「陸軍の美人トリオ」
いくらアメリカの戦争映画で日本非公開だったとしても、
この投げやりな邦題、余りに酷くありませんでしょうか。
陸軍に入隊した美人三人を主人公にした映画、と、
これを見ただけでわかるという利点は確かにあるのですが。
おそらく企画段階ではまだ戦争は終わっていない1945年制作で、
戦意高揚というよりはWAC(women's army corps)への
リクルートを募るための宣伝映画である当作品の原題は、
Keep Your Powder Dry
で、映画ヒットの一因にこのタイトルのキャッチーさがあったと思われます。
このタイトルの「キモ」は「パウダー」です。
海軍が女性軍人をフネに乗せ始めた頃のカリカチュアで、
先輩が後輩に向かって、
「わたしも間違えちゃったんだけど、あそこはお化粧室じゃないの」
と火薬庫(パウダールーム)を指すというものがあります。
このタイトルになっている言葉は、元々、
「銃の火薬(gunpowder)を常に乾燥させておけ」
湿った火薬ではすぐさま攻撃できないことから転じて、
「どんな場合でもすぐに行動を開始できるように準備を怠らず万一に備える」
という意味で用いられるようになりました。
パウダーを白粉とかけたこのタイトルは、
美人WACを主人公にした映画にはあまりにもピッタリすぎて、全米が誰うまと膝を叩いてヒットにもつながったのでしょう。
勇ましい軍歌風の女性コーラスがタイトルに流れます。
戦時にもわたしたちには役目がある
わたしたちWACも兵士
軍隊式にタイプしたりファイルしたり
トラックを運転したり厨房に立ったりするの
最高の仲間と一緒に
戦場に出たあなたのたちの代わりを務めるわ
WACは兵士でもあるのだから
ハット、2、3、4、ハット、2、3、4
さて、ここはさる豪邸の寝室です。
豊かな金髪の美女が昼過ぎだというのにまだベッドの中。
同居している親戚の女性ハリエットに叩き起こされました。
主役のヴァレリー・パークスを演じるのは、
当時のナンバーワンセクシー女優、ラナ・ターナーです。
ピンナップガール出身で、8回結婚し、それ以外にも
クラーク・ゲーブル、タイロン・パワー、ハワード・ヒューズ、
シナトラ、ショーン・コネリーらと浮名を流したことで有名ですが、
彼女を女優として有名にしたのは
「郵便配達は2度ベルを鳴らす」の主演のコーラ役でした。
彼女が弁護士を呼んだのは、彼女の祖父が信託銀行に遺した遺産の件でした。
祖父は、孫娘が伝統的なアメリカ人女性として立派になれば
その遺産を託す、と実に曖昧で抽象的な遺言を遺していました。
管財人が銀行の理事会なので、彼女がどうなれば遺産を託すに相応しいか、
納得させるのが難しいのだと弁護士はヴァレリーに説明します。
「じゃ、何すれば納得してお金をくれるの?
夜明けに起きて乳搾りするとか?
ホロ付き馬車で全米を制覇するとか?
胸に国旗の刺青するとか?
ああ、WACになるっていうのもいいかも」
「それだ!WACに入隊するんです!」
「え・・・」
この際背に腹は変えられず。
相続が決まったら仮病で即除隊すればいいのだわ!
とWAC入隊を決意するヴァレリー・パークスでした。
こちらは休暇中のGIジョニーとその愛妻、アンが過ごす部屋です。
「I'll See You In My Dreams」(夢で逢えたら)
というロマンチックなスタンダード(映画の主題曲)が流れています。
彼女は愛する夫のために少しでも役に立てばという思いから
WACへの入隊を決めていました。
そして彼女は陸軍のランド将軍の娘、リー・ランド。
軍人の娘として育ち、早くから父と同じ道を進むことを決めていた彼女は
内緒でWACに志願していましたが、入隊許可の辞令を受け取った今、
ランド二等兵として意気揚々と父将軍に挨拶しにきたのです。
しかし父ランド将軍はそのことをすでに知っていました。
彼女に父が渡した餞別(going-away present)の時計には、
「Good Luck, Soldier.」(武運を祈る)
とあって、娘を驚かせます。
「知らないわけがない。ずっと諜報部にいたんだからな」
そして、娘に軍人らしくこんな激励をするのでした。
「Keep your powder dry!」(ぬかりなくな!)
WACの訓練所のあるデモイン駅に着いた汽車から候補生が降りてきます。
その中で一際目を引く金髪の美女、ヴァレリー・パークス。
ハイヒールに毛皮、タイトスカートと派手ないでたちのヴァレリーを
一眼見るなり「敵認定」したリー・ランドは、整列の際、
自分が彼女を押したのが原因でパンプスの踵を折ったパークスに、しれっと
「ごめんなさいね!
