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映画「謎の戦艦陸奥」後編

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というわけで「謎の戦艦陸奥」後編です。
画像は、全編通して一度も見なかったのになぜか宣伝には使われたシーン。

まず、主人公の伏見少佐は、このように銃を持ってルードリッヒ、
駐在武官の皮を被った連合国のスパイの親玉と対峙することはありません。
そもそも伏見はルードリッヒがスパイであることを知らずに、
「陸奥」の爆発で死んでしまう運命なのです。(ネタバレ)

さらに、こちらもスパイの手先として使われているうちに伏見少佐を
好きになってしまう海軍倶楽部のマダム、美佐子は、
ルードリッヒにこのように手篭めにされるということもありません。

美佐子を演じた小畑絹子という女優さんは、今では誰も知りませんが、
当時は新東宝随一の美女と謳われたスタアでした。
どちらかというと清楚というより妖艶な魅力で売っていた方なので、
殿方が「おおっ」というシーンを期待するような宣伝をしたんでしょうか。

この映画、実は当初全く違うストーリー(伏見少佐がスパイ団に脅迫され、
一夜を共にした美佐子にそそのかされて陸奥の爆破を企む)だったので、
そちらの内容にはこのようなシーンがあったという可能性もありますが。 



さて、海軍省での会議では、海軍甲事件、つまり山本五十六大将が
ガダルカナルで戦死を遂げたという悲しいニュースが発表されます。
ちなみに会議の内容は、「ろ号作戦」の実地についてでした。
作戦の後、なぜか会議に出席していた「陸奥」艦長が、嶋田を

「なぜ陸奥はこのたびの作戦からも除外されているのか」

と問い詰めます。
いくら海軍が下からの意見具申を許す体質だからといって、
一介の大佐がよりによって海軍大将に向かって、
しかも会議が終わってから作戦にケチをつけるようなこと言いますかね。

下から突き上げられてやむなく直訴してみたものの、当然ながら
嶋田にもあっさり「次に備えろ」とあしらわれ、うなだれる艦長。
その艦長に向かって、伏見少佐はそれを横で聞いていたにもかかわらず、

「なぜ陸奥が冷や飯を食わされるんですか!
長官におねがいをしてください!」

などとしつこく食い下がるのでした。もういい加減わかれよ。



同じ会議に出席していた伏見の叔父、池上中将。(細川俊夫)
このご時世に呑気にも伏見を横須賀の海軍倶楽部に誘います。
(最初のストーリーでは池上もスパイ団に加担していたことになっている)



そこで伏見少佐は出会ってはならない女性(ひと)と会ってしまいます。
海軍倶楽部のマダム、美佐子。



そこで伏見を待つ、ドイツ駐在武官の皮を被ったスパイ、ルードリッヒ。
皆で乾杯などするのですが、いきなりこのおっさん、

「日本海軍も山本GF長官が死んでコマリマシタネー」

などと軽~く言い出します。
軍令部が内部発表した日にこんなことを知っている時点で怪しさ満点ですが、
細川中将も伏見少佐も全く不思議に思わないようです。


そしてここでも一生懸命伏見の気を引こうとする美佐子、
しかしつれない態度で(しかし流し目で)立ち去る伏見、というお約束が。
後年ニヒルな男の代名詞としてマダムキラーとなった天知茂の本領発揮です。

(余談ですが、天知茂はイメージと違い大変良き家庭人で、夫人によると
喧嘩らしい喧嘩すらした記憶はないとのこと。
大部屋出身からスターになった人間は苦労を知っているだけに←適当)



ところで、「陸奥」の五来兵曹長は、反戦小説を所持していたため、
罰則として艦倉に禁固されていました。



五来の妹になぜかわざわざ会いに来る副長の伏見と松本中尉。
ちなみにこの妹役をしているのは北沢典子。

伏見は「心配しないように」と一言だけ言って立ち去ります。
松本中尉は、美人の妹が兄の身を思って苦悩しているのを見て、
自分のことのように同情します。



その会話を盗み聞きしている呉鎮守府、物資調達係の三原。
ルードリッヒの手先です。
ちなみに三原の後ろには大本営発表の華々しい連合艦隊の戦果が。

なになに、空母2隻撃沈、大破3隻その他たくさんだって?

 

呉海軍鎮守府という設定。



これは呉でロケしたようですね。
「大和のふるさと」のあの丘かな?



