駆逐艦「スレーター」艦内ツァーは、上部構造物階にある
無線室と艦長室、そして事務室の見学を終え、もう一階上の
ナビゲーティング・ブリッジに上がっていきました。
ここは02レベルとも呼ばれていて、先端には
20ミリ機関銃の銃座が備えられています。
かつての「スレーター」にはここに銃座が二つあったそうです。
その後ろが「パイロットハウス」、操舵室ともいいます。
そしてCIC、そしてシグナルブリッジがあります。
まずはコンバット・インフォメーション・センター、CICから見学です。
CICには対空、そして海上のレーダー装置が備えられています。
写真のテーブルは「プロッティング・ボード」。
その上部にあるスピーカーのついた機器は21MCといって、
インターコムであり別名「スコークボックス」。
右側にはステイタスボードが見えています。
ところで皆さん、レーダー「RADER」という名詞が
RADIO DETECTION AND RANGING
つまり「電波を利用して、目標物の距離・方位を測定する装置」
の頭文字から来ていることをご存知のことと思います。
レーダーは第二次世界大戦時の「秘密兵器」のひとつでした。
ここでレーダーの歴史を紐解くつもりはないですが、歴史的には
イギリス軍がドイツ空軍の空爆を阻止するために使用したのが始まりです。
一部の人々はその信頼性と軍事兵器として使用することに疑問を呈しましたが、
やがてこの秘密兵器は空と海での戦い方の様相を変えることになります。
少々専門的になりますが、説明しておくと、レーダーは
マイクロ波ビームを空中に直線で送信するものです。
これらのビームが物体に当たると、反射エネルギー(エコー)が
レーダーアンテナに戻り、レーダーアンテナで捕捉されます。
サーチレーダーの有効範囲は、マストの上部に
サーフェスアンテナと空中アンテナを配置することにより拡大されます。
目視できないターゲットを補足できるレーダーはまるで「神の目」でした。
この反映された情報は、ターゲットの存在位置をレーダースコープに表示します。
レーダー員はこの情報を「追跡」または分析し、その結果を使用して、
ターゲットのコースと速度など、重要な情報を判断することができるのです。
戦闘情報センター(CIC)は、この新兵器を採用し、プロットテーブル、
内部・外部通信機能、およびその他のさまざまなステータスボードと
プロットボードを収容する一室として設置されるようになったのが最初です。
今日でも、自衛艦内見学でCICが公開されることはあまりありません。
少人数で身分がわかっている場合、公開されることは皆無ではありませんが、
その際も要所はマスキングされて写真撮影はできないのが普通です。
それだけここには貴重な軍事的情報が密集しているためです。
レーダー室として登場したCICは、名実ともに「情報センター」になりました。
あらゆるソースから収集された情報は分析、評価され、必要な各所に伝達されます。
対空、対水面の対象を追跡し、その進路と速度を報告することに加え、
CICは基地の維持、火災管理、沿岸砲撃、航行、捜索、救助にも役立ちます。
航行中の艦船にとって夜間、昼間、霧、雨、雪、または晴天のときは
常に神経の中枢であり、「艦の目」の役目をはたすのです。
第二次世界大戦当時、CICは
「Christ, I'm confused.」
(主よ、わたしは混乱しています=主よ、我迷えり)
と呼ばれることもあったようです。
迷える子羊たちを導いてくれる聖なる存在だったのですね。
右側の機器がPPI、左は対空レーダーです。
「ミッドウェイ」しかり、「マサチューセッツ」しかり。
展示されている軍艦のCICの中は常に暗くされていました。
これは運用中のCICを再現した状態です。
実際に運用されているCICはノイズの多い機器を多く含むため、
室内はかなりの騒音で満たされていたということです。
レーダーマンは海上、空中、補助用のレーダーセットを
装着した機器で情報を常に聞いています。
かれらはまた、ステータスボード上の空中および海面における
コンタクト対象を追跡します。
「JA」音声通信回線に配属されたCIC士官とレーダー員は、
いつもDRT(推測航法トレーサー)と海面プロットテーブルの前で
パネルを見つめ続けていました。
彼らは、CICで収集された情報を分析し、ブリッジの指揮官または
デッキの士官に助言を伝えました。
時折、音声無線トラフィックが、他艦のブリッジの「Squawk Box 」
(スコークボックス)との間で送受信されるのを聞くことができました。
