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フォワード・バッテリー・コンパートメント(士官居住区)〜潜水艦「シルバーサイズ」

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一連のシリーズも終わったので、またもう一度
ミシガンマスキーゴンの「シルバーサイズ」博物館シリーズに戻ります。



いよいよ艦内探訪編に突入した潜水艦「シルバーサイズ」シリーズ。
今日2回目にお送りするのは前方から2番目の区画、

フォワード・バッテリー・コンパートメント
(Forward Battery Compartment)

です。



全体で言うと、この赤丸部分になります。

「シルバーサイズ」の見学で最初に通るのが前部魚雷発射室。前部魚雷発射室との境を隔てる水密ドアをくぐります。
するとそこに現れるのが

オフィサーズ・クォーター(士官居住区)

なので、この部分のことは前部バッテリーコンパートメントというより、

「オフィサーズ・カントリー(Officer's Country)」

という名称の方が一般的となっています。
ご覧のように、狭い廊下がコンパートメントの奥まで走っており、
床はグリーンのリノリウム、そして壁は磨き上げられたステンレスです。
魚雷室からやってきた者の目で見ると、このコンパートメントは
それまでほど複雑なものはなさそうで、現実にその通りです。
コンパートメントの長さは27フィート、幅13フィートで、
左舷側に士官の食事を暖かく保つためのパントリーがあります。
その後ろにはワードルーム(おそらくボートの中で最も快適で家庭的な部屋)
があって、ここで役員たちが食事をしたり会議を開いたりします。


さて、実際に見ていきましょう。

ステンレスのパントリーは廊下のポートサイド、左舷側にあります。
見学者の進行方向から言うと右側です。

コーヒーメーカーを置くラック(ポット二つ分)、
綺麗なシンクと、トースターが見えます。

しかし、シンクには、

注意
わたしたちの潜水艦をどうか綺麗に保ってください!!!!シンクの中にはいかなる液体も流してはいけません
と貼り紙があるところを見ると、少なくともキッチン関係の設備は
キャンプなどでも使われていないらしいことが推察されます。

キャンプに参加した人の写真を見ても、
ベッドに寝たり(毛布持ち込みでオーバーナイトするので)、
艦橋で敬礼したりしているものはありますが、
サンドイッチや飲み物を取っている様子は全くありません。

キャンプの詳細も、食事はついてこないとなっているので、
もしかしたら夕食はお弁当か、親と一緒に食べるのでしょうか。
いずれにしても、実際の「シルバーサイズ」でも、
パントリーは食事の準備用ではなく、簡単なそれこそサンドイッチ、
コーヒー、そして軽食を作るために使用されていたようです。

オフィサーズ・アイランドにあることから、
「シルバーサイズ」の賄い係は、このエリアに待機して、
士官たちが食事をする間、サーブしたり食器をひいたり、
ウェイターの役割を果たしていたようです。



そしてその士官の食事ですが、もう少し後ろにある「ボーツ・ギャレー」
(boat's galley)で調理したものが運ばれていました。

ただし、大型の水上艦などと違って、何かと公平な潜水艦勤務ですから、
士官たちは下士官兵と同じものを食べていたということです。

空母や戦艦などは厳密に階級ごとに食事のランクが違って、
ことに士官と下士官兵のラインは残酷なくらい露骨でしたが、
潜水艦の場合、ちゃんとしたキッチンは一つしかありませんから、士官も
せいぜいおやつや夜食を作ってもらえるくらいの役得しかなかったようです。

ちょっと特別気分があるとすれば、士官用テーブルがあって、
同じ食べ物でも、士官たちには高級な陶器に乗せて供されることでした。
その食器を収納していたのが、このパントリーだったのです。

こちら、ワードルームでございます。ダイニングテーブルは拡張が可能。
そしてこのテーブルこそが、あの手術で手術台となったのです。

「シルバーサイズ」をすっかり有名にした、1942年12月22日の事件は、
戦闘とはほぼ何も関係のない「虫垂炎の手術」でした。

医師免許を持っていない、薬剤師のトーマス・ムーアが、哨戒中、
水兵ジョージ・プラターの虫垂切除術を行ったというこの件ですが、
今回調べたところ、手術のために打った脊髄麻酔は、
その間攻撃があったせいか、単に手際の悪さか、4時間半の手術が終了する

