地球の果ての南極へ 

小さな船で観測へ 行ってくださる

いさましいおじさまたちへ 

みんなして「ご無事でネ」と祈ります


素晴らしい。素晴らしい歌詞である。さすがは国粋企業朝日新聞社!(もちろん嫌味です)


続く。


 


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