染井吉野がすっかり終わったある週末、京都に行くことになりました。
人と会う約束で行ったのですが、家族三人の旅であったので、
町屋に泊まるという体験にトライすることにしました。
せっかく京都に来たのだから、京都らしい宿に泊まりたい、という旅行者の
ニーズに応え、最近は町の角角に残る「町屋」、つまり昔ながらの
住宅を改装して一軒の家をホテルとして借りるという形態が増えています。
今回泊まったのはそんな町屋のひとつ。
さて、どんな体験ができるのでしょうか。
新幹線を待っていたら、「回送」と掲示がでてやってきたのは
ご覧のように黄色い新幹線。
「黄色い新幹線なんてあったっけ?」
その場でiPadを検索してみたら、これが「ドクターイエロー」という
異名を持つ、新幹線型点検車両であることがわかりました。
正式名称は新幹線電気軌道総合試験車。
通常の新幹線と同じ車両数、重量を再現しており、その役割は
線路のゆがみ具合や架線の状態、信号電流の状況などを検測しながら走行し、
新幹線の軌道・電気設備・信号設備を検査線路とパンタグラフを走行しながら
チェックするという特別車両です。
当初口を開けて見送っていたので、ボディを撮り損ねましたが、
黄色い車体にはブルーのラインが入っていました。
なぜ黄色いかというと乗客が間違って乗らないように、ということですが、
ホームにいても戸が開かないので、乗る人はまずいないと思いました。
わたしはこの瞬間までこういうものの存在すら知らなかったわけですが、
このドクターイエロー、旧車両の時からすでにあったんだそうですね。
写真のタイプは2000年(つまり16年も前)にはすでに導入されていたという
923系で、なんでもその内容は
1号車:通信・信号・電気測定車
2号車:データ処理・架線摩耗測定車
3号車:電源車(観測ドームあり)
4号車:倉庫
5号車:軌道検測車(921形、3台車で短車体)
6号車:救援車(観測ドームあり)
7号車:休憩室
だということです。
うーん、乗れないけど乗ってみたい!特に7号車。
この写真では探照灯の下に赤い光の見えるウィンドウがありますが、
これは前方監視カメラであり、赤い光は尾灯となります。
今映っているのは後後尾となります。
「へー、ドクターイエローって言うんだって」
と話しながらみていたら、後ろの方からどどどどっと人が走ってきました。
皆携帯を構えて、写真を撮るためにホームに群がっています。
なんでも、このドクターイエロー、「幸せの黄色いハンカチ」のイメージからか、
「見ると幸せになれる」
とも言われているのだそうです。
まあそれだけレアだってことでしょう。
わたしだってこの人生で初めて遭遇したくらいだし。
なんでもドクターイエロー、月4回、東京-博多間を2日がかりで往復してるとか。
一日目は東京駅から博多へ向かい、次の日に東京へ帰ってきます。
「のぞみ」停車駅のみを停車して走る「のぞみ検測」が3回、
全駅停車する「こだま検測」が1回の合計4回だそうです(最近の実績より)。
たまたまそのときにホームにいた人しか見られない「幻の新幹線」。
今回世の中にはこの黄色い新幹線の「追っかけ」をしている人たちがいたり、
「ドクターイエローの目撃情報を投稿するサイト」まであるということがわかりました。
撮り鉄的にもこの新幹線は格好の好餌らしく、この後に発車した
広島行きののぞみに乗って進行方向側の窓から外を見ていたら、
田んぼのあぜ道のようなところに撮り鉄集団がずらっと鈴なりになっていました。
いずれにしても、めったに見ることのできない車両なので、そのとき
ホームにいた人たちが色めき立ったのも当然です。
発車までの時間、「柵から乗り出さないでください」のアナウンスが
なんども流れておりました。
このときのドクターイエローが「定期点検」だったのか、それとも
その前に起こった地震の影響を調査するために臨時運行されたものかはわかりません。
さて、そんなこんなで京都着。
ここ何年か、いつ行っても観光客でごった返している感のある京都ですが、
桜が一段落し、わずかですが喧騒がましになっている気がします。
京都駅からタクシーに乗って、「花籠旅館」というと、
運転手さん、全く知りまへんなー、と言います。
後から知ったのですが、最近雨後の筍のようにこのような
町屋を改装したタイプの旅館が増えているので、多すぎて名前だけでは
どこにあるのかわからないものなんだそうです。
運転手さん、電話で旅館と連絡を取りつつ、五条と七条のあいだにある
(つまり六条?)この「正面橋」から鴨川を渡りました。
「ここですわ」
言われてみれば、門のところに小さく「花籠旅館」と書かれたプレートが。
どうやらこの小道を入っていったところのようです。
そのとき左を見ると・・・
首輪をつけたお嬢さん猫にちょっかいかけていた野良っぽいトラ。
(お嬢さんはすっかり怯えておりました)
この辺は入り組んだ小路なので猫も住みやすそうです。
ガレージの向こうの4軒が並んだ長屋の一番左端が今夜のお宿です。
「昨今はこういうところを旅館にしてしまうのね」
この町屋タイプ、国内旅行者よりも、外国人に人気なのだとか。
普通のホテルは世界どこに行っても同じような部屋ですが、
こういうところだと、まるでつかの間京都人になった気分を味わえます。
