ソリッドモデルの展覧会で見た模型についてお話ししています。
ソリッドモデルの定義とは中が空洞ではない、つまり中実(ソリッド)であり、
木を削って躯体や翼などを作り上げる、ということを説明しました。
この「シー・ホーネット」(ホーネットの艦載機用でアレスティングフック付き)
などは、その木材の部分を見せるような作り方をしています。
日本では切削性に優れた朴の木がよく使用されているというお話でした。
戦後、アルミ箔が普及すると同時にこれを木に貼ることが始められ、
今では紙のように薄い金属板を貼るのだそうです。
この金属部分にはビスを表現するために穴を穿ちます。
裁縫道具の印つけみたいなので打っていくんでしょうか。
ライトの反射している部分を見ていただければわかりやすいです。
それからこのタイヤ。
「ユザワヤで大きさと色の合うボタンを探して来ました」
「よくこんなぴったりの大きさのものが見つかりましたね」
「いや、それをまた加工して大きさを合わせるんです」
前回のエントリで斜め銃付きの月光を作っておられたモデラーの作品。
Military Air Transport Service、MATSのコンスティレーションです。
アメリカ軍の軍事航空輸送サービスのことで、使用機材は色々。
グローブマスターにスターファイターをまるまま乗せて空輸したりしていました。
ちなみに海軍の輸送サービスのことを
Naval Air Transport Service (NATS)
といいます。
チャンス・ヴォート社のF8U-IIIクルセイダーですが、はて「III」とは・・?
「スーパークルセイダーです。3機しか作られなかったそうです。」
F8Uのヒットがチャンス・ヴォート社にとって「救世主」となった、
というのはこのブログでも書いたことがあるわけですが、
この成功に気を良くしたCV社は、ファントムIIへの対抗機として
クルセイダーの後継となる本機を作りました。
速度は一定以上の水準を持ち、ファントム IIに勝る点もありましたが、
迎撃専門のクルーを乗せていたファントムIIには勝てず、この流れで、
スーパーでない方の優秀なクルセイダーもファントムに駆逐されてしまうことになります。
スーパークルセイダーの関係者はこれ以降ファントムIIを敵と定め、
3機のうちの2機のスーパークルセイダーの運用者、NASAのパイロットは
決まって海軍のファントム IIの迎撃に上がり模擬空戦でこれを打ち負かした。
これは海軍側から嫌がらせを止めるように苦情が来るまで続けられた。(wiki)
嫌がらせを止めるように苦情が来るまで
嫌がらせ
実戦でなければ俺らスーパークルセイダーより強え!ってことですか(笑)
なおこのモデルは内部構造を見せるために一部スケルトンです。
大きなモデルはそれこそグランドピアノの上にギリギリ乗っかるくらいですが、
こんな小さなモデルに心血をそそぐモデラーもいます。
右の鳥のようなのは、「エル・アルコン」。
テレビアニメに出てくる練習機だそうです。
ボーイング396という実験機です。
本気でこんな形の飛行機を飛ばそうとしていたのか。
またしても前回の「飛行機馬鹿」という言葉が脳裏を過ぎるわけですが、
画像検索しても出てくるのはこのモデラーさんの作品ばかり。
本当に実験機として存在したかどうかも怪しい・・・。
まあ、そういうものをカタチにしてしまえるというのが模型なんですよね。
「これってちょっと風が強いとたちまちあおられてしまうのでは」
と他人事ながらつい心配になってしまうシェイプの飛行機。
飛行機の羽の形って、伊達にあの形をしているわけじゃないと思うのよね。
ARUP S2
というこの飛行機、開発されたのはなんと1933年。
こんなの飛ぶわけないじゃん!と思ったら、飛んでました。
ちなみにショーでクラッシュしてテストパイロットは死亡しています。
The flying "Heel Lift" - Arup S2 and S4 flying wings
「ヒール・リフト」とありますが、実際に靴の踵に入れる中敷と比べている映像が(笑)
これを見る限りちゃんと飛んでちゃんと着陸しているんですが・・・。
こういう超マイナーな「失敗作」を再現できるのも模型の(略)
A26と言っても、エド・ハイネマンの「インベーダー」とは違います。
製作者に聞いてびっくりしてしまったのですが、これは日本製の長距離飛行機、
キ77、陸軍と朝日新聞社が資金を出し合って2機試作したものなのです。
A-26の「A」は朝日新聞の頭文字、
「26」は皇紀2600年の26
だと言いますから、驚きませんか。(朝日新聞的な意味で)
1号機は昭和19年に周回世界記録(未公認)を樹立していますが、
2号機は昭和18年にインド洋上で消息不明となっています。
戦後アメリカ軍に接収された1号機は、修理されたようですが、結局
1949年ごろ廃棄されました。
アメリカ軍によって移送されるキ77。
向こうに見えているのは標的にされる直前の「長門」です。
このツルツルとした模型の機体ですが、木を削って形を作り、
磨いて塗料を乗せるというオーソドックスな仕上げをしています。
朝日新聞の旭日旗、名前が「神風号」・・。
これも昔三菱の航空資料室を見学した時に書いたことがあります。
