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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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映画「陸軍の美人トリオ」Keep Your Powder Dry(常に備えあり)下

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1945年、日米戦争の最中に製作されたいわゆるプロパガンダ映画です。

日米彼我の国策映画を続けてご紹介していると、
国民を戦争遂行のため士気鼓舞させる、あるいは思想統制する、
軍への協力を求めるなどという目的が同じでも、文化慣習の違いは
その表現をあまりに違ったものにしているのに気づきます、

今のところ最も大きな違いは、なんといっても女性の描き方でしょう、

それをいうなら現在に至るまで日本とその他の国で
カルチャーギャップがない映画というのはひとつもないわけですが、
社会における女性の地位や扱いというのが違えば、
当然ながら映画で表現されるその理想型も変わってくるわけです。

軍のために働く女性の国策映画といえば、日本だと有名なのは
飛行機整備する女学生を描いた「乙女のゐる基地」ですね。
つまり全くなかったわけではないのですが、現実問題として
日本では女性の軍参加がありえなかったので、本作のように
異なったタイプの三人の美人が陸軍に入隊し、というような
映画的に「美味しい」シチュエーションは生まれようもありませんでした。



ラッパと号砲が鳴り、WAC駐屯地の長かった一週間が終了しました。
戦時中といえども、週末にはちゃんと休みがもらえます。



一人でホテルに部屋をとり、夜更かしして昼まで寝るの、とリー。
アンはいつも通り、愛する夫に手紙を書いて過ごすつもりです。



ヴァレリー・パークスも偶然リーの予約したホテルにいました。
彼女が財産相続の件を任せている弁護士から面会の連絡が入ったのです。

彼女がフロントにいると、ニューヨークのかつての遊び仲間、
ヴァン・デ・ヒューゼン・ジュニア(いかにもな名前)が現れました。



実は彼がそこにいたのは偶然でも何でもなく、
彼女の受け取る財産のおこぼれに預ろうとする親戚のハリエットが、
仲間(ジュニアとマルコとかいう太ったおっさん)を集めて
弁護士の名前を騙って電報を打ち、彼女を呼び出していたのでした。

ハリエットには何か目的があるようです。


とりあえず彼らはスィートルームで大騒ぎを始めました。
シャンパンとダンス音楽のパーリーナイの始まりです。

しかし、ヴァレリーはそんな騒ぎが楽しいどころか、
彼らの馬鹿馬鹿しい軽薄さがどうにも我慢できなくなっていました。
少し前まで自分もそんな彼らと同類だったはずなのに。

そんな彼女を、パリピたちはノリ悪くなったよねー、と揶揄います。
ジュニアが彼女のギャリソンキャップをかぶってふざけ、
軍隊を馬鹿にしたのに彼女が盛大にキレかけたときでした。



うるさいから静かにしろと直接苦情を言いに来た向かいの部屋の客は、
なんと、リー・ランド候補生ではありませんか。



こんな連中と一緒にいる自分を、よりによってリーに見られてしまった。
動揺するヴァレリーに、リーは心底蔑むような眼差しを投げるのでした。



さて、このハリエットという女、ヴァレリーの財産をあてにして
ちゃっかりフロリダのパームビーチに別荘の購入を決めてしまい、
名義人ヴァレリーのサインをもらうために彼女を呼び出したのでした。

「早くサインしないと他所に売れてしまうわ。
契約書にすぐにサインして頂戴」


彼女の持って来た契約書に全く目を通さずサッとサインだけして、
ヴァレリーは怒りに満ちた目で言い放ちました。

「勝手に住めばいいわ。わたしは行かない。軍に残る」

そして、気でも違ったのかという三人に向かって、

「わたしも数ヶ月前まではそっち側だったからこそ気分が悪いの。
あなた(ハリエット)は職を探せと言ったら真っ青になってたし。
あんた(ジュニア)は26歳の若さで酒浸り。
あなた(マルコ)は見栄ばかりね」

