東音の定例演奏会が行われるのはいつもクリスマスが近づき
街がイルミネーションで彩られ、華やぐ頃です。
冒頭写真は表参道を通り抜けたら全ての街路樹がライトアップされていたので
iPadで撮ったもの。
こんな時に限って信号が赤になってくれず、これが撮れたのは青山通り手前ですが、
表参道ヒルズあたりの車道からの眺めはもっとすごかったですよ。
すみだトリフォニーホールのロビーにもツリーが飾ってあります。
この、ピアノを弾いているらしい人の彫刻、なぜピアノがないんだろう?
てっきりわたしは、ピアノと一緒に飾ってあるのが本来の姿で、
今ピアノが貸し出されるかなんかで出払ってるのだと解釈していたのですが、
何回来てもこの状態なので何の気なしに調べたところ、
ピアノは最初からなかったことがわかりました。
船越桂という彫刻家の作品で、作品名は「エアーピアニスト」。
・・・・じゃなくて「彫刻」だそうです。
この人の作品、「永遠の仔」の表紙に使われてましたよね。
見る人に想像してもらうために床にピアノの影だけがあります。
ジングル・ベルズ in Swing ピアポイント/ヘンデル
さて、第二部からはぐっと楽しい雰囲気に。
Jingle Bells in Swing / James Pierpont, George.F.Handel 龍谷大学吹奏楽部
ジングルベルで始まり、「もろびとこぞりて」「赤鼻のトナカイ」(部分)
の合間に各パートがソロを披露するというお祭りっぽい盛り上がりで始まりました。
音楽隊長の樋口二佐はパーカッションセクションの中に紛れ込み、
クリスマス仕様の(多分違うけど)赤いスティックで演奏に参加です。
第2部からは「司会業」に復帰した荒木三曹が、
「日本で最初にクリスマスを祝ったのは1551年、山口県で
宣教師が日本人信徒を招待してミサを行ったのが事始め」
と紹介して演奏されたこの曲、ジングルベルはピアポイントという人が
なんと1857年には作曲していたんですってね。
ちなみにピアポイントは牧師で、あのモルガン財閥の創始者、
ジョン・ピアポイント・モルガンの叔父さんです。
プログラムに「G・F・ヘンデル」と書いてあるのは、途中でてきた
「もろびとこぞりて」の作曲者という意味だと思うのですが、
正確には「もろびとこぞりて」の作曲者はヘンデルではなく、
アメリカ教会音楽の第一人者、
ローウェル・メーソン Lowell Mason (1792- 1872)
であることをちょっとお知らせしておきたいと思います
確かにヘンデルのメサイアにはイントロ・ドンをやったら間違えそうな
出だしのものがあり、これから取られたのではないかという説もありますが、
Handel Messiah: Lift Up Your Heads
これぐらいで作曲者呼ばわりするのだったら、童謡『春が来た』は
「トランペットヴォランタリー」を参考にした!とか、
「上を向いて歩こう」はベートーヴェンのP協奏曲「皇帝」!とか、
「北の宿から」はショパンのピアノ協奏曲とか、ドラえもんは
チャイコの交響曲5番!とかいうのはどうなるのって話ですよ。
これは元々の編曲者がクレジットにヘンデルと書いているようですね。
ここでこっそり訂正を要求しておきたいと思います。
デイ・バイ・デイ / ストーダール&ウェストン サミー・カーン
このクレジットもプログラムには間違いがありました。
プログラムには作曲者の「ストーダールとウェストン」しか名前がなかったのですが、
このメンツで一番有名なのは作詞のサミー・カーンだったりするわけです。
えー、どれくらい有名かというと、ディズニーのピーターパン挿入歌の
作詞をしたとか、「ダイハード」で有名になった「Let it snow×3」とか。
それにしても東京音楽隊というのはなんたる人材の宝庫、と唸ったのが
このデイ・バイ・デイの演奏でした。
「宇宙戦艦ヤマト」や音楽まつりでの「海をゆく」「軍艦」「われは海の子」
などを歌ったホルンの川上亮司一曹、そして去年は三宅三曹と「美女と野獣」を
披露し、音楽まつりでは海自代表で冒頭の「消灯ラッパ」を吹いたトランペットの
藤沼直樹三曹、この東音専属男性歌手二人に加え、いずれも管楽器の二人が加わり
合計4人で「男性コーラス」を披露してくれたのです。
ここで絶賛してもその素晴らしさは到底伝わらないと思いますが、
とにかく軽快なラテンのリズムに乗せた四人のハーモニーは完璧。
流石に全員管楽器奏者だけあって、ピッチが気持ちいいくらい合う合う。
「Day by day I’m fallin' more in love with you」(日に日にあなたへの愛は増してゆく)
で四人がドライブ感満載のリズムに乗ったコーラスで歌い出し、続いて川上一曹が
「There isn't any end my devotion」(私の献身は終わることがない)
と渋い低音でキメるわけです><
Jazz Vocals with Swing! The Four Freshmen- Day By Day
世界一有名な男性4人コーラスといえば?
