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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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"K"砲(ディプスチャージ・プロジェクター)〜USS「スレーター」

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ハドソン川沿いに係留されて冬期を除き公開されている
USS「スレーター」の見学ツァーで見たものをご紹介しています。

ところでなぜ冬の間見学がクローズになっているかというと、
ここオルバニーは内陸部で冬は猛烈に寒く、零下14〜5度になるので、
ハドソン川もその時には凍ってしまうからだそうです。

川が凍るくらいなら、軍艦の展示ぐらいできるのでは?
と思ってしまったあなた、あなたはニューヨークの寒さを甘く見ている。

年末に洗濯機を買うために大型電気店を歩いていて、
ついいつもの癖でカメラのコーナーで立ち止まって商品を見ていると、
「零下10度の気温でも大丈夫」という宣伝文句のカメラがありました。

つまりそれは日本のカメラの中では特に寒さに耐える仕様らしいのですが、
零下10度が限界では楽勝でオルバニーでは使えないという意味だとわかり、
ちょっと愕然としてしまったということがありました。

川が凍る、というのは我々のような亜熱帯に住む人間にとって、
肌感覚すらとても想像できないくらいのバッドコンディションです。
たとえばその間軍艦の上など歩こうものなら、たちまち凍りついた
デッキやラッタルで転倒する人続出は間違いありません。

公開する方も毎日の仕事を氷を割ることから始めなくてはいけませんし、
いかにボランティアでもそんな仕事をしてくれる人がいるとは思えません。

 

たとえばこの部分を制作したのはペンシルバニア州のピッツバーグ、
シカゴ行きの飛行機の出発を待っていたときなのですが、
冬のピッツバーグは夏しか滞在しないわたしには異次元でした。

朝ホテルを出て車に乗ろうとしたら、フロントガラスが
ガチンコに凍りついているわけですよ。

そのとき、レンタカーの後部座席に置いてあった棒切れ
(片側が小さい熊手、反対側がブラシ)の正確な用途を知りました。

真っ白になっているフロントグラスをまず熊手で掻いてみましたが
細く筋ができるだけで何の役にも立ちません。
反対側のブラシで撫でてみても当然のことながら何も起こりません。

そこで、車内に戻り、パネルを凝視したところ、フロントガラスを温める
スイッチの「マックス」というのがあるのを見つけたので、

「テー(撃て)!」

とばかりにこのモードのスイッチを乾坤一擲で押すとあら不思議、
凍りついていたグラスがあっというまに溶け、3分後には発車準備OK状態に。

ピッツバーグは五大湖の一つエリー湖に近いだけあって猛烈な寒さなので、
車も寒冷地仕様に工夫を凝らしているようで、たとえば車に乗ると
何もしないのにハンドルの持ち手(手で握るところ中心)が
じわあ〜〜っとあったかくなってくるという体験を初めてしました。

よく、

「日本には四季がある」

ということを日本特有のものとして誇らしげにいう人がいますが、
世界レベルで見ると決してそんなことはありません。

ビバルディの住んでいたイタリアだって、四季があったからこそ
彼だってあの名曲を残したのですし、ボストンもニューヨークも
そしてここピッツバーグも、普通にはっきりと春夏秋冬があるだけでなく、
どちらかといえば大抵が日本よりその寒暖差は激しくてメリハリがあります。

ある程度北にあるのに「四季がない」サンフランシスコのような土地こそが
むしろ珍しいと言ってもいいのではないでしょうか。

さて、上部構造物階後方の20ミリ、そして40ミリ砲座を見学し、
ツァーはガイドに導かれてふたたびメインデッキに降りました。
わたしはラッタルを降りる前にこの写真を撮りましたが、
もし冬だったらこういうところは凍りついていて上がれなかったでしょう。

見学の二人の頭上にある救命ボートは、万が一の場合
緊縛を解いて海上に滑り落とせるようにラックが斜めになっています。

現在、艦と艦が並んで「目指し」に接舷する場合、間に入れる防舷物は
硬化ゴムの風船のようなものですが、そういう便利なものがなかった時代には
このような民芸品の佇まいを見せる舫を編み込んだクッションを使ったようです。

