夏前に読者の方々と「頭上の敵機」について会話していたところ、
鷲さんからこの「タスキーギ・エアメン」のことを聞き、
興味を持ってさっそくこの黒人ばかりの飛行部隊を描いた映画を二本取り寄せました。
ところが、この二本が二本とも、輸入版で、リージョンの関係でうちでは
携帯用の小さなプレイヤーでしか見ることができないのが判明。
せっかくの航空隊モノなのに、それはいかがなものか、と思い、
今回こちらで観るためにアメリカに持ってきました。
・・・・・どちらもこっちで買えばよかったですね。
日系アメリカ人ばかりの陸軍部隊、442についてはかつて何度も記事にしたのですが、
陸軍部隊にはほかに「バッファロー大隊」という、これも黒人ばかりの部隊がありました。
バッファロー大隊は、実のところ日系部隊ほどではなかった、という話もありますが、
こちらの第332戦闘機隊は、優秀な黒人青年を集め、アラバマ州タスキーギで試験を行い、
その合格者からなる飛行部隊だったので、精強であったという評価があります。
しかし、日系部隊については知っていても、この黒人飛行隊については知らない日本人は多く、
関心も持たれないので、ウィキペディアでもタスキーギ・エアメンを説明する日本語はありませんし、
なによりこの二本の映画が日本では公開されず、またDVDも発売されていません。
この映画をわざわざ輸入して観る日本人はよほどの
アメリカ空軍好き
プラモ好き
飛行機好き
歴史好き
モノ好き
のどれかではないかという気がします。
というわけで、どちらかというと後者二つにあてはまるエリス中尉、
「レッドテイルズ」と「タスキーギ・エアメン」をわざわざ取り寄せて観ました。
観る前は、2012年に公開されたジョージ・ルーカス総指揮の「レッドテイルズ」の方に
どちらかというと期待していたのですが、両者見比べると、この1996年制作、
HBO(アメリカの映画チャンネル)制作の「タスキーギ・エアメン」、悪くありません。
いやむしろわたしは、映像的にも一段劣る「タスキーギ」の方に軍配を上げます。
というわけで、こちらの映画を語りながら「タスキーギ・エアメン」のことをお話することにします。
黒人映画監督のスパイク・リーは、かつてクリント・イーストウッド監督作品の
「父親たちの星条旗」を批判しました。
その理由は「黒人兵が一人も出ていない」。
現代ものの映画には、必ず一定数黒人を出演させること、と決まっている(らしい)
アメリカの映画界ですが、こういうことを決めなければいけないというのも、
ともすれば制作側は黒人抜きで画面を作りたがる傾向にあったからということです。
こちらでTVショーを観ていると、ホームドラマやコメディで「黒人しか出てこない」
というものが時々あります。
白人が主人公の映画にも黒人が無理無理投入されている構図に対し、こちらは
「この世界には黒人しかいないという設定なのだろうか」
と勘繰りたくなるくらい、何から何までが黒人で占められているのです。
こういうのがあるのだから、白人だけのがあってもいいのではないか、という気もするのですが、
たぶんそういうことじゃないんでしょうね。
そのうち、中国系がいろいろとキャスティングに介入するようになってきたとしたら、
「ハリウッド映画っていったい何?」
状態になるとおもうのですが、これは心配し過ぎというものでしょうか。
とにかく、アフリカ系の団体がいかに権利を主張しようと、
黒人ばかりの映画では観客が呼べないというのもまたアメリカでの現実なのです。
ですから、ルーカスがこの題材を取り上げたということは黒人社会の大きな希望であり、
第332部隊のことを世に知らしめる意味でも、大きな期待が寄せられたようです。
実際はどうであったかということを述べる前に、HBOの「タスキーギ」から始めます。
ありがちなトップシーン(笑)
少年時代、飛行機に憧れる主人公のハンニバル。
彼は長じて、タスキーギ大学で行われた
「黒人でも飛行士になれるか」という試験に合格し、
アメリカ空軍の飛行部隊に赴任します。
これは近所の御婦人。
こちら、美人の母上。
彼らの様子をみてもわかるように、この試験を受けることができること自体、