なんと、伏見少佐の叔父の池上中将は、平和主義者であるゆえ、
生かしてはおけないと前線に追いやられてしまうそうです。
いろいろと突っ込みどころが多いですが、ここはスルーで。



「戦争は罪悪だ。人類の破滅だ。
お前は次の時代に生きてほしい人間だ。命を無駄にするな」

と甥に切々と語る小笠原中将。



かたやスパイ団は、「陸奥」の爆破計画の第一弾として、
ハーモニカを吹いていて殴られた神近兵曹に近づきます。



煽られてすっかりその気になる神近、手榴弾をわざと盗まされ、
それで「陸奥」の火薬庫を爆破しようとしますが、



よりによって伏見副長に見つかってしまいます。
相変わらずマイペースの伏見が

「陸奥は俺の恋人だ」

などといいだすので毒気を抜かれて失敗。
伏見副長、無欲の勝利です。



失敗した神近兵曹は、三原一味に殺害されてしまいます。



酒を無理やり飲ませて溺死させるという鬼畜の仕打ちでした。



伏見が一人で神近の死について懊悩していると、そこになぜか
横須賀海軍倶楽部のマダム、美佐子が声をかけてきます。



「あなたの後ろ姿、まるで白鳥が悶えているみたいだわ」

再会早々開口一番これだよ。
これで美佐子は伏見の気持ちを白鳥、じゃなくって鷲掴みにしようって魂胆です。
そしてさすがは百戦錬磨、たたみかけるように続けて

「今日は離さなくってよ(ハート)」

さらに容赦なく同情作戦を展開。
自分の父がなんと「陸奥」の造船技師で、進水式直後
設計図が盗まれたとき、スパイに売り渡したという嫌疑をかけられ、
銃殺されてしまったという過去を涙ながらに話し出しました。

「だから陸奥が憎いんです!」

それに対して伏見は、

「お父さんは技術者として陸奥を愛していたはずだ。
陸奥を憎んではいけない」

スパイの嫌疑をきせられて処刑されたというのなら、憎むべきは
父に罪を被せた真犯人であり、無実の罪で処刑にした軍部であって、
決して「陸奥」ではない、となだめます。



そのまま二人は、なし崩しに美佐子の部屋での飲みに突入。
出撃を控えた戦艦の副長ともあろう軍人が、

「今日は久しぶりにうんと酔ってみたい」

ですってよー。
で、酔ってみたいその理由って何。

「わたしは君を愛してはいけなかった。
君が憎んでいる陸奥をわたしはこの上もなく愛している。
君とわたしとはその宿命から所詮逃れることはできないのだ」

意味不明。

そして、案の定死ぬの死なないの言いあっているうちに、



こうなってしまいます。



そして、ムードに酔って、近々出撃が決まったと
軍艦の極秘情報を美佐子にしゃべるとんでもない軍人、伏見。

「死ぬおつもりなのね!」

美佐子独白:

わたしはこの人を殺したくない・・・。
陸奥さえなければ・・・!

いやいやいやいや(笑)

陸奥がなくなれば、おそらく副長は他の艦に転勤するだけだし、
そもそも陸奥を爆破したら、伏見はまず間違いなく一緒に死ぬよ?



<スパイ団一味の爆破作戦その2>

火薬庫の係の水兵を酔わせ、寝ている間に靴に時限爆弾を仕込んで、
彼が火薬庫で勤務をしている時間に火薬庫を爆発させる。

ところが、門限に遅れた火薬庫勤務の水谷一水、牢屋に留め置かれてしまいます。



軍法会議は、艦長の計らいで不問にされると聞いて喜び、
水谷一水は走って「陸奥」に戻っていきますが、
折しも時限爆弾のセットされた9時半になろうとしていました。



ちょっとの差で爆破が早すぎて作戦失敗。



もしかしたらこのスパイ団すごい無能なんじゃないの?
これだけいろいろ起こったら「陸奥」も厳戒態勢をとると思うけど。

第3の爆破作戦は、思想犯扱いされていた五来兵曹長に
爆薬を仕掛けさせるというものです。

こんどはうまくいくのかな?



ところで三原の子分はここに来て二人とも始末されてしまいます。
祖国を裏切るような輩は、一般的に敵国人からも信用されないんですよ。
翁長さん聞いてる?



