東宝映画の知られざる終末映画、「世界大戦争」二日目です。
官房長官
この世界では、具体的に米ソの名前を出さず、
東西両陣営を「連邦軍」「同盟軍」と呼んでおり、朝鮮半島有事も
38度線を挟んで起こっている、という言い方をしています。
映画公開の1961年には朝鮮戦争は既に終わっていましたが、
終戦ではなく、分断状態のまま休戦しただけなので(実は今でもね)
東西緊張が再び起こるなら同じところが導火線になると考えたのでしょう。
よもやこの時点で次の東西衝突がベトナムで起こるとは、
少なくとも映画関係者には全く読めなかったのだと思われます。
この世界の日本政府は、原水爆の使用禁止を世界に要求する、
という姿勢で一貫していますが・・・・なんだろう、この違和感。
世界唯一の被爆国だから核使用に強い発言権を持つ(はず)というこの考え、
「憲法9条があればどこも攻めてこない」というアレにに通じるような・・。
プレスクラブの運転手の間でも、アメリカの記者が本国に引き上げる、
などという噂が乱れとんでいました。
結婚が決まった恋人同士、冴子と高野。日比谷公園をそぞろ歩きながら将来に向けた希望を語り合っております。
昔は日比谷公園ってデートスポットだったそうですね。
しかし二人の会話は、とてもデートにふさわしいものとはいえません。
「今度戦争が起こったら、わずか四個の水爆で日本は無くなるんですって」
「日本は元寇の役で蒙古から火薬の洗礼を受け、広島と長崎で原爆を受け、
第五福竜丸で水爆の洗礼を世界で最初に受けた国なんだ」
映画の性質上、カップルの会話が物騒なのは仕方ないとしても、
「だから日本の若者は、決して同じことを繰り返してはならない」
なんだ憲法9条派か。
だから、被爆国日本がいくら原水爆の悲劇を繰り返してはならないと言い、
核を保有しないことを決めても、日本以外の国はどうなんですか。
現にこの映画でも、日本国内に4ヶ所「極東ミサイル基地」があって、
原爆だか水爆ミサイルを日本以外の国が管理しているというのに。
さて、その連邦国軍の本土ミサイル基地。
基地司令(ハロルド・コンウェイ)が、何を思ったか、
「ここにある核ミサイルを押すだけで世界が終わりになるんだ!」
と唐突に部下に力説し始めます。
(パネルの前の右側の人は、確か「妖星ゴラス」にも出ていたかと)
その時です。
壁の赤いパネル「The Outbreak of War」=開戦のランプが点灯し、
けたたましくアラームが鳴り響きました。
つまりミサイル発射準備発動です。
当ブログがスミソニアンシリーズ制作で得た知識によると、
当時のアメリカの弾道ミサイルはガスを充填しなければなならないので
発射までえらく時間がかかったということですが、この世界のは
すぐさま発射OK状態になるという当時としては画期的なシステムです。
発射までの承認システムも実際はもっと複雑だという記憶がありますが、
ここは上から連邦国大統領、ミサイル軍連邦国総司令、
最後に連邦軍ミサイル軍極東基地司令とランプが点けば、発射OK。
電光掲示板だけの表示なんて、もし間違いがあったらどうするの?
と他人事ながら心配してしまいます。
っていうか、起こるんですけどね。間違いが。
「神よ 我を赦し給え」
軍人も一人の、核を恐れ神を畏れる一人の人間ってか?
かっこいい場面にしたい映画制作の意欲はわからんでもないが、
これだけは軍人なら言わないだろうし、言ってはいけないことだと思う。
ぽちっとな
しかしその時です。
「アタックオーダー?アーユー・ドリーミン?」
なんと偉い人が電話をしてきました。
発射命令が間違いだったのか?
「しかし、大統領と総司令のオーダーランプが!」
「いいからすぐさま中止しろ!」
「では中止命令を出していただかなくては!」
「そんな命令は出ておらん!きっと装置の故障だ」
こんなミサイル軍は嫌だ。
ひいいいい
あと3秒というところで、エンジニアが電源をぶち切り、
なんとか発射は止められました。
電源プチっとしたくらいで弾道ミサイルみたいなものが止められるの?
