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ラペリングとファストロープ〜平成28年陸自降下訓練始め

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ヘリボーン、つまりヘリによって兵力が投入される様子が展開されています。



そこにもう一度ヒューイが狙撃手を乗せて飛来しました。
人員の投入の合間に、それを阻止する敵の攻撃を封じるためと思われます。
特に、この後行われるヘリからのラペリング降下を成功させるためでしょう。

何しろ戦場では、ヘリはホバリングするときが、一番狙撃・撃墜されやすいのです。



前回のヒューイからの狙撃を紹介したときになんとなく「上官と狙撃手」と書きましたが、
この様子を見ていると、アシストしている様子にも見えます。


ところで「狙撃」というのは「何か」を、つまり戦場では人を狙うことなのですが、
いくら訓練を受けていても、人間というのは「人間を殺す」ストレスには
とうていその精神は耐えられないようにできていて、特に顔の見える距離だと、
たとえ命令されたとしても、殺人につながる行動を本能的に避けるものなのだそうです。

だから、狙撃手の訓練というのは、とにかくその本能を磨耗させることに尽き、
優れたスナイパーになれるかどうかは、その本能に打ち勝てるかということだそうです。
大抵の人間は狙撃により人を殺傷した途端、「シェルショック」ともいう
戦争神経症を発して使い物にならなくなるという話もあります。

つまり映画「アメリカン・スナイパー」で描かれた史上最強の狙撃手、クリス・カイルは
その本能に打ち勝ち続けてきたゆえに、長年にわたって狙撃手として戦場にいられた、
という言い方もできるでしょう。

しかしその代償は彼のような特別の人間にも公平に訪れました。
彼がPTSDに苦しみ、それが彼自身を破滅に追いやる前に、
戦争による殺戮に耐えられなかった他の狙撃手の手によって殺害されたことは、
ごくごく自然の成り行きであったという気すらします。



重心の下に薬莢の袋がついています。



ヘリが向こうを向いたので、狙撃手の(銃撃手かな)横の隊員の手が
出てきたのが見えました。
何をするのかと思ったら・・・・・、



銃の弾倉というかマガジンというのかわかりませんが、そういう部分に
手を添えて何かを固定しているように見えます。



そのまま空砲発射。
発射の瞬間手を添える必要があったということでしょうか。



さて、ヒューイから銃撃を行って敵を牽制している間に、
120mm迫撃砲とそれを引っ張るセットの高機動車、「コウキ」、
(防衛省の押し付け愛称”疾風(はやて)”)を牽引してうろうろしていた
チヌークが、それを地面に降ろす作業に入りました。



迫撃砲と車をおろしているチヌークは体も大きいため、狙われやすく、
そのため、ヒューイからは何度か銃撃が行われます。



迫撃砲を引っ張る高機動車を「重迫牽引車」と言います。
このタイプに限り、後部座席の床に弾薬を固定する金具等が設置されているそうです。



迫撃砲が先に地面に着くと、車が前輪からゆっくり降ろされます。
このホバリング、簡単そうに見えて実は大変難しいものです。
なぜかというと、こうして静止している間、前に進むベクトルがないため
機体が風・揺れ・姿勢の変化などを打ち消し、本来の姿勢に戻ろうとする
本来の性質を保持できず、それだけ姿勢を崩すリスクが大きくなるのです。

この動作はホバリングというより牽引物の着地を確認しながらミリ単位で
機体をゆっくり垂直に下ろしていくため、さらに高度な技術を要するはずです。



地面にどちらもが無事着陸したのを確かめて、牽引していたロープが外されました。



しかるのち離脱。
一般にホバリングの状態から前に進むとき、ヘリは姿勢を崩すリスクが大きく、
このコントロールも難しいといいますが、この大胆な傾き方を見ると
わざとそのようにやって見せているようにしか思えません。

チヌークの離脱と同時に、先ほどヘリから降りてきた小隊が
向こうから近づいてきました。

ヘリから降りて今日の仕事は終わり?とか言ってすみません。<(_ _)>



牽引されていたロープを外し、迫撃砲をコウキに連結します。



とそのとき、2機のチヌークが侵入してきました。
どちらも、防御のために銃が窓から外を狙っています。
このチヌークから、ラペリング降下が行われるのです。



降り口となる後ろのハッチを拡大してみました。
ヘリはすでに少し後ろ下がりの姿勢を保持してホバリングに入っています。
緑の迷彩カラーの太いロープが降ろされようとしています。