でもローヒール履いてくるように言われなかったっけ?」
なんなんこいつ、とムッとするパークス。
軍人家庭に育ち、自分が周りより上と自負しているリー・ランド。
彼女にとって、派手な金髪美女のヴァレリーは、異物でしかありません。
他の候補生とヴァレリーとの会話に彼女はイライラ。
「あなたをどこかで見たことあると思ってたけど思い出したわ。
コールドクリームの広告に出てたのよね」
「ここだけの話、あれは使わない方がいいわ」
「あなたみたいな人が仕事を辞めて陸軍に来るなんて偉いわ。ね?」
と相槌を求められると、間髪入れずに白けた声で
「みんな何かをやめてここに来てるのよ?」
うーん・・・これは・・・嫉妬?
ヴァレリーの方も、陸軍のことはなんでも知ってるオーラ全開で
皆に親切を装って得意げに知識を披露するリーにカチムカ。
「あなたは隊長かなんかなの?」
「軍人の家で育ったので詳しいのよ。なんでも聞いて」
「ねえ、ナポレオンさん、あなたが戦車の中で生まれようが、
手榴弾と一緒に育とうがどうでもいいけどさ、
わたしに命令できるのはそうする権利のある人だけよ?」
険悪な二人の間に割って入ったのは一見大人しげなアン・ダリソンでした。
アンを演じたスーザン・ピータースという女優は、このとき24歳。
結婚もして順調満帆だったのですが、映画撮影終了直後の1945年1月1日、
狩猟中に背中に銃弾を受けるという事故に遭ってしまいます。
映画が公開されたのは事故で彼女が下半身不髄になって3ヶ月後でした。
彼女は車椅子のまま女優を続けていましたが、うまくいかず、結局
脊髄損傷からくる合併症のため、7年後、31歳の若さで亡くなっています。
The Tragic Death Of Susan Peters
怒り心頭のリーは配置を変えてほしいと上官に直訴するも、
軍隊でそんな理由は聞き入れられないとバッサリ。
「まあいいわ。どうせあなたは訓練についていけないから」
負けず嫌いのヴァレリー、リーの挑発を受けて立ちます。
それにしてもラナ・ターナー可愛すぎ。
しかし、まず翌朝の起床、夜遊びクィーンだったヴァレリー、起きられず。
日の出前からバキバキに早起きして体勢を整えていたリーにまず一敗。
お次の制服の採寸では、あちこちサイズ出ししなければならないリー、
モデルサイズでお直し不要のヴァレリーにニッコリされてプライドズタズタ。
制服支給のシーンでちょっとウケたのが、このシーンです。
下着はどんなのかしら、というWACに対し、アンが
「O.D .よ」
「なにそれ・・Order Drawers(お仕立て上がり)?」
「オリーブ・ドラブよ」
陸軍では下着もOD色なんだ・・・。
行進訓練では(当然ですが)回れ右もできないパークス全敗。
ところが彼女が本領発揮したのは機種特定訓練でした。
「P-63キングコブラ!」
「P-40ウォーホーク!」
「B-29スーパーフォートレス!」
もう独壇場です。
双胴の飛行機の映像には、パークス以外の誰かが答えて、と教官。
これならわかる!とばかりランドがP-38、と答えますが、
教官がノー、というが早いか、パークス、
「P-61ブラックウィドウ!」
飛行機をよく知ってるのね(You know your planes.)という教官。
彼女が去ってから、パークス、
パイロットが知り合いなの(I know my pilots.)とにっこり。
問いと答えが韻を踏んでいるのが英語的笑いどころです。
教官の「your」=我がアメリカ軍の、という意味に対して、
パークスの「my」=わたしがお付き合いした、という意味も。
次の格闘技のクラスでは腕力に勝るリー・ランド圧勝。
いまのところ女の戦いは五分五分といったところです。
お次は郊外訓練。
WACにもミリタリー・ケイデンスがあるようです。
「私たちは、フォートデモインの娘私たちが外に出るたびに
人々は振り返って、私たちを見つめる
ハット、2、3、4!ハット、2、3、4!
あらゆる社会階層から戦争に勝つために来た
でも、ここにきたときにしたことは
洗濯、洗濯、磨き、磨き
5時に起床し、轟音とともに一日が始まる
それから何をするのかって?
ひたすら、ひたすら、ひたすら
磨く、磨く、磨く!
