阪神基地隊のサマーフェスタ会場に展示されていたパネルです。
この日一般公開されていた「ちはや」と「さざなみ」は、
今回の西日本豪雨災害で支援を行ない、交代してここに来ていました。
関係者に聞いた話だと、発災後の呉では広島からの取水管に問題があり、
断水がしばらく続いているということで、教育隊や「かが」、
「くにさき」、「しもきた」等の大型艦を開放して入浴支援を行いました。
江田島も幹線道路がほとんど分断されたため、一術校から小用には出られず、
早瀬、音戸経由で何とか呉に出ていましたが、この画像の左下にもあるように
呉地方隊はなんとLCACを出して、呉まで希望者を乗せて、
入浴をするというなんとも裏山、いや心憎い支援を行なったそうです。
今HPを見たら、断水している地区の中学校で入浴支援を行なっていますが、
水道復旧の見込みが立ったので支援は8月9日に終了する、とあります。
また、呉地方総監部によると、7月20日には断水が復旧したため、
艦艇による入浴、給水、洗濯支援を終了した、ということです。
この写真からは、どんな支援任務においても、自衛隊が「顔の見える」、
心からの接遇を心がけているのが窺え、国民の一人として頭が下がります。
ところで話は変わります。
まずはこの写真を見ていただけますでしょうか。
左舷格納庫部分に水平に三本の線状にの傷がついています。
メールで「いつかブログに取り上げてください」と読者の方が送ってきてくれた写真です。
この護衛艦は「まつゆき DD-130」。
この無残な傷は、哨戒ヘリSH60Jのローターが接触した痕なのです。
覚えておられますでしょうか。
事故は2012年4月15日、大湊基地を出航後に起こりました。
この事故は、恒例の練習艦隊寄港を済ませ、大湊基地から出航した
「かしま」「しまゆき」「まつゆき」3隻の練習艦隊を見送るため、
低空を展示飛行中だった大湊基地の哨戒ヘリSH-60Jが
「まつゆき」艦体にメインローターを接触させ、墜落したというものです。
ヘリは海中に転落し、7名の乗員のうち機長であった三佐以外は
全員救出されました。
機長は引き揚げられた機体の操縦席で発見されました。
機体が海に落下したら、まず脱出を試みるのが本能的な行動のはずですが、
操縦桿を握ったままというのはそれを全くしようともしなかったということです。
メールを下さった方は、
「他の乗員は皆脱出出来ているので、恐らくは
ローター接触後も何とか機体を立て直すことに全力を上げつつ、
責任を感じて脱出しなかったのだと思います」
と推測しておられます。
わたしも、おそらく機長は自分の操縦ミスであったことから、
乗員を全員無事に脱出させることを優先したのだろうと思いました。
それでは今回、ヘリはなぜ艦体に接触したのでしょうか。
海上自衛隊では遠洋航海に向かう練習艦隊を他の隊員たちがいろんな形で見送ります。
海軍時代から続く伝統であり、見送る者と見送られる者が交わす海の儀礼は
見る者を感動させずにはいられません。
たとえば、練習艦隊が遠洋航海前の内地巡航で地方隊に立ち寄ると、
基地所属や最寄りの航空部隊のヘリが見送りのために上空に飛来するのも
海上自衛隊になってから生まれた習慣でしょう。
そのとき、ヘリコプターの機長はサービス精神を発揮して、
ぎりぎりまで艦に接近することもあるのだそうです。
サービス精神。
機長がその優しさからこの言葉に忠実であろうとしたことが事故に繋がりました。
このことにわたしは胸が塞がれるような悲しみを覚えずにはいられません。
サービス精神といえば、今回のサマーフェスタ会場でも思ったのですが、
自衛隊が一般人を対象にするいかなるイベントにも見られるのが
一種健気なまでのサービス(奉仕)精神であり、つまるところ安全への配慮です。
一般人を乗せる体験航海や観艦式などでは、彼らが事前にどれほどの準備を行い、
主に安全を確保するために最大限の注意を払い気を遣っているのかが、
