さて、第二代目艦長であるジャック・コイ中佐の指揮の下、
第7回目の紹介を成功裡に終えた潜水艦「シルバーサイズ」。
続いて、第8回哨戒以降を検証していきます。
■ 第8次哨戒〜自分へのクリスマスプレゼント?
第8次哨戒の日付を書いていて、「シルバーサイズ」が哨戒中に
クリスマスを迎えていることがわかりました。
戦争中なので、クリスマスだからといって休んでいいわけもなく、
ましてや戦争している相手はキリスト教ではない日本。
第一次世界大戦の時のドイツとフランスのように、クリスマスは停戦して
その日は中間地帯でサッカーして次の日は戦いましょう、
みたいな心温まるアクシデント的融和があるはずもなく、
イブだろうがクリスマスだろうが、粛々と戦争遂行するしかなかったのです。
戦時中に生まれ、現在も歌い継がれているスタンダードナンバーには、
You'd be so nice to come home to(帰ってくれたら嬉しいわ)1942年
Helen Merrill with Clifford Brown / You'd Be So Nice To Come Home To
I'll remember April(四月の想い出)1941年Jo Stafford ~ I'll Remember April
など、戦地に行った兵士を思う歌が数えきれないほどありますが、
特にこのクリスマスを家で迎えることを夢見る兵士とその家族のために
特別にクリスマスソングが生まれたりしました。
I'll Be Home For Chiristmas(クリスマスを我が家で)
Have Yourself a Merry Little Christmas(どうぞ楽しいクリスマスを)
などは彼らのために書かれたものですし、ビング・クロスビーの
White Christmas(ホワイトクリスマス)
も戦時中の兵士と留守家族の心を捉えてヒットした曲です。
現代のアメリカ海軍潜水艦の皆さんは、
次のような雰囲気でクリスマスを祝っているようです。
'Twas the Night Before Christmas - Submarine Style!
この年、「シルバーサイズ」の乗員たちは
どんな形でクリスマスを祝ったのでしょうか。
さて、クリスマスの話はともかく、第8次紹介の戦果です。
例によって、「シルバーサイズ」戸棚のペイントから参ります。
● タンカー 7,000トン
●輸送船 5,500トン
●貨物船 3,500トン
●貨物船 3,000トン
●タンカー 6,000トン
これまでの哨戒で「シルバーサイズ」は、撃沈撃破の認定もさる事ながら、
結構いい加減な船名を確信的に記していたわけですが、
今回は怪しげな確定を全く行わず、船種だけの記述に留めています。
艦長が2代目のジャック・コイ中佐に代わり、
実際は撃破していたのにそれを撃破とせず、
「戦果なし・魚雷の発射もなし」
と妙に腰の引けた報告をしていたことから想像するに、
このコイ艦長は、超慎重な指揮官なのではと思ったのですが、
今回、そうでもなかったことがのちに判明します。
それはともかく、まずアメリカ側の記述でこれがどうなっているか見ます。
🇺🇸
シルバーサイドは第8次哨戒でパラオ諸島沖を哨戒し、
1943年12月29日に敵の貨物船団に大打撃を与え、
「天保山丸」、「七星丸」、「リュウトウ丸」を沈没させた。
それでは、日本側の記録です。
🇯🇵
12月4日
「シルバーサイズ」は8回目の哨戒でパラオ方面に向かった。
12月26日
午前にパラオ西水道付近で病院船を目撃した後、
午後には北緯07度37分 東経134度29分の地点で
5,000トン級輸送船を発見して魚雷を4本発射したが、
魚雷は全てサンゴ礁に命中して爆発した。
珊瑚礁を傷つけるな〜!!!(怒)
12月29日未明
北緯08度13分 東経134度05分のパラオ北西400海里の地点で
オ806船団をレーダーにより発見。
未明1時50分、北緯08度00分 東経134度00分の地点で
まず艦尾発射管から魚雷を2本ずつ計4本発射し、この雷撃を
陸軍輸送船「備中丸」(日本郵船、4,667トン)は、
1本は回避したものの、もう1本が命中して損傷する。
これは、アメリカ側の記録にはありませんが、
おそらく戸棚の2番目の輸送船(5,500トン)のことでしょう。
撃沈させていませんし、相変わらずトン数を盛っていますが。
2時48分頃から3時頃にかけて
北緯08度03分 東経134度04分の地点で魚雷を3本ずつ計6本発射し、
陸軍船「七星丸」(興運汽船、1,911トン)
の右舷に魚雷2本を命中させ轟沈させる。
4時前後には北緯07度50分 東経134度21分の地点で
五度目の攻撃として魚雷を3本発射し、
海軍徴傭船「天宝山丸」(菅谷商事、1,970トン)
の船倉付近に1本を命中させて撃沈。
明け方には北緯07度54分 東経134度08分の地点で魚雷を計3本発射し、
輸送船「隆東丸」(中村汽船3,311トン)
の中央部に2本命中させて撃沈した。
「七星丸」「天保山丸」「隆東丸」と、珍しく
アメリカの記録と日本の記録が3隻も一致しました。
問題は、戸棚の一番上に書かれた7,000トンのタンカー撃沈です。
「シルバーサイズは、年が明けた1944年1月5日に、
北緯11度15分 東経135度08分の地点で2隻のタンカーを発見し、
魚雷を4本発射していますが、いずれも命中せず、逃しています。
もし7,000トン級のタンカーを撃沈していたら、
潜水艦にとってはもう大金星のはずですが、残念ながら、
それに相当する撃沈された船について日本側の記録はありません。
他の船ならともかく、タンカーを仕留めたかどうかは
かなり明確にその結果がわかると思うのですが、
どうして魚雷がかすりもしなかったタンカーを撃沈したことにしたかな。
艦長もえらく大きく盛っちゃったもんですが、
あっ・・・もしかしてクリスマスだったから
自分たちにプレゼントしたとかか?
