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スーパー・ストラクチャー(上部構造物)〜潜水艦「シルバーサイズ」

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潜水艦「シルバーサイズ」の艦内ツァーにやっとこぎつけたと思ったら、
エスケープチェンバーことエスケープ・トランクのことを話し出してしまい、
またもや上甲板から降りていく前に、1項を費やしてしまいました。

しかも今日は上甲板全体についてお話しします。
なかなか中に入っていきませんが、我慢してお付き合いください。



艦内のパネルによれば、甲板全般にあるもののことは「スーパーストラクチャー」と言えばいいことがわかりました。

さて、ここで「ガトー」級潜水艦のシルエットが出たので、
現代の潜水艦と第二次世界大戦中の潜水艦について一言。

それらは時代の違いが一眼でわかるため、
大きく形も違っていると我々は思いがちですが、
「ガトー」級潜水艦の艦体形状は、実は(あるものを取り除けば)
現代の核攻撃型潜水艦と非常によく似ているのです。

我々が両者を「大きく違う」と判断するその大きな理由、
それこそが「スーパーストラクチャー」です。
「The stuff on top」を意味し、日本語では上部構造物と言います。



これは近代の原子力潜水艦ですが、さっくり言って、
「ガトー」級の潜水艦との違いはスーパーストラクチャーの有無です。
ここでいきなりですが、エスケープハッチを利用して作られた
見学者用の階段を降りていくと、あなたはこんな景色を目にします。

階段の左側の景色です。
まず、写真右側に見えるのがエスケープ・チューブの外側となります。

いかがでしょうか。
実にクラシックな葉巻形状の船殻外側が下部にご覧いただけます。


この頃の潜水艦が、ほぼ薄っぺらなオーク材の甲板によって
艦体をカモフラージュされたものであること、
しかるのちに、圧力球の上に色々な構築物を
「乗せた」にすぎないものであることが一眼でわかります。

実際、水密圧力艦体のほとんどは、艦内では喫水線より下にあります。
そしてボートの最大外幅は27フィートですが、
水密部分の乗員の居住区の内幅はわずか16フィートしかありません。

そして階段を降りながら右側を撮影したのがこれ。
水密区画の外側に色々と構造物があるわけですね。

写真左上部分には魚雷のローディング・スキッドが見えます。
そして、注意深く見ていただければ、スキッドの下側に
前方潜水機構のギア機構らしきもの、圧縮空気タンク、
そしてバラストタンクのエアベントなどもここにあるのがわかります。

これらは全て艦体の中に収める必要のない、
「水没可」のものであるということです。


ところで「シルバーサイズ」を使って撮影された、ホラー映画「ビロウ」で、
不可思議な現象を解明するために、何人かが海中で
ハッチから艦の外に出て、こんな空間に入っていくシーンがあります。


そこは海中でありながらこのような海水の溜まった空間で、
ここで霊の存在によって一人が命を失うことになります。
こんな部分が実際の潜水艦に存在するのかが気になっていましたが、
少なくとも実際の甲板下を見る限り、どこにもなさそうですね。
ハッチを出てしまったら、そこは全て水没しているはず。
なぜってそれがこの時代の潜水艦だから。

万万が一、本当に映画の「ビロウ」のような空間があるなら、
それはもちろん水密区画の外側となるわけですが、
そこは当然「ガトー」級独特の、船殻に穿たれた穴によって、水没します。



そして甲板。
潜水艦が水面にある間、そこは足場であり作業場であり、
銃撃戦の戦場となりました。


デッキの武装は、

4インチ.50 キャリバー・デッキガン
ボフォース40ミリ機関砲、


エリコン20ミリ対空機銃
が装備されています。


現代の潜水艦には存在しなくなった甲板銃は、当時のボートに
「弱い敵」に対する水上戦闘能力を与え、
魚雷を使うよりある意味ではこちらが好まれました。

その理由は砲弾は魚雷より格段に安価だったからで、
「弱い」の基準は「潜水艦を沈めるほどの力を持たない」という意味です。

しかし、この最初の哨戒において、「シルバーサイズ」は
この「弱い敵」(実は武装漁船)に機銃攻撃を仕掛け、
苦戦した上、乗員を失うという手痛い教訓を得たのでした。

「トルピード・ローディング・スキッド」。
魚雷装填のためのスキッドは滑り台のようなレールです。
先ほど甲板下の階段から見えていたその入り口です。


クレーンで岸壁から持ち上げた魚雷を、この上まで運び、
スキッドという滑り台から内部に下ろしていくわけですが、
ほぼ手作業でこれらの積み込みを行うのは結構な重労働ですね。
哨戒に出るとき、「シルバーサイズ」は18本もの魚雷を搭載しましたので、
その作業に丸々1日はかかったに違いありません
潜水艦が魚雷攻撃を受けるのはえてして夜間浮上しているときでした。