エンジニアが駆け込んできていうには、誤作動の原因は回路の故障だと。
なんでそんなの電源止まった瞬間にわかるんだよ。
「Thank God, thank God・・・・」
思わず半泣きでエンジニアに抱きつく基地司令。
ハロルド・コンウェイ、渾身の演技ですが、これも多分
軍人なら絶対やってはいけないことだと思う。
茂吉はプレスクラブの運転手として38度線に転勤するワトキンスを乗せ、
オリンピックに向けて完成したばかりの首都高速道路を走っていました。
首都高の銀座付近
グーグルマップで映画と同じ建物を数寄屋橋付近に見つけました。
茂吉はワトキンスから戦争になるかどうかを聞き出そうとします。
彼の関心はもっぱら買った株が値上がりするかどうかでした。
彼が帰宅すると、妻が庭にチューリップの球根を植えていました。
彼らは春になってその花を見ることになんの疑いも持っていません。
そのころ38度線では。
ご覧の連邦国軍側の戦車群は無人という設定です。
装軌式の車体に12連装の戦術核搭載ミサイル発射台、回転式のマストを備え、
V-107ヘリコプターから遠隔操作するシステムが出来上がっています。
無人戦車に指令を行なっているV-107のコクピット。
全員東洋系で英語を喋っているので、実際なら韓国軍だと思われます。
ヘリからの音声コマンドで戦車は走行、展開、攻撃を行います。
この時代にしてはすごい先進技術といえましょう。
でも、攻撃されやすい脆弱なヘリから戦車を無線で操作する意味って・・・。
しかしそこに敵のMiG、じゃなくてMiG21をモデルにした
「MoK」(モク)という後退翼の戦闘機が現れて、
指令機のバートルごと戦車隊を壊滅してしまいました。
この時核弾頭弾が使用されたことで、一気に緊張は高まります。
日本政府は連日閣議を開きました。
国家非常事態に日本政府がどう対処するのかということについては、
映画「シン・ゴジラ」でもパロディが試みられていましたが、
この世界の日本政府もなんだかグダグダしています。
いうなら、聞こえのいい理想論とお花畑な防衛至上主義ばかり。
そもそもこんな事態になるまでに、国内に4ヶ所も核ミサイル基地を建設され
しかもその管理運用も自国でやらせてもらっていないらしいのに。
「日本政府は唯一の被爆国として強いこともかなり言ってきた」
とか言っていますが、さて、「強いこと」ってなんだろう。
「過ちは繰り返しませぬから」っていうアレのことかな。(嫌味です)
首相は最後まで諦めず、戦争回避を訴える覚悟です。
しかし気になるのが、首相の顔色の悪さです。
実は首相、肝臓の病で緊急手術をするように言われているのですが、
この状態で任務を全うしようとしているのです。
この非常時に職務を投げ出すことを潔しとしていないのかもしれませんが、
どんな要職もその人でなければできないことなどありません。
すぐに退任して、健康な人に後を任せるのが勇断というものだと思うけどな。
その夜、原爆遺族の親父から焼き芋を買った冴子は、
屋台の上に置いてある旧約聖書(ヤコブ書)を手に取ります。
そして開いたページの第4章を、思わず朗読し始めるのでした。
「汝らのうちにおける戰と争いとはいずこよりか来れる。
汝らの個体のうちに戦えるその欲より来るにあらずや」
(あなたがたの中の戦いや争いは、いったい、どこから起るのか。
それはほかではない。あなたがたの肢体の中で相戦う欲情からではないか)
彼女の声に世界の首都の風景が重なります。
「汝らが貪り得ず、殺し、妬みて取ること能わず。
争い、戦いて得ることなきはあたわざるが故なり」
(あなたがたは、むさぼるが得られない。そこで人殺しをする。
熱望するが手に入れることができない。そこで争い戦う。
あなたがたは、求めないから得られないのだ)
ニューヨークだけが本物で、あとは皆模型の景色です。
もちろんこのシーンのためだけにに模型の首都を作ったのではありません。
それは最後まで見ていただければわかります。
「願いて受けざるは欲のためにに費やさんとして悪しく願うが故なり」
(求めても与えられないのは、快楽のために使おうとして、
悪い求め方をするからだ)
「この世に対する愛情は神の仇となるを知らず。
されば、この世の友たらんとする人は神の仇となる」
(世を友とするのは、神への敵対であることを知らないか。
おおよそ世の友となろうと思う者は、自らを神の敵とするのである)
病気療養中だった「笠置丸」給仕長の笠智衆は、明日から船に戻りますが、
それまで娘(白川由美)が保母をしている保育園の手伝いをしています。
この保育園では、病気の子供を泊まりで預かってくれるようです。
横浜のホテルで雑役婦をしている母親は、週に一度娘に会いにきています。
笠智衆がいよいよ出発という時、保母である娘は
これから長い航海に出る父のために、子供たちの歌をプレゼントしました。
ところで、画面右の滑り台を滑っている男の子、
演技を全く無視して本気モードで遊びまくっています。
よっぽどこの滑り台が気に入っていたのでしょう。
「もういくつ寝ると〜お正月〜」
船員の彼は今度航海に出たら日本でお正月を迎えることができません。
目を潤ませながらお正月フルバージョン(2番まで)に聞き入るのでした。
こちら同盟国北極ミサイル基地。
ソ連軍っぽい兵士ですが、もちろん英語で喋ってます。
星を赤ではなく青にしているあたり、ちょっと気を遣っている?