ちなみにこれがスコークボックス。
これが先ほどから話題になっている「プロッティング・ボード」です。
ここにレーダーの海面または空中で接触した相手の情報が記され、
敵か味方かが特定されました。
さて、CICのつぎはパイロットハウスです。
ここにあるのは「ステアリング・ステーション」操舵装置です。
ボランティアの解説員のおじさんが張り切って説明してくれていますが、
彼が手をかけているのは上部が、
「エンジン・テレグラフ」(Engine Order Telegraph)
速力通信機、そしてその下の部分は
「エンジン・ターン・レボリューションズ」
(Engine turn revolutions)
という操舵装置の一部です。
操舵手が立つ足場には必ずこのようなラティス状のマットがあります。
長時間立つので疲れを軽減させるとかいう機能があるのでしょう。
今日自衛艦の同じ場所にはシリコン?のような
衝撃吸収のマットが敷いてあります。
天井にあるのは伝声管だと思われます。
エンジンテレグラフ・レボリューションズの右側の機器は
エンジン・オーダー・テレグラフ・レピータ
(Engine Order Telegraph Repeater)
そしてこの長年の使用でピカピカに磨き込まれたのが、
ヘルム(Helm)操舵
です。
操舵手のことを「ヘルムスマン」といいます。
いま解説員が手を置いているところに
マグネティック・コンパス
があります。
コンパスの内部が見えるように外側をカットしてあります。
操舵手の補助を「The Lee Helmsman」といいます。
リー・ヘルムスマンは、エンジンオーダーテレグラフを使って
正確な1分あたりの回転数を示す「ノブ」を機関室に命令を送ります。
解説員と彼が手を置いているマグネティックコンパスの間に
少しだけ見えているのが「レピータコンパス」です。
あとで大アップにして撮っておきました。
ヘルムスマンのように操舵装置に手をかけて記念写真。
こちらに見えているのが「ノブ」で、
「前進全速」など伝達される速度表示が書かれています。
ここで示される速度の種類を書き出しておくと・・・。
同じパイロットハウスの前方部分。
パイロットハウスの艦首側にはチャートデスクがあります。
この場所から撮ったらしい写真がありますが、物凄い時化ですね。
今同じところから見えるのは波一つないハドソン川の流れです。
パイロットハウス外側には20ミリ機関銃座が一基設置されています。
外側にあるのがシグナルブリッジです。
シグナルブリッジは、「スレーター」から発信される視覚信号の中心です。
信号は艦長または甲板士官から発せられ、信号機によって他の艦に中継されました。
これらの信号は、3つの方法のいずれかで中継されました。
まずその一つは手旗信号です。
英語ではSemaphore、セマフォといい、コンピュータ用語では全く別の意味です。
手旗信号は昼間しか使用できませんが、最も素早い通信手段です。
二つ目は信号旗を使っての通信。
信号旗はアルファベット順に大きなキャンバス布で覆われて
「フィンガー」と呼ばれるフックに掛けられています。
フィンガーに掛けることで空気を循環させ、カビの発生を防ぎます。
シグナルマンは必要な旗を一緒にクリップしてメッセージを作成し、信号を上げます。
信号旗は、コースと速度の変化を示すために使用されます。
旗艦は指揮官旗を揚げます。
艦隊の附属艦は同じ信号旗を揚げて指令を受け取ったことを示します。
指令が実行されると、旗艦はホイストを落とし、周囲の船は規定の操縦を実行します。
そして三つ目の通信手段が発光信号です。
船舶は、12インチおよび24インチの信号灯を点滅させ、
モールス信号を送信する昼夜システムを使用していました。
これは迅速なコミュニケーションの方法でしたが、夜間は、
自艦の位置を明らかになるためほとんど使用されず、
そのかわり赤外線フード付きレンズで光をマスクしていました。
実はこの一階上にはフライングブリッジがあります。
レベル03であるここはキャプテンズブリッジとも呼ばれています。
この前方には「サウンドハット」(サウンド小屋)、別名
ロイヤルネイビーの薬棚(意味不明)があり、そこには
ソナースタック、タクティカルレンジレコーダー、
攻撃プロッターなどがあります。
外側の隔壁には、目標方位指示器、ジャイロコンパスレピータ、
インターコムなどの船舶制御用の計装が搭載されています。
さて、このあと、見学ツァーはもう一度メインデッキに降りました。
続く。