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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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呉音楽隊第48回定期演奏会(おまけ 呉地方総監の恋ダンス)

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週末、わたしは朝一番の広島行きの飛行機に乗っていました。
海上自衛隊呉音楽隊の定期演奏会を聴くためです。

自衛隊音楽隊の定期演奏会は同じ時期に微妙に日をずらして行われるので、
東京音楽隊、呉音楽隊と重なることなく参加することができます。

呉音楽隊は呉地方総監部を本拠地として、自衛隊音楽隊としての
公式の任務を行うだけでなく、地元呉を中心に広く活動範囲を持ち、
人々に親しまれる演奏を通じて自衛隊の広報を行なっています。

少し前には大ヒットした映画「この世界の片隅に」をテーマとした
コンサートでコトリンゴさんと共演したり、世界的ジャズ奏者
日野皓正氏、それからついにAKB48とも共演を果たしてきたそうです。
(当日の呉地方総監の説明による)

東京音楽隊とも、横須賀音楽隊とも違う音楽への独特な取り組みが
何度か聴くうちにある明確な形となって見えてきたように思っていたところ、
研鑽の集大成とも言える定期演奏会を聴く機会をいただきました。

朝一の飛行機で演奏会を聴き、終わったらすぐトンボ帰りというハードさですが、
呉音楽隊の演奏を聴くためなら、強行軍もなんのそのです。

いつものように金屏風前で(だったかな)お迎えしてくださる
地方総監夫妻にご挨拶し、席まで案内してもらいます。

少し到着が早いかなと思ったのですが、早くきただけいいことがありました。
ステージでは打楽器奏者二人が大変珍しいマリンバのデュオによる
ミニコンサートを行なってくれていたのです。

到着した時周りには誰もおらずわたしだけでしたが、時間につれて
周りの「名札組」(なぜか招待客は入り口で名札をつける仕組み)
のお歴々が到着し始め、周りでは挨拶や名刺交換が行われ、
そのうち中央席には国会議員や呉市長なども着席されました。


♪ スラブ舞曲 アントニン・ドボルザーク

Dovrak Slavonic Dance op.72 No.7 Filarmonica TCBo Hirofumi Yoshida

本日の演奏会、第一部のテーマを一言で言うなら「ヨーロッパの舞曲」。
民族色濃い短めの舞曲を集めた「スラブ舞曲」の中から、
アレグロ・ヴィバーチェ、ハ長調4分の2で華々しくコンサートは始まりました。

ドボルザークはブラームスの「ハンガリー舞曲集」に影響を受け、
この曲を最初はピアノ連弾として作曲したそうですが、それより、
わたしはこの二人が知り合いだったことを今回初めて知ってびっくりしました。

ドボルザークがオーストリア政府主催の奨学金審査に応募した時に、
彼を選んだ審査員がなんとブラームスで、この後ブラームスは
彼の才能を認めて生涯支援を続けたそうです。

ブラームスってドイツ3Bとか言われてたのに、ウィーンに住んでたってこと?

ところでスラブってどこのことかと言いますと、スラブ民族の住む地域、

ウクライナ、ベラルーシ、ロシア、スロバキア、チェコ、
ポーランド、スロベニア、クロアチア、セルビア、ブルガリア

この辺りのことです。

♪ ルーマニア舞曲 ベラ・バルトーク

お次はルーマニア。
バルトーク(1881〜1945)は近代の作曲家らしく、民族的な雰囲気に
近代的なリズムとちょっと斬新なコードづかいを施したピアノ曲は
子供のピアノ教本となっていて小さい時にこれで練習したと言う
ピアノ学習者もいるかもしれません。

わたしがこの曲で最も好きなのは出だしのメロディ。
これさえ聴けば後はもうどうでもいいと言うくらい(笑)好きです。

♪ バレエ「眠れる森の美女」よりワルツ P.I.チャイコフスキー

 

