原子力兵器の発明以前には、世界の国家指導者たちが武力について
協議するとき、それを決めるための基本単位は「戦艦」でした。
というわけで、世界経済が縮小傾向に向かい、さらには次の大戦も
予想されるようになった1930年、ご存知ワシントン軍縮会議が持たれ、
米国の場合、保有量を35,000トンと決められました。
日本ではこの保有率を巡って英米との割合が不公平すぎるとし、
いろいろと大変なことになりましたが(しかし今はさくっと省略)、
アメリカにとってもこの保有量は実質「縮小」であったわけです。
そんな頃建造された「マサチューセッツ」は、最新兵器を搭載され
速度もはやく、 ワシントン条約の制限を極限まで考慮されたデザインでした。
前回「マサチューセッツ」の主砲についてお話ししましたが、補足しておくと、
彼女がヨーロッパで初めての16インチ砲を放ち、フランス海軍の「ジャン・バール」
に損害を与えたとき、命中したのは5発であったということです。
その後、2隻の駆逐艦、2隻の商船を撃沈させたというのは、
「ビッグ・マミー」の砲手たちの腕の良さに負うところ大だったのでしょう。
主砲の付け根にすごく無理して()誇らしげに立つ砲手たち。
ついでに、主砲の下では日曜のミサも行われました。
従軍牧師のありがたいお説教に、頭を下げて聞き入る乗員たち。
後ろから2番目の人は、これどう見ても寝てますが(笑)
さて、上甲板をぐるりと回って見学終了。
階段を1階登ると、主砲の高さになります。
前回ご紹介したこの不気味な「ジョージ」は、主砲の
砲郭?に描かれていたことがこの写真を見て初めてわかりました。
この階の甲板はご覧のありさま。
木材が経年劣化でもうぼろぼろになっています。
かつてはこうやって毎日磨き上げたものなんですけどね。
デッキブラシを持っている人が何人かいますが、我が帝国海軍では
デッキブラシなどというものは使わず、ソーフ(雑布)を持ち、かがんで
「回れ!回れ!」と叱咤されながら甲板掃除をしたものですよ。
とまるで見てきたかのように言ってますが、本当にそうだったんでしょうか。
海上自衛隊のフネには常に大量のデッキ掃除用モップが搭載されているので、
いかに伝統墨守の海上自衛隊とはいえ今はまずやってないと思いますが。
ちなみにフキダシですが、
「あー背中痛え!
おいマック、ここにスティック(デッキブラシ?)よこせよ。
そしたらおいら水遊びしちゃうからよ」 (超意訳)
「回れ!回れ!」とは随分緊張感が違います。
ここでふとそびえ立つ艦橋を振り仰いで見ると見えるアンテナ。
今いるパロアルトで、わたしはよく「スタンフォード・ディッシュ・トレイル」
というこの手のアンテナが2基立っているところに散歩に行きますが、
ここに来るようになって、このアンテナが「ディッシュ」であることを知りました。
ところで皆さんは、衛星放送の技術に古代の数学的理念が生かされている、
という話をお聞きになったことがあるでしょうか。
誤解を恐れず言うと、4〜5世紀のギリシャにおいて、既にこの技術は始まっていたのです。
パラボラというのはお椀の形をした反射鏡のことですが、ローマがギリシャに侵攻したとき、
ギリシャのアルキメデスの提案で、岸に半円状になるように鏡を配置し、
「パラボラ」として、太陽光線をレンズで集め、商店を敵艦に合わせて火災を起こした、
という伝説があり、これは「アルキメデスの熱光線」と呼ばれています。
カーブが太陽光線ならぬ電磁波を反射させ、中央の「レシーバー」がこれを拾い集める、
というのがこの「ディッシュ」の概念というわけです。
この部分にはこれだけの「パラボラ反射鏡」がありますってことで。
これは実に丁寧でわかりやすい展示でしたね。
あらためて二つ上の写真にパラボラを探してみると、ディッシュの他に
二つのパラボラ状が確認できます。
そして、アルキメデスならぬコロンブスの卵。
この探照灯、サーチライトもまた「パラボラ反射鏡」であることを知りました。
こちらは電波ではなく、光線を反射させるわけですが。
探照灯は第1次世界大戦の時からもう導入されていました。
上甲板の1階上の5インチ砲ガンマウントのハッチが開いている!
