映画「ミッドウェイ」1976年版、続きです。
ニミッツが「ガッデム・スカルプ・ハンター」(恐ろしいやつだ)
と評したところのワシントンの海軍省から派遣されてきた
ヴォントン・マドックス大佐を演じているのはジェームス・コバーン。
マドックスは架空の人物で、コバーンのでばーんもこのシーンだけです。
何を言いに来たかというと、日本のミッドウェイ作戦は
アメリカ機動部隊を惑わすための陽動作戦だということです。
前回も書いたように、ワシントンでは、日本の真の狙いは
ハワイと西海岸だと思っていたわけですね。
次のシーンでは「赤城」艦上での軍艦旗掲揚のため、
喇叭譜「君が代」がなぜか5小節目から始まります。
「トラ・トラ・トラ!」では、三船敏郎演じる山本提督乗艦で、
「海行かば」が生演奏されるというとんでもないことになっていましたが、
この映画に関してはそんなにおかしな表現はありません。
ブリッジのウィングに立って軍艦旗を見下ろしているのは
南雲忠一中将と参謀長の草鹿龍之介少将。
草鹿を演じたのはノリユキ・パット・モリタ。
後年「ベストキッズ」のミスター・ミヤギ役でブレイクしました。
ミヤギ役は最初三船敏郎にオファーされたそうですが、
三船はこれを断り、モリタに話が行ったそうです。
ところで、南雲中将はジョージ繁田ほどイケメンではなかったし、
モリタもまた草鹿龍之介にちっとも似ていません。
本物に似ている役者は近藤信竹を演じたコンラッド・ヤマくらいですが、
これも演じられる俳優の母数が少なすぎた結果だと思われます。
旗艦「赤城」に乗艦した南雲は、航空参謀源田実がコロナ肺炎、
じゃなくてインフルエンザにかかって到着が遅れるほか、
真珠湾攻撃の立役者だった淵田美津雄が盲腸で参加できない、
と聞いてガックリ気を落とします。
ちなみに淵田自身はこの盲腸についてどう言っていたかというと、
「腹がひっくり返るほどに痛み出した。(略)
そして盲腸の切開手術をやるという。
これには私は弱った。伝え聞いた艦隊司令部も弱ったらしい。
空中攻撃隊の総指揮官が手術して動けないとあっては、
作戦にヒビが入るからである。
しかし手術をしなければ助からないという。
しかしうちの軍医長は外科の名手であって、
赤城は艦隊の手術担任艦であった。
彼はすでにメスを取り上げている。私は観念した」
「飛行甲板からは爆音が伝わってくる。私はもうたまらない。
空中攻撃隊総指揮官ともあろうものが、盲腸なんぞを患って、
この重要戦機に陣頭に立てないとはシェ〜ムである。
わたしはこっそりと、病室を抜け出した」
「やっと飛行甲板によじ登ったとき、私はクラクラと
目の前が暗くなって脳貧血で倒れかかった。
飛行甲板にいた搭乗員たちは、びっくりして、
隊長、隊長と呼ばわりながら(略)寝かせてくれた。
私は寝転びながら、手を振って(略)搭乗員たちを激励した」
相変わらずルー大柴のような淵田節が全開です(笑)
なんかこの人の描写はいちいち真面目なのかわかりかねますが、
まあそういうことで作戦に参加できなかったわけです。
ちなみに淵田は後年山本五十六を凡将呼ばわりしていて、
その根拠の一つが、このミッドウェイ海戦で旗艦「大和」が
後方から作戦指揮を執ったことであり、これが作戦の失敗と断言しています。
そして「赤城」が柱島より出航。
地元の漁師たちが旗を掲げて見送っています。
彼らに向かって甲板から帽子を振り返す乗員たち。
BGMは軽快で勇しく、心躍るような輝きに満ちていて、
さすがは油の乗り切った40代のジョン・ウィリアムズです。
ここはハワイの日系人強制収容所。
ヘストン演じるマット・ガース大佐が、息子の恋人である
佐倉春子(クリスティーナ・コクボ)を訪ねてきました。
小さな部屋に家族全員で押し込まれている収容所の一室で
春子に紹介された両親は、大佐が握手の手を差し伸べるのに対し、
丁寧にお辞儀をしています。
父親のお辞儀は、両手が体に沿って下に降りていくという
正式な日本風の仕草で(手がお尻にあったり両手を揃えるのは間違い)
彼らが日系一世であることを表しています。
二世である娘は、いきなり、初対面の海軍大佐に向かって
「Damn it, I'm an American!
