カリフォルニアのナパバレーは今や世界でも有名なワインの産地です。
同地域には600ものワイナリーがひしめいており、中には
ブランドとしてその地位を確立したワイナリーもあります。
その筆頭がオーパスワンだと思うのですが、わたし自身はお酒が飲めず、
従ってこのワインの価値も味も全くわかりません。
にもかかわらず、パロアルトから車を飛ばして2時間弱、
わざわざオーパスワンのワイナリーに行くことになりました。
なんでも日本から休暇で来ていたTOが(ちなみにこの人も下戸)
お遣い物&職場のお祝い事のためにまとまった数必要だということで、
観光かたがた買い物をして美味しいランチでも食べようということになったのです。
ナパに行くには、サンマテオブリッジを渡ってオークランドを北上するか、
ベイブリッジを渡って行くか(GGブリッジはさすがに遠回り)です。
ベイブリッジは乗るまでが混むのですが、一度くらいは走ろうと思い
あえて混んだ道を選択していきました。
架け替えが終わり、橋上のライトなどの構造物も整っています。
まっすぐな蛸の足みたいなのは照明です。
ベイブリッジはサンフランシスコから出るときには無料ですが、
入るときに料金を支払う仕組みです。
昔は全て手動だったので、週末の夕方など大変な渋滞になりましたが、
改装後は自動支払いのゲートも増え、合流地点に渋滞時だけ信号をつけて
車の流れを制限することで少しでも緩和しているようです。
オークランドからひたすら北上すると、ソノマ・ナパといった
ワイン地帯があたりに広がってきます。
ここでのワイン作りは1500年代にスペイン人によって始まり、
決して歴史が浅いというわけではありません。
ここで初めてワインのためのブドウ畑を作ったのはやっぱりというか、
聖職者で、スペイン系の神父でした。
1800年代半ばにゴールドラッシュが起こり、人々が流入しますが、
このときにフランスから入植した者が苗木を持ち込んだりして、
ブドウの種類も豊富になってきます。
1906年の地震と禁酒法はこの地域のワイン業者に打撃を与えました。
地震ではほとんどのワイナリーが壊滅状態になりましたし、禁酒法時代は
ブドウジュースを売ったり、例外だった聖礼典用の酒を作ったりして
なんとか生き延びた業者もあったということです。
オーパス・ワンは1978年に誕生したと言いますから、まだ若いブランドです。
しかも二つのワイナリー(シャトー・ムートン・ロートシルトのロッチルト男爵 と
ロバート・モンダヴィ)の間でボルドー風のブレンドをつくる合弁事業として立ち上げられました。
幹線である一本道に門が面していますが、そこからは
まっすぐワイン畑の中を建物まで長い一本道が通っています。
この神々しい?というか権威ありげな敷居の高さこそが、オーパス・ワンです。
正面に掲げられたフランス国旗とアメリカ国旗。
これはロバート・モンダヴィと、フィリップ・ド・ロチルト(ロートシルト)
男爵の国をあらわすものです。
ド・ロチルト男爵がアメリカのワインに「ロートシルト」の血を入れたことで、
ナパワインは急激に格が上がったということだそうです。
こういうところは意図的に敷居の高さを演出するものですが、
敷居ではなくて天井が高い分ドアが高い。
ドアを入るとここが受付。
今時アメリカにこんな人が生息しているのか、と思うくらい、
小洒落た髭を生やした紳士(絵に描いたような執事風)と、
髪をポンパドール風に綺麗に結い上げた上品な老婦人がいて、
購入窓口となる別の部屋に行くようにと指示をしてくれます。
その部屋がこちらでございます。
ここではワインを紙コップではありますがテイスティングすることができます。
年代ものなどもあるわけですから、やっぱりね。
飲まないわたしにはオーパス・ワンの価値など猫に小判ですが、
いわゆる普通の「オーバーチュア」(序曲)というものであれば
1本が115ドル。
我が家は何年か前にも、日本からワイン通の人を案内してきているのですが、
その時には1本が80ドルといった値段だったそうです。
ここでこんな値段でも、日本のレストランでは5万円くらいになるとか。
アメリカでもワインリストをチェックしてみたら500ドルといった感じでした。
ワイン購入は転売を防ぐためか、一人あたり6本しか買えません。
1本410ドルの2005年は一人1本、360ドルの2010年は3本まで。
TOは木箱入で6本を日本に送ったようです。
ここのカウンターで働いているのは、これもどこから
こんな人たちを集めてくるんだろうというような美男美女ばかり。
