平成28年度富士総合火力演習、前段演習もクライマックスに差し掛かりました。
クライマックスといっても、始まってすぐに特化火砲の富士山だったりするので、
観客は最初からもう盛り上がりっぱなしなわけですが。
続いては89式装甲戦闘車の登場です。
前にも取り上げましたが、この通称「FV」は最初「IFV」といって、
歩兵を意味する「infantry」の「I」に「ファイティングビークル」
が付いているというものだったのですが、「歩兵」がよろしくないというので、
わざわざ外してしまったという経緯があります。
「歩兵がダメでなぜ戦闘はいいのか」と決めた人たちに聞いてみたくなりますね。
こういった防衛省の「自主規制」には、首を傾げてしまうことが多いですが、
その中でもこれは最も不思議な配慮であると思います。
歩兵を運ぶから歩兵戦闘車なんじゃなかったの?
さて、このFVは二種類の火器を搭載していて敵の装甲車を撃破するほか、
今回初めて知ったのですが、車体横に見える特徴的なボールマウントは
銃眼(ガンポート)になっており、中の歩兵がここから小銃を撃つことができるのです。
この丸いの、前々からなんだろうと思ってたんですよねー。
ちなみに使わないときには蓋をしてありますが、その下には
銃口を出す穴と覗き窓が備えてあるんだとか。
次にヘリ火力が展示を行いました。
対戦車ヘリコプターAH-1Sコブラが対戦車ミサイル「トウ」を撃ちます。
はて、「トウ」ってもしかしたら「TO」かなとおもったら
Tube‐launched, Optically‐tracked, Wire‐guided
(発射筒で発射され、光学的に追跡され、有線で誘導される)
でした。
今回は残念ながらこんな写真しか撮れませんでした。
そこで去年の写真を出してくるのだった。
コブラは撃ったらすぐ離脱(もちろん命中)。
いわゆる「ファイヤアンドフォーゲット」撃ちっ放し式ではないので、
着弾を見届けてから逃げないといけないようです。
続いてアパッチ・ロングボウ、AH64-Dの射撃です。
運用からもう20年経っているのですが、これが陸自的には最新鋭となります。
一緒にやってきたOH-6たんは観測係。
アパッチと一緒にいるのを見るとより一層萌えるわ〜。
戦闘ヘリなので、対戦車ミサイルヘルファイア、ロケット弾、
空対空ミサイルを積むことができます。
今撃っているのは固定武装である30mm機関砲。
薬莢が下にバラバラと落ちていっているのが写っています。
なんでヘルファイアとか撃たないんだろう。もしかしたら高い?
30ミリ機関砲を撃っているところって、写真的にはあまり面白くないのよね。
せいぜいアップしてこれが確認できるくらいでした。
87式自走高射機関砲、通称87AW。
常に後ろのアンテナをくるくる回しているので初心者にも見分けやすい武器です。
このレーダーで敵航空機を感知し、局所防空を行います。
足回りは74式戦車と同じものを使っているそうです。
発射直後、写真のように煙が三方向に噴き出すんですね。
砲身は細く、航空機を狙うので「ばんざい」できるように2門両側にあります。
狙うのは他の火器と同じように地表の目標なのですが、
いちど飛翔体を狙って撃ってほしいなあ。たとえば使い捨てのドローンとか。
そしていよいよ戦車の登場です。
まずは74式戦車から。
74式は必ずこうやって稜線から射撃を行いますが、
これは、油着圧式懸架(サスペンション)装置を備えていて、
坂道でも安定して射撃できるという機能を見せるためです。
日本の山地の多い地形を考慮した作りになっているんですね。
「見ている方にはなんということのない傾斜だけど、
中の人はほとんど上を向いている状態なんですよ」
と隣の人がこのとき話していました。
乗ったことあるのか。
また、射撃ですが、まわりの撮りさんたちは、
「74は撮りにくい。なんの合図もなくいきなり撃つから」
といっていました。
2台同時に発射するのですが、戦車同士インカムで合図をしあうらしく、
見ている方にはまったくそのタイミングが測れません。
あと、まわりのオタ情報によると(笑)74式は離脱のとき、
全速力のバックで帰って行ったわけですが、74式の操縦席って
なんと後ろが見えないらしいんですね。
まあバックミラーついてるわけじゃないですからね。
何を頼りにしているかというと車長の指示だそうで、これは
「かなりすごいこと」なんだそうです。
90式は2種類の異なる弾薬、徹甲弾と対戦車榴弾を撃ちます。
二段構えで打つことで急に眼前に現れたどんな敵にも対応できるのですが、
その弾種を判断するのは車長。
その判断にすぐさま対応するのが射手などのメンバーで、
チームワークとかなりの練度を必要とする撃ち方だそうです。
90式戦車も砲が目標を自動追尾するシステムなので、
走行しながら射撃を行うことができます。
90式は一発徹甲弾を撃ったあと「止まれー!」で急停止しますが、
そのときにはこのように後輪が浮き上がるくらいです。
続いてヒトマル式戦車の入場です。
気のせいか会場が興奮マックスに。
この日までに行われた予行ではヒトマルが撃たなかったという噂もあり、