この「スレーター」博物館のすごいところは、どんなディティールも疎かにせず、
こだわり抜いて本物の展示品を集めてきたというところです。
どんな防舷物を第二次世界大戦時に使用していたかなんて、おそらくは
誰も気づきもしないし興味も持たない些末なことに違いないのですが、
それをあえてやってのける、それに痺れる憧れるう(棒)

メインデッキ後方には大きな打ち出の小槌状の武器が
舷に面していくつも並んでいました。
これまでいくつかアメリカで軍艦を見てきましたが、
もしかしたらこれは初めて見るかもしれません。

(わたしのことですので忘れている可能性もありますがそこはそれ)

これは日本語でいうところの爆雷投射機、英語でいうところの
ディプスチャージ・プロジェクターです。
たしかこれの両舷投入タイプが江田島の第一術科学校に展示してあって、
そこで説明したことがあったかと思いますが、ここにあるのは片舷から
爆雷を投入するタイプなので「K型」つまり英語でいう「Kタイプ」です。


MK6ディプス・チャージ・プロジェクターは、一度に発射できる
数を増やすことにより、広範囲を攻撃することができるように開発されました。

艦尾の後部から投下するドロップラック方式の爆雷は、
第一次世界大戦で有用な戦略でしたが、第二次世界大戦の頃になると、
既に潜水している潜水艦は後部からの爆雷を回避できるようになりました。

海面下の見えない敵を爆雷で攻撃するためには、一方からの投下でなく
より広範囲に、様々なパターンでアプローチを行う必要があったのです。

この問題を解決するためには、いわばディプスチャージの「カーペット」で
敵潜水艦を包むような状態を作ることが有効とされました。
そのために、爆雷を多く、できるだけを遠くに投げ込む方法が模索されました。

この目的のために第一次世界大戦の後半開発されたのが

「K砲」(K-gun)

です。

これは左右両舷から同時に2つの爆雷を発射するプロジェクターでした。

従来の「Y砲」は、その名の通りYを形成する2つのバレルで構成されます。
各バレルには爆雷の投射プロジェクターが設定され、艦から数百フィートの距離に、
装薬を装填して投射するというものでした。

これは対潜水艦戦の実に効果的な対策でしたが、欠点もありました。
必ず艦の中心線に機器を備え付けなければならないわけですが、たいてい
そこは何かと装備が多く、スペースを確保するのが難しかったのです。

そのためY型のシングルバレルバージョンである「K砲」の登場となったのです。

メインデッキの両舷に沿っていくつも搭載できるという省スペース型で、
一台につき1発の爆雷を投下することができました。

投射できる爆雷の数が重要なので、一般に駆逐艦ではこれを
メインデッキの両舷に4基ずつ、合計8基装備されることになりました。

さて、案内のおじさんがかっこよくディプスチャージの前に立ちました。
これから何か実演してくれるようですよ。

まず、腿の高さのところにある蓋を開けます。
普通にあければいいのにわざわざ体にひねりを入れるあたりが
この解説員の美学みたいなのを感じさせないでもありません。

やって見せてくれているのは爆雷投下までの過程です。
投入しているのは「カートリッジ」だと説明していました。

この切り株のような部分は「ブリーチ・メカニズム」という名称です。
銃尾とか砲尾のことを英語で「Breech」(bleachではない)といいます。

カートリッジには標準重量の黒色火薬が装填されています。

下の丸い部分は「エクスパンション・チャンバー」。
ここで火薬の爆発を起こしエネルギーに変えるようです。

正確なメカニズムについてはよくわかりませんでしたが、
紐を持つ=蓋を開けている間はカートリッジは支えられているようです。

紐から手を離すと、カートリッジがチャンバーに投下され、
点火されることで爆薬が投下される、ということのようです。

爆雷を支える左のアームの部分は「アーバー」といい、この底部に対する
推進薬の作用により、ディプスチャージが発射されます。

アーバーは円柱状の装薬に取り付けられたままですが、
爆雷はその度にティアドロップモデルから解放され投下されます。
したがって、アーバーは深層装薬が発射されるたびに消費されます。

