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映画「ハワイ・マレー沖海戦」〜Z艦隊轟沈

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基地に帰る燃料がない、と部下から聞かされた立花大尉。



ほんの一瞬だけ目を下に落とすも、次の瞬間眉根をきりりとよせ、

「基地に帰ると思うな」

という一言を。



「ハイ、わかりました。それなら十分あります」

晴れやかに答える部下。
前にも書きましたが、このシーンに対し

「当時の思想統制を感じて嫌悪感が湧く」

という感想を書き込んでいる人がいました。
これは思想統制ではなく、言わば国策映画ゆえの国威発揚である、
とこまめに言葉尻に突っ込んでおくついでに、この方にはこの部分が

「思想統制を狙って作られたのか、それともこれが、
実際にあの日マレー沖に在って戦った者たちの現実だったのか」

ということを考えてみるのもいいのではないかと提言したいと思います。

真珠湾攻撃も勿論そうですが、軍人としてそこに在った者たちの証言によると、
戦後も異口同音に

「男子の本懐ここに極まれり」

と思った、とその感激を語っています。
実際にこのとき索敵に出て帰ってこなかった飛行機もありましたが、
この機のパイロットもおそらくその本懐に殉じたのでしょう。

いつも思うのですが、戦後の、平和な時の価値観で戦時のあれこれを判ずるのは
全く意味のない、しかも卑怯なことでもあります。

自分の生きている時代の価値観で過去を見て、まるで劣ったもののようにこれを批判する人。

こういう人は、おそらくもし戦時中に生まれていたなら、
その時代の最も正しいと思われる価値観の王道を、何の疑うこともなく大手を振って歩き、
戦争を煽り、大本営発表に一喜一憂し、勝った勝ったと提灯行列をしておきながら、
戦後は戦後で素知らぬ顔で昨日までの自分を棚に上げて、
「真相はかうだ」を聴いては戦犯を罵るようなことをするに違いありません。




索敵中の谷本機。
谷本機長が部下を捕まえて聴きます。

「おい!あれは何か」

雲間に見える艦隊。

「敵にしては落ち着いておるぞ。味方じゃあるまいな」

確認のため高度を下げると・・・・



ビンゴ。

まるで信じられないものを見るように海面を見つめる谷本少尉。

「おい。これは本物たい。少し話がうますぎるぞ」



「敵主力艦見ゆ。
北緯4度。東経103度55分。
旗艦はプリンス・オブ・ウェールズ」

中国語の字幕が変ですが、気にしないで下さい。



このとき、下に広がる雲海に飛行機の影が映っているという芸の細かさ。
・・・・てことは本物かな。



模型にしては凄すぎるんですが・・・・これはどっち?
もし本物なら凄い技術です。



雲の下に必ずいる!と全機下降してみると、そこには目指す敵が。



艦隊を確認するや、思わず

「わあ〜、すごい!こいつを沈めるのか!」

とはしゃぐクルー。



獲物を狙う鷹のような目で艦隊をにらむ立花分隊長。



これは模型丸出しのプリンス・オブ・ウェールズとレパルス。



向こうもただやられてはいません。
猛烈に撃ってきます。

この攻撃で日本は一式陸上攻撃機2、九六式陸上攻撃機1を喪失。
一式陸攻1不時着、偵察機未帰還2機の被害でした。




爆撃を命ずる立花大尉。

この演技をする俳優もある意味「男子の本懐」であったのではないでしょうか。



「発射よ〜い・・・・」
「てええええ〜〜!」



雷跡を描いて進み・・・



命中。

太平洋艦隊上空に現れたのは、実際には96式8機。
元山航空隊の雷装と、美幌航空隊の爆装でした。



レパルスに命中したのは、美幌陸攻隊、白井義視大尉の水平攻撃による爆雷だったことから、
この立花忠明のモデルは白井大尉であると考えて良さそうです。



こういっては何ですが、真珠湾のシーンより模型がちゃちな気がするのですが、
気のせいでしょうか。



マレー沖海戦には人類の歴史に取って大きな意味が二つありました。

その一つは、航空機の攻撃によって作戦行動中の戦艦を沈めることができる、
ということが初めて証明されたことであり、これは大鑑巨砲主義の
本格的な終焉の幕開けともなったできごとだったということ。

