今回の映画は1943年、第二次世界大戦真っ只中にリリースされた
潜水艦&恋愛映画、「クラッシュ・ダイブ」です。
例によって邦題は無難な「潜航決死隊」となっていますが、
原題のCrash Diveとは、潜水艦の急速潜航の時の号令そのままです。
時期的にバリバリの海軍プロパガンダ映画でもあるのですが、
そこはアメリカ、当時大人気だった美男俳優タイロン・パワーと、
これも美人女優で人気絶頂だったアン・バクスターを絡ませ、
男性にも女性にも、全方位に受ける作りを目指しています。
なお、パワーと美女バクスターを取り合うことになる潜水艦の上官役に、
「我らの生涯の最良の年」で成功を収めた演技派のダナ・アンドリュースと、
当時としては最強の布陣で撮られたといっても過言ではない戦争映画です。
ただし、わたし個人の評価はあくまでもB級戦争映画に留まります。
その理由は戦争映画なのにロマンス要素を盛り込みすぎ。
あちこちに受けようとして、どちらからも嫌がられるタイプですね。
さらには、恋愛部分はあまりにも都合が良すぎて嘘くさいし、
肝心の戦争部分は、あまりにスリリングすぎてこれも現実味がゼロです。
戦争中のプロパガンダ映画ですから、当然ながら海軍も
これで入隊者が増えたらいいな的な意図で協力しているはずですが、
この映画を見て潜水艦に乗ろうと思う人が果たしていただろうか、
といらぬ心配までしてしまいます。
それではとっとと始めましょう。
潜水艦隊の徽章をバックに、監督のアーチー・メイヨーの名前が出たあと、
コネチカット州ニューロンドンの潜水艦隊の士官・下士官兵の皆さんに
映画制作協力についての厚い御礼が掲げられます。
ニューロンドンにある潜水艦博物館については、
当ブログで訪問の上、色々ここでお伝えしたことがあります。
この映画には、そのとき博物館で名前を見た当時の潜水艦の実物と、
それに乗り組んでいた実際の軍人たちの在りし日の姿が映し出されています。
劇中音楽担当はエミール・ニューマン。
テーマソングはマーチのリズムで「錨を揚げて」に代わり終わる、という
この頃の海軍協賛映画にはよく見られる技法によるものですが、
正直、フレーズの解決一つとっても音楽的にあまりいい出来とは思えません。
作曲者は有名だった「作曲一家」ニューマン・ファミリーの一員で、
ほとんどが低予算からなる200本以上の映画音楽を手がけた人です。
映画は撃沈された船の救命ボートが、トルピードボート、通称PTボート、
アメリカ海軍の高速魚雷艇部隊に発見されるところから始まります。
魚雷艇部隊指揮官はタイロン・パワー演じるワード・スチュアート大尉。
映画の配役には「タイロン・パワー U.S.M.C.Rとして」とありますが、
これはタイロン・パワーが映画撮影時点で現役軍人だったからです。
彼が海兵隊に入隊したのは1942年8月。
サンディエゴの海兵隊新兵訓練所(ブートキャンプ)での新兵訓練、
クアンティコ海兵隊基地での士官候補生学校に参加し、
1943年6月2日に少尉に任命されるというガチの軍人コースを辿りました。
職種は航空で、入隊前すでに180時間の単独飛行を済ませていたため、
短期間の集中飛行訓練によってウィングマークを手に入れ、
同時に中尉に昇格しています。
しかしながら、彼は当時30歳で戦闘飛行の年齢制限を越えていたため、
戦闘地域での貨物機の操縦士しかさせてもらえませんでした。
年齢さえ許せば、戦闘機で戦うつもりだったのでしょう。
1944年、パワーは副操縦士として海兵隊輸送飛行隊に配属され、
1945年2月にマーシャル諸島のクェゼリン環礁、
硫黄島(1945年2月~3月)と沖縄(1945年4月~6月)で、
貨物輸送と負傷した海兵隊員を搬送するミッションに参加しています。
そして、後年この時の任務により、三つの勲章を授与されました。
1945年11月に帰国したパワーは、現役を解かれた後も軍籍に留まり、
1951年予備役大尉、1957年に予備役少佐にまで昇進しています。
翌年に急死しなければ、おそらくその先もあったでしょう。
パイロットとしてのパワーの評判はよく、海兵隊航空隊の飛行教官は、
「彼は優れた生徒で、一度教えた手順や話したことを決して忘れなかった」
と激賞していますし、また、軍人としても優秀だったらしく、
軍隊の中からも、彼が尊敬されていたという話しか出て来ないそうです。
パワーが44歳という若さで心臓発作のため撮影中倒れて急死したとき、
(死因は劇症型狭心症)葬儀は現役軍人に対する栄誉をもって行われました。
