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搭乗員の小鳥〜「桃太郎 海の神兵」

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一日で紹介するつもりが結構長くなって自分でも驚いていますが、
昭和20年公開の国策アニメ、「桃太郎 空の神兵」についてです。

手塚治虫は、勤労動員の休日であった封切り初日に大阪松竹座でこの作品を観ました。
(手塚は北野高校を卒業して戦時に医師を増員するために作られた
大阪帝大の専門部に入学が決まったところだった)
そして、

海軍の意図した戦意高揚の演出中に隠された希望や平和への願いを解し、
甚く感動し涙を流した(wiki)

とのちに語ったそうです。
因縁をつけるわけではありませんが、これだとまるで製作者は
戦意高揚のアニメを心ならずも作らされており、海軍が気づいたら
話を変えさせかねない平和思想をこっそり仕込んだような言い方です。


それでは、海軍は希望や平和への願いというものが表された部分に
作品完成後に行われた検閲の際気がつかなかったとでも言うのでしょうか。
そんなことはありますまい。

軍のチェックでダメ出しをされた部分を作りなおしたため、この映画は
公開予定を大幅に遅れることとなりましたが、ダメ出しされた部分は

「軍機に触れる部分、および残酷すぎる描写」

だったといいます。

軍機に触れる部分は当たり前として、「これは残酷すぎる」と
(おそらく敵兵を殺戮するシーン)をカットさせたのが軍だった、
ということに留意していただきたいと思います。

国策映画と悪の権化のようにいいますが、わたしがここでよく言うように、
戦時中に作られたすべての戦争映画は、決してガンガン敵を殺してスカッとする、
といった方向性でドラマが作られているのではなく、傾向としては
国を守るために莞爾として死地に赴く覚悟を讃えるというものであり、
戦争によって失われる命の尊さと戦った末不慮の死を迎える悲劇、
逆説のようですが、平和の希求というテーマにおいて、戦後の戦争映画と
なんら変わることはないと思うのです。

つまり手塚治虫は戦争映画の「原点」をこのアニメに見たということになります。
手塚がいつか自分の手でこのようなアニメを作りたい、と思ったのは
他ならぬこの映画を見たことがきっかけでした。

この映画が生んだのは手塚治虫という漫画の神様であり、とりもなおさず
いまや世界に独自の位置を占める手塚以降の日本のアニメでもあるのです。 

さて、本日の冒頭画像は、おそらく手塚が「涙した」のではと想像される
「喪失」をテーマにした部分です。



早朝、哨戒に出撃する搭乗員が身支度をしながら
自室を出て来ます。
隊長機の援護のとき、搭乗機にペットの鳥カゴを積んで飛んだ搭乗員です。



鳥かごに手を入れて指に止まらせた小鳥に餌をやるため、
飛行手袋を口にくわえてはずすシーン。



この眼差しと丁寧な仕草に、愛情がこもっています。



哨戒機のクルーに呼ばれ、彼は点呼のために走っていきます。
哨戒機隊長は猿鳥雉トリオの雉ですね。



隊長に敬礼をする搭乗員。
この間にも地上員が搭乗機のエナーシャを回しています。

「◯◯兵曹以下2名、偵察機フタマルサン号機搭乗!
敵地上空を偵察に参ります!」

雉川というのは勝手にわたしが便宜上つけた名前ですが、ここで
彼の名前と階級が明らかになります。
動物たちの声優は全員が小学生くらいの子供なので、どうしても
滑舌が悪く聞き取れない部分がけっこうあるのです。

 

「よし、鬼ヶ島上空、敵の警戒は厳重の模様である!
十分気をつけて行ってこい!」

 

棒剣術の訓練の休憩中だったものたちが偵察機を見送ります。

「おーい、しっかりやってきてよお〜!」



哨戒機が水平線の彼方に消えたあとの基地では、
前日、地上員たちが飛行機にかぶせた偽装のための布が風に揺れ、
波の音だけが響く静かな静かな一日が始まります。



そんなのどかな光の中、歩哨が銃剣を構えてゆっくりと歩いています。

 

彼の構える銃剣の先が、足取りに合わせて動く様子が表現されます。
なんと、映画のように後ろに見張り塔が現れるとフォーカスがかかります。



皆が銃剣術(棒術?)の訓練の続きを行っています。
くまモンは面を外し、滝のような汗を拭きながら

「暑いー、ああ暑い、暑いなあ」

なんの意図で挟まれたかいまいちわからないシーンです。
「ディア・ハンター」の病院のシーンで、何度見てもなんのために
挟まれたかわからない、スタッフがものを落とすシーンみたいなもの?