ずっと前に切れてしまい、
代わりにエーテルを使わざるを得なかった

ことがわかりました。

おいおい。

そして潜水中の潜水艦の中で、爆発性の高いエーテルを使ったところ、
手術中煙が立ち込め、乗員の極限の緊張で満たされました。

しかし、ここで何度も書いているように、スプーンを開口器にするなど
ムーアはお手製の用具を駆使して、手術をなんとかやり遂げたのです。

彼は薬剤師だったので、これまで手術は横で見ているだけだったのですが、
盲腸の手術に立ち会った経験があったことはラッキーでした。

これが本当の門前の小僧習わぬ経を読むってやつです。

ちなみに、このとき手術したムーアと手術されたプラターですが、
それからさらに60年間生きたと言う情報が残されています。
(ところでプラターはともかく、ムーアのその情報いる?)


手術された人(左)とした人


区画では、「シルバーサイズ」哨戒を紹介するシリーズで何度も登場し、
史実と照らし合わせて検証したところの「戸棚に描かれた旭日旗」、
つまり彼らが撃沈撃破した(と確信していた)日本艦船の数をペイントした
食器戸棚を左上にご覧いただくことができます。


扉は部屋全体に9枚しかないので、
最初の9回分の哨戒の戦果しか残されていません。



コンパートメントの残りの部分が、士官たちの寝室となります。

そしてこれが艦長室。
潜水艦では、ただ艦長だけが一人部屋に寝起きすることができます。

艦長室にはバンク(寝床)、デスク、金庫(safe)、
艦内電話、そしてジャイロ・コンパス・レピーター(従羅針儀)、
デプス・ゲージ(深度ゲージ)などが装備されています。

従羅針儀とは艦の中心にある主羅針儀に対して、
一般の感染では左右の張り出しウィングにあったりするもので、
主羅針儀と同一示度を表示しています。
潜水艦ではなんと艦長の私室に備えてあるものなんですね。

いかに個室と言ってもこれだけ色々あれば狭くなりそうですが、
お好きな人にとっては、なかなかコージーな居住空間かもしれません。



そしてその向かいにあるのが、”yeoman’s office"。

ヨーマンというのはそのままの意味でいうとイングランドの独立自営農民、
と全く意味がわかりませんが、海軍ではこれを事務下士官としています。



プロトコル、海軍からの指示の受け取り、下士官兵の評価、
下士官のフィットネスレポート、メッセージ受け取り、訪問者取継ぎ、
電話、郵便、メールなどの管理がその仕事です。

ファイルの整理、事務機器の操作、事務用品の注文と仕入れ、
手紙、通知、指令、書式、報告書の作成、そしてタイプ。

乗組にはヨーマン、ヨーマン・サブマリン共に最低4年の勤務が必要です。


ヨーマンの階級は次のようになっています。

ヨーマン シーマン 新卒 / YNSR (E-1)
ヨーマン シーマン アプレンティス(見習い) / YNSA (E-2)
ヨーマン シーマン / YNSN (E-3)
ヨーマン 3等水兵/ YN3 (E-4)
ヨーマン 2等水兵 / YN2 (E-5)
ヨーマン 1等兵 / YN1 (E-6)
チーフ ヨーマン / YNC (E-7)
シニア チーフ ヨーマン / YNCS (E-8)
マスター チーフ ヨーマン / YNCM(E-9)[40][41] 。

(「ヨーマン」がゲシュタルト崩壊してきた)

ちなみに最強のヨーマンとは、

「ヨーマン・フラッグ・ライター」(Yeoman Flag Writer)

というヨーマンで、
通常一等兵曹(E-6)以上の階級とされ、将官や将校、その他、
上級士官の個人的なスタッフとして仕える能力の持ち主です。
同じ副官でも、大佐と提督のそれは、
経歴も能力もかなり違うというのと同じでしょう。