一回撃つと次の投射にはこの部分を取り付ける必要があるというわけですね。

ふぁいあー!と本当に射撃しているようにみえますが、
これは爆薬をセットしていない空砲です。

この写真を見ておわかりのように、「スレーター」では
このように時々本当に点火してみせてくれるようです。

この写真で実演を行っている人の持っている紐は、
ここで見た点火のふりデモンストレーションの十倍くらい長いものです。

デモを見ている時にはなぜ紐で閉めないといけないのか
わからなかったのですが、これを見て初めて納得いきました。

デモンストレーションであっても紐が短ければ
至近距離で爆発が起こることになり大変危険だからです。

K砲は、砲尾機構を備えた拡張チャンバーに取り付けられた
滑らかな穴のバレルで構成されています。
砲尾のプラグには、甲板で行う投げ込み式、またはブリッジから制御される
電気的発射によって発射できる発射メカニズムが搭載されています。

プロジェクターは固定されていますが、インパルス電荷の重量を変えることで
爆雷を投げ込む範囲を変更することができます。
範囲は60ヤード、90ヤード、および150ヤードが選択できます。

彼らが爆雷のプロジェクターの説明を聞いているその後ろには
従来型の艦尾から転がして落とす爆雷のラックがあります。

これは駆逐艦タイプの艦で運用されていた戦前の主な対潜兵器で、
このラックは、基本的には爆雷が置かれた傾斜レールのセットであり、
一度に一つのの爆雷を放出するように配置されていました。
典型的なラックは、MK6爆雷の最大搭載数12のものです。

爆雷は自重で後方に転がっていき、後戻り止めに支えられます。
投下の際はリリースレバーを操作すると、後戻り止めが押し下げられ、
最初のチャージがラックから水の中に投下されるというわけです。

1発目の投下と同時に前方の戻り止めが上昇し、2番目以降の爆雷を止めます。
ラックコントロールが元の位置に戻ると、戻り止めが逆方向に移動し、
次の爆雷が落下位置に移動し投下の順番を待つ状態になります。

ところで、帰ってきてからふと思いついて「眼下の敵」と言う映画を観ました。

ドイツのUボート(艦長がクルト・ユルゲンス)と戦う駆逐艦上で、
乗員がこの爆雷の転がるラックに手を挟んでしまうシーンがあり、つい
「痛っ!」
と画面に向かって叫んでしまいましたが(皆さんもそうだったでしょ?)
実際にそんな事故が起こる可能性があるのか、これを実際に見ると
ちょっと不思議ではあります。

実戦中でパニクっていてやらかしちまったということなのかもしれませんが、
この乗員は結局手を切断することになってしまって気の毒でした(-人-)

 

ラック内の爆雷は、油圧操作レバーを介して2つの場所から投下できます。
駆逐艦で最も一般的な場所は、2つのリリースレバーとサージタンクが配置された
フライングブリッジの右舷側からでした。

ディプスチャージは、各ラックのすぐ隣にあるリリースレバーによって
局地的ににリリースすることもできます。
投下する前に、潜水艦の推定深度に基づいて、爆雷の爆発メカニズムを、
ブリッジからの命令に従って手動で事前設定する必要がありました。

また追加のディプスチャージは艦尾ハッチの下に積み込まれ、
人力で引き上げて積み込むことができました。
しかしこれはなかなか骨の折れる労力を要するプロセスだったようです。

それが引き揚げられたのがこの甲板中央のハッチからです。
一階下の武器庫からダビッドで弾薬を吊り上げました。

右側のスピーカーからはジェネラルクォーターズが鳴り響きました。

「ジェネラルアラームがなったら各自の持ち場に行け」

と赤のパネルに書いてあります。

メインデッキの後方、ディプスチャージ・プロジェクターと
ディプスチャージ・トラックの間には、20ミリ砲のマウントが二つ、
背中を合わせるように並んで装備されています。

ディプスチャージは対潜戦のための武器ですが、ここに唯一ある
対空戦の武器ということになります。

アームにぶら下がっているように見える袋は、おそらく薬莢が
自動的に取り込まれるものだと思われます。

 

さて、後甲板にある武器の説明が終わりました。
艦内ツァーの最後は、この一階下にある部分です。
そこには何があるのでしょうか・・・・?

 

続く。

 


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