しばらくヨーロッぱ旅行記が続いておりますが、ここで
久しぶりに、空母「ミッドウェイ」についての話題をお送りします。
かつて空母「ミッドウェイ」勤務で、もちろん横須賀にその期間駐留し、
日本人の奥さんをもらった元海軍軍人、「ミッドウェイ」の著者ジロミ・スミス氏は
2004年、サンディエゴで13年ぶりに「ミッドウェイ」に再会しています。
スミス氏は「ミッドウェイ」に特別な思いを持っていました。
「俺とお前の間柄は他の奴らとはちと違う。
俺とお前にはお互いに日本人の血が流れていて、日本人の血を持っている。
だから特別な間柄だ」
はて、「ミッドウェイ」に日本人の血が流れているとはどういうことでしょうか。
母親が日本人で日本語も堪能なスミス氏は、空母「ミッドウェイ」が
18年間にわたる日本での勤務中、実に一度もアメリカ本国の港に入らなかったことや、
自分のように日本人の妻を持った乗員がたくさんいて、何よりも空母の艦体が
この期間ずっと、日本人の技術者や、港湾労働者に支えられてきたをして、
「日本の血が流れている」と解釈しこのように思い入れを持ってくれていたようです。
さて、そんな「日本人の血を持つ」「ミッドウェイ」でしたが、任務を終え、
横須賀を出航して初めてアメリカの港に入り、その後、
サンディエゴで空母博物館として半永久的にその姿を留めることになりました。
久しぶりの「ミッドウェイ」との邂逅。
舷門をくぐる時、もうそこで敬礼をしなくてもよくなったことに
違和感と一抹の寂しさを感じながら、スミス氏はハンガーデッキに足を踏み入れます。
「格納庫前方の左舷、右舷の両側には、ジェット機を発艦させる時の
カタパルトを動かす巨大なアキュムレーターも当時のまま設置してあった。
このアキュムレーター、ジェット機が発艦する食べ、耳をつんざくような
シューっというものすごい音を出し、その周辺の温度は軽く50度を超えた。
私の仕事場は、このアキュムレーターのすぐ横にあった。
恐ろしく暑くて、ものすごい騒音が一日中、時には一晩中続いていた」
これが「空母ミッドウェイ」のチャプター1の終わりの部分です。
わたしは結局三年続けて「ミッドウェイ」を訪れ、ここでもお話しする途上、
スミス氏の著書をかなり参考にさせて頂いておりますが、最初に読んだ時、
この「アキュムレーター」の記憶が全くなく、今度訪問したら
ぜひその写真を撮ってこようと楽しみにしていました。
ハンガーデッキから入場し、右の前方に向かって進んでいくと、
「STARBOAD、スターボード(右舷)」と書かれた俵形の大きなタンクが見えてきました。
ワクワクしながら(こんなものを見てワクワクするのはわたしくらい以下略)
近づいていくと、小さく「スティーム・アキュムレーター」という字が見えます。
アキュムレータ(hydraulic accumulator)を一言でいうと、圧力を蓄える、
すなわち蓄圧器のことで、電気で言うところの充電式電池のようなもの。
流体の圧力を利用して仕事に供給する高圧流体を蓄えておく装置で、
この「ミッドウェイ」における「流体」とはすなわちスチームのことです。
カタパルト発進には途轍もないエネルギーが必要なので、その動力には
安定した圧力が必要ですが、アキュムレーターはこのために
過剰蒸気またはボイラー水を熱水として蓄え、高負荷時にボイラーに送り、
ボイラー蒸発量を増加させる方式でそれを得るという仕組みです。
もう少し平たく言うとアキュムレーターとは、
「圧力を溜め込んでおいて、いっぺんに解放することでエネルギーを得る」
装置、といえば良いでしょうか。
近年の日本の企業が作っているアキュムレーターは縦型が多いようですが、
昔は写真に見える「ミッドウェイ」のそれのように横に寝かせる形が一般的でした。
「ミッドウェイ」のカタパルトは最初は油圧式で、大改装後、
蒸気式のC-11型3基を搭載することになったそうですから、それこそ、
このアキュムレーターは日本で、日本の技術者によって換装された
