何年にもわたってでれでれとお送りしてきた「ミッドウェイ」シリーズ、
ようやく最終回にたどりつきました。
ハンガーデッキには体験型のアトラクション始め、空いたスペースに
実際の艦載機などのイジェクトシートに座れるコーナーなどもあります。
ヘリコプターや戦闘機のコクピットの部分だけを輪切りにして、
乗り降りのためのステップを設けて子供でも簡単に
操縦席に乗り込むことができるようにしてあったりとか。
国内最大級の空母型軍事博物館は、保存団体や企業、
もちろん海軍と国からの支援もふんだんにあるらしく、
いついっても保存状態がよく、最新の状態に保たれて
歴史を次世代に伝える証言者としての役目を十分に果たしていました。
ベテランや地元の有志からなるヴォランティアの働きによるところも大きいでしょう。
日本での任務を終え、ここに帰ってきたときには、まだ見られるのは一部分で
それから今日までの間、少しずつ展示を拡大していったそうですが、
その試みに終わりはなく、常に進化を続けている、それが
「ミッドウェイ博物館」なのです。
さて、3度目の来訪で満足いくまで艦内を見尽くしたわたしは、
「ミッドウェイ」が係留されているピアの隣に突き出した、
「ツナ・ワーフ」という名前の公園にいってみることにしました。
ここにはいくつかのウォー・メモリアルが設立されています。
前にご紹介できなかったこれはレイテ島海戦「タフィー3」の碑。
レイテ沖海戦で功績のあった、
クリフトン・スプレーグ中将
の胸像のまわりに、艦艇の名前がひとつづつ描かれた石が
まるで波の重なりのように並んでいます。
護衛空母
「ホワイト・プレインズ」「カリーニン・ベイ」「キトカン・ベイ」
「ファンショー・ベイ」「セント・ロー」「ガンビア・ベイ」
駆逐艦
「ホーエル」「ジョンストン」「ヒーアマン」
護衛駆逐艦
「ジョン・C・バトラー」「レイモンド」
「デニス」「サミュエル・B・ロバーツ」
これらは「Taffy 3 」という愛称を持つタスクユニットの艦艇です。
レイテ沖海戦ではいろいろあって、「ジープ空母」といわれる小型空母と、
「ブリキ缶」と呼ばれる駆逐艦からなるタフィー3は、栗田艦隊の
戦艦4隻(18インチ主砲大和含む )、6隻の重巡洋艦、2隻の軽巡洋艦、
11隻の駆逐艦
を迎え撃つことになってしまったのでした。
結果、「ホーエル」沈没。
「ジョンストン」沈没。
「ガンビア・ベイ」沈没。
「サミュエル・B・ロバーツ」沈没。
「セント・ロー」沈没。
しかし、彼らは返り血を浴びせるような戦いで栗田艦隊に
「鳥海」沈没を含む大損害を与え、スプレーグ中将は
その果敢な指揮ぶりを後世まで讃えられることになりました。
とくに、1時間にわたって戦艦「鳥海」に近づき、攻撃を加えて
傷を負わせ、最終的に沈没にいたらしめ、最後は、「雪風」ら
駆逐艦四隻に集中砲弾を受けて沈没した、
「サミュエル・B・ロバーツ」
は、
「戦艦のように戦った護衛駆逐艦」
という尊称を与えられています。
さて、そのあとは、巨大な「戦勝記念日のキス」が立っている
公園の先端に向かって歩いて行きました。
「ミッドウェイ」の左舷を眺めることができます。
日本なら海に落ちないように柵をつけてしまうところでしょう。
ついでに、「スケートボード禁止」「遊泳禁止」という看板が
変なイラスト入りで立てられるのはまずまちがいありません。
基本的にアメリカは、(ヨーロッパもそうですが)
「こんなところで落ちるのは落ちる奴が悪い」
という自己責任論が徹底しているので、誰が見ても危険なところに
危険と書くようなアホな注意喚起の類は一切行いません。
スケボーやってて海に飛び込んでも、こんなところでやったら
落ちるのは誰だってわかるよね?というのが「普通」の考えだからです。
訴訟大国ゆえ、どんなに予防しても訴える人は訴えるので、
いちいち先回りして対処していたらキリがないと思っているのかもしれません。
時間があってサンディエゴの猛烈な暑さが気にならない人は、
写真の人のように水際に腰掛けて、より高くそびえ立って見える
