スミソニアン博物館の空母ハンガーデッキを模した
CVS「スミソニアン」の一隅には、巨大なシップモデルが展示されています。
どんな状態かというとこんな感じ。
レシプロ戦闘機ワイルドキャットの下に備えられた
ライト内蔵の巨大なケースの中にそれはあります。
空母の100分の1スケールの模型というのは圧巻です。
模型ファンならずともこの迫力には皆等しく目を見張る迫力でした。
模型ケースの端に展示されているこの盾には
この展示のメンテナンスの一部は、
USS ENTERPRISE CVN-65ASSOCIATION
によって資金提供されています。
「We are Legend」(1961-2017)
と記されています。
本家のエンタープライズアソシエーションと関係がある、
と誇らしく表明しているわけですね。
エンタープライズが就役していたのは1961年から2012年。
その名前を受け継ぐ艦は8隻目ではありますが、
原子力空母としては世界初となります。
バウデッキ左舷側にはブライドル・レトリーバーが二本突き出しています。
このブライダル・レトリーバーについては「ミッドウェイ」のログで
詳しくお話ししたことがあります。
この甲板左舷部分に駐機してある艦載機はおそらくA-7コルセアIIでしょう。
ということは模型で再現されているのはベトナム戦争時代と見ていいかと思います。
この頃はカタパルトによる射出の際、シャトルと航空機の主翼基部や胴体とを連結する
「ブライドル」「ブライドル・ワイヤー」を使っていましたが、
「エンタープライズ」の長い歴史上、特に最後の方では
このシステムは不要となり、この部分も必要が無くなったはずなのですが、
どんな時代の写真にもこれが付いているんですね。
甲板を改装することでもあれば無くしてしまったのかもしれませんが、
ブライドル射出式の名残りとして機能しなくなったあとも
あえてシンボルのように残しておいたのかもしれません。
それに、実際にあそこに立ったことのある人間として言わせてもらうと、
なかなか開放感があって他では味わえない眺めなんですよね。
軍艦は「ミッドウェイ」のように柵を立てないので尚更でしょう。
どうやら今から
偵察機Northrop Grumman E-2「ホークアイ」 Hawkeye
が発艦するところのようです。
よく見ると人の動きも非常に細部まで表現されており、
走っている緑シャツ、向こうのクルセイダーの横の赤シャツが
この場面に躍動感を与えています。
ここだけ見ていると、カタパルトがもう立ち上がっているので、
ホークアイのプロペラが回っているように思えてきます。
ブリッジの後方デッキにも航空機が満載です。
ちなみにこの甲板の航空機の現在地を統括する係が
飛行機の形のマグネットを貼り付けていくボードのことを
西洋版コックリさんを意味する「ウィジャボードOui-ja board」
という、という話は一度書いたことがあります。
最後尾に並べられているのはヘリコプター。
シースプライト、という名称が思い浮かびましたが、
自信がないので思い浮かべただけにしておきます。
艦載機エレベーターに1翼を畳んで乗っているのは、
可変翼機といえばこれしかない、グラマンのF-14トムキャットに違いありません。
そして左はRA-5ビジランティ・・・・かな?
ところで、ハンガーデッキにも何やら機影が見えるではないですか。
ほおおおおお〜〜〜〜〜!
さすがスミソニアン、こんなところにも決して手を抜かないね。
この写真はスミソニアンHPから許可される使用条件でダウンロードしたものです。
こちらで運んでいるのはA-6イントルーダー、それともプラウラー?