「軍法会議で処刑になる前に陸奥を爆破せよ」

妹からの差し入れの中に爆薬と三原からの手紙を発見する五来。
そもそも閉じ込められているのにどうやって火薬庫に行けというのか。

当時戦艦の火薬庫は常時施錠され、当直将校が鍵を首からかけて持っていましたし。



方や呉の港で伏見は美佐子に呼び出されて桟橋で待っていました。
「陸奥」の副長、もしかしたらすごく暇ですか?

しかし美佐子はやってきません。



肝心の美佐子はルードリッヒに捕まっていたからです。
伏見の手紙と遺品を届けに美佐子の家にいく松本。



伏見少佐をおびき寄せて殺すつもりだったルードリッヒが
松本中尉も殺そうとします。



そこになだれ込んできた我らが海軍警察の一団。
五来兵曹長が良心に耐えかね、一味のことを告白したのでした。
アナと三原もどさくさに紛れて殺してしまったルードリッヒは
問答無用で射殺され、とりあえず一件落着です。



ルードリッヒに撃たれて息も絶え絶えの美佐子、苦しい息の下から

「伏見さん・・・陸奥に」

がっくり。
そこで死んだら何もわからないだろうがあ!



火薬庫の中に仕掛けられた爆破装置。
刻々と爆発までの時間を刻みます。



第3の作戦にも失敗した諜報団一味ですが、
用意周到なルードリッヒは砲弾積み込みの機会に爆弾を仕掛けていました。
最初からこうしてればよかったのではないかと思うがどうか。



正午前、これは史実通りですが、霞ヶ浦海兵団の予科練習生ら
153名が艦務実習のため乗り込んできていました。

本当は後甲板で艦長訓示を先に行う予定だったのですが、三好艦長が
着いたばかりで疲れているだろうと食事を先にさせるように指示し、
それが予科練生にとって運命の分かれ道となったのでした。

爆発による生存者の多くは甲板に出ていたといわれます。



予科練生が立ち上がって皆で「若鷲の歌」を歌いだしました。
しかも「”予科練の歌”を歌う!」って題名間違えてるし。

「若い力の予科練は~」

彼らの歌を神妙に聞く艦長。

史実では三好艦長は爆発時艦長室にいたことがわかっています。
解剖の結果海水を飲んでおらず、爆発の衝撃により昏倒した際の
頚椎骨折による即死と診断されました。



美佐子の死を見届けた松本中尉は陸奥に帰ってきてしまいました。
その死を知らされ、衝撃を受ける伏見。
そのとき第一砲塔の火薬庫から時限爆弾を発見したという知らせが!



全員で火薬庫の総点検が始まりました。
たちまち2つ目の爆弾を見つける有能な陸奥乗員。



伏見少佐は艦長に報告し、総員退艦命令を出させます。
もうこの際火薬庫注水でもすればよかったのでは?という気もしますが、
最後は何が何でも爆発することになっている関係で、それはしません。

一つづつ火薬箱を開けていくのですが、爆弾の仕込まれた箱が
あと一つになったところで時間切れ。



陸奥は三番砲塔と4番砲塔の付近から大爆発を起こします。
伏見少佐も松本中尉も火薬庫で即死です。



三番砲塔は吹き飛び、四番砲塔前部で艦体は切断。
前部はすぐに、後部も転覆後わずかな間に沈没しました。



陸奥の乗員は1321名、予科練から乗り込んできたのが153名。
生存者はわずか353名という大惨事となりました。
死亡者のほとんどが溺死ではなく爆死というのがその凄まじさを表します。


 
陸奥爆沈という史実をベースにするにはあまりにも不謹慎極まりない創作、
というのがこの映画を見た感想です。

「戦艦陸奥の悲劇的な終焉を劇的に構成したもので 
登場人物を始め全て創作されたものであります」

とこのテロップでもお断りしてますが、あまり言い訳になってません。

ここにあるように当時はまだ「陸奥」艦体はほぼそのままで、
(一部引き揚げ作業が行われたのは1970年) 
今より原因については諸説入り乱れていたころです。


ところで、この話によると、陸奥の爆破は連合国のスパイによるもので、
それが結果として成功したということになるわけですが、もしそうなら
連合国がこの「大戦果」を戦時に発表しない理由があろうはずありません。

だから「敵国の仕業説」だけは当時から否定されていたわけですが、
にもかかわらず、よりによって国際諜報団の暗躍(+陸奥副長と女スパイの恋)
なんてネタをこの件にねじり込んできたっていうのが、
ある意味怖いもの知らずですごい映画だなあと感心してしまいました。




終わり。

 


 


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