「ミッドウェイ」を眺めるのもなかなかおつなものでしょう。
こういう軍事遺産が普通に観光用に展示されているアメリカという国が、
日本人のわたしからはとても羨ましく見えます。
「V.J デイのキス」の彫像があるコロナド側に向かって歩いて行きます。
ところでわたしは考えたこともなかったので当然チェックもしていませんが、
女性のスカートの下に立つと、どんなことになっているのでしょうか。
この元ネタとなった写真については、以前
V.J-DAYの勝利のキス@タイムズスクエアというエントリーで詳しくお話ししたことがあります。
そして、対日戦勝利の日を、V.J-DAYということ、また
この巨大な像のことを
”Embracing Peace" Statue
というと書きました。
そのときには知らなかったのですが、今回地図を検索していて、
この像の正式名称は
Unconditional Surrender (sculpture)
ということを知り、軽く驚いたものです。
この像に「無条件降伏」という名前をつけるとは・・・。
そして、これもちょっとした驚きだったのですが、この像、
スワード・ジョンソンという彫刻家の作品で、ジョンソンは
有名になったアイゼンシュタインの写真ではなく、同じ瞬間を
別の角度から撮っていた海軍写真班のヨルゲンセンのカットを
参考にして作っているということでした。
上半身をアップにしてみます。
全長7.6mといいますから、彼のセーラー服の襟の上に人が立ったら
帽子の上辺に手がかけられるような感じでしょうか。
わたしが最初にこれを見たとき、よくこんな大きなものを
オリジナルの写真通りに作れたなと驚いたものですが、
やはりコンピュータ技術がそれを可能にしていました。
ジョンソンはまず等身大のブロンズの像を制作し、
7.6mの発泡スチロールでモックアップ?を作り、
発泡スチロールは5千800万円、アルミニウムを1億円少し、
青銅で作ったものを1億2千300万円で売りました。
ここにあるのは青銅製のものです。
しかし全ての人がこの巨大な「キス」を良としたわけではありませんでした。
わざわざ「ミッドウェイ」の前に建てられたということで、
この真似をしてインスタに載せるカップルには喜ばれても、
その品質が隠しようもなく「チープ」で「kitsch」だ、と
審美的な点から槍玉に上がったのです。
ある否定的な意見の人は
「キッチュというのもキッチュに失礼かと・・。
ただ有名な写真をコンピュータで起こして立体的な漫画にしただけ」
キッチュというのはドイツ語です。
お洒落な意味合いを持っていると勘違いしている人もいますが、
決して良い意味ではなく、「まがいもの」とか「悪趣味」「どぎつい」
「俗うけ狙いの安っぽい映画」などで、いい意味など一つもありません。
(そういう渾名の左翼芸能人がいたけど、あの人はわかってたのかな)
「どんな擁護もまるで土産物用の工場から出てきたような品質で全て覆される」
あまりにも大きなものが海軍基地を望む海辺に建っている、
ということが、美的ではない、と考えた人も多かったということでしょう。
わたしの最初に見たときの感想は、こんなでかいものを置く場所があるのは
さすがアメリカいう程度でしたが(日本ではお台場のガンダムもすぐ無くなったし)
今回彫刻に作者がつけた題を見て、作者の無神経さにドン引きしました。
さて、ツナパークを海辺に歩いていくと、
「ボブ・ホープ」という文字が目に入りました。
同時に目に飛び込んできたこれらの彫刻群。
まちがいなく、戦地や部隊で慰問演奏を行う
コメディアンで歌手、ボブ・ホープ(1903〜2003)です。
以前、慰問ツァーで「思い出にありがとう(Thanks For The Memory)」
という持ち歌を歌うボブ・ホープを紹介したことがありますが、
生涯でおそらくもっとも多く軍に慰問に行った芸能人でした。
パフォーマンスの内容は漫談と歌。
戦争が始まったとき入隊しようとして、
「入隊するより慰問するのが君の仕事だ」