そう、ダークダックス・・じゃなくてフォーフレッシュメンですね。
今回のアレンジに一番似ていると思われる彼らの演奏をお聴きください。
しかしこんな素敵な男性コーラスが手持ちのメンバーでさらりとできてしまう、
これほどお得でかつ応用自在の音楽団体が他にあるでしょうか。
(あったら是非教えてください)
個人的には『I find that』の前の休符の時、真ん中の人が
いちいちビシ!っと宙を指差すイケメンポーズにシビれました(笑)
ところで「人材」で思いだした余談ですが、隣に座ったミスター元将情報によると、
東京音楽隊にはシエナ・ウィンド・オーケストラから来た人もいるんですね。
誰だろうと思って調べてみると、Wikiには「シエナの創設メンバー」とありました。
こういう人も普通に学科試験を受けたんだろうか?と不思議な感じがします。
見上げてごらん夜の星を / いずみたく 永六輔
このクレジットにも作詞者の永六輔が書かれてていなかった件。
坂本九の不朽の名曲を三宅三曹が歌いました。
素直で、人の心に真っ直ぐに届く歌声。
こういう曲を歌うときの三宅さんは自然で微塵も外連味がなく、
彼女のキャラクターともあいまって最高に素晴らしい。
君の瞳に恋してる Can't Take My Eyes Off You
いくら原題が日本人には覚えにくいからといって、「君から目が離せない」を
「君の瞳に恋してる」という解釈はないだろうと思うのですが、
とにかくそういう題で日本でもヒットしたボーイズタウンギャングの曲です。
元曲はもっと古くからあったのですが、BTGがディスコ調でリバイバルさせました。
吹奏楽バージョンもyoutubeで見つけましたが、この日の演奏は
こんなにネムい感じじゃなかったなあ。(でも一応貼っておきます)
《吹奏楽ヒット》君の瞳に恋してる
チム・チム・チェリー シャーマン兄弟
(Richard M. Sharman/Robert B. Sherman)
メアリーポピンズの原作ではあまり出てこない煙突掃除屋の
バートが、ディズニー映画では思いっきり主人公っぽくなって、
この歌をメアリーと並んで歌うわけです。
メアリーポピンズの原作、小さい頃大好きで何度も何度も読んだものです。
この東京佼成ウィンドの演奏はとにかく熱田公紀氏のアレンジがよろしい。
この夜の演奏も同じ楽譜で行われていたと思います。
後半に選んだ曲はヴォーカルの二曲以外は、随所で奏者がアドリブソロや
ソリ(複数の同種楽器がソロを取る)を発揮できる曲ばかりで、この曲も、いかにも
ビクトリア朝時代のロンドン!(原作の舞台はもう少し後ですが)といった雰囲気の
「ドンぱっぱ」な三拍子からいつの間にかジャズワルツになり、
そこで何人かが、ここぞ!と立ち上がりソロを聴かせていく、という構成です。
しかし、自衛隊の音楽隊って、(一般のオケもそうですが)ー〜二昔前とは
個人の技術が段違いに高くなっているよなあとこれを聴いて思いました。
わたしが持っているCDの奏者のソロなんかと比べても、
その技術何よりセンスには明確な差があります。
アヴェ・マリア グノー
再び三宅三曹の歌声でクリスマスならではの「アヴェ・マリア」。
この曲はバッハの平均律クラヴィーア曲集第1集ハ長調の前奏曲の上に、
それを伴奏となるようにシャルル・グノーという19世紀半ば、
フランス音楽の基礎を築いたという噂もある作曲家がメロディをつけたものです。
バッハが聴いたらどう思うかは謎ですが、このアイデアは秀逸です。
音楽界のアイデア賞です。
どうしてもメロディとバッハの原曲が合わないところを1小節、
原曲の方を削ってごまかしていますが、それはさておき、
グノーの「アヴェ・マリア」はシューベルト、カッチーニのとともに
「三大アヴェ・マリア」と言われるくらい有名です。
ちなみにわたしは聴きすぎて好きも嫌いもないシューベルトとグノーより
カッチーニの「アヴェ・マリア」に心惹かれます。
この作曲者が実は実在したバロック時代の作曲家カッチーニの作品ではない、
という逸話も含めて。
寺井尚子(Naoko Terai) Ave Maria /Caccini ( Vavilov )
実はこの曲、近代どころか最近の1970年、ソ連の作曲家
ウラディーミル・バビロフという人が、すい臓がんで困窮のうちに没する
死の直前に作曲した曲だということがわかっています。
道理でこんないい曲なのについ最近まで聴いたことがないと思った。
なぜかいつも自作を古典作曲家の名前で発表する癖のある人だったみたいですね。
なぜそんなことをするのかほとんどの人にはわからないと思いますが、
彼の専門が古楽器であったこと、「作曲家」が近代において
