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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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「大空のSAMURAI!4」ハツヨとサカイ

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膨大な「SAMURAI!」からちょこちょこっと坂井さんのロマンスを書き出すつもりが、
意外と表現がしつこくて(笑)なかなか先に進みません。
ようやくハツヨさんとサカイが結ばれるところまで来たわけですが(ぜいぜい)、
挿絵が足りなくなったので一枚に描いた絵を分割して掲載しております。

わりと本気で言うのですが、内容、ネタ共に枯渇しているらしい昨今の日本映画界は
「大空のサムライ」ではなく、こちらの「SAMURAI!」の方を映画化すればいいと思います。
というか、どうして一度映画化された「大空のサムライ」で、どうして実話ベースのこの話が
かけらも出てこず、変な創作(本田の姉と搭乗員Aの衝動的な恋愛)をわざわざしたのは
いったいなぜだろうと、今日首をかしげざるを得ません。

・・・・もしかして、誰も読んだことなかったのかな。英語の「SAMURAI!」。

さて、勝手に映画化をエリス中尉がもくろんでいるだけの「SAMURAI!」。
この映画は坂井三郎のロマンスがメインテーマなので、ラバウルでのことは
ほんの説明程度にしか出てきません。
ですから、笹井中尉が登場するのも、坂井の回想シーンにちょっとだけ。
しかし、我ながら伊勢谷=笹井中尉はぴったりの配役ではないかと、
絵を描きながら別の意味で自画自賛しておりましたがいかがなもんでしょう。



さて、敵の銃撃によって帰国、手術の甲斐なく右目は失明することになった坂井。
病院で結婚を切り出したフジコとその父親に、自ら破談を申し渡します。
というか、婚約にすら至らず、フジコとの関係は終焉を迎えてしまいました。

二人との話し合いの二日後のこと、ハツヨが病院にやってきました。
横須賀海軍病院に週一度彼女は花を持って見舞いに来ていたのです。
しかし、このたびの彼女は険しい表情をしていました。


「三郎さん、あなた何したの?」
彼女はベッドの脇に来るなり言った。
「フジコさんをどんなに傷つけたか、あなた分かってる?」

あの後、二人は坂井の叔父宅を尋ね、坂井を説得することを頼んでいったのです。
ハツヨさん、坂井を説得しようと意気込んでやってきたというわけです。

「自分たちの言葉があなたを不快にさせたからではないかっておっしゃっていたわ。
父もわたしもあの方たちのことはよく知っているの。
あんなに素晴らしい人たちに向かって、なぜあんなことを?」

「ハツヨ、分かってくれ」わたしは彼女に言った。
「きみは小さいとき何年かとはいえ一緒に育ったんだし、俺のことを知ってる。
言わなければならんことを言って傷ついたのは俺も同じだし、
俺は自分のした選択を後悔していない。
俺は正直に言って彼女によかれと思って、彼女自身の幸せのために
ああいう風にしたんだ」

「怪我のせいであなたが申し出を拒んだんだっておっしゃってたわ」

「それだけじゃない。それは理由のたった一つに過ぎないんだ。
俺はフジコさんを最初に逢ったときから本当に好きになった。
俺の彼女に対する気持ちはちっとも衰えていない。
ラエとラバウルにいた何ヶ月もの間、フジコさんは俺にとって永遠の女性だった。
わからないか?俺は彼女を愛するからこそあの話を断ったんだ」

「三郎さん、そんなの変よ。おかしいわ」

「聴いてくれ。外地にいた期間、太平洋にいた間一時だって、
フジコさんが俺の心から離れることは、無かったんだ。
俺は彼女に俺を誇りにしてもらいたかった。俺がそうであるように。

・・・・・・こんなこときみに話すべきではないのかもしれないが、
ハツヨ、この際言ってしまうよ。


ラバウルは軍の主要基地だから一万人以上が駐留している。
加えて陸軍の師団もずっと一緒だ。
男というものが故郷を離れ、女っ気無しのところにいればどうすると思う?
横須賀にもあるように、ラバウルにだって慰安所というものがあった。
ラエからラバウルに休養のために行くと、多くの搭乗員は慰安所に入り浸りっきりになる。
勿論全てではないが、少なくもない。

しかし、俺はそこへは一度も行っていない。プライドが許さなかったんだ。
俺はフジコのためにできる限り清い身体でいようと思った。
彼女の手を取って、結婚を申し込むその日のために。

負傷するまで、俺は恐れを知らぬ海軍搭乗員として、
自分は彼女に結婚を申し込むのに相応しい人間だと思っていた。
しかし今はどうだ?違う!」

わたしはハツヨに向かって叫んだ。

「哀れまれたくないんだ!
彼女に同情されるのは我慢ならないと言うことがわかるか?」

ハツヨはわたしを強く抱きしめるとうなずいた。

「わかった。わかったわ」

彼女はささやいた。
彼女はわたしの目をのぞき込んだ。

「わたしはあなたのことよく知ってるの。三郎さん。
あなたが思っている以上にあなたのことを知っているのよ。
もう一度飛びたいという気持ちからなのね。
でもわたしにはフジコさんをどうしてもお気の毒に思わずにはいられない」

「彼女にはその方がいいんだ。彼女には・・・・」

しかしハツヨはわたしの首に回した腕で強くわたしを抱きしめ、次を言わせなかった。

「可哀想な三郎さん!
希望を持つのよ・・・・・信じるの。
あなたはまた飛べるわ。
わたしはあなたのことを、よく知っているの・・・・」





実際にはこのようなドラマチックではないせよ、ニオリ家との結婚話を、
負傷した坂井がそのために断ったという話はどうやら本当のことに思われます。

それにしても、「大空のサムライ」には全く出てこない「戦地での性」を示唆する部分、
慰安所について述べた部分は、日本の読者には衝撃的ですね。
こういう表現にならざるを得ないから、フジコさんとハツヨさんの部分は、
日本では全くカットせざるを得なかったのでしょうか。


膨大なこの小説の「ハツヨさん」部分だけ書き出してみましたが、これでようやく?
フジコさんとの関係が終わったばかり。
この後フジコさんとどうなるのか、もうすこしだけエリス中尉の拙訳におつきあい下さい。






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