1月15日、シルバーサイズは42日間の行動を終えて、
この時はミッドウェー島に帰投しました。
■潜水艦でのエンターテイメント
クリスマスの話が出ましたので、ついでというか、
「シルバーサイズ」におけるエンターテイメントについてお話しします。
乗員の中には、2ヶ月以上日光を見ない人もいます。
当然のことながら、退屈はすぐに艦内に蔓延します。
そのため海軍は、私たちを満足させ、士気を維持させるために、
わたしたちに最高のものを提供することに労を惜しみません。
まだ一部は劇場で公開されていない映画のコレクション。
自分たち専用の映画館と全く同じ機能の素晴らしい映写機などです。
(あまり一般の人には言わない方がいいかもしれません)
艦内の図書館にはゆうに200冊以上の書籍や雑誌 が あり、
しかもそれらは寄港するたびに新しいものに入れ替えることができ、
プレーヤーとあらゆるジャンルの膨大なレコードもあります。
わたしたち乗員のほとんどはトランプを持っています。
艦内では皆がポーカーやエーシー・ドゥーシー・トーナメントをやります。
Acey-deuceyとは、テーブルゲームの一種です。アメリカの潜水艦を見学したことがある方なら
乗員用の食堂のテーブルにプリントされている模様を見たことがあるはず。
あれはバックギャモンですが、これと似たゲームのようです。
第一次世界大戦以降、アメリカ海軍、海兵隊、
商船隊(つまり海の軍隊ですね)のお気に入りのゲームとなっています。
ところで、こういうゲームの時に、大型艦の艦長と違い、
何かと腰の低い(海軍なのに階級差が見かけ厳格でない)潜水艦長は、
頻繁に下士官兵とこの手のゲームを楽しみ、そして
他の兵士と同様よく負けると言うのが定番になっているようです。
そのことを、ここの説明では
「素晴 らしい イコライザーでした!」
と称賛しているのですが、イコライザーというのはどういう意味でしょうか。
平等をもたらすものと意味で用いられているとすれば、
やはりここは潜水艦らしく、艦長といえども狭い潜水艦の中では、
規律はあれど目線はあくまでもフラットに、言い方を変えれば
水上艦よりは見かけ階級差が緩いことを表しているかもしれません。
そもそも、艦長が兵士とトランプをするということ自体、
戦艦や空母などではほとんどあり得ないのではないでしょうか。
ましてやその艦長が負けがちだなんてことも。
艦長が私室でアロハシャツ、これもある意味潜水艦ならでは。
他の水上艦でこんな格好をすることは許されませんが、潜水艦ならありです。
「潜水艦では規律が破られることは決してないが、
ユニフォームの件に関してはその限りではない」
だそうです。
まあ、そもそも暑いと何も着ない水兵さんも多いしな。
さて、狭い艦内での窮屈な勤務に与えられた特権。
しかしながら、エンターテイメントに関しては、誰にでもそれが
無尽蔵に許されているかというと、決してそんなことはありません。
「完全な資格」を持っていない乗組員は、与えられたテストに合格するまで
映画を見たり、トランプをしたり、本を読むことすら許されません。
そのために彼らが這いずり回ってメモや図を作成し、
全てのパイプ、 リベット、ワイヤー を検査することで
テストに合格しようと頑張っている姿は鑑内でよく見られます。
■ ダベンポート副長のトロンボーン演奏
艦内にはレコードプレーヤーがありましたが、よくしたもので、
必ず乗員にはギターやハーモニカの演奏ができる人がいたし、
歌の上手い人も時々はいました。
我らが副長のダベンポートは、トロンボーン奏者でしたが、
彼の演奏に対する評価は人によりまちまちでした。
わたしたちがオーストラリアに寄港後出発した時、
ダベンポート副長はオーストラリアで人気のある国民歌、
「Waltzing Matilda」を演奏し(ようとし)たのですが、
乗員は皆困った顔をするのみで、誰も歓声を上げませんでした。
ところで、帰国後、バーリンゲーム艦長は、わたしたち乗員が
皆酔っ払いで、しかもずっとその状態だと思われていることを知り、
指揮官として大変心を悩ませていたので、ダベンポート副長は、
艦長をリラックスさせようと、彼の好きなブラームスの「子守唄」を
レコードプレーヤーを先生にして練習し始めました。
そしてある夜、ダベンポートが練習をしようといつもの席に着くと、
艦長は既にカーテンを引き、明かりを消してしまっていました。
副長は、艦長がもう寝ていると思い、トロンボーンを片付けましたが、
1〜2時間後、別の場所でゲームをしている艦長が発見されています。
それ以来、他の士官たちはトロンボーンの「止め方」を知ったのです。
ダベンポート副長・・・(T_T)
ところでこの写真のキャプションには、
「Another Pastime: Creating sewing」
(別の暇つぶし:創造的お裁縫)
とあるわけですが、彼らが縫っているもの・・・ご覧ください。
旭日旗ではありませんか!
はっ・・・・もしかして?
もしかしてこの時の旭日旗・・・・?
とりあえず暇つぶしで旭日旗作ってんじゃねーし(怒)
続く。