古典風の作品を発表するのは第一線では認められていないという
音楽界の風潮がさせたことではなかったかとわたしは思っています。
閑話休題、ところで隣のミスター元将と音楽まつりの話になり、
「海自のステージでの三宅さんと中川さん(横須賀音楽隊の中川麻梨子三曹)
のデュエットは素晴らしかった」
という意見で二議一決を見ました。
「中川さんはとにかく上手い。三宅さんは可愛い感じ。
二人とも全く違うタイプだからこそいい」
また、これもこっそり聴いたところ、この日は三宅由佳莉三曹の
誕生日だったそうです。
帰りに駐車場のエレベーターに同乗した人たちも
関係者に聴いたらしくこの話をしていました。
「でもお誕生日おめでとう!とかはなかったね」
まあ・・・色々考えてもそれはしないでしょう。
アレルヤ!ラウダムス・テ A・リード
吹奏楽に興味がある人でアルフレッド・リードの名前を知らない人はいません。
1960年以降日本で行われるようになった吹奏楽に道筋をつけたのは
リードの作曲した卓越したコンクール曲の数々であり、そのほかにも来日して
洗足音楽大学で教鞭をとり、アマチュアバンドを指揮した功績により、
「現代日本の吹奏楽の父」といっても過言ではない働きをしたからです。
「エル・カミーノ・リアル」(カリフォルニアに同じ名前の道路がある)
「アルメニアン・ダンス」「春の猟犬」など、名曲を多く残している彼も
また陸軍航空隊軍楽隊で副指揮者やライブラリアンをしていた経験があります。
アルフレッド・リード/アレルヤ!ラウダムス・テ
「アレルヤ!ラウダムス・テ」とはラテン語で
「ハレルヤ、我ら主をほめたたえん」という意味。
ファンファーレの後はクラリネットのソロによって
内省的な祈りを感じさせる美しいメロディが続きます。
ところでこのダラス・ウィンドシンフォニーの演奏のyoutubeが
パイプオルガンの写真であることにご注目ください。
オリジナルスコアでリードはそのクライマックスに
パイプオルガンを指定しているのです。(4分少し前から)
この日のステージに電子ピアノが置かれているのでわたしは
何に使うんだろう、と注目していたのですが、
曲のクライマックスで突然パイプオルガンの音が聴こえてきたので、
合点がいきました。
しかし同時にこのすみだトリフォニーホールの立派なパイプオルガンを
なぜ使わないのかと一瞬ですが非常に残念に思ったのも事実です。
まあ簡単に言いますが、パイプオルガンは昨日も話に出たように、
各種ストッパーの操作など、わかっていないと音も出せない楽器ですし、
第一ホールを借りる料金にオルガン使用料まで含まれていないとなれば、
キーボードでパイプオルガンの音を出すしかなかったのでしょう。
ただなあ・・・これ実際のパイプオルガンで聴いてみたかったなあ・・。
さて、プログラムの曲が全部終わり、聴衆がアンコールをリクエストすると、
なんといきなり
行進曲 「軍艦」瀬戸口藤吉
が始まってしまいました。
はて、海上自衛隊的にはこの曲が演奏されたらそこでも今日は終わり、
ということになるはずですが・・・?
スミスとリードで練習時間を使い果たしてアンコールの余力がなくなったのか、
とわたしが失礼なことを考えていると、「軍艦」が終わってから
ジングルベル in Swing調のジャズっぽいクリスマスソングが演奏されました。
イントロとかまるで「Sing、Sing、Sing」(ただしメジャー)なので、
なるほど、これと引っ掛けたのか、と思ったら、ロビーのボードに
「本日のリクエスト」
軍艦 シング・シング・シング
と書いてあって目を疑いました。
そ、そっちがメインだったの〜?
ちなみにこの日ご一緒したのは某携帯大手会社勤務という方で、
「御社はFウェイ大丈夫なんですか」
と一応聴いてみると
「うちは大丈夫です。わたしが過去入り込むのを撃退しました」
「おおすごい。もしかしたら今正義は勝つ!って思ってます?」
「いやいやw」
「もしかしてザマーミロとか」
「いえいえw」
こちらの方も本日の演奏会には大変感動されたようで、口々に
「相変わらず楽しいコンサートでしたね」
と言い合いながら外に出ました。
ところで今日、郵便物の中に、来年二月にサントリーホールで行われる
東京音楽隊定期演奏会のお知らせを発見したので、プログラムをチェックすると、
なんと予定曲に
「華麗なる舞曲」C・T・スミス
の曲名が・・・・・。
うーん、やる気ですね、隊長!
今から俄然楽しみになってきました。
というわけで、ハートウォーミングな今年の定例演奏会のご報告を終わります。
最後になりましたが、演奏会参加にお気遣いを頂きました皆様に、
心よりお礼を申し上げます。