ハンガーデッキの中のイントルーダーさん。
この展示コーナーで最初に目撃したインテリパパの二人の息子も
この模型を前に気色満面というやつです。
男の子の模型(あるいは飛行機、船)好きってもうこの頃にはすっかり萌芽しているのね。
絶賛ポリコレ文化革命中のアメリカでは、おもちゃ売り場での
「男の子用おもちゃ」「女の子用おもちゃ」のコーナーをなくせとか
アホなことを言い出しているそうですが、自分たちの小さい時とか、
あるいは自分の子供たちが、誰もそのように仕込まないのに、
彼あるいは彼女が、赤ちゃんの時から男の子は乗り物、女の子は
ぬいぐるみや人形に手を伸ばすのをどう思っているんでしょうか。
って全く関係なかったですね。<(_ _)>
画面手前後ろ向きに駐機されているのもビジランティではないかと思われます。
甲板の上にいるヘリはCH-46シーキング、そしてその後ろは
ボーイングのバートルV-107ではないかと思われます。
どちらも「ミッドウェイ」博物館で実物を見ることができました。
この辺(甲板後部)はトムキャットの巣になっております。
ハンガーデッキにもトムキャットが。
翼を立てた状態なのでこれはクルセイダーでしょうか。
こうやって航空機を紹介していくと、この艦載模型が
ベトナム戦争当時のステイタスに基づいているのがよくわかります。
スミソニアンのHPで答え合わせしたところ、この模型は
1975年当時の艦と艦載機の構成を再現しているということでした。
模型製作者はステファン・ヘニンガーStephen Henninger 氏。
アメリカでも有名なシップモデラーだそうです。
2016年になって従来のライトをLEDに取り換える作業が行われました。
ヘニンガー氏がハンガーデッキの内部にアクセスしやすくするため、
後部右舷の艦載機エレベーターを取り外す作業をしているところです。
完成した頃はお若かったはずのヘニンガー氏も、今や立派なおじいちゃん。
しかし、作業中のこの気色満面の様子を見よ。
ヘニンガー氏は、数学の学士号を取得しており、最近、大手航空宇宙企業の
技術スペシャリストとしてのキャリアを退職したという人です。
つまり元々模型製作は本職ではなく「趣味」であったということになりますが、
引退してからは個人や企業向けのヨットやクルーズ船の模型制作をしているそうです。
彼は兼ねてから空母に興味を持ち、機会があれば模型を作ってみたいと
切望していたこともあり、スミソニアン博物館の、
USS「エンタープライズ」の1:100スケールモデルを制作する
12年間にわたるプロジェクトを引き受けたということです。
85機の航空機を搭載したこの11フィートのモデルは、1982年に完成しています。
ということは、計画が起こったのは1960年代。
「エンタープライズ」就役間もない頃だったということになります。
計画が立ち上がった頃には最新式の空母だったのが、
模型を作っている間にそうではなくなっていたということですね。
素材はプラスチックのボード、アルミニウムのシート、ポリエチレン、
真鍮とアルミニウムのチューブ、木(バルサ)、ソフトワイヤ、ベニヤ合板など。
接着のために飯田、スーパーグルー、エポキシ、そしてプラスティックセメントが使われています。
A-7コルセアII、A-6イントルーダー、SH-3シーキング、CHー46シーナイト、
A-4スカイホーク(あれ?どこにいたんだろ)F-14トムキャット
などが艦載機として制作されました。
E-2ホークアイとRAー5ビジランティはスクラッチビルドといって、
プラモデルのように組み立てキットで作るのではなく、各種材料を用いて
ゼロから制作、つまり文字通り素材から削り出して作られています。
一方、EA-6B プラウラー(うろうろする人の意味)はイントルーダーのキットを
大幅に変更して制作されました。
これら航空機の製作には全部で4000時間費やされたそうです。
航空機だけに1日10時間かけたとして・・・のべ400日!
うーん・・・気が遠くなりそうです。
完成までの模型製作の歴史
● 1970年11月、ヴァーモント州のナサ・ワロップス島で模型考案
● 1971年1月〜7月ペルーにて断面図制作
● 1972年−1975年、南アフリカのヨハネスブルグにて、ハル構造の図面化
● マサチューセッツ州アーリントンで(わたし昔住んでましたここに)艦体と航空機の製作
● 1976年コロラド州に完成したプロジェクトがUホールで運搬される
● 1982年5月26日、プロジェクト開始から11年後、艦載航空機82機が全て完成
● 1980年、二つのパーツに分けて制作された艦体が接続される
● 1982年、ハンガーデッキが接続され細部の調整と仕上げを行う
● プロジェクト完成 1982年8月
続く。