先日ここで紹介した「緯度ゼロ大作戦」に悪役で出たシーザー・ロメロは
パワーの大親友だったため、葬儀で弔辞を読んでいます。
検索すると、撮影現場で衣装を着たまま倒れている写真も出てきますが、
彼はその目をしっかりと見開き、信じられないと言った表情で、
まさか自分がこの後すぐ世を去るとは夢にも思っていない様子です。
正直今でもタイロン・パワーの顔は華美すぎて好きではありませんが、
今回初めてこの俳優について知った一連の軍エピソードで、
現金にも個人に対する好感度は爆上がりしたことを告白しておきます。
さて、話に戻ります。
ボートの人員を魚雷艇に移そうとしていたら、潜水艦が現れました。
スチュアート大尉は一旦救助を中止し、潜水艦の攻撃を命じます。
魚雷艇というくらいですから、もちろん魚雷も搭載しておりますが、
潜水艦に対しては、爆雷を手動で落として攻撃しています。
この爆雷で、潜水艦は駆逐されました。
早速魚雷艇の功績を讃える記事が新聞の一面を飾ります。
パワー以外は本物の魚雷艇乗組員だと思われます。
(撃沈シーンで本当に操縦や通信、爆雷の投下も行っていることから推察)
パワーはこの時もう入隊していたので、写真に写っているのは
全員が軍人ということになりますね。
場面は変わり、ここはコネチカット州ニューロンドンの潜水艦基地です。
本物の潜水艦の甲板、本物の潜水艦員が写っています。
水兵さんたちはカードゲームをしているようですね。
向こうを通過していくのはUSS AG Sommes「ソムズ」という
「クレムソン」級のソナーテスト型駆逐艦です。
ソナーテスト型の駆逐艦があるということを初めて知りました。
多分本物、なぜか潜水艦のてっぺんで手旗信号している水兵。
係留中の潜水艦の上から、一体どこに何を通信しているのか。
乗艦のために岸壁を行進していく水兵たちの列の後ろから、
魚雷を搭載した運搬車が付いて行きます。
映画ではサービスとして潜水艦の魚雷搭載も見せてくれます。
さて、ここはそんなニューロンドンの潜水艦隊司令部。
司令部に呼ばれた魚雷艇長のワード・スチュアート大尉を迎えたのは、
彼の叔父であるところのスチュアート提督でした。
スチュアート家は代々海軍軍人を輩出してきた海軍一族です。
叔父スチュアートが甥スチュアートをわざわざ個人的に呼び出して、
何をいうかと思ったら、それは潜水艦への職種変換、転勤でした。
「せ、潜水艦・・・・?」(スチュアート大尉)
「潜水艦は人手がない・・・特に士官が足りんのだよ」
事情はわかりますが、PTボート乗りとしてPTボートに誇りを持ち、
他のどんな軍艦より強いPTボート最高、何ならPTボートと結婚してもいい、
ってくらいPTボートを愛しているワードに、これはあまりにもご無体です。
案の定、どんよりと暗い顔になるスチュアート大尉。
「昔経験しましたが、潜水艦は人が生活できる場所じゃないと思います」
汚くて狭くて暗くて怖くてキツくて厳しい潜水艦、
これからの人生で乗りたいとは決して思わない、とまでいうワードに、
提督はニコニコしながら有無を言わさず決定を言い渡すのでした。
軍人に配置拒否の権利なし。
ワードが不承不承頷いたそのとき、岸壁では
ちょうど潜水艦隊が出航していきました。
それを司令官室の窓(1階)から(見えるわけないのに)見送る二人。
これは2隻ともガトー級でよろしいでしょうか。
ところが、この出撃を複雑な思いで見送っている二人の軍人があります。
出航する潜水艦を羨ましげに見送る潜水艦「コルセア」艦長、コナーズ少佐と
先任下士官、チーフのマクドナルド(通称マック)です。
彼らは一日も早く戦列に加わりたいのですが、
副長のポジションが不在のままなので、出航できずにいるのです。
「出航できないので乗組員は太り、艦体にフジツボがついて・・」
やってきた潜水艦隊司令に、早速出撃できない愚痴を言い始めますが、
艦長、ご心配なく。
司令があなた方待望の副長を連れてきましたよ。
しかし、この副長とやら、どうも態度が悪い。ニコニコしながら開口一番、前職のPTボートをやめたくなかった、
潜水艦には来たくなかった、などと余計なことを言い、
艦長をイラッとさせにかかります。
軍人には無駄にイケメンすぎるのもなんだか腹立たしい。(よね)
艦長、むかつきを抑えるためタバコを吸おうとするも、切れていたので、
目の前のニヤケ男に一本もらう羽目になりました。
反発し合う軍人が、嫌々?煙草をやりとりするというシーケンスが
先日ご紹介したジョン・フォードの駆潜艇ものにもありましたね。
この映画もそうですが、煙草は男同士の関係性を表す重要なツールです。
