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マットレス・ファクトリー(という名前の美術館)

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今日は息抜きに現代アートをご紹介します。

ピッツバーグにはカーネギーサイエンスセンターという最大の自然博物館と
そこにへ移設された美術館、アンディ・ウォーホル美術館がありますが、
もう一つ挙げるならば現代美術館である、

「マットレス・ファクトリー」Mattress Factory

が有名です。

例によってMKがネットで見つけてきた情報をもとに

「マットレス・ファクトリー行ってみない?」

と言い出した時には、なんのためにマットレス工場を見学?と思ったものですが、
この奇を衒ったネーミングセンスからして現代美術っぽいミュージアム、
創立者であるアーティストのバーバラ・ルデロウスキー(2018年88歳で死去)が
マットレス工場だった6階建ての建物をそのままアートセンターにしたものです。


わたしがピッツバーグという街を「鉄鋼の街」というイメージで捉えていたように、
昔は鉄鋼業で栄えたこの街も、1970年代には人口が流出して閑散としていました。

そこにルデロウスキーは最初のインスタレーション型美術館をオープンしました。

インスタレーションアートや、ビデオやパフォーマンスアートなどを公開し、
毎年75,000人以上の訪問者が訪れます。

地域、国内、および国際的なアーティスト、 650人以上よる作品が紹介されており、
その多くは美術館のアーティストインレジデンシープログラムで制作されています。

そして、ノースサイド地域の活性化の主要な触媒となっています。

ここはもともと「スターンズ&フォスター」というマットレス会社でした。
同社は今「Sealey」と名前を変えて世界展開しており、日本と取引もあるそうです。

煉瓦造りの建物の部分がほとんど残されています。

工場の建物を撤去した跡だと思ったら、アーティストの造園によるものでした。
これを「造園」とはこれいかに、といいたくなるいい加減さに思えるのは
わたしが日本庭園というもののある国の人だからでしょうか。

これはウィニフレッド・ルッツの「永続的なコレクション」です 。

かつてはイタロ-フランス・マカロニカンパニーというのがあったそうで、
基礎のように見えるのは火事で破壊された建物の跡なのだとか。

建物は6階建てです。
わたしが今住んでいるノースショアにあり、川の向こうに
ピッツバーグ大学の「学びの塔」が見えています。

(あ、言い忘れましたが、この写真はもちろん夏です。
今のピッツバーグはマイナス9〜1という寒さで、毎日雪が降り、
車は雪を溶かすために撒く薬がこびりついて大変です)

さて、それでは見せていただきましょう、と足を踏み入れた部屋。
これは作品ではなく、これから作品を「インスタレーション」する準備だと思います。
多分ですが。

常設展示のひとつ。

RepetitiveVision 草間彌生

Repetitiveというのは「反復性」「連続性のある」ということですので、
連続性のあるビジョン、ということでいいかと思います。

草間さんは同じタイトルでいくつも作品を作っているようですね。
草間彌生といえばドット、ドットといえば草間彌生なので、
どれもトライポフォビア(集合体恐怖症)にはちょっと、みたいな傾向があります。

ドットは同じ大きさのシールを貼り付けているようですね。
天井まで鏡張りの部屋に、東洋人風風貌のマネキンが・・四体かな?

一応ここの解説を翻訳しておきます。

「草間彌生の生涯の作品は、点、網目模様、強迫的に繰り返される形、
そう言ったものを利用した絵画、彫刻、インスタレーション、出来事が特徴です。

彼女は1958年にニューヨークに移住する前に画家としてのキャリアを開始し、
日本で数多くのグループショーや個展に出品しました。
ニューヨークのアバンギャルドな活動メンバーの一人として、彼女は
数多くの有名な『ハプニング』を上演し、ドットを描きました。

70年代、彼女は精神病院に入院したため、アシスタントがスタジオを維持していました。
彼女の生涯にわたる精神病と「正常」との戦いは、その仕事に注ぎ込まれ、
全てを消費しました。

擬人化された形やパターンを繰り返すイメージは彼女だけが見ることができる
幻想的なビジョンを再現します。

彼女の芸術仲間であるヨーゼフ・ボイスやルイーズ・ブルジョワのように、
彼女は生涯追求している特異な個人的なビジョンから超越的な作品を生み出しました。

彼女の作品は全て、花の壁紙の部屋の、花模様のテーブルクロスで覆われたテーブルに座り、
そして彼女の手も鼻で覆われているというビジョンから来ています。

彼女の作品の中で、鑑賞者は鏡に映り、有機的な形に遮られ、
そしてインスタレーションは彼ら自身をも壁のなかに吸い込むのです」

というわけでせっかくなのでわたしも「インスタレーションに吸い込まれて」みました。

Greer Lankton(1958ー1996)

It's about ME, Not You, 2008

「これはわたしのこと、あなたじゃない」みたいな?
MEが大文字なのは何かを意味しているのでしょう。

ここに登場する人形は彼女のアイドルと彼女自身だそうで、
もちろんそれらは彼女自身が製作したものになります。

ランクトンは生まれた時は男だったそうですが、その後
芸術においてもその人生においてもトランスジェンダーとして生きました。

この写真に写っているポートレートは展示にもあり、
彼女自身であることがわかります。

作品は38歳で彼女が亡くなる6週間前に公開されたものですが、
彼女が生涯において製作した人形が全て住んでいるのだとか。

性別とセクシュアリティの規範、そして大衆文化と消費主義のイメージ。
彼女はこれらを雄弁に探求し、そして疑問を呈しています。

彼女は生涯を通じて薬物中毒と摂食障害に悩まされており、
死んだのはこの「最後の仕事」のあと大量に薬物を取ったのが原因だったそうです。

 