湖に足を浸しながらの休憩時間。
みんなはそれぞれの配置の希望を語り合います。
「わたしは放送かな」(ランド)
「あらあたしも放送よ」(パークス)
じゃ自分は行かね、とコーラを飲みながら思うランドでした。
誰かが持ってきた蓄音機で「夢で逢えたら」のレコードをかけました。
夫のジョニーとの思い出の曲にしんみりとするアン・ダリソン。
そのうち皆は戯れに湖で泳ぎ出しますが、ふとしたきっかけで
ランドとパークス、マジの競泳を始める始末。(写真判定なしの同着)
岸から上がって茂みで着替えをしようとしたら、
ジープが止まり陸軍部隊の隊長が降りてきました。
「ここで待機していた兵たちを集合させようと思ってね」
なんと彼女たちが茂みだと思っていたのは、偽装した兵士たちの群れ。
わたしたちあそこで着替えしたんですけど・・。
ハリエットがヴァレリーの様子を見にきました。
というか、お金が受け取れたかどうか聞きにきたんですけどね。
彼女の様子に、意外と軍隊に馴染んでいるのね、と驚くハリエットですが、
ヴァレリーは、こんな生活わたしは嫌いよと言い切りました。
さて、配属先の発表の日がやってきました。
互いが放送志望だと知ったパークスとランド、
一緒のところに行くのがいやで配属志望をお互い変えていました。
「車両輸送隊に変えたの」
「それってリーのせい?」
「そうよ」
パークスと入れ替わりに配置先の辞令を受けたランドが出てきて、
「志望通りよ!車両輸送隊に変えてやったわ」
「え・・・」
「あの遊び人(play girl)、むかつくんだもの」
最後はアンが志望通り、車両輸送配備の辞令を受けて出てきました。
係官が笛を吹いて、車両輸送配属者を呼び集めます。
ランド「はい!」ダリソン「はい!」パークス「はい!」
ランド「え?」パークス「え?」
ここはWAC車両輸送隊の訓練所フォート・オーグルソープ。
彼女らがここに配備されてから13週が経過しました。相変わらずレンチを取ったとか、セコい小競り合いをしながらも、
ランドもパークスも、もちろんダリソンもそれなりに訓練を積み、
今日初めて高官の車を修理する任務を命じられます。
将軍の車は、1942年製のクライスラー・ウィンザー・コンバーチブルクーペ、当時希望小売価格は1,420ドル(現在の23,320ドル)。
第二次世界大戦の影響で1942年1月に生産が停止されるまで、
わずか574台しか製造されなかった大変レアな車なので、
もし残っていたら大変なプレミアが付くでしょう。
こんな女の子たちにできるのかと不安がる将軍をよそに、
彼女らはたちまち不具合の原因を突き止めて、
テキパキと修理をしてしまいます。
それどころか、メンテナンスをしていないことをやんわり注意まで。
美人で腕のいい三人に将軍はもうニッコニコです。
帰隊した彼女らには嬉しいニュースが待ち受けていました。
三人揃って幹部候補生試験の合格通知を受け取ったのです。
「今はあなたのことも好きよ、ランド」
するとアンが
「あなたたち、この際しばらく矛を納めない?(bury the hatchet?)」
と両者の手を繋がせたので、しばらく二人は休戦することにしました。
その晩、三人は、元ボードヴィリアンで今は給養に行った
グラディスお手製の「合格&二人の休戦祝い」ケーキを楽しんでいました。
「3パウンド増えそうだけどもういいわ」
「グラディス、もうこれ美味しすぎてやばい」
「大佐の誕生日の時より卵をたくさん使ったわ」
そのとき、アン・ダリソンには夫ジョンの上官バークレー大尉が、
彼からの伝言をもって面会に来ていました。
「君の声を吹き込んだレコードを送ってほしいそうだ。
前に送ったのは割れて届いた」
伝言を伝え終わると厚かましそうなバークレー大尉、
アンに、海外に行く最後の晩、僕に、友達を紹介してくれないかと頼み、
まずはリー・ランドに目を輝かせてアプローチ。
「まつ毛が長いね・・・男はその上で滑って転びそうだ」
なかなか斬新な口説き文句です。
「踊らない?」
「踊らないわ。WACは士官と付き合わないの」
「ここチャタヌーガでカップルを何組も見かけたけどあれは皆兄妹か?」
PXから帰ってきたヴァレリーを見るなり大尉は大喜び。
リーのことなど目に入らない様子でターゲット変更です。
ヴァレリーも久しぶりのデートの誘いに悪い気はせず。
「知人でないと外出禁止」という規則があるので、
二人は互いに叔父と姪と偽って外出しようとします。
夜遊び大好きの血が騒ぎ出してきたんですね。
パーティ用のWACのドレスにわざわざ着替えてやる気満々です。
ところが外出許可を取りに行くと、今日は夜勤なので許可は出せないと。
パークスなら今日は予定がないとランドが申告したので、
家族が面会に来た当番の代わりに当直を務めよというわけです。
「あなたのためよ。バレたら候補生は失格よ」
「ランド、覚えてらっしゃい!」
さあ、どうなる二人!
続く。