後半、この二人は戦いを経てのち、再びタバコをやりとりしますが、
互いへの感情は、全く最初とは違うものになっているという仕組みです。
これは「厭戦的なドイツ人将校が戦場でピアノを弾くシーン」と共に、
ある時期まで戦争映画のあるあるパターンだったようです。
戦時平時を問わず兵士たちの必携だった煙草ですが、(多分現在も)
映画の画面上では煙草そのものがタブーになってしまったので、
これからこのようなシーンが描かれることはないかもしれません。
煙草に限らず、最近のポリコレはっきり言ってうんざりっす(独り言です)
ここはニューロンドン駅です。
パリッとした制服に着替えた潜水艦長デューイ・コナーズ少佐は、
ベタ惚れの恋人、教師のジル・ヒューイットが、ワシントンに
優秀な生徒を見学旅行に引率するのを見送りに来ていました。
ジルを演じるのはアン・バクスターです。
この名前を見た途端、ネガティブな感情が湧いてきたのにふと気づき、
それはなぜだろうとよく考えたところ、バクスターが演じた
映画「イブの総て」のイブ・ハリントンという役柄のせいでした。
自分を売り込むために嘘をつき、人を陥れ、枕営業も厭わず、
一流スターの座を手に入れるためには何でもする美人だが「汚い」女、
というあのキャラクターがあまりに強烈な印象だったため、
わたしは彼女が他に何に出ていたかの記憶すらありません。
そういえばこの映画で彼女が演じるジル・ヒューイットというヒロインも、
特に女性から見るとかなり反感を持たれそうな役です。
のみならず、結構非常識な女性の役で、バクスターが気の毒になります。
まず、見送りにきた恋人に、寂しいから次の列車で一緒に来て💖と懇願。
あの、あなたは教師で生徒を引率してるんですよね?無理です。いくら美人の恋人が頼んだところで、今は戦時中。
恋人は潜水艦乗り、もうすぐ出撃を控えてます。
なんだろう、もう少し公私の区別をつけませんか(ひろゆき構文)
そして、このワガママが聞き入れられないことが、
彼女にとって、のちの浮気やら心変わりやら実は愛していなかったやら、
そういう疾しさに対するエクスキューズとなる予定です。
あーやっぱりやな女だ。
彼らが遠足で向かうのは首都ワシントンD.C.です。
今ならコネチカットーワシントン間は飛行機であっという間ですが、
当時は夜行列車で一晩という長旅だったようですね。
ということで、ここで事件が起こってしまうのです。
列車にはちょうどDCに向かうワード・スチュアート大尉が乗っていました。
そして、ジル・ヒューイットが乗り込んだ自分の寝台に、
上下を間違えて、パジャマを着てすでに収まっていたのです。
しかし彼女、先客に気づかずガウンを脱いでシルクのネグリジェになり、
(昔は寝台車でこんなの着てたんだ)枕を整えて横になって、
初めて他人が横に寝ているのに気づいて叫び声を上げるのでした。
気付くのが遅すぎ。
これは、
「予期せぬ気恥ずかしい出会い、女が男に(理由を問わず)激怒」
という現在のドラマでも嫌というほどよくあるパターンで、
もちろんこの後二人は恋に落ちるという予定です。
ただ、この映画の見かけタイロン・パワー並みのイケメンですが、
これはこれでかなり問題のある男でした。
陽キャでやたら厚かましく、押しが強いんだこれが。
翌日の食堂車で生徒たちの目も構わず、グイグイ自己紹介。
彼女らのホテルの予約がキャンセルされて困っているのを見るや、
軍人枠の自分の部屋をチェックアウトして彼女らに部屋を譲り、
・・と見せかけて、彼女らの部屋に鍵を使って堂々と入っていきます。
そして、あなたはストーカーなの?と詰る教師に向かって居丈高に、
「いいか、ここは僕の部屋だぞ!」
「あなたはチェックアウトしたはずよ」
その通り。
チェックアウトした部屋に鍵を使って侵入、これは立派な犯罪です。
しかし、逆ギレしてお前が部屋を奪ったんだろうと相手を犯罪者呼ばわり。
僕は軍人だから、もし揉めても追い出されるのはそちらだと脅迫するので、
世間知らずの女性はすっかり相手に気圧されてしまいます。
「・・・ねえ、キャプテン」
「大尉だ!」
「どうか寛大な対応を」
「宥和政策には反対だが平和交渉には応じる」
つまり、部屋を出ていってやるから、その代わり夕食を一緒にしろ、
何なら朝まで自分と一緒に過ごせと。
なんだ、ただの女好きの卑怯者か。
ジルもそう思ったらしく、
「That isn't gold on your uniform - it's brass!」
(あなたの制服についてるのは金じゃなくて真鍮ね!)