やっぱりイメージって大切ですね。
ここを訪れてできることというのは「ワインの試飲と購入」だけで
ミュージアムやお土産屋や、レストランなど全くありません。
しかし、屋上のスペースは眺めもいいので、ぜひ立ち寄ってください、
とお店の人に勧められます。
米仏両国旗のすぐ裏側がテラスになっています。
建物の威容をこうやって眺められるのもここからだけ。
というわけで、立ち寄った客は必ず一度はここにやってきます。
試飲でもらった紙コップを手に、続きと洒落込む人もいます。
広がるワイン畑にはこのようなものが立っていましたが、
これはスプリンクラーでしょうか。
10年前に初めて来た時から通算3〜4回ここに来ていますが、
いつ来ても隅々まで磨き上げられたように美しいのがこのテラス。
格子のラティスが、日の光を幾何学的に遮って、影を作ります。
ナパ地方の太陽は強烈で、日向だとテラスなどに出られたものではありませんが、
これなら少しはましです。(もちろん長居は不可能ですが)
国旗の下からラティス越しに広がる前庭と道。
畑の向こう側に道沿いに走るワイントレインが見えました。
ワイントレインは、ナパ・バレーをランチやディナーをいただきながら
時速30キロの速さでのんびり巡る人気の列車です。
1915~1917年製の車両を完全復元したレトロ調の車両に乗って、
ナパ市とセントヘレナを3時間かけて往復するのです。
車内ではダイニングで料理を食べ、もちろんワインを楽しむこともできます。
WINE TRAIN
景色を眺めるだけのわたしたちは、写真を撮るとすぐ車に向かいました。
車を停めるスペースのすぐ横がもうすでに畑です。
ブドウがいたるところたわわに実っていました。
格の高いワイナリーのオーセンティックで高貴な佇まいを
堪能したわたしたちがそこで見たのは・・・。
おい(笑)
もう、どこにいってもゲンナリさせられるのが中国人。
どこにいっても中国人がいないことはないのですが、せっかくの
ワイナリーの雰囲気をその佇まいですでにぶち壊してくれるのです。
この一団は、ギャーギャー騒ぐ子供たち連れで、しかも全員が
バックパックにジーンズと運動靴、という歩きやすい(笑)格好。
いや、バックパックでもジーンズでもいいんですよ。それなりなら。
でもなんかはっきり言ってむちゃくちゃ違和感があるわけ。
似合ってないわけ。もっというと雰囲気だいなしなわけ。
写真を撮っているのか何をしているのかわからないけど、
あぜ道に入り込んでしかも座り込むか・・・・。
わたしたち以上にアメリカ人、こういうところに来る白人系アメリカ人は
そう思っているらしく、屋上のテラスでテーブルについて試飲のワインを
飲みながら話をしていたカップルは、彼らがやってくると、
露骨に嫌な顔をして反対側に移動していました。
ここは転売屋が爆買いできないので、それでもましなはずなんですけどね。
さて、用事が済んでこの地域のおすすめをカード会社に予約してもらい、
ランチを食べに行くことにしました。
道路沿いにある「ブリックス」というカリフォルニア料理の店です。
奥にあるシカのツノみたいなのはブドウの木です。
予約してもらって現地に行くと、前に来たことがある店なのに気付きました。
このドアもきっとワインと関係あるんだろうな。
大変暑い日だったのですが、外のテーブルにしてもらいました。
レストランの庭はそのものがブドウ畑の中にあります。
金髪の愛想のいいハンサムなウェイターのおすすめを頂いてみました。
スープはそこそこでしたが、えびの乗ったピザは絶品でした。
気候が乾燥して日差しが強いので、カリフォルニアでもこのあたりは
日本のガーデナー垂涎の植物がやすやすと育ちます。
なかでもラベンダーは産地でもあります。
食事をしながら庭を眺めていると、遠くにあるバードバスに
赤い頭の鳥さんがいることに気付きました。
House Finch、日本名メキシコマシコです。
ぷるぷると可愛らしい仕草で水浴びをしていると、
他の鳥(ヒタキの類)が二羽やってきました。
暑いのを我慢して外で食べた甲斐がありました。
デザートは味そのものよりも見た目重視。
添えてあるバラなどの花びらも食べられました。
あたりまですが、バラの花はバラの味がします。
そこで一句。
「薔薇の花が薔薇の味する何事の不思議なけれど」(by白秋)
デザートの頃、驚くほど近くをワイントレインがゆっくり通過しました。
おそらく汽車のダイニングでも、乗客がデザートを楽しんでいる頃です。
ワインを一滴も飲まずに、ワイナリーを満喫した1日でした。