逆ギレしたマルコ(セリフはほとんどこれだけ)は

「悪いか?」

と開き直りますが、彼女はめげずに、

「あんたたち、今世界がどうなっているか、新聞とか見たことないの?」
そう、よく考えれば(よく考えなくても)今戦争中なんですよ。
この映画を作っているその時もね。

アメリカは広いし、本土に攻撃があったわけでもないから、
もしかしたらちょっとはこういう人たちもいたのかもしれませんが。

吐き捨てるようにこんな国民ばかりでなくてよかった、という彼女。
今度は酒浸りと言われたジュニアがキレました。



彼女をソファに突き飛ばし、帽子をむしり取って窓の外にポイっと投棄。
「何するのよ!」

彼女はすぐに階下に降りて帽子を探しますが、見つかりません。



しかもこのときの大立ち回りで彼女の制服にお酒がかかり、
肩は破けてみるも無惨な様子になってしまいました。
まさかこのままの格好で帰隊するわけにはいきません。

困り果てた彼女は、背に腹は変えられないとリーの部屋をノックします。
彼女は、自分の代わりにに帰隊して、
自分のベッドで寝てチェックを受けてほしいと懇願しました。

「WACでいることは今のわたしにとって何より大事なことなの。
自分に非がないのに辞めたくない」


最初は相手にしなかったリーですが、この言葉に心を動かされます。

もしかしたらあなたを誤解していたかもしれないわ、と言い残し、
ホテルを後にして隊に戻りパークスのベッドに潜り込みました。

深夜、WACでは見回りがやってきて、ベッドにちゃんと人がいるか、
(もちろん外泊許可のあるものは除外)チェックするのです。
毛布で顔を隠して無事に夜のチェックをパスした彼女は、
次の朝ホテルに戻ることにしました。


リーがホテルのエレベーターに乗ると、後から乗ってきた見覚えのある男。
彼女を待ち構えていたジュニアでした。

無駄に金持ちでプライドだけは高いジュニアは、ヴァレリーに引っ叩かれ、
酒浸り(Pickled in Alcohol)と罵られたことがどうしても許せません。
そこで彼はヴァレリーが財産欲しさにWACになったこと、
お金を手に入れたらやめるつもりの「偽軍人」だと吹き込んで、
彼女の軍での立場を滅茶苦茶にしてやろうと考えたのでした。



ジュニアから財産相続と入隊の関係を聞かされたリーは、
やっぱりあの女とんでもないやつだったわと鼻息も荒く、
自分の帰りを待っていたヴァレリーを激しく詰りました。

「何が”WACのプライド”よ!
使命感のない見下げ果てた俗物(スノッブ)よあなたは!
お金のために愛国心を騙るなんて!」

ところが、ヴァレリーは言葉少なに、ほとんど反論もしません。

「(教官に)言いつけるの?」

リーは追い詰めたネズミをいたぶる猫のように落ち着いて、
むしろ楽しむようにこんなことを言いました。

「あなたは軍隊を知らないわね。これは名誉の問題よ。
わたしは注進なんてしない。
けど名誉に賭けてあなたの卒業は許せない。さあ、どうする?」
いいつけるのではなく、全力で阻止すると。
実力行使でやめさせてやるっていうことでよろしいか。
どうする?といわれてヴァレリーは、
「こうよ!」

言うなりリーを平手打ちしちまいます。(冒頭左上コマ)
しかし、リーは仕返しするでもなく、

「あなたのその性格はそのうちトラブルになりそうね」

とだけ言ってそのまま部屋から出て行ってしまいます。

彼女がここで何も反応しないワケはお分かりでしょうか。
おそらく、ここがホテルの一室で公務中ではないからです。
もし、任務中、軍隊の皆の前で同じことを彼女がしてしまったら。

そのときこそリー・ランドの計画通りパークスは退校処分となります。


さて、次の日、パークスは兵舎の床掃除をしていました。
ランド候補生が中隊長役となってから、彼女は他の誰より
明らかに多くの雑用を言いつけられていたのです。

そのことは他の候補生も薄々気がついていました。



そこに中隊長役のランドがやってきて、パークスを見るなり
さっそく小姑のようなイチャモンをつけ出すのでした。

しかし、女同士の対立ってどうしてすぐこうなってしまうん?
ベッドのシーツの幅を測り、塗ったばかりのワックスを
すぐさま落とすように冷酷に命令します。

「役」といえども中隊長、軍隊で上官の命令は絶対なので、
パークスの返事は「イエス、マム」一択。

しかし万が一、反抗したり命令を受けなかったりしたら、
それを理由にランドはパークスを退学に追い込むでしょう。
ランドの中隊長役が終わるまでじっと我慢するしかありません。