吹奏楽でいいyoutubeがなかったのですが、どんな曲か
知らない方のためにせめてもと思い、踊り付きの映像を貼っておきます。

ソロはシルヴィ・ギエム。

前衛的なピエロの衣装とかエグザイル風や、
体操風とかでんぐり返しとか、はっきり言って全然音楽と合ってませんが、
普通のより見ていて面白いのは確かです。

眠りの森の美女の舞台は「ヨーロッパのどこか」。
ワルツは舞曲なので、第一部のテーマそのものですね。

あまりにも有名で何度も聴いてきた曲ですが、吹奏楽は初めてでした。

♪ バレエ「恋は魔術師」より火祭りの踊り M.ファリャ

題名を知らなくても聴いてみたら知っていた、と言う曲、ありますよね。
もしかしたらこれなどもそんな曲の一つかもしれません。

画像のように、呉音楽隊のクラリネットセクションが
バスクラリネットなど音域の違う楽器に持ち替えて8重奏を行いました。

この曲ももともとジプシー舞踊家の依頼で作曲されたもので、
この「火祭りの踊り」は当日司会の丸子ようこさんの説明によると、
「除霊のための踊り」と言う設定なんだそうです。

と言うわけで、民族的な舞踊音楽として選ばれたこの曲、
クラリネット8重奏で聴くのはこれも初めてですが、
低いクラリネットのトリルが唸りのように響き、呪術的な雰囲気そのもの。
このアレンジはプログラムによると未出版ということですが、
もしかしたらクラリネットセクションが独自にアレンジしたのでしょうか。

♪ ゲールフォース P.グレアム

Gaelforce - Swiss Army Brass Band

スイス陸軍バンドの演奏が見つかりました。(うまい)
なんとスイス陸軍バンド、今時女性が一人もおりません。
黒地に赤いストライプのスーツとあまり軍楽隊らしくない制服です。

それはともかく、この「ゲールフォース」、演奏会前に
「予習」のために聴いたときには、カタカナのこのタイトルから、
「ゲール」=フランス語の「戦争」かなと勝手に思い込んでいました。

実はゲールはブリテン諸島(アイルランド、スコットランドなど)における
ケルト人の一派のことで、ゲールフォースとは、

「ゲール人のちから」「ゲール人だましい」

みたいな意味だったようです。
で、これが実にいい曲でした。
曲は3つの曲からなっており、

「ダブリンへのロッキー・ロード」ジーグ

「ミンストレル・ボーイ」1:50〜

「羽を投げる」リール 4:07〜

ジーグもリールも舞曲の名前でいずれも輪になって踊る
速い曲というイメージです。

「minstrel」というのは中世の宮廷音楽家や吟遊詩人のことだったり、
あるいは顔を黒塗りにする白人のショー(浜ちゃん?)だったり
いろんな意味がありますが、とにかくアンサンブルが美しい!

ちょっと「命を捨てて」を思わせるしみじみとした曲調です。

そして「羽を投げる」では最初にケルト風の旋律を
ユーフォニアムが超絶技巧で(多分)提示し、クライマックスへと。

スイス陸軍のこの演奏では最後に全員が立ち上がっていますが、
呉音楽隊はドラム奏者を二人、マーチングの時の出で立ち(着帽)で
ステージ両側に配し、最後のドラムの聴かせどころ(5:14〜)で
二人が歩み寄り中央に立つという痺れるような演出を見せてくれました。

ここまでが第一部です。
ここまでの指揮は副隊長である田中孝二二等海尉が行いました。
エネルギッシュでキレがあり、見ていてとてもワクワクする指揮でした。

♪ てつのくじら 天野正道

呉音楽隊の委嘱作品で、本邦初演です。
てつのくじらとはもちろん海上自衛隊呉資料館てつのくじらのことです。

ありがちな雰囲気、ありがちなメロディかなと思ったら、突然
音楽理論的に腑に落ちない和声や解決しないメロディが出てくるので、
はてな?と思いながら聴いているとそのまま終わってしまいました。

あとで作曲者のコメントを読むと、どちらも通常のパターンではないとのこと。
頭では納得はしましたが感覚的には腑には落ちないままです(笑)