「フラッグライター」の仕事は、個人的および専門的な通信文 を起草し、
社会的な使用、プロトコル、名誉および儀 式に関する事項を処理し、
旅行命令を作成および清算するという任務のほか、
将官または将校が署名する「将校報告書」を作成します。

彼らはいかなる部署からも独立して機能することができなければなりません。

フラッグライターとして勤務する者は、非常に目立つ立場にあるため、
常にプロフェッショナルな態度で行動することを要求され、
さらに、将官のいかなる追加的要求をも十分に満たせなくてはなりません。



”ヨーマンズ・オフィス”

『ヨーマンは「シルバーサイズ」全てのレポート、ファイル、
泳ぎその他の書類を追跡する役目を持っていました。

ヨーマンは下士官であり、事務的な仕事全般を請け負いました。』




あとは士官たちの寝室となります。

ところで普通レンズだったのでこんな写真しか撮れませんでした。
どうしてiPhoneの広角で撮ることを思いつかなかったのか。(反省)

この部屋はXO(副長)などちょっと偉めの士官用だったのか、
二人分のバンクしかありません。

士官室には一応洗面台も取り付けてあったりします。
洗面ボウルは引き出して使います。



それでも三段ベッドが基本。
一番上は壁が斜めですが、とりあえず飛び起きても
頭を打つことはないので、一番階級が上の人が取ったと思われます。



向こうのベッドは、ベッドの下に収納引き出しがあるので、
下の段のベッドはベッドごと引き出して使います。

うーん、ここもなかなか寝心地良さそう。(当社比)



不思議な作りの洗面台ですが、どうも折りたたみできる
洗面ボウル部分が紛失してしまっているように思われます。

扉の向こうはおそらくシャワールームだったと思われます。


これが正しい姿

■ 潜水艦の”ヘッド”とシャワー


さて、ここで士官たちが使っていたトイレとシャワー室を見るために、
もう一度扉をくぐって前部魚雷発射室にお戻りください。

トイレのことを海軍では「ヘッド」と言いますが、
(昔帆船時代にトイレは船首に開けた穴から”落として”いたことから)
ここにあるのは士官用ヘッド、士官用シャワーブースです。

この潜水艦の中では、特にボーイスカウトなどの少年団体向けに
週末のスリープオーバー(お泊まり)企画が催されている、
ということをご紹介したことがありますが、もしかしたら
艦内で寝泊まりするキャンパーのために、少なくとも電気、水、
そしてトイレと洗面所は使えるようになっているのでしょうか。

まさか、夜中トイレに行きたくなったら、
その度に上陸しなければならないってことは・・・ないよね?
それはともかく、「シルバーサイズ」が現役時代のトイレについてです。

立ったまま用足し禁止(多分ね)
潜水艦のトイレは、加圧された海水で洗浄されます。
ボールバルブがトイレの水洗を操作し、
「トイレの配管の中フリー」(何もない状態)にすることができます。

流した後は、便器の横にあるバルブを手動で回して便器に水を補給します。
この方法は、次のような手順で行います。

1、レバー式の排水弁を開ける
2、洗浄バルブを開く
3、便器と排水管の両方を十分に洗浄するのに十分な時間、
バルブを開いたままにしておく
4、排水弁を閉じる
5、水洗弁を閉める前に、数インチの水を排水弁にかける

昔はその手順が12段階あり、そのうち一つでも失敗したら
そのときはかなり悲惨なことになったそうです。
潜水艦のトイレでは、衛生面が最優先されます。
そして最も憂慮されるべき悲惨な「洪水」が起きないようにするため、
さまざまな工夫が施されています。

例えば、パイプの下には、異なるセクションを隔離するためのバルブがあり、
排泄物を処理するときに、圧力が意図した方向にのみかかり、
使用者の方に決して戻ってこないようになっています。

潜水艦のクルーは、最初から手順の実行方法を脳髄に叩き込まれますので、
彼らがその手順で失敗を犯すことはまずありません。(多分)
(ここまで書いて、ここのトイレは一般の人、特に子供には
絶対に使わせるの無理、と確信しました)


そしてシャワーです。水が貴重な潜水艦内で、どのくらいの頻度でそれは許されたのか?