彼女が床を拭いていると、電報が届きました。

アン・ダリソンに読んでもらったところ、ロックリッジ信託銀行から
彼女の口座に639,000ドル振り込まれるという報せでした。
「わたしは今アメリカで一番お金持ちの床磨きになったわ」

現代のお金に換算すると8,765,000ドル超、
日本円なら1,162,668,900円、さくっと11億円強となります。
確かにアメリカで一番お金持ちの床磨きに違いない。

ちなみにここの部分ですが、「床磨き」ではなくワックス拭き取り、

Yep. I am probably the wealthiest floor unwaxer in America.
と言っております。



この頃の軍隊ラッパの拡声器(笑)



今日でようやくランドの中隊長役は終わりです。

つまり今日を乗り切れば、おそらくパークスは生き残れるのですが、
最後の集合前、彼女は不運にも自動車の泥跳ねを受けてしまい、
汚れた制服を着替えていたため整列に遅れました。

ランドはその後も執拗に小隊長役の彼女に号令をかけさせ、
声が小さいと他の者に代わらせたり、



敬礼がなってないとして、何度も何度もやり直しさせます。
8回目、パークスがついにキレてランドを引っ叩くまで。(冒頭画像上右)



はっ!と息を呑む上官たち。



呆然とするパークス。

十分過ぎる退学の理由ができてしまいました。
ランドは誰にも気づかれないよう、唇の端を少し上げました。
笑っているのです。



その日、彼女の処分を決める公聴会が行われました。
実に民主的というか、非があるとされる本人に弁明の余地を与えるのです。

「規律を守らず中隊長の注意に対し相手を殴り、
そのまま現場を立ち去った」

これがランドが上官に上げた報告にですが、
パークスはそれに対して釈明しないと断言しました。

「釈明しなければ報告通りに判断しますよ?」

そういわれても、パークスは静かにそれでいい、と言い切りました。



パークスが退室した後、入れ替わりにランドが呼ばれました。
目的を達成して意気揚々というか得意げな様子です。



あなたの報告の正確さはわかっている、
あのような判断をするのは辛かったでしょう、と口で言いながら、
司令官はランドに、ふとついでにといった調子で、
パークスを個人的にどう思っているか、と聞きます。

「彼女は士官にはふさわしくありません」

何の躊躇いもなく彼女を退学に誘導するランド。

そんな彼女の様子を、もの思わしげに見つめながら、
司令官は独特の含みを持って次のことを告げます。

「もしかしたらあなたは驚くかもしれないけど、
同期の半数は、実はあなたに対して同じことを考えているようです。
あなたの軍隊指揮能力にはかなり問題があると」

はっと目を見開くランド。

評価シートというのはアメリカ軍ではよくやる方法だそうですが、
各自に他の隊員を評価し合うシステムのことです。

指揮官からの評価のみならず、同期の目からどう見られているかも、
軍人としての資質を判断する大きな材料になるというわけです。

ソ連軍でもこの方法を取り入れているらしく、
ソユーズ乗組の宇宙飛行士を決定するチームでも行われ、その結果、
候補生の中でユーリ・ガガーリンが一番評価が高かったとされます。
これは、確か、自分以外に誰を最も高く評価するか、という質問で
最も多く名前があげられたのが彼だったという話でした。

評価シートによると、ほとんどがランドの指揮能力について疑問を持っている、
という結果が出たようですが、平たく言うと、
あの子パークスのこといじめてるよね?ってことですよね。

みんな見ているし、もちろん上層部の目は節穴ではありません。

「それどころかあなたは『コールドポテト』で、
指揮官として信頼に足るかとか、人間性そのものも疑問視されている。
『軍人』の資質としては問題はないようですが」

続けて、彼女が中隊長役をいいことにパークスに嫌がらせをしたこと、
そして、たとえパークスに問題があったとしても、その責任は
中隊長役だったランドが背負うべきであると言い切りました。
つまりパークスが退校ならあなたも退校よ、とこういうわけですな。