と言うことになりますかね。
アキュムレータは蒸気の負荷変動を吸収することができるので、
常に安定した圧力を供給し、これを回転エネルギーに変換します。
高速回転する滑車でワイヤを動かし、カタパルトのレール(シャトルトラック)
のうえを、シャトルが高速で動くわけですが、その際、ブライドルと言う
使い捨てのワイヤによってシャトルと航空機を繋げておいて、
航空機を「放り投げる」形で空中に射出するのです。
これはWikipediaページの「ジョン・C・ステニス」のスチームカタパルト。
最終チェックをしているところですが、まるで雲に乗っているように
蒸気がレールの間から吹き出しているのにご注目ください。
スティームカタパルトは、シャトルを高速で移動させると、
レールの下からものすごい量の蒸気が噴き上がってきます。
Steam Catapult VS EMALS, Electromagntic Aircraft Launch System
面白い動画を見つけました。
前半は従来の蒸気カタパルト。
後半はイーマルス(EMALS)、電磁式カタパルトの航空機射出です。
航空機じゃないので赤い台車がカタパルトの後派手に海に落ちていきますが、
思わず「あああ〜」と声が出てしまいます(笑)
イーマルスの実験は2017年に終わったばかりで、
「ジェラルド・R・フォード」に実験的に搭載されたそうですが、動力に
原子力などを必要とし、電力が失われたら射出できなくなると言う欠点があります。
2019年、今年の春に横須賀の第7艦隊を訪れたドナルド・トランプ大統領は、
イーマルスについてはっきりと
「以降の空母には使用しない」
と断言したということなので、アメリカではこれ以上の発展はなさそうです。
いかなる理由でそのことをわざわざ日本に来て横須賀で言明したのか、
その経緯がよくわからないのですが、コストパフォーマンスの点で
あまり意味がないということになって打ち切りが決まったばかりなのでしょうか。
こちらにはタンクの穴のようなものがありますが、これは
手前の赤いリールに巻いてある黒いホースを繋げるのでしょう。
ボイラー水を供給するためのホースだと思うのですが、わたしのことですから、
例によってとんでもない勘違いをしているかもしれないので、
断言はしないでおきます(笑)
USS「ミッドウェイ」において
FODをしなかった日は■日
最後にFODをしたのは■月■日
CRUNCHがなかった日は■日
最後にCRUNCHがあったのは■月■日
FOD(Foreign Object Debris/Damage)とは、甲板を皆で
並んで歩きながら小さなゴミを回収するという空母ならではの慣習です。
ここではデブリス(ゴミ)ではなく『ダメージ』と言っていますね。
小さなゴミでも航空機のインテイクが吸い込むことで、
大事故が起こるため、このFODは徹底して行われます。
クランチ、というのはわたしもこれで初めて知ったのですが、
航空機同士の接触や航空機が構造物にハンガーデッキで当たることです。
私見ですが、航空用語というわけでもなく、「クランチ!」という言葉は
金属同士がぶつかった時の音のイメージから来ているんじゃないでしょうか。
ハンガーデッキで牽引車の操作をしていた人の証言です。
「数え切れないほど、トラクターを運転している時、わたしは
自分がトウイングしている航空機を振り返って見たものです。
そしていつも運転するとき、センターラインのエレベーターが
降りている時には、大きな穴に落ちてしまいそうでものすごく怖かった」
自分だけ落ちるならまだしも、その時には何億ドルもする航空機と一緒。
ただでさえ事故の起きがちな空母での仕事には、何回やっても慣れは禁物で、
また何回やっても怖いものなのに違いありません。
しかし、どんな作業一つとっても、そこには、アメリカ海軍が
USS「ラングレー」以降積み重ねて来た、気の遠くなるような体験と
そして失敗による犠牲のうえに築き上げられたノウハウが集約されているのです。
続く。