当日現場を訪れると至るところに感じられて感動するのが常です。
しかしどんなに安全対策に気を遣っても、事故は起きるときには起きるものです。
14日に金沢港に入った海上自衛隊第4護衛隊群所属の
護衛艦「かが」艦内で同日午前10時40分ごろ、
関係者らへの特別公開に参加していた金沢市の男性(83)が
甲板と格納庫を結ぶエレベーターの隙間に落ちた。
男性は約20分後に救助され病院に搬送された。
左まぶたの上を切るけがをしたが、意識ははっきりしているという。
同艦によると、男性は自衛隊石川地方協力本部友の会の役員。
山野之義・金沢市長らと20人のグループで艦内を見学中、
航空機運搬用エレベーターのケーブルが通る隙間から
約3メートル下にある可動式の甲板の床に転落した。
自衛官10人が引率にあたっていたが、隙間の周辺には誰もいなかったという。
遠藤昭彦艦長は
「艦内のお客様への対応の警戒が十分でなかった。深く反省している」
と述べた。
1万人超の来場者を見込む15日の一般公開では隙間周辺に柵を設け、
警戒にあたる人員も増やして安全確保に努めるとしている。
「かが」は海自最大の基準排水量1万9500トンのヘリコプター搭載護衛艦。
就役訓練中で、金沢港大浜埠頭(ふとう)で15日にある
「港フェスタ金沢2017」にあわせて入港し、17日まで停泊する予定。
3月の就役以来、民間港への入港や内部の一般公開は初めてという。
少し前にわたしはこの話を自衛隊内部に詳しい知り合いから
「『かが』の一般公開でエレベーターから人が落ちて、艦長は更迭された。
自衛隊の中だけの話だから他には言わないでください」
という注釈つきで聞かされていたのですが、実はこの事件、
その方(とわたし)が知らなかっただけで、石川県の地方紙、そして
案の定朝日新聞がしっかり当時記事にしておおごとにしていたのでした。
その「内部だけの話」に驚いてわたしは帰宅後すぐに調べてみたのですが、
当時の艦長は事故後が起こってから次の3月まで艦長のままですし、
後職も群司令部の首席幕僚と、更迭どころか左遷というわけでもなさそうです。
わたしはそのことを確認し、安堵しました。
誤解を恐れず言わせていただくと、状況を鑑みるに、
悪いのはこの怪我をした見学者だとしかわたしには思えず、従って
この責任を艦長が取るのはあまりに不合理だと思ったからです。
ニュース映像をみていただければわかりますが、落ちた穴というのは
艦載機を乗せるパレットの隅にあります。
言っちゃなんですが、小さな子供でもあるまいし、この方は
エレベーターの端っこまで行って何がしたかったのでしょうか。
新聞記事には載っていませんが、噂によるとこの83歳の男性、
●エレベーターの写真を撮ろうと後ろに下がった結果、
ちょうどワイヤを通す角の隙間にはまってしまった
●ワイヤの穴を覗き込んでいてバランスを崩した
らしいのです。
写真なら高級機種持ちの「カメ爺」なのか、インスタバエなのか知りませんが
(年齢的にこの可能性はないと思いますが)とにかく、たまたま自衛官の
目の届かないところで勝手な行動をして落ちたとしか思えないのです。
一般公開であれば、厳重な見張り体制が敷かれたのでしょう。
しかし自衛隊側はこの日の見学者の主体が防衛団体の関係者であることで
一種安心してしまい、あるいは市長への接遇に気を取られて、
フラフラ歩き回る人に気がつかなかったということなのかもしれません。
そして、事件からちょうど1年後の今月始めのこと。
当時の艦長と副長二名が書類送検された、という報道があり、
わたしはこの事故が「内々の秘密」でなかったことを知りました。
考えたら、人が怪我をしているのに自衛隊がそれを隠すなど
ありえないことでしたが、話を聞いたときは考えがそこまで至らなかったのです。
それを伝える石川新聞の記事によると、
去年7月、海上自衛隊の護衛艦「かが」で見学者が落下し
