「海の神兵」というタイトルはなんというか自然すぎて、
意味を考えぬまま納得してしまいそうになりますが、
これは明らかに「空の神兵」へのカウンターという意味合いを持ちます。
「空の神兵」といえば陸軍、それでは、とその向こうを張って
我が海軍の落下傘部隊を「海の神兵」と命名したのでしょう。
しかしこの名称も、「空の神兵」の知名度あってこそだったわけで、
海軍としてはさぞかし忸怩たるものがあったのではないかと察します。
さて、海軍落下傘部隊、「海の神兵」が降下を行うところからです。
空中に落下傘の花が次々と開いていきます。
この時に流れる音楽は、ハープの導入で始まるストリングスの優雅な音楽。
美しい調べに乗って一つづつ、まるで花のように開いていく落下傘。
適切な表現ではないかもしれませんが、実に優雅で美しいシーンです。
熊も無事に傘が開きました。
次々と地上に降下していく白い傘。
ちなみにこのとき、実際は横須賀第1特別陸戦隊(横一特、司令官:堀内豊秋中佐)
の落下傘兵334名がメナドのランゴアン飛行場へ空挺降下しています。
降下するなり索の根元を持って傘を引っ張り、すぐさま離脱。
猿野も無事に降下を果たしました。
彼らの目的はこれから敵陣に切り込むことであって、降下は手段にすぎません。
地上に立つことができたら、もう落下傘は地面に捨てて戦闘開始です。
桃太郎隊長が体を起こす頃には。敵がこれを迎え撃つ銃声が聞こえ始めていました。
このときの海軍の降下作戦では兵員の損害はほとんどありませんでした。
いよいよ海軍落下傘部隊が侵攻を始めました。
なんども言いますが、降下は手段にすぎません。
かれらにはこれから敵陣に武器で斬り込むという大事な使命があります。
ちなみに彼らの集合地点の目印はもちろん旭日旗でした。
銃声の切れ目になると体を起こし、突撃。
落下傘で落とされた武器の周りに身を伏せながらたちまち集まる兵たち。
これはアルミ製の円筒形の物料コンテナ30kg用で、サイズは107×36cm。
識別用に赤い帯を巻いており、専用の傘で降下させました。
ケースを開けて緩衝材の綿を取り去ると、口径50mm八九式弾薬筒が現れました。
それを取り上げ、走っていく降下兵たち。
これらの動作は一切セリフなしでで行われ、戦後のアニメのように
むだに「いくぞ!」などと声を掛け合ったりしません。
実際もおそらくはそうだったのでしょう。
ちなみに実際のメナド作戦では、八九式重擲弾筒は
分解した状態で投下されたのですが、回収できなかったので、
次のクーパン作戦では降下の際帯同されました。
ガチャガチャと金属音だけを響かせ、無言で装備を身にまといます。
ポケットがたくさんついている帯のようなものは、
日本軍落下傘部隊
という、ゴードン・L・ロトマンと滝沢彰共著のミリタリーシリーズで
(イラストはピーター・デニス)確認することができました。
これは三八式騎兵銃の布製弾帯で、小囊が17個連なったものを、
猿野がやっているように2本交差するように肩からかけて使用しました。
この本には装備を実際に身につけている日本兵の写真がありますが、
日系二世が扮しているのだと断り書きがあります。
他にも細部、たとえば帽垂れ(鉄兜から垂れる結び紐を兼ねたもの)は
小さな穴が開けられていることまで詳しく説明されています。
これによると、海軍では降下の際専用の「降下作業衣」と呼ばれる
ジャンプ・スモックを着用しており、これは吊索が装備品に絡まるのを防ぎ、
同時に樹上降下の際身体を保護する役割がありました。
適材適所、体の大きなくまモンが運ぶのは・・?