言ってやれ言ってやれ。
案の定この部分は、ほとんどの評論家や鑑賞者に不評です。
戦争コメディ?ならこれもありだと思いますけど、戦闘部分が
戦時中ということもあって、シリアスなだけに皆違和感を感じるようです。
その後、大使館のパーティに彼女を連れ出したワードは、
(なぜかパーティの時だけ夏用の第二種軍服を着込むあざとさ)
すっかり浮かれた彼女にここまでやってしまい、彼女も拒否しません。
おいおい、あんた彼氏がいるんじゃなかったのか。
男はこれはいける!と次の日の夕食の約束も取り付けますが、
ジルは「ワシントンより家の方が安全」という置き手紙を残し
生徒を連れてニューロンドンに逃げ帰ってしまいました。
たった一泊で旅行を切り上げさせられる生徒もいい迷惑だ。
めげないワード・スチュアート、今度は学校まで追いかけてきました。
「君、約束を破ったね。チャンスをあげよう。今夜夕食を一緒に」
立派な変質者ですありがとうございま(略)
珍しく彼女がワードの誘いをキッパリと断ることができたのは、
今カレとのデートの予定が既に入っていたからでした。
将校クラブでのディナーの席で、何を思ったか彼女は、
いきなりデューイ・コナーズに逆プロポーズをかまします。
「結婚して」
あなたが繋ぎ止めてくれなくちゃ、あの男を好きになりそう、ってか?
デューイだって結婚したいのは山々ですが、現実的な彼は、
戦時中である今だからこそ生活に安定が必要なので、給料や家のこと、
子供の教育費のことなんかを考えると、中佐に昇進するまで待ってほしい、
と熱くなっている恋人に水を浴びせるようなことをいうのでした。堅実か。
しかしながら、恋に恋する乙女には、堅実も度を過ぎると
しらけてしまうんだよな。知らんけど。
お互い知る由もないことながら、同じ女性を好きになった艦長と副長を乗せ、
潜水艦「コルセア」がいよいよ哨戒に出航することになりました。
ちなみにこの撮影で使用されたのはUSS 「マーリン」Marlin (SS-205)で、
司令塔は姉妹艦USS 「マックレル」Mackerel (SS-204)に似せてあります。
"Takin' 2 and 3. Takin' 4. Takin' 1."
潜水艦初乗艦のはずのスチュアート大尉、ちゃんと任務をこなしています。
舫を外す順番なんて、いきなり来た魚雷艇の人にはわからんのとちゃう?