そして、白人支配であったそれまでの世界が崩れさる序章であったことです。



前にも一度書きましたが、アーノルド・トインビーが
このマレー沖開戦について新聞に書いたことを挙げておきます。

 「英国最新最良の戦艦2隻が日本空軍によって撃沈された事は、
特別にセンセーションを巻き起こす出来事であった。
それはまた、永続的な重要性を持つ出来事でもあった。

何故なら、1840年のアヘン戦争以来、東アジアにおける英国の力は、
この地域における西洋全体の支配を象徴していたからである。

1941年、日本は全ての非西洋国民に対し、西洋は無敵でない事を決定的に示した。
この啓示がアジア人の志気に及ぼした恒久的な影響は、
1967年のベトナムに明らかである。」



レパルス轟沈のあと、次の攻撃隊が17機上空に到着。
プリンス・オブ・ウェールズには4本〜5本の爆撃が命中しました。

戦後の調査でわかったことで、当時の攻撃隊は「7本命中」と
申告していたようです。



最後に谷本少尉に向かい、部下が他の駆逐艦のことを

「どうしても沈みません!」

と報告すると、谷本少尉は口惜しげに

「ちいっ・・・・ここまでやって・・・ここまでやって・・・」

と歯ぎしりします。
そしてしばし唇を噛み締めるかのように小刻みにふるえ、
宙をにらんでいたと思ったらやおら冷静になって

「ヒトヨンゴーマル、プリンス・オブ・ウェールズ撃沈!」

と報告を・・・。

いやあ、この人の演技、いいですなあ。
比較的生硬な演技をする俳優の多いこの映画で、
この谷本少尉役の演技は実にいぶし銀のように光っています。



そして、大本営発表を皆で正座して聴く義一と忠明の家族。
なぜ両者の家族が皆同じところにいるのかは謎です。

「昭和16年12月10日、午後4時5分。
帝国海軍は開戦劈頭より英国東洋艦隊、特にその二隻の主力の動静を
注視しありたるところ、昨九日午後、帝国海軍潜水艦は敵主力艦の出動を発見。
以後、帝国海軍航空部隊と緊密なる協力の下に捜索中、
本10日午前11時半、マレー半島東岸沖において再び我が潜水艦
これを確認せるを以て、帝国海軍航空部隊は機を逸せず。



これに対する勇猛果敢なる攻撃を加え、午後2時29分、
戦艦レパルスは瞬間にして轟沈し、同時に最新式戦艦、プリンス・オブ・ウェールズは
たちまち左に大傾斜、暫時遁走せるも間もなく午後2時50分、
大爆発を起こし遂に沈没せり。

ここに開戦第三日にして早くも英国東洋艦隊主力は
殲滅するに至れり。
終はり」 



この一番左には、山下大尉を演ずる藤田進もいます。
大河内伝次郎扮する艦長が立ち上がり、

「いや、おめでとう」

とあっさりお辞儀をすると、皆座ったままで頭を下げます。



「ハワイ・マレーの両戦果が相まって、初めて今回の
大作戦の意味を全うした」


これだけ言うと、いきなり画面には行進曲「軍艦」が鳴り響き、

 

実際の戦艦が波を切る超貴重な映像がエンドタイトルとして流れます。
これゆえこの映画が好きだ、という方もおられるかもしれませんね。

 

これらの映像から鑑名当てクイズをするのは、「艦これ」ファンでもない
わたしには勘弁していただくとして、実際に使われた艦は、

 

赤城、陸奥、長門(?)伊勢、山城。

こんなところだそうですが、長門が出演しているかどうか
はっきりしないようです。

 

なんと砲をドンパチやっているところが映像に残っているとは・・・。
すごい。
すごいぞ「ハワイ・マレー沖海戦」。

 

観艦式のときでも撮った映像があったのでしょうか。

 

 

 

これらの実際の映像はフィルムを写真に撮ったものなどより、
迫力に満ちて圧倒的です。

しかも、ここに登場した全ての艦は、終戦までに全て戦没しました。
山城の運命は思わず落涙するくらい苛酷なもので、
伊勢も以前書いたように終戦間際、敵機の空襲にやられ、
沈みながら最後の主砲を撃ち、波間に消えてゆきました。

それらの最後を知って観るこの最後の在りし日の艦の姿は、
勇壮でありながら胸が締め付けられるほど悲壮な「白鳥の歌」に思えて来ます。

「主人公らしい主人公がいない」

と書いたこの映画「ハワイ・マレー沖海戦」ですが、あえて言うなら
主人公とはこれら失われた艦が象徴する、もうこの世に無い
日本帝国海軍そのものであったのだとあらためて最後に思いました。








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