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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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准士官食堂〜戦艦「マサチューセッツ」

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戦艦「マサチューセッツ」見学、甲板と艦橋を全部見終わり、
いよいよ甲板の下に入って行きます。

ありがたいことに、「マサチューセッツ」は、艦内要所要所に
このような艦内図に「今ココ」という印を書き込んでくれており、
今艦尾にいるのかそれとも艦首に向かっているのか、
そして甲板の何階下にいるのかを思い出すことができます。

特に海外で艦艇博物館の見学をしたことがある人はご存知でしょうが、
普通の人間は、あの空間をぐるぐるしていると、たちどころに
方位を失って、自分がどこにいるのかなど分からなくなるのです。



わたしの場合、その場で自分の位置がわからなくなるのより、
後から撮った写真の正体が分からなくなる方が怖いので、前にも書きましたが
このようにいちいち階段を上り下りする前に写真を撮るという規則を作りました。
 
冒頭写真の「今ココ」は上甲板のフロアで、ここにはちょっとしたデリがあり、
それを飲食するスペースがあり、そして「メモリアルルーム」があります。
「メモリアルルーム」についてはまた日を改めてお話しするつもりですが、
ここは「入室前に帽子をお取りください」とドアに書かれていたので、
わたしはアップルで買ったリンゴのマーク入りキャップを脱いで、そのまま
ビデオを鑑賞したベンチに置いたまま帰ってしまいました。

一応オフィスでそのことを言ったところ、

「係員が中を見て回収することもあるかもしれないけど」

広い戦艦の中で帽子の忘れ物を係が見つける可能性は低い、
といったニュアンスです。

この帽子はクパチーノのアップル本社ストアで買ったものですが、
アップルはここでしかロゴグッズを売っていないうえ、
去年改装をしてからグッズがとてもつまらなくなってしまい、
おかしな英文入りのTシャツもこのアップルマークの帽子も
もう買うことができないので、失くしたとしたら残念だなあ、
と思いつつ次の日行ってみたら、ベンチの上にそのままありました。

さすがにメモリアルルームで人の忘れていった帽子を盗るほど
アメリカ人は終わっていないわい、と思ったのですが、
ただ単に人が立ち寄らなかったからだったのかもしれません。



上甲板から降りる階段の途中で撮った、階下天井近くの構造物。
なんと、モノレールが敷設されておりました。
一部が見えているだけなので、説明がなければとてもそうは思えません。

「セカンドデッキとその下に重量のある機器などを運ぶものだった」

ということです。
ちなみにメインデッキが甲板階、セカンドがその下、サードデッキがさらにその下。
また、ターレットとターレット間で弾丸を運んだりしました。

モノレールは水密ドアの部分も走っていましたが、いざとなれば
ドアをしめるためにレールは取り外せるようになっていました。
3000パウンド(1360kg)までの重さのものが運べたそうです。

ちなみにレールの向こう側は「下水ステーション」。
説明はありませんでしたが、乗員に対する注意書きには

「つなぎを着ること」「顔を防護すること」「ゴム長を履くこと」

そして「必ず二人一組で作業に当たること」とあります。
けっこう、ちうかかなり危険な持ち場なんですね・・。



ここは「ジェネラル・ワークショップ」。
工作機械やメジャリングのための機器が備えられています。



その真後ろにあるのが、この「ツール・イシュー・ルーム」。
イシューというのはこの場合、「支給」という意味です。
つまり、ここでツールのリペアなどを行い各自に支給するわけですね。

小さなベンチと机だけの部屋で、研ぎ機があるくらいの部屋なので、
部屋に入らない道具の手入れは外で行ったのだそうです。




説明板が珍しくなかったのですが、場所からいうと
(食物準備ステーションが近い)小麦粉かなんかでしょうか。



机の上に置かれているのはタイプライターと日付を押すためのハンコ・・。
エンジニアの「ログ・オフィス」とあります。



米海軍の機関科は「ABEとM」のセクションに分かれています。
それぞれが頭文字をとって、

A・・・ポンプ、エアコン、水の浄化設備、モーターボートを含む補助機械
B、M・ボイラーとメインエンジンの修理、補修、メインテナンス 
E・・・電気関係

このオフィスでそれら全てを統括します。 




ここには全ての設計図や補修記録などが集められており、
全ての記録は週、日、時間単位で更新されました。

たくさん日付スタンプがあるはそのためですね。 



構造物を構成する金属を鋳造したり溶接する『ブラックスミス』鍛治場です。
さすがのアメリカ人も、天井に大きく「整理整頓」と注意書きを貼り出してます。

そして

「EXPECT THE UNEXPECTED TO THINK SAFETY」
( 安全性を考えるためには予期せぬことを予想せよ)