実際には八九式弾薬筒(4・5㎏)が降下作戦の際投下した
一番大きな火器だったのですが、それにしては大きいですね。
銃砲を組み立て、攻撃に入ります。
これは九二式重機関銃。
このとき、銃声に合わせて射手の顔の筋肉が細かく震える様子まで
ちゃんと表現されています。
たかが黎明期のアニメと思っていたら、この再現力に驚嘆させられるでしょう。
ただし、実際のメナド降下の際には九二式ではなく、
九九式軽機関銃が使用されました。
そして重砲撃。
海軍挺進隊の重砲装備は94式37mm速射砲だったそうですが、
砲身の形から見てこれではない気がします。
メナド、クーパンでは重火器は使用されなかったという記録もあります。
銃剣を持って突撃していますが、これが三八式騎兵銃。
三十年式銃剣が取り付けられています。
彼らは匍匐しながら前進し、敵砲撃の合間に突進を繰り返します。
桃太郎隊長が抜刀して突撃。
ちなみに士官は軍刀を携行して落下しましたが、これは
降下時には短いコードで吊り下げられるような専用の
離脱式ストラップが付けられていたようです。
なんとここで重量級のくまモンが敵壕に死角から忍び寄り、
重砲を横からむんずと引き抜くという荒技を。
それ普通無理だろう。
あとは銃を構えた降下兵たちが敵陣に雪崩を打って突入するだけ。
さて、連合軍、じゃなくて鬼ヶ島軍は装甲車で脱出を図ります。
ちなみに彼らは英語を喋っております。
ところが沿道で敵を撃たんと待ち構えている帝国海軍の斥候兵。
もはやどれが主人公の猿野かわかりません(笑)
敵の車が近づく気配に、あるものは手榴弾を握り直し、別の者は
腰の短刀を静かに抜いて備えます。
敵の行く手にまず数人が走り出て、手榴弾でタイヤを爆破し、
車を走行不能に。
こっからがすごいんですよ。
外側からハッチを開けるなり、無言で短刀を中に向かって振り下ろす猿。
ついコマ割りでアップしてしまいました(笑)
ナイフはいとも易くオランダ兵、じゃなくて鬼ヶ島兵の胸に突き刺さります。
この映画を最初にご紹介したとき、映画完成後の海軍による検閲では
「残酷なシーンが全部カットされた」
とあることをふと思い出しました。
今基準で言ったら、可愛らしいキャラクターがナイフで人間の胸を突き刺すなど、
それ自体がもうアウトなわけですが(笑)、この部分が問題がなくて、海軍的に
残酷とされたシーンには、いったいどんな残虐行為が描かれていたのでしょうか。
抵抗する術もなく殺されていく敵兵たち。(-人-)ナムー
今日われわれは、日の丸をつけた飛行機を撃墜して呵呵大笑する
ミッキーマウスのアニメを観てドンビキするわけですが、
やはり当方も同じようなことをやっておったわけです。
ただ、向こうではこれに加えて人種差別の要素を盛り込んだりしてます。
やっぱりというか、ポパイもバックスバニーもこんなことに・・・
POPEYE the SAILOR in "Your a Sap Mr. Jap
Popeye The Sailor 113 - Scrap the Japs [BANNED]
Banned Cartoons Japs--Bugs Bunny - Tokio Jokio - 1943 - B&W
やっぱりこいつら、日本と中国の違いが全く分かっておらん(怒)
まあなんだ、戦争するというのはこういうことなんですよね。
向こうは日本と違ってお金があるからさらにやりたい放題。
悲しいことにこの手のアニメは嫌になる程探せば見つかります。
ポパイがほうれん草を食べて力をつけてから、日本の軍艦を
まるで缶切りのようにオープナーで切ってしまう、というのは
なんとなく見ていて楽しいですけど(笑)
ただ、あちらのこの手の表現は、人種差別と侮蔑的表現がベースになっていて、
当のわれわれが見るとその不快感には拭いがたいものがあります。
まだこちらの戦闘行為を描いただけの表現の方がマシだと考えるのは
わたしが日本人だからでしょうか。
ちなみに、ドナルドダックも落下傘部隊に所属していた模様。
World war 2 in cartoon: Donald Duck Sky Trooper (1943)
続く。