Quantcast
Channel: ネイビーブルーに恋をして
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2815

第一線救護衛生員の資格拡大と駆け付け警護のこと

$
0
0

さて、陸自衛生学校における第一線救護衛生員の実戦シミュレーションが
いよいよ始まることになりました。

写真は状況開始にあたり、定位置でまずポーズを決めるコンバットメディック。
この人ちょっとかっこよすぎませんか。

シミュレーションはこの二人(二人とも救護資格を有するCM)が
戦闘中爆風で負傷した部隊の仲間を救出するという設定です。

いきなり暗いところで想定が始まってしまったので、プログラムオートでは
画像がボケボケになってしまいましたがご了承ください。


後ろのスクリーンで戦闘が始まり、銃声が鳴り響きました。
映像は真ん中のモニター室のコンピュータから操作されています。

不鮮明なのでよくわかりませんが、ここが日本でないことは確かです。

スクリーン前に走ってきて、派手に一回転するコンバットメディック資格を持った衛生科隊員。
モードを切り替える前に戦闘が始まってしまったため、こんな写真しか撮れず残念です。

あっという間に負傷して倒れていた戦友を引きずってきました。

コンバット・メディック二人による遮蔽物の陰での応急処置が始まります。

あ、脚から血が、血が出てるう〜〜〜!

あとで案内の自衛官が、

「本日の写真はソーシャルメディアで宣伝していただいて構いませんが、
動画を撮られた方は、youtubeなどへのアップはご遠慮ください。
血が流れたりしているのを観て気分が悪くなる人がいるかもしれません」

最後の一行は明らかにそれ本当の理由と違うだろと思いましたが、
まあ自衛隊としてはそう言うしかありませんよね。

体温低下を防ぐため、体をシートで巻き、顔面を負傷しているので、
呼吸停止にならないように気道確保をまず行います。

あとで器具を見せてもらいましたが、アレルギーの人が持っている
エピペンみたいな針の飛び出す仕組みのものでした。

二人は負傷者に絶えず、

「大丈夫か!」「しっかりしろ!」

などの声をかけつつテキパキと手当を行なっています。

「傷は浅いぞ!しっかりしろ」

と言っていたかどうかは記憶にありません。
映画だとどんな重傷でもこう言ってますが。

そこになぜか部屋の隅から白煙まで噴き出してきました!!

訓練、しかも日常的に行う訓練にもかかわらず、どうしてここまでやるのかというと、
実際の状況に近い条件での訓練を繰り返すことにこそ意味があるからで、
音響、映像、発煙、照明などの効果も、少しでもリアルに近づけるためです。

特に外科医でもない限り、人体から多量に噴き出す血に動揺しない人間はいません。
そこで、実際に赤い液体を噴き出す模型人形を使うということをするのです。

一連の手当が終わり、シミュレーションをした隊員が追加説明をしてくれました。
彼が手に持っている止血帯は、隊員全てが標準装備しているもので、
手当の際にはまず本人の体からそれを外して使用するのだそうです。

片足を飛ばされたモジュールは実にリアル。
これも実際の負傷を目の当たりにして、

「キャー、血いい!ほ、骨が見えてるうう!うえええ」

などとパニックを起こさないように(そんな奴いないか)
できるだけ本物に近い模型で慣れることを目的としているのだと思われます。

追加説明を行う隊員さんは二人のうちの一人でした。
救護のために持っている装備を見せてくれ、質問に答えています。

わたしが

「状況開始してから負傷者が出るまで何をしてるんですか」

と質問すると

「わたしは小隊の隊長ですので・・・」

とそこでふと言葉を切ったので、

「戦闘行動ですか」

「そうです」

そ、そうだったのかー!

って、前回も書きましたが、専門の衛生部隊として待機しているのではなく、
あくまでも彼らは応急処置の資格を持ったソルジャーだと言うことになります。

 

手当をするときにも放さず持っていた銃。
近くでまじまじと見てもわからなかったのですが、本物だそうです。

まあ自衛隊なんだしわざわざ偽物を使う理由もないか。

戦い済んで日が暮れて。
先ほど手当してもらった負傷者は、次の訓練のために包帯を外され、
床にまたぞんざいに転がされております。

ちなみに、この人は実際の人体と同じ重さで6〜70キロあるということでしたが、
何人かの人が試しにもたせてもらったところ、全員が

「お、重い・・・」

意識のない人体を引きずって運ぶのですから、メディックも大変な力が要ります。

 