James Turrel  「Catso Red」

部屋の角に四角いランプが取り付けてある作品。
この人の名前でアヒったら、こういうものばかり製作している人のようです。

https://duckduckgo.com/?q=James+turrel+mattress+factory&t=osx&pn=1&iax=images&iar=images&ia=images

タイトルは「赤」ですが、肉眼で見ると(上)ランプが赤いのか、
それとも壁を赤く塗っているだけなのかは判別できません。

しかし、同じ写真の露光量を落とすと、このようになり、
つまり壁ではなくライトそのものが赤いということがわかりました。

でっていう話ですが。

最初はマットレス工場跡だけではじまったこの美術館ですが、
インスタレーションという「現場に作品を直接設置する」という方式は
もう少し広がりを必要としたため、別館ができました。

ここは、いかにもアメリカのありがちな古い民家を買い取ったようです。

ここにインスタレーションされている作品は、

A Second Home 2016 Dennis Maher    

いかにも住人がセカンドホームで行っている作業中のようなデスクとか、
誰もが無駄に溜め込んでいる具にもつかない思い出の品とか、
まあ言ってみれば人生において必須ではない、生活の澱のような役に立たないものとか、
とにかく「誰かの生きている形跡」みたいなシーンが展開していました。

実際に民家だったところに作品を据え付けているので、
こんなこともできます。
壁に普通にある本棚の後ろの壁に穴が開いていて外界とつながっているとか。

意味や目的というものを持たせることを全く放棄したらしい模型とか。
青いガムテープは一体何なんだ。

元の民家の仕様も含めて作品にしてしまっています。

暖炉の前の椅子には・・・もう誰も座ることはできません。

トランクの中にあるのは「元椅子だったもの」のようです。

この家の住人は、かつて薪を使っていた暖炉を塗りつぶし、そこに
ガスストーブを設置するためにガスの配管を行ったらしいのがわかります。

アメリカの家は普通に100年越えが多いのですが(とくにここは地震がないから)
今でも薪の暖炉を使っているところは滅多にないと思われます。

わたしがニューヨークで借りた家も各部屋に一つづつ暖炉がありましたが、
暖房はエアコンで、今では単なる飾り棚と化していました。
薪の暖炉とエアコンの間には主流がガスストーブだったことがあるのかもしれません。

部屋というか家そのものに「インスタレーション」が施されています。
レンガの壁に丸く綺麗な穴が開けられていて、それを覗いてみると・・・

向こうに見えるのはこれ。

Rolf Julius 「Red」

あまり赤くないのですが、他の写真を検索すると赤です。
このあと赤を塗ったのかもしれません。

ただぶら下がっているのではなく、これ自体が「スピーカー」になっていて、
糸が微かに振動しているのまで含めて作品のようです。

展示には常設展示とテンポラリーがあり、これは
当時のテンポラリー展示だと思われます。

アーティストにとって、空間を与えられ、そこで
好きなようにあなたの作品を展開してください、というここの方針は
非常に想像力をかき立てられることなのだろうと思いました。

建物の外側の庭も、造園作家の「作品」ということです。
思いっきり人工的で良くも悪くも「独りよがり」なアートを散々みて
外に出たとき、このような馥郁たる香りを放つ花の咲く一角が展開されていると、
正直なところほっとするのを感じます。

それもこれも包括して人間の感性を刺激する装置を意図して
この美術館は計算されているのかなと思ったり。

庭の壁には文字を入れた陶器のパネルが並んでいるコーナーあり。

世界中で人類が使用している文字のいろいろ。

日本の平仮名ももちろんあります。

「ま」とか「ゆ」とか、やはり造形的に面白いものが選ばれているようです。

この「ローマン」って🙂にしか見えないんですがこれは。

ガラスの内側にこれがあって、どうも作品に見えないけどなんだろう、と言いながら
立ち去ったのですが、あとで(ちうか今)、この機器は、
ロルフ・ジュリウスという人の「作品」であることが判明しました。

「Music For Garden」

つまり、このときはやっていませんでしたが、庭に流れる音楽、
その空間を「作品」として創造したということらしいです。

My work is as high as the building, and fills the entire lot adjacent to it.
In this way, I have created rooms.
As the visitor moves from one room to another--either vertically or horizontally--
the experience of the work changes.

私の仕事は建物と同じくらい高く、それに隣接する区画全体を満たします。
 このようにして、私は「部屋」を作りました。
訪問者がある部屋から別の部屋に(垂直または水平に)移動すると、
それが変化するのを体験できます。

この人がこうやって機器を操作している時だけ現れる作品てことでOK?

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美術館にはチケットなしでも外から入場できるカフェがあります。
暑かったこの日、展示場全体を歩いたあと、ここで一息つきました。

しばらく流行病関係で閉館していたマットレスファクトリーですが、
2月10日に再オープンが実現するようです。

今住んでいるところはアンディ・ウォーホル美術館のワンブロック隣ですが、
ここはカフェ以外はプロトコルを定めてすでに再開している様子。

カーネギー博物館もオープンしていますが、ここもカフェはまだ
本当に美味しくて大好きだったので残念でたまりません。

次に来る時には、平常に戻っていることを心から祈るばかりです。

 

 


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