黒人でも裕福な家庭の子息であるということで。さらに、優秀であったのですから
当然ながら家庭もまたインテリです。
主人公ハンニバルの出身はアイオワ。
そこからタスキーギのあるアラバマまで汽車の旅が始まります。
途中で乗り込んできた陽気な青年は自分を「Aトレインと呼んでくれ」と自己紹介。
これは、パール・ハーバーで、というか、「チームアメリカ」で、
「ベンアフラックには演技学校が必要だが、かれにはもっといい役が必要だ」
と言われていた、あのキューバ・グッディング・Jr.。
キューバは、約20年後制作のもう一つの映画「レッドテイルズ」にも出演していて、
こちらでは大出世。
少佐としてタスキーギの小隊長になって居ります。
しかし、こうして比べても全く歳を取っていない気がするんだが。
そもそも黒人さんて、年齢がわかりませんよね。
続いて乗ってきた、無口な伊達男、ウォルター。
タスキーギにつくなり檄を飛ばされる青年たち。
全員、びしい!とかっこいいスーツにコートできめています。
全員が「いいお家の出身」ですからこれも当然ですね。
右の奥にいるのがこの部隊の「一番偉い人」、ロジャーズ大佐。
右が二番目に偉いジョイ少佐。
黒人部隊の上に立つのは白人将校でした。
この構図は、日系部隊でも同じでしたね。
しょっぱなから「いつ帰ってもいいんだからな!」とねじを巻かれるハンニバル。
そして練習飛行が始まります。
最初は二枚羽の複葉機でスタート。
ところが、さっそく仲間の一人がストールして教官とともに練習中殉職。
ところで、この字幕、酷いでしょう・・・(-_-)
NOSUPって、ノーズアップのことなんですよ。
一事が万事この調子なので、まったくあてになりませんでした。
死んだ同期生の荷物を事務的に片付けに来る黒人兵。
早速起こった仲間の事故死に、落ち込むおデブのキャピー。
練習生たちもショックを隠せません。
動揺する練習生たちを叱咤する教官。
練習過程はバイプレインを卒業です。
「貴様らが次に乗るのはA-T6である」
あらまあこれは最近当ブログ的に話題になっていたテキサンではありませぬか。
つまり初等から高等練習機に進んだってことですね。
ところが、初めて戦闘機に乗ってテンパったウォルター、
何を思ったかはしゃいで基地上空を勝手に低空飛行し、それを咎められ、
候補生から追放処分になってしまいます。
白人の上司から沙汰を言い渡され、部下を守ってやれなかった隊長、一言
「すまなんだ」
死刑宣告を涙を流しながら聞くウォルター。
なら最初から規則を守れっつうの。
それを聞いたウォルターは、上官が止めるのを振り切って滑走路の機に飛び乗ってしまいます。
最後の上昇に法悦の表情のウォルター。
息をのんで見守るハンニバル。
このあと、ウォルターは機を反転させ、地面に激突させて死んでしまいます。
飛行士官になれないのなら、元の「ただの黒人」に戻るなら、
飛行機と一緒にこの人生を終わらせてしまう。
この極端な行動の意味を理解するには、彼ら黒人たちが当時置かれていた
社会的地位のあまりに低かったことから考えねばならないでしょう。
この時にこのジョイ少佐が言ったのが
「Crazy nigger・・・・・」(あほ黒人・・・・・)←意訳
ウォルターの処分を軽くするために大佐にとりなそうとした、
その少佐ですら、こうです。
公民権運動が起こるまで「白人専用シート」「白人専用水飲み場」
なんていうのが普通にあったのがアメリカですからね。
「黒人ならではの差別と彼らがいかに戦ったか」という描写は、
それがいわば主題ですからどちらの映画にもあります。
「レッドテイルズ」では、士官専用のバーに入ったタスキーギの中尉が
「出て行けニガー」と言われて相手を殴って大騒ぎになるも、後半では、
護衛した爆撃機のクルーから同じバーに誘われて感謝されつつ仲良く一杯、
という風に、比較的さらっと軽く描かれていたのですが、
この映画ではこんなシーンがありました。
(・・・・・と、何でもかんでもネタばらししてしまいますが、そもそもこの映画、
もう20年近く前の映画でありながら日本でもDVDが出る気配がないので、
別にいいですよね?