朝日新聞社は1937年、ロンドンで行われるジョージ六世の
戴冠式の奉祝の名のもとに、亜欧連絡飛行を計画しました。
当時、日本とヨーロッパの間を結ぶ定期航空路はなく、
逆風である東京、欧州間の飛行は、非常に困難とされていたのです。
この連絡飛行の機体に採用されたのが「神風号」という名前。
一般公募によるものだったそうですが、いやまったく、築地にある、
あのアサヒ新聞と同じ新聞社のことであるとは、信じられませんね。
この麗々しい記事は、勿論のこと朝日新聞に載せられたものです。
神風号は1937年4月6日、日本を出発。
離陸後94時間17分56秒で、ロンドンに到着しました。
イギリスの新聞は朝刊のトップに神風号の接近を報じ、ロンドンの空港や
前経由地のパリの空港は人が詰め掛け、神風号の二人の乗員は
フランス政府からレジオンドヌール勲章を受勲しました。
この歴史的な快挙を成し遂げたその飛行機が、ここで作られていたのです。
・・と当時のエントリをそのまま引用してみました。
A26と同じ製作者の作品だったと思います。
ソリッドモデルで風防はどうやって製作しているのかというと、
初期には塗装のみで表現されることも多かったが、1950年代には
既に熱した透明塩ビ板を木製の型に押し付けて成形する方法も使用されていた。
その後材料はアクリル板へと変化し、成形方法も手動から
バキュームフォームへ変化。
というのがwikiの説明。
この作品は塩ビをヒートプレスして透明化させているそうです。
デ・ハビランド DH.88 「コメット」
は、レース用飛行機で、このつるっとした機体がいかにもスピード重視。
1900年初頭から30年代までは、よく都市間飛行の最速を競う
飛行機のレースが行われ、有名な飛行家を輩出したものですが、
この機体はレースのためだけに作られ、3時間半試験飛行をしただけで
大胆にも英ー豪間レースに出場し、いきなり優勝したという凄い奴です。
例えばこのモデルの製作者は、ソリッドモデルクラブに入会して
4年という経歴ですが、入会前にも独自に何機か製作をしています。
全くの素人が入会するというのはなかなか敷居が高そうです。
この飛行機はDo26(ドルニエ)。
躯体の形を見てわたしにもわかりましたが、水上艇です。
現場で製作者に聞くと、これは郵便を運んでいたということですが、
ここに載せるためにDo26で調べると、第二次世界大戦の開戦前に
ドイツのドルニエ社で開発された飛行艇
ルフトハンザ航空の大西洋横断郵便機として開発された
開戦後軍用に改造され、洋上偵察や輸送任務に使用された
はて?これになぜスイスのマークが付いているんだろう・・。
少なくともこの「ゼーアドラー」というタイプ、
6機しか制作されておらず、他国が使用する余地はなかったはずなのに。
不思議に思って画像検索してみると、あらびっくり、
画像で見つかる実機の写真はハーケンクロイツかドイツ軍のものばかり、
スイスの十字を付けているのはこの方の模型だけではないですか。
「もしかしたら・・・・・」
わたしは一つのことに思い当たりました。
この会場で別のモデラーさんが、自分の作品(ドイツ機)を指して、
「これ、本当はナチスの鉤十字が付いてるはずなんですよ」
一つはマークがなく、もう一つは丸だけです。
「鉤十字付けると怒られちゃうんですよね」
「実際にそうだったのに・・・?」
「一度、作品展にロシア人が入ってきて、
鉤十字を見つけて文句を言われたことがありました。
『こんなものを付けてあなたは無神経だ』とかなんとか」
「えー・・・酷い」
「そう、怒られるから鉤十字は描けない」
史実を遡求し、後世の政治判断でなかったことにしたり、あるいは
変えるべきではないと思うわたしにはとても納得のいく所業とは思えません。
今、隣国の一部国民が、必死で海上自衛隊の自衛隊旗である
十六条旭日旗、陸自の八条旭日旗に(書くのも汚らわしい)
「戦犯旗」というレッテルを貼ろうとして運動しています。
つまり彼らは旭日旗をナチスのハーケンクロイツと同じように、
「使ってはいけないもの」
にしようとしているわけです。
ただし、それを言っているのは一国だけで、先日のフランスでの
独立記念日でも我が陸自の隊旗がシャンゼリゼを行進しましたし、
日米合同の訓練では自衛隊は普通に自衛艦旗を揚げています。
かつての連合国(日本と戦った国)はこの旗になんの問題もないという立場で、
むしろこの「運動」に呆れている風でもあるのがまだしも救いです。
で、ハーケンクロイツなんですが、実機で水上に滑走、離水、着水させている
本格的なモデラーが海外にいまして、そのyoutubeがこれ。
Dornier Do 26 06.09.2014 RC seaplane
惜しいところで田んぼの「田」の字(笑)
もういっそ、「田」にしてしまえば?と言いたくなります。
しかし、模型業界における逆卍って、こんなことになってたんだ。
知らなかった。
「いっそまんじ(卍)にしようかな・・・なんて」
「何か言われたらこれお寺のマークですよ、って?」
そう笑い合いましたが、わたしはなんだかモヤっとした気持ちになりました。
実際にハーケンクロイツを付けていたモデルにすら、それを描くことを
禁止してしまうというような所業を「全体主義」っていうんだよ!
とは誰も言わないのかな。
続く。