バッテリーをチャージするためのディーゼルエンジン、
そして乗組員たちには大量に新鮮な空気が必要不可欠だからです。

こんな当時の潜水艦を、「Submarines」(潜水艇)ではなく、
「Submersibles」(潜水することができる艇)だろ、
というツッコミも当時からあったそうです。

まあ、そういう当時の問題を一気に解決したのが
水没したまま永遠に潜航(これが本当のスティル・イン・パトロールってか)
できる原子力エンジンだったわけですが、ディーゼル艦との大きな違いは
エンジンが空気を必要としないこと、これに尽きます。

しかも原潜は、二酸化炭素スクラバーの存在によって、
艦内で生活する人間に必要な空気も常に新鮮に保つことができます。
その結果、艦体がどうなるかというと、
カサ張る上部構造を必要としなくなります。
当然、艦体の合理化が進み、現在の潜水艦の形となるわけですね。
おまけに上部構造物がなくなるということは、水の抵抗はなくなり、
それだけで水上航走時速21ノット、水中9ノットだった頃より
格段の速さが約束されることになりました。


今更ですが、デッキの上のこの構造物を「セイル」と呼びます。
司令塔を多い、水上航行中には士官が立つ「ブリッジ」を形成します。

ブリッジの床にあるハッチは、水面からかなり高い位置にあるため、
航行中、唯一、慣習的に常時開けてあります。

実際にはどこにあるのかわかりませんでしたが、
ブリッジの上には回転トランスデューサーに取り付けられた
二つのターゲット方位トランスミッタ双眼鏡があり、
これで司令塔にある魚雷データコンピュータに視覚的方位を送信します。

ブリッジの上に突き出た垂直のシャフトの配列、
これは英語で「shears」(シアーズ?)と呼ばれます。

二つの潜望鏡、複数の種類のレーダーアンテナ、
そしてラジオマストを支えています。


見張りが立っていたのは、このマストに備え付けられたリングの中でした。
映画「ビロウ」では、海中にアクラングなしで出ていった副長?が
なぜかここに引っかかっていましたっけ。

そして哨戒を成功させて帰還してきたとき、「クリーン・スウィープ」として
慣習的にほうき🧹をシアーズに立てました。



セイルの周りから突き出すようにしてある、これ、

Ammo Scuttle(弾薬台)
だということですが、この名称を主張しているのは、今のところ
検索して見つかった一人のアメリカ人だけだったので、
これが正確な情報かどうかはわかりません。



Ammo Cylinders Protrude(弾薬貯蔵シリンダー)

です。

甲板の兵器に補充する弾薬は、この下に保管されていて、
上部で弾薬が必要になった時には、この下にあるシュートに装填され、
それが手でメインデッキに押し上げられます。



「シルバーサイズ」最初の哨戒での戦闘シーンです。

マイク・ハービン(装填している人)水兵が、武装漁船銃弾に倒れる直前、
どこから弾薬を持ってきていたかというと、
それは間違いなく、この弾薬庫からだったはずです。

そして、今まで気づきませんでしたが、写真左の乗員がいるのは、
このアーモ・スカットルあるいはシリンダーのある場所で間違いありません。

つまり、ハービンと、この人が、交代で弾薬から、
押し上げられてくる弾薬を受け取り、砲に装填していたことになります。(もしかしたら右側端の乗員も同じことをしていたかもしれません)

この時はたまたまハービン一人が犠牲になって死亡しましたが、
同じ任務について弾薬を運んでいた水兵は、おそらく彼の死後、
ちょっとのタイミングの差で、彼は死に、自分が死ななかったことを、
不思議な気持ちで考えずにはいられなかったでしょう。



司令塔の後方にはオープン・ストレージ・エリアがあり、
掃除用具、ペンキの空き缶、バケツ、ヘルメット、
そして大型の・・・通風装置?
とにかくいろんなものが雑多に置かれているわけですが、
実はここのことを、

「ボースンズ・ロッカー(boson's locker)」
といい、当時から物置として使われていました。

現在でもボランティアの道具置き場となっています。




「ガトー」級の艦尾にしばしば見られるこの構築物、
これはおそらく艦体を衝撃の破壊から守るためのものだと思いますが、
正式な名称は分かりませんでした。

なんだろう・・・「艦体ガード?」
これもまた現代の潜水艦には片鱗さえもないものです。

しかし、ディーゼルエンジン潜水艦の「スーパーストラクチャー」は、
古い帆船の時代と、現代の高速攻撃型原子力潜水艦の間の、
進化を如実に表すものであるということがお分かりいただけるでしょう。


続く。




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