 

通信兵たちも全員がうさぎ。
通信音と「もしもし」などと答える声、通信文がやりとりされる喧騒のなか、
通信員たちは慌ただしく走り回っています。



「ハイルヒトラー」をしているのではなく、敬礼のあと、
なおれをするときに必ずこのように手をまっすぐ伸ばしているのです。

哨戒機からの連絡がない、という報告にひとこと「よし」
と答え、目を伏せて海図を凝視する桃太郎隊長。



不可解シーンまたもや。
滝のように汗を流しながら

「ああ〜、ああ〜暑い、ああ〜 ああ、ああ、ああ」




基地がにわかに慌ただしくなりました。
哨戒機が帰投してきたのです。



帰ってくる機を見つめる隊長。
その飛行機は・・・



片翼でした。
皆様は片翼飛行で帰還した樫村少尉の話をご存知でしょうか。

「片翼帰還の樫村」樫村寛一少尉


この映像には、奇跡的に片翼のまま600キロを飛んで帰ってきた
樫村機の飛行映像が残されています。
このニュース映像のアニメーション解説?によると、体当たりを敢行して
その結果翼がもぎ取られたように報じられていますが、実際は
避けきれずに翼を破損したのだろうと今日では言われています。

樫村寛一はこの奇跡的帰還で国民的英雄になり、
左翼が破損した96戦闘機は終戦時まで保存展示されていました。

しかし、それから6年後の昭和18年3月、南方に出撃した樫村兵曹長は
ソロモン諸島のルッセル島上空でF4Fと交戦し戦死しています。

このシーンで哨戒機が樫村機と同じ左翼を破損した状態で帰ってきたのは
明らかに樫村少尉(戦死後昇進)へのオマージュであると思われます。


さて、滑走路を外れながらなんとか着地した哨戒機には
地上員たちが駆け寄り、サイレンが響き渡ります。 



ここでなぜかあの搭乗員の小鳥が・・・・。
とくれば、映画的展開から行って嫌な予感しかしません。



隊長に帰投報告をする隊員は二人です。

「気をつけ〜!  なおれッ!
◯◯兵曹(どうしても聞き取れない)以下2名、偵察機フタマルサン号機搭乗!
鬼ヶ島偵察しただいま帰りました!
基地上空において地上砲撃により」



「一名戦死しました。 以上!」



「よし、ご苦労」



桃太郎隊長は表情すら動かさず、淡々としています。
搭乗員は報告後走って搭乗機の前まで行き、唯一感情を表す動作として、
機長が同僚の肩に手をかけて、二人で機体を見つめます。



彼らの視線の先にはさっきまで生きていた戦友が乗っていたコクピットが。



そして穿たれた穴からは、死んだ搭乗員の航空時計がぶらさがって揺れていました。



早速現像室では航空写真の現像が始まりました。



無言で写真を合成していく通信兵たち。
彼らが自らの命をかけて偵察してきた敵基地の全容が
これで明らかになったのです。

偵察搭乗員の命を引き換えにして得た敵地上空の写真。
これらを解析し、いよいよ出撃が行われることとなりました。

 

出撃に際し、桃太郎隊長の訓示が行われます。
隊長が敬礼をし皆を見回す様子が時間をかけて描かれます。



翻る旭日旗。
この映画の制作スタッフが心血を注いだアニメ的表現の一つに
「旗の靡く様子」があったといわれています。
これも、戦地で没収したディズニー映画「ファンタジア」の技術に
大いに影響を受けている部分でもあります。

 

部隊は猿、犬の小隊による降下部隊が主流を占めます。
雉はパイロットであることが多いようだし、熊は希少種なのか
部隊を組むほど人員?がいないようです。



「いよいよ我々の待ちに待った作戦は、明朝を期して火蓋を切ることになった。 
皆もすでに覚悟はできていることと思う。
我が海軍落下傘部隊の長い間、秘密のうちに黙々と鍛えた
訓練の成果を初めて表す時が来た。

お前たちはこの長い間、両親や兄弟には訓練のこはを語ることができず、
苦しいことであったと思う。
明日こそ我々は最後の一兵となるまで敵陣に突撃するのだ。
皆覚悟はできているか!?」


「はいっ!!」

この返事の時、全員の肩がわずかに上がり、
「はい」と同時に手を下に向かって伸ばす動きまでが描かれます。

「ようし!今夜は我々の最後の夜となった。
攻撃隊出発は明朝4時!以上!」



攻撃隊出撃に備えて基地は一丸となってその準備を行います。
搭乗員の飲み物には瓶入りのサイダー。

梅干し一つの日の丸弁当、そしてチョコレートが用意されます。



通信員と整備員はうさぎです。(この世界では)
翼に給油が終了。



慎重にバルブを回して空気圧を調整。



降下部隊の兵たちは、粛々と落下傘を畳む作業を行います。
索を一本一本慎重に重ね、束ねたものを切れる糸で縛り、
傘を丁寧に折りたたんで背嚢に収納していく過程が描かれます。

そして、それを背負った隊員たち一人一人を隊長がチェック。
「ヨシ!」と声をかけていきます。



そして出撃をまつ払暁の一瞬の静けさ。



優雅な仕草で手袋を外す隊長。
出撃のその時に向けて最後の休憩を取るのでしょうか。

続く。

 


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