といわれた、と日本語のWikiにはありますが、英語の方には
そのようなことは全く書かれていないので、要出典です。
むしろ、英語の方には、ホープが戦争を憎むあまり、ときとして
パフォーマンスで軍隊批判をやっちまって、会場は騒然、
ブーイングが乱れ飛ぶことも何度かあったと書かれています。
両手で兵隊さんが掲げ持っているボードには
「THANKS FOR THE MEMORIES BOB」
と書いてあります。
「メモリー”ズ”」とあるので、彼の持ち歌の題名にかけて、
「思い出をありがとう」とボブにお礼を言っているんですね。
U.S.O. Bob Hope Troupe entertains U.S. soldiers on Bougainville during World War ...HD Stock Footage
座っている進行係?のワック、パイロット、傷病兵。
消防服を着ている人、上半身裸のアフリカ系。
この彫刻の題は
「National Salute to BOB HOPE and The Military」
ボブ・ホープと軍隊に対する国民の敬礼、という感じでしょうか。
サンディエゴ市、ホープの遺族、そして第二次世界大戦の
レイテ湾の生存者である海軍獣医(というのがいたのだなあと驚き)
によって2009年に寄贈されました。
ポケットハンド、片手に杖?
これもホープのいつものスタイルでしょうか。
拍手する兵隊さんの向こうに看護師とキスする水兵が(笑)
ここにくると、観光客は彫刻の間を歩き回り、
兵士たちと好きに写真を撮って楽しみます。
違和感なく馴染んでます。
ボブ・ホープを囲む兵士の数は15人。
傷病兵が多く、ホープは病院に慰問に来たという設定でしょうか。
ご存知のように、彼は「名誉軍人」とされただけでなく、一般人では
けっして与えられない、海軍艦にその名前を付されるという栄誉
(USNS『ボブ・ホープ』車両貨物輸送艦T-AKR-300)を与えられています。
ここに来ると見ることができる「ミッドウェイ」の錨。
「ミッドウェイ」艦体は固定されており、この錨が打たれることは永遠にありません。
ツナパークから見るとその巨大さはいや増して見えます。
ところで、現在横須賀に係留してある「ロナルド・レーガン」は、
これよりも全長にして36mも大きな空母であるわけですが、先日、
日本のある国会議員が、「いずも」の写真を「ロナルド・レーガン」だと
確信を持って説明していて、そのあまりの無知さに驚きました。
艦橋の形からして次元の違うもんだろうっていう・・。
サンディエゴに一度でも来てアメリカの空母群を実際に見たことがあったら、
(この人はジャーナリストとして軍事の『事情通』を任じているので、もちろん
ないはずはない)間違えるはずがないのですが・・・・。
ミリオタ並の知識は要求しないけど、議員がこれは恥ずかしくないですか?
しかもこの人、紹介していたのは「自分で撮った写真」なんですよ。
ロナルド・レーガンがいつでも簡単に写真を撮れるような場所に
係留されていると思い込む時点で、横須賀の米軍基地について
基本的なことすらわかってないってことじゃないか。議員なのに。
「ミッドウェイ」をバックに、国旗のはためく下で
パンフルート?の演奏をしている人がいました。
おそらくリュートのために作られたバロックの作品です。
しばらく聴きましたが上手かったのでお金をカバンに入れました。
パフォーマンスもこういう場所では「愛国」を強調すると
受け入れられ易いのかもしれません。
というわけで、「ミッドウェイ」の右舷全景がみえるところまで帰ってきました。
次があるかどうかもわかりませんが、もしサンディエゴに来ることがあれば、
わたしは何度でもこの場所に帰ってくるだろうと思います。
おそらくその度に彼女は新しい顔を見せてくれるに違いありません。
それに、「ミッドウェイ」は、彼女がその生涯のほとんどを過ごした
かつての母港、日本から来た訪問者を心から歓迎してくれそうではありませんか。
「ミッドウェイ」シリーズ 終わり