「桃太郎 海の神兵」、最終回です。
帝国海軍挺進部隊は、蘭印作戦におけるメナドの戦いで、
セレベス島メナド、じゃなくて鬼ヶ島大江山に侵攻し、
日本軍が初めて行った空挺強襲作戦は成功を見ました。
司令部の建物からは連合国兵じゃなくて・・・もういいか。
兵がわらわらと逃げ出してきます。
一応彼らには鬼の角らしきものが付いているのがご愛嬌。
トランプに興じていたらしく、慌しく逃げ惑う足下に散らばるカード。
スペードのキングが画面に大きく映りこむとき、
彼らが砲撃にやられて
「ぎゃああああ」
と叫ぶ音声が被せられます。
次々と投降してくる連合国兵士たち。
彼らの動きは一様に手足がゆらゆらして、まるで昆布のようです。
野戦においても突撃をうけ、壕から白旗を上げてでてきます。
いくら外人でもお腹に刺青を入れる人はあまりいないと思うがどうか。
敵から多くの武器を鹵獲することができました。
さて、オーエヤマ司令部では、交渉が開始されました。
ということは、桃太郎隊長は、空挺部隊の司令でありながら、
山下奉文将軍のような軍司令官でもあったということになります。
ところが、この「鬼の司令官」の言い分によると、
「自分は全軍の司令官ではないので無条件降伏には応じられない」
鬼ヶ島の指揮権はオーエヤマ提督にあり、自分は限られた範囲での
指揮権しか持っていない、というわけです。
会談が続く間、参謀が必死で本をめくって何かを調べています。
桃太郎の参謀は雉。
水兵服を着ていたけど実は士官だったのか。
それとも全く別の雉?
オーエヤマ総督は2、3日前に飛行機でどこかにいったというので、
貴官を全権と認めるがよいか、と迫る桃太郎隊長、いや司令。
よく見ると左に猿野、その後ろに熊が。
やっぱりみんな将校だったのね。それとも別の(略)
ところがこのおじさん、「そう言われても困る」とあくまでもごねます。
ちなみにこのとき彼は英語で
”Oh, oh, oh, it mean a difficult position."
と言っております。
「わたしの責任は陸軍用飛行場と鬼ヶ島と近辺の軍事施設と、
鬼ヶ島の要塞地帯と併映と鬼が湖とこの飛行場に限られている」
限られているって、それ、ここ一帯ほとんどってことやないかい!
とにかく指揮権が全部ではないことをぐだぐだ強弁する司令官。
ついに桃太郎司令がここで一喝、
「イエスかノーか!」
・・・・いやちがいました。
「それなら我が軍は総攻撃を開始する!」
シンガポール攻略においての山下奉文中将の「イエスかノーか」は
象徴的に持ち上げられ、戦意鼓舞に使われたりしましたが、本人は
「簡潔にイエスかノーかだけ言ってくれ」
と言ったにすぎないとあとで語ったそうです。
山下はこの交渉前日、乃木大将とステッセルの会話を思い出し、
敗軍の将をいたわる様子を想像してうっとりしたりしていたのですが、
現実にはあまりにも日本側の通訳が要領を得ず、さらにはパーシヴァルが
あまりにもいろいろいうものだから、ついこう言ってしまったそうです。
しかし、桃太郎司令は激しく机を叩きながら言っております。
ご存知のように山下奉文は終戦後連合軍によって処刑され、
その死刑には米軍の計らいで英軍のパーシヴァルが立ち会いました。
桃太郎司令が戦後、同じ運命を辿っていないことを祈るばかりです。
実はこのときのパーシヴァルは、連合軍の食料弾薬が底をつきかけており、
後がなく後がなく降伏するしかなかったという状況でした。
ヒソヒソと鳩首協議する司令と幕僚を恫喝するように、
日本軍が司令部に向かって砲弾を放ち、テーブルに土塊が散らばり、
彼らは完全にビビリモードに。
猿野(あれ?いつの間に鉢巻を・・別の猿かな)は記録係。
犬養ワン吉も隣におります。
「それでは返事は今夜10時までにということで・・」
時間稼ぎをしてなんとか打開策を練ろうというのか。
「10時までとは何事か。
本官はすぐに降伏だけに応じる!