旅館の右隣は現在空き家で、右端二軒は居住者がいるのだそうです。
というわけで、4軒長屋の一番端。
こちらが「花籠旅館」でございますえ。
躯体はもちろん長屋ですからそのままですが、内装も外装も
変えられる限りの部分を新しくしています。
オープンは昨年9月ということなのでまだ半年しか経っていません。
部屋の前に立って長屋の右側を眺めると、こんな感じ。
だいたい80年くらい前に建てられた物件だということでした。
お地蔵さんもその頃からあるのでしょうか。
きっちり80年前だとして1936年、昭和11年建築。
そんな古くからある建物に未だに人が普通に住み続けているのが京都です。
大きな地震に遭ったこともなく、小規模の空襲があったとはいえ、
一旦は原子爆弾の投下目標として「効果を明らかにするため」
あるときから爆撃を一切受けなくなったという土地ですから、
こういう戦前からの「町屋」がそこここにいまだ残されているのです。
廃墟マニアのわたしとしては(廃墟ではありませんが)そんな家が
まだ隣に繋がっているこのような家屋に住めるというだけでも大興奮でした。
しかし、いかに廃墟が好きでも、実際に古いままの家では色々と
生理的に辛いものがあります。
昨今の「町屋旅館」は古いテイストのインテリアを残しているものの、
あとは海外から来る旅行客のためにも、設備はホテル並みに整って
とにかく小綺麗で清潔で水回り完璧、というのが基本です。
スケルトンリフォームをしたということなので、古い家屋にありがちな
臭いの問題も全くありません。
土間にある自転車はチェックアウトしてからも4時間は借りることができます。
京都ではよく旅行者が自転車に乗ってうろうろしていますが、
ほとんどがこういう経緯で借りた自転車だったのかもしれません。
土間は左の「客間」と、奥の「台所」に繋がっています。
並びの他の三軒も、このような土間玄関のしつらえなのでしょうか。
入ってすぐの間は、窓際に長い作り付けのデスクがしつらえてありました。
小型のアクオス、そして小さいけど性能のいいBOSEのスピーカーは
Bluetooth対応でこの空間にジャズを流すといかにもな雰囲気です。
もちろんWiFiは完備、息子が速度を測ったらシリコンバレー並みの早さでした。
飾ってある花は、鉢植えも生花も本物です。
百合の花が馥郁たる香りを放っていました。
ここがいわゆる居間兼食堂。リビングダイニングというやつです。
ここにテレビを置かないあたりがいいセンスだと思いました。
居間から廊下を望む障子は雪見障子となっていて、坪庭が臨めます。
まだあまり時間が経っていないですが、もう少しすればツワブキやウルイが
落ち着いて、秋には色づいた紅葉が楽しめるのでしょう。
細い階段ももちろん全て新しく作ったものでした。
階段を上ると、ホールのようなスペースがあり、
その左と右には寝室があります。
この日TOが風邪なのか咳が止まらない状態だったので、わたしと息子が
こちらで寝ましたが、次の日の朝、障子からの光があまりに眩しくて目覚めました。
昔の人は日の出と共に起きていたから無問題?
案内には浴衣完備と書いてあったので、何も持たずに行ったら
どこを探しても浴衣もパジャマも見当たりませんでした。
仕方がないので京都駅前まで車を飛ばし、ヨドバシカメラビルの中にある
UNIQLOで適当なものを買ってきてそれを着て寝ました。
次の日聞いたところ、従業員が浴衣を入れるのを忘れていたそうです。
土間に吹き抜け。
チェックインの時には案内の方が迎えてくれてお抹茶を淹れてくれ、
お勘定をすませて説明もしてくれたのですが、そのときに
「京都の底冷えする冬にはここは寒そうですね」
とつい言うと、
「できるだけ各所にヒーターを置いて対処させていただいています」
とのことでした。
まあ、底冷えと暑いのは京都名物でもあったりするわけですから(笑)
それも含めて楽しむのが京都旅行というものなのかもしれません。
トイレはもともとそうだったのかどうかわかりませんが、
一階と二階に一つづつありました。
で、これが二階のトイレなのですが、夜寝る前に行こうと思い、
左奥にある照明のスイッチをつけようとしたところ、
真っ暗だったので床の段差に気づかず見事に躓きました。
もう少しわたしがドンくさかったら、そのまま両手を
ドアのガラスについて大惨事となっていたかもしれません。
幸いつまづいた反対の足でバランスをとり倒れることはありませんでしたが、
そのときにザラザラした壁に手の甲を擦って怪我をしました。
足元に常夜灯をつけてはどうですか、と次の日お節介ながら提案したところ、
帰ってから女将さん直々のお手紙と共に、お詫びの品が送られてきました。
手紙によると早速センサーを取り付けられたとのことです。
寝巻きの件も、電話では「(ユニクロで買った商品代を)返金いたします」
というお申し出は辞退し、お詫びも一切無用、と告げていたのですが、
お菓子と共に商品券が同封されていたのには恐縮してしまいました。
クレームに対する対応の早さとこの気遣い。
さすが世界の観光首都京都の旅館だと舌を巻いた次第です。
さて、家の中の探検も済んだので、わたしと息子は
TOが来るまでの間自転車に乗って外に出てみることにしました。