東日本大震災の伴う福島第一原発の原子力事故と最前線で戦った、
陸自中央特殊武器防護隊の隊長であり、化学学校副校長の
岩熊真司一佐が直々にこの日のレクチャーを行いました。
一佐は事前にこの日研修に参加した人々の名簿を見てこられたらしく、
「住所を見ると大変遠くから来られた方もいて、感激しております」
とこの日大宮までやってきた参加者に感謝の意を述べられ、
そのことがまたわたしたちを感激させたのでした。
福一の事故が起こった時、チェルノブイリやスリーマイル島と同等の
規模の災害になるかのように報道され、また今でもそんなイメージで
捉えている人もいるかもしれません。
岩熊一佐の講義は、事故発災直後からの陸自が行なった活動の説明を終わり、
「原子力事故全般」
についての説明に移りました。
これは、原子力発電にいたずらに忌避感を持っている人たちにもぜひ聞いて欲しいものでした。
まず、福島第一とチェルノブイリ事故との比較。
この数字を見れば両者の性質が全く違う性質のものであることがわかります。
そもそもメルトダウンと原子炉爆発が根本的に違っていたわけですね。
小さい頃、
「雨に当たると放射能のせいで禿げる」
などと言われたことのある人はいませんか?
実家にある父所蔵の漫画、ちばてつやの「ハリスの旋風」には、
弟が雨の中走っていく兄を心配して
「にいちゃんハゲなきゃいいけど・・・」
と禿げた主人公石田国松を想像するシーンがあります(笑)
あれは中国の核実験の影響だったのですね。
ってかすごい数値ではないですか!
でもそれなりに雨水にも数値が出ているが?と心配する人のために。
放射能が体に及ぼす影響をグラフにしております。
緊急作業を行う際、0.1シーベルトを限度にしているということですが、実際は
その2倍半の数値でも臨床的には症状は現れないということになります。
確実に危険というのが黄色が赤になっているゾーンで、
4シーベルトからは
半数致死線量(60日)造血障害死
7シーベルトからは
全数致死線量(60日)腸障害死
で、ここからが確実に死に至る線量です。
左上赤に白抜きの JCO、 A氏とB氏の被曝量というのは、
東海村JCO臨界事故の被害者のことです。
これは核燃料を加工中に、ウラン溶液が臨界状態に達し核分裂連鎖反応が発生。
これにより、至近距離で中性子線を浴びた作業員3名中、2名が死亡、
1名が重症となった他、667名の被曝者を出した事故です。
全て一人の人物の損傷の変化を事故発生から3ヶ月に亘り撮影したもので、
左から9月30日、10月10日、11月10日、12月20日、1月4日の撮影。
11月10日には皮膚の70%が剥がれ落ちたため、1月4日には
顔面にも皮膚移植を行いましたが、DNAの損傷により皮膚再生能力は失われていました。
「恐ろしいのは被曝した直後は身体的になんの損傷もなかったことです」
汚染地域にあって作業をする隊員たちの防護、作業後の除染は
徹底的に行われました。
事故発災後、原子力事故であるJOCの被害者の写真などが出回ったり、また
危機感を煽るような無責任なネット言論に振り回された人も多かったことと思います。
陸自でこの時任務に当たった隊員たちの健康状態についてはは、おそらくその後も
追跡調査が行われていることと思うのですが、6年経った今日、
隊長は彼らに健康被害は全く現れていない、と言い切りました。
わたしなどそれを帰ってから人に話したところ
「今はなんともないかもしれないけどね」(意味深)
と言われたわけですが、ガンの発生率と放射線量の相関性について、
このような表を今回見せていただき別の考えを持ちました。
ホルミシス効果というのは
大きな量(高線量)では有害な電離放射線が小さな量(低線量)では
生物活性を刺激したり、あるいは以後の高線量照射に対しての
抵抗性をもたらす適応応答を起こす仮説
で、これを活用したものにラドン温泉というのがあります。
ホルミシス効果を考慮した結果、赤の点線はガンの発生率を下げているわけですね。
してその因果関係が明らかになるのは100ミリシーベルトより上、となります。
100ミリシーベルトは0.1シーベルトであり、しかも放射線は
瞬間に受けてもこのレベルでは影響がないことがわかっていますので、
毎時シーベルト(mSv/h)
という形で人体への被曝量を表すことがあります。
25 μ(マイクロ)Sv/h の被曝を2時間にわたって受けると、
被曝量は 50 μSv = 0.05 mSv = 0.00005 Sv
毎時 400 ミリシーベルト (400 mSv/h) の被曝を15分間受けると、
被曝量は 100 mSv (ミリシーベルト) = 0.1 Sv
毎時10シーベルト(10 Sv/h)の被曝を30分受けると、