質問タイムに

「もし戦場で手脚が飛ばされるような負傷をしていた場合、
後々のことを考えてそれを持って帰るんですか」

と聞いている人がいました。

それについてはすでに想定済みらしく、

「できる限りそうすることになっています」

という答えがありました。

帰り際、

「やっぱり日頃から体力トレーニングやってらっしゃるんですか」

と聞いてみました。
さらりと「はい」と答えながらヘルメットを外したところを一枚。

状況開始前のポーズといい、この立ち姿といい・・・イケてます。

さっきレクを受けた部屋はもともと「野戦救護所」を想定した部屋です。
わたしたちが模擬訓練を見ている間に、部屋は椅子が片付けられ、
野戦ベッドが二台ならぶ平常モードに戻っていました。

ここにもシムマン3G(トムとかなんとか呼んでたけど忘れた)が二体。

せっかくなのでご尊顔アップ。

シムマン3Gは「レールダル」というノルウェーの会社の製品なので、
どうしても風貌が北欧仕様になってしまうようです。

「時間があったらこちらも見学していただきたかったのですが」

と説明してくださった隊員さん。
先ほどのシミュレーションを見せてくれた方とは同期だそうです。

 

 

わたしは今回ここで行われている第一線救命衛生士の訓練について、
全く予備知識なく現地に赴き見学をすることになったのですが、
これが「駆け付け警護」、そして「宿営地の共同防護」という
自衛隊新任務の実施にあたり反映されたものだったことがわかりました。


駆け付け警護については今更ですがあらためて説明しておきますと、
在留邦人のいる海外の地において、NGO及びPKOの職員から要請を受けた時、
自衛隊がその保護に当たることができるという法案です。

この法案制定に至る経緯はと言いますと、東ティモールやザイールなどで
市内で暴徒による大規模な暴動の発生や、NGOの車両への難民による
襲撃などの不測の事態が発生したことを受け、当時現地に派遣されていた自衛隊が
邦人から保護を要請されたことに端を発します。

しかしながら、当時自衛隊は海外での法律上の任務や権限が限定されており、
したがって保護に当たるための十分な訓練を受けてもいませんでした。

自衛隊が近くにいて助ける能力があるにもかかわらず、
人命救助を行うための対応ですら限定的なものにならざるを得なかったのです。

そこでPKO法改正によって自衛隊が救助を行うために必要な権限をきちんと追加し、
それに備えた十分な訓練を行うことができるようにしたわけです。

今回見学した訓練は、さらにその先、つまり任務遂行上戦闘行為に突入したことを
想定した上で、自衛官の命を失わないための取り組みの一環ということになります。

 


もちろんですが、駆け付け警護については反対意見もあります。
左側の人たちがよくいうのは

「戦闘に巻き込まれて自衛官の命に危険がある」

しかし現役の自衛官本人が

「あの人たちから命の心配をしてもらえる日が来るとは思わなかった」

と言っていたように(笑)これは単に反対のための耳障りのいい理由に過ぎず、
彼らの本音は一にも二にも憲法違反になるということに尽きましょう。

もう少し踏み込んで、

「メディックに付与される医療資格がまだ不足である」

というものもあります。
これは実は例のなんでも反対派の戦争平和学者(笑)の意見なのですが
この人がどう言っているかといいますと、

「自衛隊のコンバットメディックは麻酔もできない」

「装備の防御力があまりに弱い(特に車両関係)」

「戦車一台減らして隊員の命を守ることに金をかけろ」


しかしだからって駆け付け警護自体をに反対しているわけでもなさそう。
いやー、初めてわたしこの人と意見が一致したかもしんない。

もともと駆け付け警護については、日本の「国際平和協力法」が

「自己や現場に所在する他の自衛隊員等」

「自己の管理下にある者の防護のため」

にしか武器の使用を認めていないので、もし隊員が武装勢力に拉致されたとしても、
武器を使って取り戻すということもできないというのが現状で、
ここをなんとかしないまま自衛隊を派遣することには懸念を感じていたんですよ。

今回見学した衛生科でのコンバットメディック訓練は、
現地で人命を救助するための派出を行うという状況を想定したとして
それ以前に比べれば格段の進歩であるとは思いましたが、
それでもまだまだ全体を見ると「足りない」のは明白です。
駆け付け警護の際、実際に自衛隊員が戦闘を経験する可能性は
90式戦車が実戦を経験する可能性より高いのは確かでしょう。

中途半端な権限だけ与えられた自衛隊が現地で困難に陥ったり、
失われなくていいはずの人命(この場合は自衛隊員の)が
この不備が理由で失われるようなことにだけはならないように、
政府と防衛省はもっと真剣にこれらのことを考え、
よりプラクティカルに法改正を進めていっていただきたいものです。
今度佐藤議員か宇都議員にお会いすることがあったら
この点についての見解をお伺いしてみますかね。       さて、衛生学校見学のあと、わたしたちは案内の自衛官に連れられて別棟に赴きました。  
続く。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2815

Trending Articles