ドイツ系やイタリア系アメリカ人と何が違うんですか?」
と食ってかかるアナーキーな「今時の娘」でした。
彼女がアメリカにとって有害な人物である可能性はないことは
言葉を交わしただけでわかりましたが、問題はなぜ彼女が
ハワイに来て急にトムに会いたくないと言い出したかです。
「両親は人種の違う男性との結婚に反対なんです」
(´・ω・`)
こちらが盲腸ならあちらは皮膚病。
どうしてミッドウェイの時に示し合わせたように
彼我の有名な指揮官がこんなかっこ悪い病気で参加できなかったのか、
この歴史のいたずらにはつい戦慄を感じざるを得ません(嘘)
ウィリアム”ブル”ハルゼーJr.中将は、乾癬が悪化して入院し、
やはりミッドウェイ乾癬じゃなくて海戦に参加することができませんでした。
なんでも痒さで夜は全く寝られず、そのせいで体重は9キロ減るという有様、
もうこれはいかに医者嫌いでも入院しなくては死ぬレベルです。
ダニのせいで起こる疥癬と違い、乾癬は元々の体質的な素因(白人)
精神的・肉体的なストレス(司令官の重責)、や紫外線不足(艦内生活)、
高脂肪の食生活(アイスクリーム好き)から発病するというデータがあり、
それでいうならハルゼーはかかりやすい条件を皆持っていたことになります。
ハルゼーのシーンはいずれも病院のベッドで薬を塗られて寝ているだけなので、
ロバート・ミッチャムは撮影をわずか1日で終了しました。
ニミッツが訪問するシーンでは、ハルゼーは自分の後任に
レイモンド・スプルーアンスを推薦します。
艦隊司令フレッチャーは、ワシントンの仮定を保留しつつも、
とにかく日本艦隊を待ち受けて足止めする、と豪語します。
その地点名仮称は「ポイント・ラック」。
窓の外の木が邪魔で港が見えないとぼやくハルゼーの下に
彼に機動部隊指揮官を推薦されたスプルーアンスがやってきました。
「私でやっていけると思いますか?」
「俺のやりそうなことではなく君のやりたいことをやれ」
スプルーアンス、思わず握手の手を出してしまって、
「感染りたいのか?」
思うんですけど、握手とハグ、それからパンなどの
食べ物を手で食べる文化の国でコロナの感染ヤバかったですよね。
監督は実写フィルムに極力カラー映像を選んだそうです。
これはもしかしたら本物の「ヨークタウン」?
「ヨークタウン」を視察するニミッツらがスタスタと歩いて
艦載機エレベーターに乗り込んでいますが、外付けのエレベーターは
当時の古いタイプの空母には存在しませんでした。
さらに、この後ニミッツらは右側に歩いて行きますが、
そちらに行っても何もないので、海に落ちることになります。
さて、父親に言われて春子に会いにきたトム・ガース。
彼女の気持ちを確かめるために。
「もう愛していないの」
「顔を見ていってくれ」
思わず金網越しに体を寄せ合う二人(´;ω;`)
しかし、敵国の女性と付き合うトムのことは
部隊中の噂になっていました。
「ヨークタウン」の航空参謀に任命されたガース大佐ですが、
自分の息子が乗り込んできたのに驚きます。
急な配置換えを、トムは父親が春子と遠ざけるために
同期の飛行隊長に頼んで仕組んだことだと思い込んでいます。
「俺は知らなかったんだ」
という父親に、息子は「サー」をつけて嫌味っぽく挨拶し、
敬礼してさっさと乗り込んで行きました。
これはアラメダの「ホーネット」で撮影したのではないかと思われます。
そこまで言われては父親がすたる。
ガース大佐は聞かれちゃ困る手段でFBIの極秘情報を手に入れ、
さらにコネを辿って情報部の同期と面会し、
春子の一家を本土に戻す措置を取り下げて欲しいと頼むのでした。
「俺に不正を犯せというのか?」
とためらう同期を泣き落としとキレ芸で丸め込むガース大佐、
結構なワルです。
「ヨークタウン」艦上で(後ろで艦載機整備中)対峙する親子。
拗ねる息子に、父親は、自分ができるだけのことをやったこと、
彼の上司も力になろうとしてくれたことを告げ、最後に
「お前は飛ぶことで給料をもらってるんだ、タイガー、(愛称)
写真を見て泣くためにここにきたんじゃないだろう?
