最近、何かを語りだしたらあちこち寄り道せずにはいられない傾向が高じて、
映画一つ語るのに一回のエントリに収まりません。
何の気なしに始めた「燃ゆる大空」も三回目となってしまいました。
しかも三回目にしてやっとストーリーのヤマ場にさしかかったという(笑)
さて、山村の生還祝いの夜、
「佐藤は決して不時着はせん!」
と切らなくてもいい大見得を切ってフラグを立ててしまった佐藤の運命やいかに。
といいながら、前回出しそびれた陸軍機の写真を。
キ30九七式軽爆撃機
評価の高かった九七式偵察機の構造を踏襲して三菱重工が制作しました。
実用性が高く、多くの戦場で重用されましたが、この機体を見ても分かるように、
胴体内の爆弾倉が中央にあったため、前後の座席が離れ過ぎ、
そのため
「乗員同士連絡が出来ない」
という問題があったそうです。
きっと彼らは機内で手信号を使ったので無問題。不便だったとは思いますが。
このシーンは訓練という設定なので、一人しか乗っていません。
さて、いよいよ佐藤が九七式重爆で出撃です。
今回のミッションは西安飛行場の攻撃。
機長は山本大尉の同期である奈良大尉。
佐伯秀男という俳優さんで、きりりとした顔の男前です。
2001年に91歳でなくなる直前まで
「現役最高齢のファッションモデル」
「現役最高齢のボディビルダー」
として一部で知られていたとか。
灰田克彦演じる佐藤兵曹長。
出撃前に戦闘機の山村、行本のところに行き、またもやタバコを回し飲み。
「しっかりやろうぜ!今夜夕飯後遊びにいくぞ」
あああ〜佐藤(略)
この攻撃のブリーフィングを、爆撃隊、攻撃隊ともにちゃんと描いています。
この出撃シーンですが、爆撃隊は本物なのに、なぜか戦闘機隊は模型。
と、敵戦闘機出現!
九五式戦闘機
コードネームはペリー。
戦闘機のコードネームは男性の名前が多いのですが、爆撃機は女性名です。
たとえば九七重爆は「サリー」、九七軽爆は「アン」、彗星は「ジュディ」ですね。
それはともかく、この九五式がこの映画では中国軍の飛行機に扮しています。
ポリカルポフI-15、というソ連製で、似ていると言えば似ていますが、
一番の特色である翼の形(ガルウィング)が違うので、惜しい!という感じ。
これが本物。
日本では捕獲した機体を運用していたようです。
この後空中戦あり爆撃シーンありなのですが、
どう見ても模型に思えた空中戦が本物で、爆弾投下シーンは模型なのだとか。
機体のノーズにガラスドームがあって、ここに配置されるのが機銃手のようです。
九七式の乗員は7名。
正副機長、爆撃手、射撃手二人、通信員、ナビゲーター、でいいですか?
佐藤は副操縦士です。
これも模型なんですかね。
というか、思いっきり市街地に落としてないかこれ・・・。
しかし、奈良機は右タンクに銃弾を受けます。
「右タンクを敵弾に撃ちぬかれたるも全員士気旺盛!
帰還の途に着かんとす!」
通信員に打電を命じる隊長。
それを聞く乗員たちの表情・・・・・・。
そして・・・・・・
場面が変わったらもう飛行機墜ちてるし。
円谷英二、仕事しろ(笑)
雨だれで意識を取り戻す佐藤。
やっとの思いで体を起こすと、そこには飛散した機体と倒れて動かぬ仲間が・・。
一人一人の名前を呼び、遺体を揺り動かす佐藤。
「中隊長殿!佐藤であります!」
呼びかけにかろうじて眼を開ける奈良大尉。
そして、重傷の大尉を背負って山中を歩き出す佐藤。
「佐藤、水を飲ましてくれないか」
そう背中で訴える奈良大尉に
「はい、探します」
そういってよろめきながら歩んでいく佐藤の後ろ姿。
そしてシーンは変わり、仁礼部隊。
帰らぬ奈良機を待つこと4日、
地上部隊から奈良機の乗員が全滅したことを山本大尉から聞く、山村と行本。
二人の死体が事故機から4キロ離れて見つかったことや、死亡した奈良大尉を
骨折しなかった右手だけで葬り、拳銃自殺した佐藤の最後が語られます。
どうもあっさりしすぎてないか?
特に、奈良大尉を担いで佐藤が歩くシーンが少なすぎる。
と思ったら、wikiの映画評でこんな記述を見つけました。
「瀕死の隊長を担ぎながら歩く佐藤が
『故郷の空』を口ずさむシーンは、女性たちの紅涙を誘った」
ですよね?
前半既出のこの歌、佐藤の最後の夜にも歌われるのですから、
こういうシーンにも出てくるのが映画的お約束というものです。
ところが、この、おそらく最も戦後の感覚で言うところの「泣かせどころ」が、
現在発売されているバージョンからはごっそり抜け落ちているのです。
なぜか。
散漫な情報をかき集めて推測したのですが、現在のバージョンは、
その昔、戦地慰問用に尺を短くして編集したもので、オリジナルはもう既に
この世には存在しないということのようなのです。
戦地慰問用の映画、というのはつまり、日中戦争ではなく大戦の戦地向けでしょう。
移送のため、尺を短くしてフィルムを軽くするという目的もあったと思います。
たとえば少飛の訓練のシーンで、大日向伝の山本大尉が
「最近焦燥の様子が見える」
と説教するのですが、全くそれに該当するシーンがなく「?」と思った、
と昨日書きましたが、つまりここもカットされてしまった部分で、
実はその前に佐藤なり山村なり田中なり行本なりがなにかミスをしたり、
あるいは全員がポカをやらかすシーンがあったのだと思われます。
しかしこのカット、ただ単に映画を短くする、というのだけが目的ではありますまい。
戦地で鑑賞されるためには、この映画が製作された当時よりもっと明らかな
「戦意の高揚」が映画に求められたはずです。
果たして戦地の将兵たちに、「女性が紅涙を絞るような」シーンを見せることを
日本軍の軍部が許可するでしょうか。
しかし・・・・惜しまれますね。このシーン。
というわけで、無情にもカットされてしまった幻のシーンを
エリス中尉が勝手に再現してみます。
山中のぬかるみを、奈良大尉を負った佐藤がよろめきながら歩く。
佐藤の口から、いつの間にか歌が漏れる。
「ゆうぞらはれて・・・あきかぜ・・・・ふき・・・」
佐藤は天を仰ぐ。
霞む彼の目には行本の、山村の、そして山本大尉の顔が浮かぶ。
行本、山村、待ってろよ。
食事の後の約束には遅れるかもしれんが、俺は必ず帰る。
山本大尉、大尉の戦友の奈良大尉は佐藤が命に代えても連れて戻ります。
そして田中・・・。どこかで見ているなら俺に力をくれ。
「おもえば・・・・とおき、こ・・・きょうの・・・
あ!中隊長殿!水があります!水がみつかりました!」
奈良大尉からは返事は無かった。
彼はすでに佐藤の背中でこと切れていた。
「ちゅうたいちょうどのぉ〜〜!」
しばらく呆然と奈良大尉の死に顔を眺めていた佐藤は、
決心したように、右手だけで雨に濡れた山中の土を掘り始める。
隊長の遺体を敵の目から隠すために、
そして、奈良大尉を埋めた土の上で自ら命を絶つために・・・。
完
しかし続く。