被曝量は5 Sv = 5,000 mSv = 5,000,000 μSv
などと表すのです。
そこで、発ガン性と被曝量の相対リスクという表をご覧ください。
毎日三合以上の飲酒をする方、喫煙、肥満、運動不足、辛い物好き、
野菜が嫌いな方は、つまり発がんリスクがこれだけあるということになり、
毎日タバコを吸っている人が放射能放射能と騒ぐのは滑稽ではないか、
ちうことでもあるのではないかと考えさせられますね。
ただし、タバコを吸っていたとしても発がんリスクは1.6倍、
これを1.6倍も高くなると考えるのか2倍にも満たないと考えるかは
もはや医学というより生き方の問題という気もしてきます(笑)
さて、というところでレクチャーは終わりました。
つまり、原子力事故に最前線で取り組んだ指揮官自身から
あの事故は最低ではあったが最悪には至らなかったということ、
陸自化学部隊は発生後の混乱を最低に抑え速やかな収束に寄与したこと、
そして、除染を徹底すれば、放射能そのものをむやみに怖れる必要がないということを、
直接聞くことができたのです。
レクチャー後は外に出てまず装備の見学を行いました。
なかなか盛りだくさんな見学です。
まずは除染車。
除染3型といい、地域・施設・人員などが化学物質や放射性物質によって
汚染された場合に、汚染物質を取り除く「除染」を行う装備です。
東日本大震災でも大活躍したものだと思われます。
実際に除染をする様子を見せていただきました。
まず向こうの方に向かって合図を送りますと・・・・
なんと、車体の下から車の前方に向かって水が噴き出してきました。
散布装置は車体前部だけでなく側面にも設置されています。
車体後部から出ている約15mのホースで散布することも可。
トラックのタンク容量は2500Lです。
こちらが散布車全体像。
隊員は防護服を着用して乗車し、散布銃を携行して車両タンク部の荷台から散布したり、
停車時の除染車自体への除染を行ったりします。
散布車後部。両側に見えるのはホースのリールってことでよろしいでしょうか。
このようなハンディな除染ノズルもあります。
人員を除染するためのシャワー室のような除染装置。
ハンディノズルで散布の様子を見せていただきました。
その時ふと駐屯地の柵の外に、隊員クラブ「はなの舞」を発見。
外に出ることなく一杯やれる隊員さんたちの飲み屋さんでしょうか。
先日フェリーの中で陸自隊員がお酒を飲んで騒いだと他の乗客から指摘があり、
自衛隊が謝罪するというしょぼい話がありましたが、
自衛官だってお酒を飲んで騒ぎたい時があるわけで・・・。
このクラブなら思いっきり飲んで歌っても大丈夫!に違いありません。
我々のために装備をこのように用意して見せてくれているわけです。
いやありがたい。
これは NBC警報器で、
N=放射能 B=生物剤 C=有毒化学剤
を検知し、警報を発することによって現地に投入される部隊に防備を促します。
警報が鳴るような有害物質も用意されていて、画面が真っ赤になるのを見せてくれました。
なんと画面ではN警報を感知しているぞ!
さて、続いてはこちら。
観閲式で遠くを走っているのをよく見る
NBC偵察車
を今回は間近で見学することができました。
乗員が外気に触れることなく、外側の状況を検査することができる装備で、
化学科に3台配備されています。
中から外の物質を採取するためのマニピュレーターを付けることは
ご予算の関係から見送られたそうですが(T_T)その代わり、
内部から検知するためのノズルつき棒が出てきて、例えば放射砲汚染されていたら
『ATOM』と書かれたおもり付きの三角の旗を地面にポトっと落とします。
中からはゴム手袋のようなもので操作しているように見えました。
サービスで?「ガス」という旗も落としてくれました。
外の石などを検体として採取するためのハサミも見えています。
説明してくれた隊員さん。
NBC偵察車は今後50台まで調達することが決まっています。
見学は二手に分かれて行いました。
半分のグループが散水車の説明を受けています。
この後、全員で移動を行いました。
「移動中の撮影はご遠慮ください」
わたしはうっかりしていてカメラのメモリーに空きがなくなってしまったので、
ここから先の写真は皆スマホで撮りました。
格納庫のような建物に到着すると、中にはフライングエッグや戦車などがあります。
除染をするための練習用に、お役目が終わった装備をここに集めてあるのでした。
化学科の訓練では、ここで戦車にジャバー!ヘリにプシュー!車両にドバー!と
除染用の水やら液体やらをかけているというわけです。
みんなは戦車の前で記念写真を撮ったりしていました。(冒頭)
退役した装備としてはこの第二の人生はなかなかいいものではないかという気がします。
続く。