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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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令和4年度映画ギャラリー その3

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平成4年度掲載映画の挿絵を挙げながら振り返るシリーズ、3日目です。

■ 「サブマリン爆撃隊」Submarine Patrolジョン・フォードの傑作コメディ戦争映画

「第一次世界大戦駆潜艇」
時はおりしも第一次世界大戦勃発時。
ニューヨークにあったブルックリン海軍工廠に、
ふとした気まぐれで海軍に入りたくなった富豪のドラ息子が、
海軍の思惑でよりによって駆潜艇の機関長として配備され、
そこで実戦を通し、海軍の任務やら真実の愛やらに目覚める話です。
駆潜艇(英語ではサブマリン・チェイサー)とは、
当時Uボートに対抗するために設計されたもので、
爆雷を主力武器とする小型の艦艇です。
全てをなめてかかっていたボンボンが、生死を分ける戦いを経て、
一人前の海軍軍人としてこれからスタートするでしょう、
というところまで運ばれるストーリーは、さすがジョン・フォード監督、
ところどころに海軍リスペクトをふんだんに盛り込みながら
(フォードは筋金入りの海軍オタク)最後までこちらを引き込んでいきます。
「Uボート急襲作戦」


研究材料のマウスを船に持ち込んでいる大学生、
陸にレストランを持ち船の給養と掛け持ちしているコック、
年齢をサバ読んで16歳で入隊してきた少年、
人の顔を見れば金を借りようとするタクシー運転手。
キャラの立った駆潜艇の乗員たちのエピソードも、
このストーリーに見応えを与えている要素でした。

プレイボーイのタウンゼント3世が海軍工廠で見初めた、
輸送船の船員でもある美女スーザンとの恋愛模様や、
それに反対する父親の輸送船船長が間違いで駆潜艇に乗ってしまい、
一緒に難局を乗り切って娘の相手として認めさせるという展開も、
お約束な展開とはいえかえってワクワクさせられます。

かといってふざけてばかりでもなく、
真面目に?輸送船を護衛したりUボート基地を急襲し、
当時にしては迫力のある特殊撮影などを使っていますし、
スロウ8やマストの星、士官の乗艦時のしぐさなど、
海軍についてその内部を民衆に紹介しようという姿勢も感じました。

さらに女性の観客は、タウンゼント3世自身のゴージャスなムードと、
乙女の夢を叶えるような素敵なデートの演出をさぞ楽しんだことでしょう。
白黒映画で画質も決して良くありませんが、
昨今の画像だけはいい穴だらけの設定の戦争映画より
よっぽど1時間半を費やす意味がある佳作だと思います。
■ 「グラマ島の誘惑」
皇族軍人と女たちの「逆アナタハン」
「宮様と軍人と9人の女」
ディアゴスティーニの「戦争映画コレクション」の配布でこれを見たとき、
とにかくその発想の奇抜さと忘れられない展開に驚愕しました。

戦争末期、無人島に流れ着いたのがよりによって
皇族軍人(とお付き武官)と9人の女たち。
しかもその女たちのほとんどが、本来皇族とは決して縁のなかった
慰安婦だった、という破天荒な設定は、
終戦当時世間を騒然とさせた「アナタハン島」の惨劇に着想をえています。

宮様兄弟、香椎宮為久と為永殿下を演じるのが
森繁久彌とフランキー堺、御付き武官桂小金治、
その他有名俳優女優をありったけ揃えたことからも、
映画会社の力の入れ具合がわかるというものです。
「クーデターと投降」


女性陣も慰安婦の二人を除く全員が有名女優ばかり。
ただしダンサーだった春川ますみはこれが映画初出演です。

映画では、美貌の未亡人を弟宮と現地のカナカ人(と見せかけた脱走兵)
が取り合ったり、御付き武官を慰安婦(轟由紀子)と従軍画家(淡路恵子)
で取り合ったり、いつのまにか兄宮が智慧の遅れた宮城まり子を孕ませたり、
と思いつく限りのややこしい男女関係が入り乱れて大騒動に。
「それぞれの戦後」




この映画の一筋縄でいかないところは、終戦になって彼らが
米軍の手によって内地に送り返されてからが山場になるという展開です。

為久の嫁(久慈あさみ)は夫の行方不明中、パトロンを得て
銀座のど真ん中に「大銀座温泉」なるスパを経営し、
もう皇族という身分を失う夫に引導を渡そうと虎視眈々。

弟宮の為永は、吉原ソースなる商品を海外に輸出して成功し、
従軍画家坪井(岸田今日子)は島での出来事の暴露本でベストセラー作家に。
慰安婦たちはやり手の一人を除き、風営法施行後に
戦前のビジネスに手を染め引っかかりお縄になるという成長のなさ。
為久との間に子供を作り流産した「あい」(宮城)は
二人で船に乗り脱出する途中、死亡してしまいますが、
なぜかニュースでそれを知った彼女の妹が現れ、
為久をソフトに恐喝してお金をせびるという・・・。

こんなてんやわんや(死語?)が息つく間も無く展開され、
最後は、グラマ島に残った脱走兵と未亡人の二人が
水爆実験に巻き込まれることを暗喩して映画は終わります。

さて、この絵はブログでは採用しなかったバージョンです。

この映画の紹介ログを制作し始めた頃は、
どうせたいして取り上げることもないだろう
と思い、1日で終わらせるつもりでこのタイトル絵を描きましたが、
進むうちにとても収まらないことがわかり、この絵を三分割して
三日分のタイトル画を作ったというわけです。