恐るべしマサチューセッツ。
これ、その気になれば中に入れました。
先を急ぐので、さすがにそこまではしませんでしたが。
砲塔の中がこんな形で公開されているのは初めて見ました。
二本の柱がすなわち弾薬が供給される部分でしょうか。
それにしても、実際に稼働していた時にはこうじゃなかった感が・・・。
この下の階を見学した時にあった5インチ砲全体構造図。
これを見る限り、この砲塔の中はだいぶ部品が外されてしまっている気が・・。
この下のデッキ(メイン・ハンドリング・ルーム)で発見した、弾薬を供給する装置。
「7」とか「5」とかは砲につけられた認識番号でしょう。
どのように弾薬が送られていくか、透明板で中身を見せてくれています。
弾薬庫。5インチというのは12.7cm。
実際にはサードデッキ(この下の階)に弾薬供給室があったはずですが、
一緒に展示されていました。
上二つはmark13、その下の左Mk.38、右 Mk.35。
一番下はmark30の弾薬です。
ボートが格納されているのも上甲板の一階上でした。
海面に下ろす時に吊るフックが写真右手に見えます。
ボートはなんの手入れもしていないらしくかなり痛んでいました。
左舷から右舷に出てみました。
(というか、ここを通らなくては右舷側に出られない)
天井に配されたすごい数のコードは、長年の間に重みで垂れ下がってきています。
こちら右舷デッキに出たところ。
「シグナル・シェルター」と呼ばれる信号員のブースです。
この室内に見えるのは、「フラッグ・バッグ」と呼ばれる信号旗収納場所で、
全く同じものが左舷にもあり、ホイスト(天井から吊るすクレーン)作業のとき、
信号を送るときに信号員が命令に従って迅速に旗を揚げます。
オーダーはインターコムを使って司令所から白いスピーカーに送られてきます。
この部屋には見当たりませんでしたが、シグナル・シェルターには、
大事な信号旗を修理するためのミシンが備えてあったそうです。
旗といえば、これはヨーロッパで交戦したときの「マサチューセッツ」甲板ですが、
国旗(戦闘旗)がたいへん低い位置に掲揚されているのがわかります。
これは、目立つ白いストライプが敵機から視認されにくいようにしているそうです。
右手手前のハッチより中に入ってみましょう。
それから、艦隊の指揮を執る艦船を「フラッグシップ」といいます。
「admiral」とそのスタッフが坐乗しているということになり、
この一団を” THE FLAG" とアメリカ海軍では呼ぶのだそうです。
The Flagが陣取って指揮をとるのが、ここ、
FLAG PLOT
と呼ばれる一隅で、 提督が指揮をとるのに必要な、レーダー、無線、
甲板の状況が把握できるすべての情報が集まるようになっています。
そういえば映画「機動部隊」でゲイリー・クーパー演じる主人公(艦長)と提督が、
こんなところでなぜか肩を寄せ合って(笑)情報を待っていたシーンがありましたっけ。
部屋の隅にはタイプライターを打つための席が二つ。
その階級にかかわらず、提督は旗艦の操艦についてはその義務を
艦長と乗員に任せるということが常に義務付けられています。
この機器のあった部屋は
Mark.34 radar room
といい、実際はここにあったわけではないのですが、艦橋のちょうど上両舷にあった
「マイクロウエーブ・ディッシュ」(microwave dish)、
対空探査レーダー室を記念して作られました。
対空探査機が、マニュアルで敵機をポイントすると、
その機位やレンジなどがこの部屋にある機器によって捕捉されました。
これはMk.34のレーダーコントロール・ユニット、「CW-2323AFZ」。
これもレーダーのユニットの一つ。
パワーのスイッチがついていますが、面白いのは
「レーダー」の逆向きに「ダミーANT」というスイッチがあることです。
ダミーアンテナ?とはなんぞや。
実際の風力と船の速力と合わせるレバーがあります。
真ん中には「インストラクション」がありますが、
「実際の風力に最大で5ノットまで近づける」
となぜか二回繰り返して書いてあります。
冒頭写真は「VHF レイディオ・ルーム」。
ここにあるラジオは航空機、僚艦、地上と交信するのに使われました。
すべての機器はここから6階も下にあるCIC(戦闘指揮所。
コンバット・インフォメーションセンター)からリモート操作されます。
彼らはまた地上の陸軍や海兵隊ともこれで通信を行いました。
説明がなくて何かわからなかったスペース。
しかし、ベッドが広い個室にただ一つあるところを見ると、
「The flag」である提督が休む部屋だったのではないかと思われます。
続く。