この人物は現地視察中の同盟国ミサイル基地司令です。
ウォッカの飲み過ぎが、胴回りに明かな影響を及ぼしています。
なんだって北極にミサイル基地が?
北極の氷山の斜面で核弾頭の発射実験とかやってるんですが、
氷山に向けて核弾頭とか撃ってたらどうなると思います?
ほらー言わんこっちゃない。雪崩が起きてしまいましたよ。
君らアホなの?死ぬの?
雪崩のせいであちこち電源がショート、小爆発が起こり、
ミサイル基地のドアが開かなくなるわ、発射台へのトンネルが塞がれるわ、
・・・・だからこういうことも予測できるでしょって話ですが、このとき、さらにショッキングな報告が上がってきました。
「今の振動で核弾頭の起爆装置が動き出しました!」
あー、こんなミサイル軍もいやすぎる。
たかが振動で簡単に起爆する核弾頭装置って。
っていうか、連邦国軍も同盟国軍も一体何をやってるんだろうか。
その時決然と動いたのはウォッカ司令でした。(名前知らなくてごめんね)
自分が核弾頭の中に入って導線切ってくるってんですよ。
いや・・・わかんないんですけど、核弾頭って、そんな簡単に
ヒューズ剥き出しにしてチョキっと切ったりできるわけ?
この頃の核弾頭の配線って、ハンダ付とかそんな感じだったの?
「もし爆発したら、敵の攻撃と思われて、全面報復が発動される。
そうすれば世界の終わりだ!」
それは事故で自爆しましたすみませんと素直に言えばいいと思うがどうか。
あ、皆死ぬから説明する人がいなくなるのか。
と言うわけで、司令自ら装置を停止する作業に取り掛かりました。
ペンチとか入ったアタッシュケースを副官に持たせて梯子を登っていきます。
マニュアルはいらんのか。
下から部下が声をかけます。
「気をつけてください。外す時が一番危険です」
時間が迫ってきます。
5分の間に作業を済ませないと基地が全滅です。
時計が0を差し、皆が目を瞑った瞬間、
頭上ではヒューズの束を持った指令が汗を拭っていました。
いいぞ同盟国司令。ハラショー。
わたしには、ここで映画が何を言いたいかがわかりました。
この世界、誰一人として核戦争を起こしたい人なんていないわけです。
今の世界もそうでしょうが、誰一人として戦争を起こしたい人なんていない、
ウラジミル・プーチン以外は、ということを表しているのです。
じゃあなんでこうなってしまうの、ということについては
古今東西あらゆる賢人が解釈を試みてきたのですが、
結局いつの時代になっても戦争は始まってしまうのです。
今回、ウクライナで起こったように。
ちょうどその時、38度線で停戦したと言うニュースがもたらされました。
協定成立です。
連邦国軍側でも皆が喜びに沸いています。
その頃、現在の横浜の港の見える公園に、高野と冴子の姿がありました。
高野の勤務する船が急に出港することになったのです。
一度出港したら何ヶ月も帰って来られないのが船乗りの運命。
今のこのご時世、もしかしたらこれっきり生きて会えないかもしれません。
冴子は横浜まで一丁羅の着物を着てやってきました。
彼女にはその予感があったのでしょうか。
彼らはその夜、港のホテルで二人だけの結婚式を行いました。
38度線の休戦で世界がわずかばかりほっとしたその瞬間です。
ベーリング海で、連邦国軍戦闘機のF-105と、
どう見てもMiGなMoKが交戦状態に入ってしまったのです。
こちら連邦国軍パイロット。
同盟国軍パイロットのヘルメットには青い星が付いています。
MoK機は核弾頭を使用してきました。
「運命的な衝突」「世界危機」
報道がセンセーショナルな言葉で煽り立てる中、さらに、
シリア国境ではトルコ・アラブが停戦協定を破棄し交戦状態に。
ベトナムでクーデターが起こり人民蜂起、
第7艦隊と中共軍戦闘機との間に交戦が・・・・・、と
いっぺんにあらゆる紛争が顕在化してしまったのです。
この後に及んで日本は、核兵器の使用禁止を世界に訴えるだけでした。
実際なら、連邦国側の同盟として何もしないわけにはいかないので、
少なくとも自衛隊の派遣か、連邦国の後方基地として機能するでしょう。
少なくともこんな他人事みたいな態度は取って居られないと思います。
横浜のホテルで過ごした次の朝、
出港する高野の乗った船を一人見送る冴子の姿がありました。
自沈するためにオーストラリアを出港したグレゴリー・ペックの潜水艦を
涙ながらにエバ・ガードナーが見送るシーンの日本版です。
これを見て、当作品が「渚にて」を再現したかったのだとわかりました。
続く。