と、まるで海自の護衛艦の中でもすぐに使えそうな
標語もデカデカと書かれており、これはよほど危険なんだろうと思われます。 



実際にここで作業をしている当時の写真がありました。
危険な職場なのに人多すぎ。



焼却炉は赤と黒にペイントされており、なんだか粋です。
いつも思うんですけど、自衛艦って、グレー以外を使っちゃいけないんでしょうか。





ナビゲーターオフィス。
安全な航海のためのナビゲーションを統括する場所で、航行時間から
到着予定を割り出したり、危険海域を特定したりします。

チャートのほか、六分儀やディバイダー、双眼鏡、ストップウォッチなど、
ナビゲーションに必要な道具が揃っています。
ちなみに後ろにはチャートの棚がありますが、「太平洋」「アトランティック」
などの一番下に、「ターゲット」「ジャパン」(見切れている)の文字が・・・。



ここはポストオフィス。郵便局です。



これが金庫と事務デスクの上のベッドで寝起きしていた人。
究極の職住一体です。



乗員は自分の住所をかかずとも、専用封筒が用意されているので、
それで手紙を送ることができました。
戦艦のシルエットと艦名がすなわち送り手の住所です。



上の階にあった「レーダーワークショップ」。
レーダーのメンテナンスや修理に必要な機器とスペアのパーツ、
そしてマニュアルがまとめて置いてあります。



艦内は床と階段に非常出口への印として線が引かれています。



ここ一帯が兵員用のバンク。
時化たら転がり落ちそうなベッドですね。
さすがに潜水艦と違ってスペースに余裕があります。




この部屋の一角に、なんと1945年当時の「命令」が貼られていました。
どれどれ。



 1945年4月19日付、WAR WATCH OFFICERへの通達。
”WarWatch"とは日の出から0800まで海を見張ることみたいです。



こちらの通達は ”In Port Routine"、港に入っている時の時間割。

まず0300に調理班に「ワッチ」(起床)がコールされます。
0530にportswain(見張り?)とラッパ吹きがワッチ、0545には下士官がワッチ、
0600には調理係とスチュワードたちが朝食。

0630に総員起こし、のち朝食とここまでは毎日一緒なのだと思いますが、
0805からは週末と平日で少しだけ違うようです。
たとえば土曜日の0915には上陸のための点検があったりとか。



リングやネジなどのパーツだけが集められている部屋。



1941年の9月23日1245に、「マサチューセッツ」が「ランチング」するので、
近隣の小さな船は波にご注意、という注意張り紙。
おそらく港各地に告知のために貼られていたものでしょう。

この「ランチング」というのは、主砲の実弾発射訓練のことでしょうか。



ロープの結び方がわかりやすく実物で説明されていました。
自衛隊で実演なんかあると覚えておくと便利かも、と思ってやってみますが、
使う機会がないので一向に覚えられません。



ここは”Warrant Officers' Mess" 、准士官食堂です。
アメリカ海軍の准士官は、士官以下下士官以上に位置し、
そのどちらにも属さない別個の階級であり、一等から五等までの
五段階に分けられており数字が大きい方が上位です。



現在のアメリカ海軍にはWarrant Officerの階級はなくなり、
Chief Warrant Officerとして残っています。

フネの上のヒエラルキーというのは軍艦だけのものではありません。
わたしは西海岸に来てからサンフランシスコの海事博物館で
帆船「バルクルーサ」を見学しましたが、彼女がアラスカでサケを獲っていた頃、
船首の魚臭い、潮のかかる寒くて狭いところには中国人のクルーが詰め込まれ、
毎日手でサケを捌く「汚れ仕事」をさせられていた一方、船尾には
天鵞絨張りの椅子とテーブルのダイニングルーム、バスタブ付きの洗面所があり、
そこでは白人の船長とその家族が生活している、という究極のヒエラルキー空間でした。



准士官は日本では1920年以降「特務士官」と名称変更されました。
ただし士官との身分差はかなり大きく差異化されていたため、
このような豪華なテーブルセッティングで食事をすることはなかったはずです。

アメリカ海軍では准士官はその知識と高い専門性を持ったスペシャリストとして
大変尊敬され、従って専門の食堂とスチュワードを持ち、個室も与えられていました。



その簡単な食事の用意をするためのキッチン。
専用スチュワードと准士官の専用区とはコールボタンでつながっており、
呼ばれるとすぐに駆けつけるシステムになっていました。



当時の「マサチューセッツ」ウォーラント・オフィサー・メスで
軍服を着た准士官たちが食事をしているところを撮った貴重な写真。

洋の東西、時代を問わず、ベテランのたたき上げ士官たちは、
いかにも実務専門集団らしい硬派な雰囲気が漂っているものだと思います。


続く。


 


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