答えは、

料理人、パン職人は毎日
士官は3〜5日に1回
乗員は13〜15日に1回

というご無体なものでございます。

士官の3〜5日でも大概だと思うのに、下士官兵となると
二週間に一度しかシャワーが使えなかったとは・・・。
まあ、匂いは自分がその中にいると慣れますからね。
側が思うほど本人たちは苦痛ではなかったと・・・信じたい。


さて、潜水艦のシャワーは、家庭用とほぼ同じように設置されています。
温水と冷水があり、再循環ポンプでお湯が出るようになっているので、
水の使用量を最小限にして、すばやく効率的に利用するのです。

水の使用量を減らすことは、潜水艦乗組員にとって常に大きな課題です。

もちろん海水から水を作ることができないわけではありませんが、
使用する水が少なければ少ないほど、ポンプで汲み上げる水も少なくなり、
結果としてできるだけステルス性を保持することにつながるからです。


できるだけ廃棄物を減らすこと。
この掟により、シャワーの時間は通常は3~5分です。

潜水艦乗員は効率的な体の洗い方を熟知しています。

体を濡らす!

水を止める!

石鹸をつける!

水で流す!

以上!

潜水艦では、効率と無駄を省くことが何よりも大切なのです。

■なぜ『フォワードバッテリーコンパートメント』か

ところで、第二の区画にはほとんどが寝室とかしかないのに、
なぜこの部分の名称が「バッテリー」なのでしょうか。

その手がかりは、廊下の頭上に見られます。



オフィサーズ・クォーターの廊下の左舷側には、
一見場違いな送風機モーターがぶら下がっていて、
その真下の床には、細身の男性が入ることのできるハッチがあります。

ハッチを開けると、そこには死んだ前艦長の霊が・・。

じゃなくて、そこは現在、まるで洞窟のような空間、
しかも”おまいらのお婆ちゃんのうちの地下室”みたいな空間です。
(これはアメリカ人向けの説明なので、
”おまいら”は当然アメリカ人です念のため)

しかし、このボートが就役していた頃、このスペースには
ボートの400トンの鉛蓄電池のうち半分がぎっしりと満たされていました。
つまり前部バッテリー200トン分ですね。


より精密な状態を知りたい方のために、
バッテリーと送風システムの図解を示しておきます。
ベンチレーション大事。

戦後展示艦となってから、「シルバーサイズ」からは
バッテリーは取り外され、空間となった部分のバラストの損失を補うため、
コンクリートブロックに置き換えられました。

ところで、海軍はどうやって400トン、合計52個のセル
(それぞれ21✖️15✖️54インチ、重量1,650パウンド)
のバッテリーをドアとハッチの廊下の下から取り出したのでしょうか?


この答えは、わたしの写真には残っていないので、
お見せするわけにはいかないのですが、少し移動した場所の頭上には重いスティールパッチが確認されます。
一旦圧力隔壁に開けられた穴を防ぐためにシールされ、溶接されています。

つまりそこから入れたものを出し、後を塞いだのでしょう。


バッテリーは潜水艦特有、かつ不可欠な動力部品です。
なぜなら、空気吸入ディーゼルは、水中ではそれほど長くは保ちません。

そしてプロペラは発電機としてのみ起動するものではなく、
電気モーターによって駆動されます。

バッテリーは、発電機からの450ボルトの電力を蓄え、
ボートが潜航したときに電力を供給します。

バッテリー電源の持続時間は、
ボートの速度と充電の状況によって異なってきますが、
通常、ボートはバッテリーを充電して一晩中水面を航走しました。
前部バッテリーは、126個の蓄電池を前後に21セルずつ、
6列で配置され、それらは31ガロンの電解液を含みます。

これらのバッテリーは浮上した状態でなければ行えず、
充電中には発生する水素ガスを除去するための換気が必要でした。
天井のブロワーは、水素ガス排出システムの一部であり、
バッテリーを充電するときに発生する爆発性のガスを除去するものです。



第2のコンパートメントは、どちらかというとバッテリーが主で、
士官用の居住区というのは、あくまで従ということになります。

さすがは潜水艦。って何がさすがかわかりませんが。


続く。



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