こちらは一つのハッチから2条のロープが降ろされました。
降ろす作業をしているのはヘリ隊員ではなく、降下する部隊の隊員です。




下まで届いたのを確かめています。



もう一つのチヌークからはすでに降下が始まっています。
こちらは大変低い高度からの降下なので、おそらくですが
空挺団のみなさんにとっては目をつぶってもできそうな感じです。
いや、目を瞑るというより、空挺団なら飛び降りた方が早いっていうか。

そう、三階から普通に飛ぶ人たちならね。 



ここでちょっと注意して欲しいことがあります。
2機のチヌークから降ろされているそれぞれのロープの太さの違いです。
これは「ラペリング」と「ファストロープ」、2種類の垂直降下が行われているのです。


「FAST」は「早い」の綴りで、ファストロープすなわち「素早くロープで降りる」
から作られた言葉だと思われます。
ファストロープはこの写真で見ての通り、手足でロープを挟んで滑り降りる方法で、
激しい摩擦が起きるので手袋を装着しないとできない方法です。

空挺団なら飛び降りた方が早いような高さからこれを行っているのも、
長い距離だと摩擦で危険だからという理由によるものでしょう。
ファストロープは「強襲」とでもいうべき短時間突入の際選択されます。

しかし、こちらのヘリのように低い位置でホバリングできないような場所では
否応もなく長い距離をロープを伝って降りなくてはなりません。



そこで「ラペリング」という方法で降下が行われるわけです。
「ラペリング」"rapering"とは懸垂下降を意味します。
ファストロープとの違いは、安全器具を使うこと。
そのため、太いロープでなく細いロープ二本を使うことです。



ファストロープで降りている先ほどの隊員の写真と比べてみると明らかな違いは
足の位置で、足はロープを挟んでいません。
降下する隊員の体は腰の位置でロープにつながっているように見えます。



最初に降下した二人の隊員は、下でロープを固定してピンと張っています。



降下している両者をみると、ロープと連結されているらしい腰の位置を中心に、
その上側と下側を両手で保持しつつ降下して行っています。



ラペリングにおいては、腰にハーネスをつけ、それをカラビナ(安全環)に通し、
ロープから落下しないような安全策が取られています。
二本のロープのうち1本にカラビナを通し、ロープを二本まとめて握れば、
カラビナごと下まで落下することはありませんし、高いところから降下しても、
手が摩擦熱で焼かれることもありません。

こちらにはファストロープほどの技術はいらず、相応の筋力さえあれば
誰でも実行可能、ということですが、問題はその「相応」がどれくらいかですね(笑)



救難活動などでも、よほど時間がない場合を除き必ず安全環を用いて行います。
ファストロープの方法は、自分の手足だけで支え、速度を調節するので、
落下の危険があり、だからこそファストロープのヘリの高さは
「飛び降りた方が早い」距離から行うことになっているのだろうと思われます。



二人目の降下員が地上に到達しました。
それぞれ右側が後から降りてきた方ですが、何をしているかというと、
ロープとハーネスを繋いでいた安全環(カラビナ)を外しているのです。



降下した隊員がロープから離れると、上に向かって合図を送ります。



合図を確認したら次の隊員が降下。
この写真の隊員の腹部に光っているのが、カラビナだと思われます。



ロープが長いのでやはり下で押さえておかなくては危険なのでしょう。



3組目も無事降下完了。



すごいのはピタリと同じ高度にホバリングを続けているヘリの操縦者でしょう。
ヘリが少しでも動揺しては降下する者に不安を与え、第一危険です。



簡単に見えるが実は簡単に見せているだけだ。
という「ライジング・サン」のセリフが思い出されます。

ちなみに、ラペリングだと、カラビナとロープが絡んだ点の摩擦により
たとえ両手を離しても降りられるのですが、速度が出すぎるため、
右腰の右手でカラビナ以降のロープの引張力を調整し、ブレーキをかけます。



ちなみに、「リペリング」という言葉をよく見るのですが、
どういうわけか自衛隊が公式にラペリングを「リペリング」としているので、
そのように呼ぶ人もいるということです。

ラペリングをリペリングと呼ぶようになった経緯はわかりませんでしたが、
最初にやりだした偉い人が「リペリング」と思い込んでいて、
誰も訂正できないまま自衛隊だけがそう呼んでるんだったら少し悲しい・・。

ちなみにこのリペリング降下、レンジャー資格者にしか行うことを許されていないそうです。
やっぱり「誰でもできる」って嘘ですよね(笑)


続く。



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