レッドテイルズの方は、もしかしたら出る可能性もあるので、控えめにします)
飛行中、キャピーの機の調子が悪くなったので、適当な場所に不時着。
そこでは、白人の保安官が監督して黒人の囚人に野外作業をさせていました。
何をしていたのかは、わかりませんが、草刈り?
そこに着陸した空軍の飛行機。
颯爽、といった態で降りてきたのパイロットたちの背中を見つめる一同。
ふりむけば・・・・・・あら、皆さんと同じ黒人さんではありませんか。
「ニガーのパイロットなのか」
と思わず口走る白人の保安官。
飛行機が降りてくるときに囚人の群れを追い立てたりしただけに、ショックです。
その言葉に顔をゆがめるキャピー。
しかし、某然といった態で彼らを打ち眺める囚人たちは・・・・
「有色人種の飛行士だ・・・・・・・」(”Colored flyer・・・・”)
目に涙を浮かべてうっとりと呟く一人の囚人。
さて、彼らが訓練課程を終え、終了のセレモニーが行われます。
家族がずらりと見守る中、バッジの授与が行われるのです。
それにしても、家族の皆さん、男性はリュウとしたコートにハット、
女性陣は皆毛皮などをあしらったゴーヂャスなお洋服をお召しです。
アフリカ系アメリカ人の中にこのような上流階級は
この時代にも存在したということを必要以上に強調しています。
とても優秀な成績で(というか皆優秀だったらしいですが)課程を修了した
ハンニバル。
ちなみにかれは仲間からは「アイオワ」と呼ばれていました。
アメリカは広大なので、ときどき出身州が珍しいと、それがあだ名になるようです。
CSI:NYで、女性捜査官のリンジーが「モンタナ」と呼ばれていましたね。
ただし、「ニューヨーク」とか「カリフォルニア」「マサチューセッツ」などは
あまりそういう対象にならないようです。
つまりあだ名になるのは「”ど”のつく田舎であること」が条件らしい。
このストーリーは勿論事実がベースになっていますが、
実際の生存者から話を聞いた「レッドテイルズ」と同じように、
この「タスキーギ・エアメン」も、実際の人物、実際の逸話が挿入されています。
この、アンドレ・ブラウヒャー演じるのが、実在した黒人初の☆☆☆☆空将、
ベンジャミン・O・デイビス・Jr.。
かっこよろしゅうございますなあ。小さくてわかりませんが。
それから、これも実話でもうひとつ。
お偉いさんがみな総出でお迎えしている、この女性はだあれ?
はい、あのエレノア・ルーズベルト。
ファーストレディであるルーズベルト大統領夫人にあらせられます。
おばちゃん、ノリノリで
「カラードのパイロットがいるそうですね」
「はあ、あれはそのあのもごもご」
「ちゃんとわかるように言ったんさい」
「よくやっています」
「今日は飛行機に乗ってみたいわ」
「それなら今から乗る飛行機を用意させ・・・」
「そこの彼の操縦がいいわ」
すたすたと歩いて、ハンニバルのところに。
「こんにちはお若いかた。
今日は飛行機に乗るにはもってこいのいい天気ですこと」
てなことをいいつつ、飛行機に乗り込みます。
苦虫を噛み潰したような将校たちの表情(笑)
はい、笑ってくださーい。パチリ。
実際にはエレノア・ルーズベルトは、タスキーギの指導員である
アルフレッド・アンダーソンの操縦するwacoバイプレーンに30分乗り、
降りてから陽気に
"Well, you can fly all right."
と声をかけたということです。
「あら、ちゃんと飛べるじゃないの」ってとこですか。
だとしたらずいぶん見くびった発言じゃありませんかマダム。
アンダーソンはもうそのときには飛行歴は12年のベテランだったというのにですよ。
まあ、ともかく、ここでは美談チックにまとめられております。
全体的に、当然かもしれませんが、空戦シーンはレッドテイルズとは比べ物になりません。
右は、文字通り「レッド・テイルズ」塗装がされてからの機体。
左は・・・・P-51CマスタングでOK?
