先日、わたしには全く覚えのない個人名の不在配達が入っていて、
はて、いったいどなただったかしら、と思いつつ受け取ると、
送り主は昨年秋に命名・進水式に立ち会った
潜水艦「とうりゅう」の艦長でした。
そりゃ名前に記憶がないはずだ。
今まで出席した進水では、潜水艦の名前が刻まれた
しおりなどの小さな記念品が頂けることもあったのですが、
「とうりゅう」の方々は、年が明けてから
何か送ってきてくださったようです。
この記念品をご紹介します。
これは命名式の日もいただいたのですが、記念絵葉書です。
パッケージはクッション入りの封筒だったのですが、
中から出てきたのがこれ。
「潜水艦 闘龍」
とあえて艦名を漢字で表記してあり、
「支鋼」
と書かれています。
木箱の大きさは、へその緒を入れるものと同じ。
外径9cm×7cmの箱の蓋を取ると、蓋側には
冒頭写真のカードが貼り付けてあります。
木箱の内寸にきっちり合わせて縮尺したらしく、
字が明確に写っていませんが、元々ですので念のため。
ここに
「支鋼の由来」
として、説明があります。
志鋼とは、初めて艦を海に浮かべる儀式(進水式)
において直前まで大地に支えておく鋼のことです。
艦の進水式は、人の誕生に等しく、
母なる大地を巣立ち大海にその雄志を現したときから
艦の一生が始まります。
志鋼は、艦にとり「へその緒」ともいうべきものであり、
無事に進水した艦の支鋼は、誕生にもちなんで、
安産のお守りとされております。
ここに納めている支鋼は、令和元年十一月六日に進水した
潜水艦「とうりゅう」の支鋼の一部です。
なるほど、まるでへその緒の入れ物みたい、と思ったはずです。
それは偶然ではなかったということだったんですね。
そしてこれがそのときの支鋼(の一部)というわけです。
蓋を開けてみたときにはもやい結びのレプリカかな、
と軽く考えてしまったのですが、とんでもない、
進水式の時に「とうりゅう」を支えていた支綱、
山村海幕長が切断しその艦体が進水台を転がり落ちる寸前まで
あの巨体を支えていた(厳密には違いますがここは空気読んで)
本物の支鋼の一部です。
一度使用した支鋼が再利用されることはないので、それは
しばしば小さく刻んで安産のお守りにすることがある、
という話は今まで調べたなかで知っていたことでしたが、
まさかその実物を実際に頂けるとは!
支鋼は3センチくらいの大きさにしっかりと結んであり、
現物がそうなのかどうかはわかりませんが、まるで
防水加工がしてあるようなロウ引きの感触です。
結んだ一つ一つを紅白の布を貼った台に付ける作業も
きっと手間のかかったことでしょう。
こういう作業は造船会社がしてくれるものでしょうか。
それとも業者が?
もしかしたら乗員の方々が・・・・・?
潜水艦マークの(線描きのマークは初めてみた気がします)
入った「とうりゅう」艤装員長からの手紙も同封されていました。
これもせっかくですので本文をご紹介します。
謹啓
向春の候、皆様におかれましては益々ご清栄のことと
心よりお慶び申し上げます。
さて、第八一二七号艦は、去る十一月六日
川崎重工業株式会社神戸工場において「とうりゅう(闘龍)」
と命名され、無事進水致しました。
ぎ装業務開始以来、一方ならぬご厚情を賜り、
誠にありがたく謹んでお礼申し上げます。
今後は、皆様のご期待にお応えすべく、令和二年度末の就役に向け、
最高の潜水艦造りに邁進する所存ですので、今後ともご指導、
ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
末筆ながら、皆様益々のご発展と一層のご活躍をお祈り申し上げます。
謹白
令和二年二月吉日 とうりゅうぎ装員長
「最高の潜水艦造りに邁進する」
という言葉が淡々とした定型の挨拶の中で光って見えます。
「とうりゅう」の乗員の方々のアイデアによるものでしょうか。
進水式という艦の誕生の瞬間を幸運にも目の当たりにした者にとって、
この贈り物がいかに感動的なものであったか。
それを読者の皆様にお伝えしたく、ご紹介させていただいた次第です。
「とうりゅう」乗員の皆様、どうもありがとうございました。
「最高の潜水艦造り」に向けて、頑張ってください。