すぐに全軍に総攻撃を命ずる!」
「わかったから総攻撃だけは中止していただきたい」
「それでは全面降伏するか、戦闘を続けるか、
ただこれだけだ!」
あーこれ、やっぱり山下大将を意識してますね。
イエスかノーか、とまで言わなかったのは、これが海軍の協賛だから・・・
でしょう。たぶん。
あっさりしたことに、鬼ヶ島軍の司令が全面降伏するというと、
軍のシーンはそこで終わってしまいます。
そして一転、猿雉犬熊の故郷へと。
故郷出身の海軍兵士が、遠い異国で今どんな戦いを成し遂げたか
夢にも知らず、子供たちが無邪気に遊んでおります。
いや、三人がうつ伏せになった上を跳躍して回転するというのは
遊びではなく、確かこれは降下兵の訓練・・・・。
遊びにしては彼らの様子は真剣そのもの。
跳躍の際「えい!」「やあ!」と気合を入れ、
横に立つ子供は「次!」「次!」と、まるで軍隊です。
それに続いて、今度は木にハシゴをかけて登り、飛び降りるなど、
これはどうみても訓練そのもの。
彼らは、彼らの兄や知り合いのお兄さんたちが落下傘降下を行う
部隊にいたことすら、全く知らされていなかったはずなのに・・・。
飛越しは怖くて直前で止めてしまった猿野の弟、三太ですが、
「早くこいよ!」と言われて思い切って跳躍を成し遂げます。
・・・ところで、この地面に描かれている白い線って、
アメリカ大陸・・・・・?
うーん・・・。
これは、この映画製作時の昭和20年初頭、
日本がアメリカ本土を攻撃するその日のために、猿野の弟たち、
つまり未来降下兵たちが戦いに備えているという暗示でよろしいのでしょうか?
海軍では実際にも終戦間際に「剣号作戦」というマリアナ諸島の米軍基地に対する
エアボーン攻撃計画が立てられたことがありますが、使用予定の航空機が
アメリカ軍機動部隊の空襲で破壊されたため延期となり、
発動直前に終戦の日を迎えて中止となったということがありました。
そしてメナド侵攻を行った横須賀鎮守府第一特別陸戦隊、つまり
桃太郎を隊長とする空挺部隊ですが、その後改編で少なくなった残りの隊員は
サイパンで訓練を行いながら待機を命じられていました。
昭和19年6月15日、アメリカ軍の上陸を迎えることになった彼らは、
海軍地上部隊の最精鋭として陸軍部隊とともに上陸初日、
夜間総攻撃に参加しましたが、翌朝までにほぼ全滅したということです。
この映画が製作されたとき、スタッフはともかく海軍報道部は、
もちろんのこと挺進部隊の全滅を知っていたはずです。
「陸軍にお株を奪われた海軍落下傘部隊の宣伝」
と最初はわたしが考えていたこの映画の製作意図ですが、
もしかしたら、彼らへの慰霊と顕彰が込められていたのかもしれません。
駆けていく仲間の後を追う三太の後ろ姿で映画は終わります。
この映画は今年2016年の5月、カンヌ映画祭に出品されています。
最近の低迷を表すようにコンペティション部門には
エントリーすることすらなかった日本映画界ですが、
溝口健二監督の「雨月物語」とともに、「カンヌクラシックス」
という古い映画週間で上映されたというのです。
その際のタイトルですが、本日の冒頭画像にも入れたように
「MOMOTARO, SACRED SAILORS」(桃太郎、聖なる水兵たち)
とされました。
「空の神兵」という元ネタからのこの経緯を知っているものには
なんとなく本質と違ったタイトルに思えてしまいますが・・・。
のちの日本のアニメ界に大きな影響を与えた、この戦時中の
「国策映画」を、世界の映画人たちはカンヌでどう観たのでしょうか。
終