そして、この日司令室に呼ばれたのはもう一人。
アン・ダリソンに、司令官は辛い知らせを告げなくてはなりません。
彼女の夫は戦死したのでした。

「昨日手紙を書いたのに」



打ちひしがれたアン・ダリソンが兵舎に戻ると、そこには
自分こそがこの世で一番打ちひしがれている(と思っている)
ランドが待ち構えていて、彼女の助けを求めていました。

司令からダメ出しされたこと、他の候補生の厳しい目に気づいたことで、
彼女は自分がしていたことにようやく気づきました。

そして、自分がヴァレリー・パークスに嫉妬を抱いていたことを
認めざるを得なくなったのです。


最初からヴァレリー・パークスに劣等感を持たずにいられなかった。

金髪で、ハイヒールと毛皮に身を包み、女子力に満ち溢れた金持ちの娘。
タウンアンドカントリー(大手雑誌)や「ヴォーグ」に載るような容姿。

ずっと駐屯地暮らしだった自分とは別世界の住人である彼女が、
ここで軍人として自分より成功しそうになったのが許せなかった。

だから彼女の遺産と別荘の話を知ったとき、つい我を忘れ、
それを利用して邪魔な彼女を追い払おうとしたのだと。



彼女に謝りたい、とランドはダリソンについて来てもらい、
ホテルの部屋にいるパークスに面会を求めましたが、
すっかりもう嫌気が差してしまった彼女は軍を去ろうとしていました。

「明日放校になる前に自分から辞めてやるわ!」



ランドは、自分が間違っていた、といい、さらに、
おそらく自分も指揮官の資質なしとして放校されるから、
あなたはせめて自分からやめないでほしい、というのですが、



彼女のことを全く信用していない彼女は、ははーんと笑って、

「わたしが処分されたらあなたも処分になるから説得に来たの?
つまり保身のために謝ってるだけでしょう」



二人の諍いを黙って聞いていたアンですが、ここでついに
我慢できなくなって、部屋を出て行きました。

この人、はっきりいって今それどころじゃないんだよね。
旦那さん戦死したって知ったばかりなのに。



その時アンは間違えてランドのバッグを持っていってしまい、
二人は残されたバッグにあった彼女の夫の戦死通知を見てしまいます。



「こんな悲しみを抱えていたのに・・・。
百年経ってもアン・ダリソンには敵わないわ」



二人はガン首揃えて上層部にあらためての謝罪を行いました。
これから心を入れ替えてやり直したいということも。


司令官はいきなりこんなことを言い出します。

「あなたたち、士官を育てる費用がいくらかかるかご存知?」

「3000ドル以上・・・いいえ、マム」

「いいえ、マム」



「それだけの投資がされた以上、今後任務に残るかどうかを決めるのは
あなたたちではなく、軍なのです」

なるほど。一理あるね。
どれだけ金使ったと思ってんの、というわけですな。言い方悪いけど。
というわけで?

「ですから、二等兵となって下士官ランクに戻るという要求は却下します」

つまり?

「二人の士官任官を認めます」



思わずランドは

「Holy Mackerel !」
(うっそー!)

と叫んでしまって慌てています。



そして外で待っていたアン・ダリソンとビッグハグを交わすのでした。



そして勇ましい軍歌が鳴り響く中、戦地に向かう船に乗り込む
一団のWACたちの隊列が向こうからやって来ます。



WACの先頭には、陸軍の美人トリオの姿がありました。



この映画はMGMにとって興行的に成功し、スタジオの記録によると
46万4千ドル(今日の620万ドル以上)の利益を得たとされています。

ラナ・ターナーも可愛いですが、ランド役のラライン・デイ、
そして不慮の事故で若くして他界したスーザン・ピーターズ、
どの女優さんも別格の美しさで大変目の保養になる映画かと思います。

三人が三人、典型的なセクシー、理知的、清楚タイプなので、
誰がお好きかで盛り上がりながら鑑賞するのも一興かと。

そんなこんなで特にわたしが女性だからか、
特に女性におすすめしたい戦争映画だと思いました。

終わり。



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