しっかりするんだ!
ジャップがお前のケツにホットショットで火をつける前にな」
と叱咤するのでした。
ごもっとも・・・。
さて、こちらは帝国海軍の作戦中。
フレンチフリゲート礁で補給をした偵察機が真珠湾へ、
というK作戦ですが・・・、
敵艦がいて補給ができず失敗してしまいます。
いつの間にか真珠湾を敵艦隊が出航していたことを知り
焦燥を深める連合艦隊司令部。
アメリカ軍は22機のPBY(水上艇)で偵察を行うことを決定。
PBYカタリナ、この映画では大活躍です。
こちら、あと36時間でミッドウェイ攻撃を始めるというのに、
司令部が無線封止してしまったため、K作戦がどうなったのか、
真珠湾から機動部隊が出撃したのかもわからない「赤城」。
しかしこちらは日本がダッチハーバーを攻撃し始めたという情報を受けて、
飛行隊のパイロットをフレッチャーが激励する段階に。
スプルーアンスにも、日本がアッツとキスカを攻撃し始めた、
という情報が伝えられます。
もしかしたらワシントンの言う通り、日本の攻撃目標は
ハワイと西海岸か?という疑いを司令部が持ち出した頃、
PBYの偵察機がついに聯合艦隊を発見したのでした。
日本側も、アメリカに発見されたことに気付きました。
司令部に入ってきたロシュフォール中佐に
「君は正しかった。目標はミッドウェイだ」
ロシュフォールは喜びもあらわに、
「Enigma!」
と叫んで周りに怪訝な目で見られております。
エニグマはこの場合ドイツの暗号機のことではなく、
「謎解きがあたった」という意味で使われています。
ニミッツは、発見された攻略部隊が主部隊ではなく、
本物はあとからやってくる、とそこまで予想しました。
しかしアメリカ軍の誰もが、その予想の正しさを証明することは
この時点では不可能です。
すごく見覚えのあるシーンですが、これは「トラ・トラ・トラ!」
からの流用で、使用されている「赤城」の模型については
当ブログでご紹介したばかりです。
このシーンも「トラ×3」でしょう。(艦橋が右舷にあるし)
艦内ではインフルエンザが治った源田実が南雲中将に着任挨拶を。
出航してずいぶんになると思うけど、今までどこにいたの?
南雲長官は源田中佐にミッドウェイの北東の捜索を命じます。
さらに、索敵機以外の航空機を待機させると主張するのですが・・、
草鹿少将は第一次攻撃でかたをつけるべきだと主張。
南雲長官はこれを退け、草鹿は思わず源田相手に
「真珠湾で我々を勝利に導いた男が突然臆病になったか」
と不満を漏らしてしまうのでした。
どちらが先に本艦隊を見つけるかが勝敗を分けます。
フレッチャーは索敵機を出すことにしました。
そしてその朝を迎えました。
「赤城」艦上では出撃の準備が粛々と行われています。
このシーンももちろん既存映画からの流用です。
なにしろ、制作にあたって用意できる第二次大戦中の軍用機は
3機しかなかった(そのうち一機はPBY)ため、致し方ありません。
暁の出撃再び。
長い長い一日が今始まろうとしています。
それはいいんですが、甲板の向こう側で見送りをする整備員が、
万歳しながらぴょんぴょん跳ねているのはいかがなものでしょうか。
そこは帝国海軍伝統の帽振れだろうが!
続く。