潜水艦の推進力や質感を表現されたというメインの部分については、
わたしはなんとなく「潜水艦は潜水艦でも進水式の描写だなあ」と・・・。

確かに潜水艦が海上を波を分けて進む感じはあっても、海底に潜む、
あるいは深海を進む潜水艦は今回描写されていないような気がしました。


♪ もののけ姫ハイライト 久石譲

「もののけ姫」セレクション-久石 譲

呉音楽隊は久石嬢がお好き?
結構よく取り上げている気がします。


ただし今回はまるで映画の伴奏のような編曲スコアでした。
この編曲を行なったのも「てつのくじら」の天野正道氏だそうです。
ここに貼ってあるアレンジよりももう少し効果音っぽい部分が多かったと記憶します。

呉音楽隊には歌手もピアニストもいませんが(ハープは打楽器兼の男性奏者がいる)
必要に応じて出動できる戦力が常時備蓄されていると見え、「もののけ姫」では、
クラリネット奏者(前回”アイガットリズム”でソロをした人)が大変重要な
(というか目立つ)ピアノパートを演奏していました。

 

第二部からは明確にテーマと雰囲気が変わりました。
「てつのくじら」は委嘱作品なのでその範疇には入っていませんが、
第二部のテーマは「神話」です。

もののけ姫が神話なのか?という向きもありましょうが、
劇中でもしょっちゅう「荒ぶる神」とか「オッコト主」とか出てくるので、
「神々」がテーマであることは間違い無いでしょう。

♪ プロセルピナの庭 アルフレッド・リード

プロセルピナって何だったかしら。サプリメント?
それはプロポリスや。
と自分で突っ込んでしまうわけですが、実はギリシャ神話の
ペルセルポネーという春の女神のことなんだそうです。

リードは有名な「アルメニアン・ダンス」「エル・カミーノ・レアル」
を始め、名曲を残し吹奏楽シーンで神と言われる(かもしれない)作曲家です。

アンサンブルがとても美しく、春の女神の庭で
色とりどりの花が咲き乱れる情景を彷彿とさせる佳曲です。
特に

「♪ ミソ↓レ〜 ミソ↑シラソミソー ミソレ〜」(移動ド)

のメロディがしみじみと心に沁みます。

♪ 吹奏楽のための神話〜天の岩屋戸の物語による 大栗裕

(Legend for band - After the tale of AMA - NO - IWAYADO : Hiroshi Ohguri)

ご存知天岩戸に天照大神が閉じこもってしまったので、困った八百万の神が
岩戸の前で宴会を開き、力持ちの神様が岩戸を開けてこの世に光が戻る、
という神話を情景描写的に表した曲。

おそらく本日の第二部のテーマ「神話」というのは、
この曲をコアにして決まってきたのではないかと思われました。

3:35から現れる8分の10拍子が、いわゆる天宇受売尊の踊りと、
周りで宴会に興じる神々の狂騒なんだそうです。
宴会というよりも、どちらかというと神々の内心の焦燥が強い、
不安を感じさせる描写が延々と続くのですが。

天照大神が引きずり出された後?の喜びのテーマもなにやら暗く、
最後まで緊張感を保ったまま終わり、これも作曲者の解釈なんだろうな、
と思うしかありません。

という具合に曲そのものに対しては色々と思うところはあったものの、
後半にタクトを振った野澤健二隊長はこの難解な構成をうまくまとめ、
最後まで緊張感を維持して音楽を作り上げておられたと思います。