大けがをした事故で、金沢海上保安庁は当時の艦長ら2人を
業務上過失傷害の疑いで書類送検した。
書類送検されたのは護衛艦「かが」の艦長と副長の2人。
2人は去年7月、見学者の男性をエレベーターの隙間から
3メートル下に落下させ大けがを負わせた疑い。
金沢海保は設備管理者の2人が転落防止の措置を怠ったとしている。
書類送検されたからそう書くのが常道とはいえ、
「落下させ大怪我を負わせた」
という語調には個人的に不快なものを感じずにいられませんが、
それはともかく、この一年の間、元艦長と元副長は、警察組織である
海上保安庁に赴いて取り調べを受けていたことになります。
書類送検というのはその結果を検察庁に送ることで、今後は
検察による事故についての取り調べが行われることになります。
安全対策に不備があった(つまり男性の動きに誰も気づかなかった)
ということは艦長本人も認めているところですが、怪我人が
地本友の会の会員だということなら、自分の不注意で起きた怪我の責任を
自衛隊に負わすようなことは(おそらくですが)していないでしょう。
ここまでおおごとになったのは、この事件を重く見た警察組織である
海上保安庁の判断であったということだろうと思います。
今後を注視していきたいですが、当事者たちが不起訴となることを祈ります。
さて、前々回「ちはや」の見学記で、この日もヒールのサンダルに
スカートの女性が艦艇見学に来ていた、と書きましたが、
この女性によって引き起こされる「リスク」を仮定してみましょう。
もしこの女性が階段から足を踏み外して落ち、運悪く骨折したとします。
しかし、わたしがきっと言うように、
「そんな格好でくるお前が悪い。以上」
ということにはまずなりません。
「かが」の件で艦長と副長が記事で書かれたように、
「監視を怠ったため階段から落下させ大怪我を負わせた」
として、艦長は海保の取り調べを受けることになるでしょう。
ここでいきなり艦艇見学や観艦式に参加しようとする方にお願いです。
これを読んでいるような方には今更釈迦に説法という奴ですが、
ここでなんども警告しているように、くれぐれも艦艇公開に
● 老人は来るな(体力と判断力は本人が思うより低下している)
● スカートとヒールで来るな(危ない上傍目にも不快)
かつて横須賀の米軍基地で「ロナルド・レーガン」を見学した時、
事前にパスポートのコピーを提出させられ、さらに
「65歳以上は乗艦お断り」
という通達がありました。
自分は65歳以上だがどうしても乗りたいと言う人は、
「もし何かあっても自己責任、アメリカ海軍には決して責任を問いません」
という念書を書け、ということでした。
さすがは訴訟社会のアメリカです。
日本人の65歳なんてまだまだ老人などではないですから、
この年齢制限は厳しすぎないか?と個人的には思わないでもないですが、
これがアメリカ軍の考える「生物としての安全限界年齢」なのでしょう。
公僕という言葉がありますが、文字通り公衆に対して奉仕する者、
という意味で自衛隊はまさに究極の公僕かもしれません。
しかもその奉仕とは、組織でありながら決して機械的、事務的ではない、
人間味溢れるものであることは、例えば東日本大震災において
「一人一人の顔の見える災害支援を心がけよ」
と号令を下した現地の指揮官の言葉に表れているでしょう。
わたしも日本国民の一人としてその奉仕精神を尊く有難いと思いますが、
その奉仕精神が、時として本日語ってきたような事故に結びつくこともあるのです。
米軍ほど厳格でなくとも、せめて80歳以上の見学は最初から断るとか、
付添人の同伴を条件にしていれば、少なくとも「かが」の事故は起きていません。
不適切な服装の艦艇見学も、舷梯を上る前に
「乗艦をご遠慮ください」
で済むことです。
自衛隊は現場でたとえ小さな不興を買うことになったとしても、
リスクヘッジを優先することも時には必要ではないかと思うのですが。