てっきり去年の履帯ハズレ事故のせいかと心配したのですが、
今日はもう平常通り展示を行うようです。
10式戦車小隊も同じ失敗を2度と起こさないような覚悟で臨んでいるでしょう。
10式の最も大きな強みは、ネットワークシステムで情報を互いに
共有して射撃の統制などを瞬時に行えるということでしょう。
写真は前進していた10式が不意に敵に遭遇し蛇行射撃を行っている、
という設定。
蛇行射撃2発目。
わたしにとっても会心の一撃でした(笑)
戦車の砲撃音が朝一番(6時半)に響くと、周りの人が一斉に
一瞬首を縮めてびくっとします。
2射、3射、しばらくの間は毎回同じような反応なのですが、
不思議なことにこのころになってくると皆慣れてきて、
最初の頃のような「体を思わず屈める」動きをしなくなります。
わたしは最初からずっと耳栓をしていましたからあまり変わりませんでしたが、
人間の耳ってこんな音にも慣れてしまうものなんだなと感心した次第です。
下半分と上半分が全く別。
下がクネクネしているのに砲はピタリと敵の方向に止まったまま。
これはきもい(笑)
これは、2射したあとバックして
「2班、止まれ!」
で急停止したところ。
このあと背面後進射撃といって、砲だけを後ろに向けて撃ちます。
地面についたキャタピラの蛇行跡をご覧ください。
このあとはものすごいスピードで一直線に退場していきました。
10式、いつ見てもいろんな意味で日本らしい戦車だなあと思います。
27日、そして本番の28日は行われませんでしたが、この日だけ
普通の降下がありました。
ただし・・・・・遠〜〜い!(笑)
降下地点も遥か向こうのほうだし、まるで傘が豆粒のよう。
これはせっかく降下を行う空挺隊員さんにとってもやりがいがないというか。
落下位置を操作しにくい普通の降下だと、総火演の会場は狭すぎるんでしょうか。
続いてはフリーフォール、自由降下です。
こちらは高高度から自由落下する、難易度が高い降下で、
これをするには資格を取らなくてはいけません。
資格を持っている隊員は胸に「FF」のマークがあります。
この日はチヌークの姿は見えませんでしたが、雲間から傘が降りてきました。
しかし、27日と本番の28日には曇天のため中止になったようです。
28日のストリームは、降下までのチヌークの中の様子を放映しており、
降下する隊員がどのようなことをしているかがわかるようになっていましたが、
隊長らしき隊員が皆に声をかけ、各自がバディの装備を点検して、その後
親指を立てて準備完了の合図。
その後、席に座って待機する隊員の顔はあきらかに緊張が見られ、
何度降下しても直前はこうなるのだなと思って見ていたら、
映像で隊員がチヌークの後部に移動したところでいきなりアナウンスが。
「本日は雲が厚く上空から着地地点が確認できないため中止します」
・・・・・・。
もしかしたらライブ映像じゃなかったってことがばれた瞬間?
フリーフォールの降下では普通の降下のように地表で
一回転したりして衝撃を逃す必要がないのかもしれません。
全員が軽々と二本足で地面に降り立ちます。
一人が降りるとその度に観客が盛大な拍手を送ります。
こんな中何かにつまづくなどの理由で転んでしまったら
おそらく立ち上がれないだろうなあ。(精神的に)
降りる方向はともかく、降下のスピードはコントロールできないようです。
この隊員さんをアップにしてみるとよくわかるのですが、両手に握られている
赤でトリミングされたハンドルで傘の端を引っ張ってコントロールするようです。
自由降下の場合、カラビナを飛行機に固着させて、飛び降りると同時に
開傘するという方法でなく、自由落下ののち自分で傘を広げます。
右肩にある赤いのが開傘するためのレバーだと思われます。
地表に降りたら傘をたたむ仕事。
あの空挺隊員の中でも選りすぐりの精鋭が、空気を抜くために
パラシュートと戯れる姿はなかなか微笑ましいものがあります。
おまけ*
28日の本番で、落下傘降下が中止になったと聞いた時の稲田大臣。
海自迷彩の河野統幕長と武居海幕長もおられます。
稲田大臣の右側は就任したばかりの岡部陸幕長でしょうか。
全員がはっはっはそりゃ仕方ないですなあ、と苦笑いしてます。
大臣の後ろ4人(5人?)は全員SP(セキュリティポリス)ですが、
大臣が女性なのでここに稀少な女性SPの姿を見ることができます。
SPになるには
身長173cm以上、柔道又は剣道3段以上、拳銃射撃上級、英会話ができ、
さらに3ヶ月間の特殊な訓練で選抜された者。
逮捕術、格闘術、射撃技能、強靭な体力、精神力が求められる。
パトカーの運転テクニック、同僚との協調性、自制心、自己管理能力、
法令遵守の精神、VIPを接遇する礼儀作法、そして極限状態では
人間の盾となり受傷、最悪の場合は殉職する自己犠牲の精神、
すなわち人間性が問われる職種である。
そのため、警察官の中でもそれらの条件に該当した者のみが任命される。
だそうですが、女性だからといってこの条件が緩和されるわけではないので、
女性SPは全体の5%しかいないそうです。
さて、それはともかく、これをもちまして前段演習は終わりです。
続く。