♪ 目覚めよと我らに呼ばわる物見らの声 J.S.バッハ

第一部、第二部いずれのテーマとも違う宗教曲がアンコールです。
バッハのカンタータから、有名な第1曲コラールが演奏されました。

    ここで普通ならセオリー通り軍艦行進曲が最後に演奏され終わるのですが、
前回「呉氏」が登場してきた衝撃を考えると、ただで終わるはずがない。

ましてやお行儀よく?バッハの宗教曲で終わる呉音楽隊ではない。

とわたしはこの時点で次に起こることをワクワクしながら待っていたのですが、
登場したのは呉氏ではなく、呉地方総監池太郎海将でした。

呉音楽隊の活動について冒頭のように紹介されたのですが、自己紹介として

「”愚直たれ”の池太郎です」

とおっしゃったので会場は笑いに包まれました。
わたしの近くに座った人たちが、

「(呉地方総監は)伊藤さん(伊藤俊幸海将)のあとの人も
伊藤という名前だった(実際は池田徳裕海将)」

などと事実とは全く違うことを話し合っていたのを小耳に挟みましたが、
それも無理はありません。
退官後テレビで活躍されている伊藤元海将の知名度があるのは当然としても、
普通の人は歴代地方総監の名前など全く気にせずに生きているものです。

しかし、現地方総監については割とそうでもないようです。
現役でこれほど地元に知名度のある地方総監もないのでは、
と会場の反応を見て改めて思ったわたしですが、流石にこの日、
その伝説が上書きされることになろうとは、神ならぬ我が身では
全く想像するべくもなかったのです。

 

♪ 恋

その後地方総監がステージ上で自らリクエストをするという暴挙に出たため、
衝撃のデビュー以来「指揮者も踊るんかい!」で有名になった
「呉音楽隊の恋ダンス」が二曲めのアンコールとして演奏されました。

そうそう、こうでなくちゃ。
「ネタ」がわかっている人たちは、いつ野澤隊長が踊り出すかと
息を呑んで(嘘)待ち続けていました。

「恋」 海上自衛隊 呉音楽隊『たそがれコンサート2017』

あれ以来キレのいい自衛官と(特にこの映像右から2番めのホルン奏者さん)
キレの中にも一抹の哀愁漂う野澤隊長のダンスは大反響を呼び(多分)
youtubeでもいくつか動画が上がっています。

どのバージョンでも隊長はサプライズとして最後のワンコーラスだけをキメます。
そしてこの日も恋ダンス、いよいよ最後に差し掛かりました。

(来るぞ来るぞ来るぞお!)←脳内
と指揮者を注視していたその時、舞台の袖から突如現れた人影。

それは呉氏、ではなく、ダンス用に白手袋をはめた池海将の姿でした。
会場はどよめきました。
わたしも思わず「うそっ・・・」と口に出して言ってしまったくらいです。

あとは言うまでもありません。
きっと仕事の合間に呉地方総監庁舎二階奥の総監室で密かに、あるいは
奥様の前でも何度も練習したに違いない完璧主義の(知りませんが多分)
地方総監の恋ダンスは、すっかり主役の座を隊長から奪ってしまいました・・。

もし万が一、呉音楽隊がこの定期演奏会の様子をアップしたら、
日本国海上自衛隊現役アドミラルの見事な踊りっぷりは全世界の人々に
衝撃を与えると思いますが、いかがでしょうか。

呉地方総監部広報の皆さん、難しいかもしれませんがぜひご一考を。

そしてこれも呉音楽隊恒例、最後にコンサートホール内を
「蛍の光」に乗せ、会場の皆さんに手を振りご挨拶しながら総員退館。
そのままホールに全員が立って、観客と触れ合うというサービス付きです。

 

地方隊音楽隊の使命は何と言っても地域と自衛隊の親和を図ること。
メンバーは地元の学校吹奏楽部にも頻繁に赴き、演奏指導をしているそうですが、
そういう熱心な取り組みやこの日に見せてくれた観客との触れ合いを見ても
呉音楽隊はその役目を十二分に果たしていると感じました。

練りに練った緻密なプログラム構成と、日頃の錬成の成果に加え、
楽しいサプライズと硬軟取り混ぜての定期演奏会。
地方総監の体を張った協力もあって、呉音楽隊の魅力を存分に満喫した一日です。

 

最後に、当日の演奏会参加に当たって、
お気遣いいただきました皆様に心よりお礼を申し上げます。
どうもありがとうございました。

 

 

 

 


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