「右舷3分の2後退。左舷3分の1後退。舵中央」
これもお試しで乗ったことあるくらいでは多分無理な指示じゃないかしら。
でも普通にやってしまえるスチュアート大尉、なぜならこれは映画だから。
「コルセア」チーフのマックが、出港後も何やら具合が悪そうで、
薬を飲んでいるのを、コックのオリバーが心配そうに見ています。
オリバーはこの時代、調理係として乗り組むこともあった黒人兵の一人です。
海軍は陸軍のようにセグレゲート(人種分離)システムを持たず、
一つの船に普通にアフリカ系が勤務していました。
船を分離するわけにいかないからですね。
オリバーはマック先任が飲んでいるのがニトログリセリンで、
心臓が悪いらしいことまで突き止めますが、マックはこの黒人兵を
まるで犬でもあるかのように、うるさそうに追い払うのでした。
哨戒24日目、「コルセア」はスウェーデン船籍の貨物船を発見しました。
敵ではないので臨検を行うべく浮上し、船尾旗を掲げました。
「ブンダバー!」
あ、わかった。これドイツ人の船や。
艦長は臨検のためスチュワート副長を送ることにしました。
ゴムボートに乗る彼に「PTボートほど速くないがね」と嫌味を言いながら。
ワード、潜水艦上でもPTの素晴らしさを語りすぎて嫌われてる、と_φ(・_・
ゴムボートが近づくと、貨物船はメインマストにナチスの旗を揚げました。
このように、映画でアメリカ軍が貨物船など一般船を攻撃するときには
相手は必ず「卑怯な偽装」をしているものです。
なぜなら、戦争中であっても、アメリカ軍が軍艦ではなく
一般人殺害をするためには、理由(言い訳ともいう)が必要だからです。
船の横っ腹がどうなってるんだというくらい大きくパカっと開くと、
なんと!アメリカ製のブローニング銃がこちらを撃ってくるのでした。
副長はゴムボートをUターンさせ、潜水艦に飛び乗って急速潜航。
題名通りの「クラッシュダイブ」ですな。
「クラッシュダイブ」についてのネット情報を集めたところ、以下の通り。
通常の潜航では、潜水艦がバラストタンクで沈むため、
潜水面は最小の下降角度に設定され、ゆっくりと水没します。
しかし、クラッシュダイブを行うとき、つまり緊急に潜航するには、
タンクは浸水し、潜水面は極端な下降角度に設定され、
プロペラは実際に潜水艦を潜らせるために使われます。
緊急時とそうでない時の降下角度の違いは20〜25度もあるのだとか。
潜航後鎮座した「コルセア」に、ドイツ船は爆雷を落としてきました。
貨物船のふりをして、一体どこにY字型爆雷なんて積んでたの?
一連の爆雷に耐えた後、艦長は余裕で10分間喫煙休憩などと言い出します。
あほですかこの艦長は。
こんなもので済むわけない&潜水艦内でタバコ吸うな。
案の定この後、しつこいドイツ軍に強かに攻撃を受けるんですけどね。
再々ここで書いていますが、第二次世界大戦時代の潜水艦には
空気浄化装置が搭載されておらず、
供給された限られた空気をすぐに使い果たしてしまうため、
海中での喫煙は決して許可されませんでした。
喫煙は浮上している間のみ許可され、乗員は船体の外、甲板上、
または「タバコ甲板」として知られる司令塔の後部の特定の部分、
いずれかで喫煙することになっていたはずです。
戦時中の映画なのになぜこうなるかというと、繰り返しますが、
喫煙という行為が各所で象徴的に扱われているからだと思います。
この時も最初の出会いと同じく、艦長は煙草を切らしていて、
副長スチュアートが分け与えるということになります。
ドイツ船がしつこいのと、艦体に破損も出たということで、
艦長はおなじみ「潜水艦死んだふり作戦」を命じました。
これは後年潜水艦映画で多用されすぎて、しまいには
女性下着を放出するというネタまで(ペチコート作戦)生んだほどで、
潜水艦好きなら知らない人がないくらい有名なネタとなりましたが、
この頃はまだ情報として新鮮だったのかもしれません。
救命胴衣、服、空箱を油と一緒に海面に放出した「死んだふり」に
疑うことを知らないドイツ人たちはあっさりと騙されてくれました。
「ブンダバー」また言ってますね。
しかし副長、ここで逃げるのではなく、反撃を行うことにしました。
チーフに魚雷の装填が命じられました。
これってチーフが行うことなんかな?と素人は思いますが、
まあ人手不足ってこういうことなのかもしれません(適当)
日頃魚雷発射係をしているらしいチーフは、魚雷発射管の上に
金色の布袋さんの像を飾っていて、いざという時には
そのお腹を撫でると射撃が成功するというジンクスを持っています。
どこから来たのか布袋さん。
そして、羨望鏡を覗きながら発射指令を行う副長も、面白いことに、
両手の指を発射の瞬間鉤型にぎゅっと組む動作をしています。
アメリカ人が話しながらよくやるお馴染みのやつ。
一般に、人から聞いた言葉が実際には本当ではないと思ってるときに使うので、何故魚雷発射でこれをするのか検討もつきませんが、
現役の潜水艦乗りから取材して採用された動作かもしれません。
そして副長、魚雷が命中したのを見届けると、鉤を解き、にっこりと笑います。
このこなれっぷり、とても今回が潜水艦初勤務とは思えません。
っていうか、昨日今日PTボートから来た奴には、ぜってー無理だよね。
当時もし本物の潜水艦乗りがこの映画を観たとしたら、
んなわけあるかい!ときっと呆れてたと思うんだ。
続く。