当ブログ映画シリーズは、最初に絵を描いてしまうため、
ときどき(というか結構頻繁に)こういうことになってしまい、
そうなると、最初の絵を2〜3日分に分けて制作し直す羽目になります。

(という、ブログ制作の舞台裏でした)

アナタハン事件、皇太子殿下(現上皇陛下)のご成婚、
そしてアメリカの太平洋における核実験、華族制廃止、
そういった時事を取り上げつつ、今まで誰も触れたことがなかった
「雲の上の人」を下々の民とごちゃ混ぜにするという、
あり得ない展開ですが、評価すべきは、そんな扱いであっても
皇族を表現する筆致にどこかしら愛と哀しみが感じられたことでしょうか、



■「潜航決死隊」Crash Diveタイロンパワー主演 ロマンス過多プロパガンダ潜水艦映画
「魚雷艇から潜水艦へ」



1943年、第二次世界大戦真っ只中、
タイロン・パワーとアン・バクスターを使ってプロパガンダ映画を作る。
しかもフィルムはこの当時にしてカラー。

やっぱりアメリカってとてつもなくお金持ちだったんだなあ、
こんな映画からもしみじみ彼我の戦力差を思い知らされます。

同じ頃、白黒アニメで少年向け戦意高揚作品、
「桃太郎の海鷲」を制作していたアニメーターたちが、
ある日日本軍が戦地で拾ったか押収したディズニーのアニメを見て
これは戦争負けるわ、と打ちのめされたという話をつい思い出します。

さて、この映画を観たとき、何やらデジャブを感じたと思ったら
それは、今日冒頭にご紹介した「サブマリン・パトロール」でした。

本作監督アーチー・メイヨーとジョン・フォードの関係は知りませんが、
3歳違いと同年代で、二人ともそれぞれ第一次・第二次世界大戦開戦時、
海軍のためにロマンス多めの戦意高揚プロパガンダ作品を監督。

その作品の内容も、大富豪と海軍一家というバックボーンを持つ、
傲慢な美青年が、自分の意志に反して方や駆潜艇に、方や潜水艦に乗せられ、
どちらも実戦を現場で叩き込まれて、最後は海軍魂に目覚めるというもの。

これはどう考えても後発のメイヨーがフォードの作品をパク、
いや、リスペクトしてアイデアを拝借したのでは、という気がします。

わたし個人でいうと、それまであまり好きでなかったタイプの
タイロン・パワーという俳優が、実は当時現役軍人で、
ウィングマーク持ちの航空士官(パイロット)であったことを知り、
俄然印象が爆上がりしました。

本稿にも書きましたが、パワーは戦闘機を志望しながら
年齢制限のため輸送飛行隊で勤務し、クェゼリン、硫黄島、
そして沖縄における輸送ミッションに参加して叙勲されています。

44歳の若さで急死したときも予備役少佐であり、その葬儀は
現役軍人に対する栄誉を伴う儀式によって行われました。

ストーリーは、魚雷艇乗りでブイブイ言わせていた海軍一家のホープが、
人手不足の潜水艦に副長として配置される所から始まります。

フォードの「サブマリン・パトロール」と同じように、
主人公はここで上官である艦長とぶつかります。
フォード版との違いは、なんとこちらのバージョンでは、そうとは知らずに
この艦長の恋人(アン・バクスター)をパワーが好きになり、
ガンガンと非常識な、とても男前ならやらないようなアタックをかけて
元々現状の恋人に物足りなさを感じていた女性の気持ちを揺すぶります。

「戦時下の三角関係」




女が性悪(って言っちゃう)なものだから、
二人が一人の女性を巡って取り合っていた(というか二股かけられていた)
ことを艦長が知った時には時すでに遅し。
女性の気持ちはすっかりイケメン金持ち海軍一家のホープに移っていました。
まあ、タイロン・パワー相手なら勝てないよね普通。

おり悪しく、それが判明した直後、彼らの潜水艦は出撃を迎えますが、
個人的な感情はとりあえず横に置き、二人はUボート基地に潜入、
上陸して倉庫を爆破するという快挙を成し遂げます。

その後艦長はパワーに女譲るという敗北宣言?をし、
帰国したパワーはいきなり彼女と結婚をすませてロマンスにカタをつけ、
やおら、自分を潜水艦勤務に追いやった?叔父の海軍提督に向かって、
自分が乗り込んだ潜水艦はもちろん、全ての部隊が素晴らしい、
アメリカ合衆国海軍万歳、と取ってつけたように海軍礼賛を始めて、
観ている人すべてをあっけにとらせて?終わります。

コネチカット州グロトンの当時の潜水艦基地の様子や、
潜水艦乗りの慣習などをちょいちょい挟んだり、
とにかくお金がかかっていて映像も大変綺麗ですが、
ロマンス部分と海軍宣伝部分の割合があまりにキッパリしすぎて、
まるで一つの話の中に二つのストーリーが流れているように感じ、
さらに主人公やヒロインの人物描写があまりにイージーで、
その行動に共感を得にくいという無理も随分感じさせます。

骨子は似た二つのストーリーではありますが、
「サブマリン・パトロール」と「クラッシュ・ダイブ」、
この2作品を評価するなら、画質と白黒対カラーのハンディを勘案しても
圧倒的に後者の圧勝だとわたしは声を大にして言うでしょう。

結論:やっぱりジョン・フォードの名前はダテではなかった。
腐っても鯛。

続く。







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