タスキーギはエアコブラ、カーチスウォーホークと使用機を変えましたが、
最終的にはこのマスタングを「レッドテイル」塗装していました。
敵からも味方からも識別されやすかったということです。
尾翼を赤に塗り、それが彼らのトレードマークになったのですね。
映画「レッドテイルズ」では、掩護される爆撃機のクルーが
そちらから近づいてきて友好を温めるとなっていますが、
こちらは、少し複雑です。
彼らが歩いていると、爆撃機クルーに呼び止められます。
「この間掩護してくれたパイロットにお礼を言いたいんだが・・・」
「そりゃどーも」
「いや、じゃなくて、そのパイロット、どこにいるか聞いてんだけど」
「あんたの目の前にいるしw」
「ぬあにー!」
「黒人に掩護されてたなんて、わろす」
「チョームカつく」
そんなことを言って、礼も言わずその場を後にした爆撃クルーですが、
次のベルリン爆撃で、タスキーギの実力を思い知ることになります。
爆撃機を守りきり、自分がやられるAトレイン。
墜落していくAトレインの掩護機を、涙を浮かべて見る爆撃機パイロット。
そしてその次のブリーフィング。
掩護部隊の変更を告げる爆撃隊の隊長に、彼らは思わず
「待ってください!僕らの掩護は変えないでください・・・
もし全く元の通りにしていただけるのなら、あのカラードの部隊に・・・」
そしてこれだけ戦果を上げました。
めでたしめでたし。
この映画にはところどころ、実写のフィルムが挿入されています。
タスキーギ・エアメン、レッドテイルズの勇姿。
何か皆かっこいいというか、男前が多いですね。
そしてこれ。
驚いたのですが、第332部隊は、援護した爆撃機を一機も失わなかった。
60人以上の戦死者、殉職者をだし、多くのメダルに輝いた332部隊、
通称レッドテイルズは、掛け値なしにアメリカの精鋭飛行隊だったのです。
ところで、この感動の史実に水を差すようですが、ルーカスが総指揮をしたにもかかわらず、
「レッドテイルズ」、興業的には全く振るわなかったようです。
歴代興行収入のランクには200位にも入っていませんでしたし、そもそも、
日本にも来なかったくらいですから、おそらくアメリカ国内の公開だけで終わってしまったのでしょう。
「黒人ばかりの映画は絶対に成功しない」
という予想そのままであったわけですが、ルーカスは、もしこれが成功したら、
三部作にして、「レッドテイルズ以前」「その後のレッドテイルズ」とするつもりだったようです。
どの辺をもって「成功」と判断するのかはわかりませんが、いまのところ三部作になる可能性は
あまりないような気もしないでもありません。
レッドテイルズは、確かに映像は素晴らしいのですが、話にあまり深みがないというか、
単純すぎるというか。
主人公の一人が飛行中に見かけたイタリア娘のところに押しかけて行って、
まったく言葉が通じないのにすることだけはして、アイラブユーも辞書を引きながらってレベルなのに
結婚しようとするんですね。
一緒に紙飛行機作って飛ばして、こういうのを「死亡フラグ」っていうのよね、と思いながら観ていたら
案の定最後は死んでしまう(あ、言っちゃった)みたいな。
あまりにもありがちな(コンバットにありそうな使い古された現地の娘との恋)ストーリーを
要にしてしまっているもので、子細に見なければ、こちらの方が古い映画だと
思ってしまうくらいなのです。
このあたりの甘さがちょっとなあ、という気がします。
というか、「タスキーギ」のローレンス・フィッシュバーンがいろいろと良すぎるんですよね。
「あんなごつい顔」なのに、見ていると役柄そのままに、だんだん繊細で優美にすら見えてくる、
実に不思議な俳優だと思います。
ルーカスはサミュエル・J・ジャクソンにオファーして断られています。
タスキーギのフィッシュバーンのような存在感が欲しかったのでしょう。
ルーカスは、いっそフィッシュバーンを使って三部作に挑戦してみてはどうでしょうか。
前作から20年経っていますが、なに、黒人は歳がわからないから、きっと大丈夫。(←適当)
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「タスキーギ・エアメン」と「レッド・テイルズ」
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