MSIのU-505艦内ツァー、艦長のクォーターまで紹介しました。
クォーターといっても、個室ではなく、わずかにカーテンが
最低限のプライバシーを保証する程度の広さしかありません。
今まで見てきたアメリカ海軍の潜水艦とは大幅に違うところです。
今日はキャプテンズ・クォーターの通路を挟んで向かいにある
無線・音響室、この図での番号、6番からです。
■ 無線室
将校のワードルームの後ろには、ラジオと音響の部屋があります。
無線室は無数の送受信機が至る所に置かれていました。
こちらは今現在の展示で、わたしが撮った写真です。
無線士は、耳にイヤホンを 1 つだけ装着するタイプのリスニングギアを
しばしば装着していましたが、このようにしていないと、
モールス信号と艦内からの命令の両方を聞くことができないからでした。
無線士は、ボートが受信したメッセージに加えて、
本部や他のUボートからのすべてのメッセージを
ボートのウォー・ログ(戦闘日誌)に慎重に記録しました。
ボートは約 60フィートから70 フィートの深さに潜航を行いますが、
無線アンテナが水面下約 30フィート(9m強)のところであれば、
無線士まだ長波を受信することができました。
しかし、短・中波の電波はもう通信が不可能になります。
こちらは本に掲載された写真。
微妙にアレンジが変わってしまっているのがわかります。
右上の棚にあるのはタイプライターの箱で、本体は出してあります。
タイプライターの隣写真中央部分には、
エニグマ暗号通信機用の木製コンテナがあります。
短波と中波の電波は海中にいると水を透過できなかったので、
U ボートに搭載された最も重要な通信機器は、
同じく無線室にある エニグマ・マシンということになります。
エニグマ暗号機は、ドイツ語では
Enigma-M (Enigma M, Schlüssel M Marine-Enigma)
と言うのが正式な名称です。
送信メッセージと受信メッセージは機械を通すことでコード化、
およびデコードされ、機密性を確保するために、
コードブック指令に従って装置のシリンダー設定が毎日変更されました。
これまで述べたように、イギリスは戦争の初期にエニグマ・システムを破り、
大西洋の戦いで勝利を収めるための貴重な一手を取りました。
その後、イギリスの諜報部では、エニグマ暗号機から集められた情報を
「ウルトラ」と呼び、またアメリカはそれを「アイス」と呼びました。
U-505 から回収された 2 台のエニグマ マシンの1台です。
写真でもわかるように、このマシンにはチッカーテープ=印刷装置が取り付けられています。
この写真で拡大されている2つのローターを含む全部で4 つのローターは、
マシンの左上に取り付けられた部分です。
マシンのシリアル番号 (M7942) は、キーの下の小さなプレートにあります。
エニグマはドイツの主要な暗号機であり、第二次世界大戦中、
軍のすべての部門で使用されていました。
連合国はエニグマのコードを解読できるようになると、
それを元に傍受したU ボートのメッセージを解読しました。
そして、いわゆるおとりとしての護送船団をルーティングし、
その周りにハンターキラー グループを派遣して、
Uボートを捕獲するという計画も実行に移されることになったのです。
無線室のすぐ後ろにある小さなソナールームには、
ボートが水上艦艇の近くにいるか、あるいは
対潜軍艦の攻撃を受けている場合、無線技師が配置されていました。
ボートのハイドロフォン探知装置、つまり水没時のボートの「耳」は、
ボートの前甲板に装備されていました。
ハイドロフォン(きもい)
ハイドロフォンの原理は非常に簡単で、要するに
2対の水中マイクロフォンで船のスクリュー音を聴くのです。
カラーのU-505ハイドロフォン(やっぱりきもい)
それぞれのマイクに音が到達するまでの時間を測定することで、
Uボートから見た相手の方位を三角測量することができました。
ただし商船か軍艦かは分かっても、航続距離や方向、移動速度はわかりません。
水中では音が遠くまで伝わるため、水中聴音器は
100km先までの遠距離にある輸送船団を探知することができました。
しかし、その効果を最大限に発揮するためには、
Uボートが潜水し、すべてのエンジンを停止した状態で、
数分間、ハイドロフォンを聞き続ける必要がありました。
利点は、あくまで受動的であることから、
こちらの存在を相手に知られることがまずないということです。
無線室のハイドロフォンチューナー
オペレーターはヘッドフォンから敵のスクリューが接近する音を聞き、
ハンドホイールで検出器ヘッドを操作し、接触の方位を得ることができました。
この装置は非常に感度が高く、ある程度の距離からでも
船舶音を検出することができました。
(理想的な条件下では、1 隻の船で距離 12 マイル、護送船団で 60 マイル)
攻撃される可能性がある場合、Uボートの司令官は音響室の外の通路に立って、水中聴音機のオペレーターから口頭で報告を受けることがよくありました。
(潜水艦映画でしばしば見る光景です)
1944年6月、U-505がハンターキラーからの攻撃を受けたとき、
Uボートオペレーターは、爆雷が水に飛び散る音をはっきり聞いたと言います。
写真壁付けの左上がハイドロフォン装置
FuMO30レーダー セットもこの部屋で運用されました。
FuMOは
Funkmess-Ortung
の略語です。
【FuMO 30 GEMA】
周波数 368(MHz)
レンジ 6-8(km)
ベアリング 100(m)
精度 5º (+/-)
搭載 潜水艦
レーダーは、勝敗を決定的に左右する重要な開発の一つでした。
ドイツ軍も西側連合国もレーダー開発のために大規模な研究を行いましたが、
この分野で優位に立ったのはイギリスでした。(さすが諜報の国)
戦争中、ドイツ軍は「ビスマルク」が追っ手から何度もレーダーで探知され、
連合軍のレーダーの有効性を初めて認識することになりました。
連合軍側は、航空レーダーの発達によって、
視界条件に影響されずに航空機の行動が可能になりましたし、
また、巨大なサーチライトを搭載することで、
夜間に浮上したUボートを発見し攻撃することすら可能になりました。
この新たな脅威によりUボートは常時水中航行を余儀なくされることになり、
そのことは、航行そのものに時間と燃料の負荷がかかるだけでなく、
事実上、目を失ったのも同然となったのです。
また、連合軍は護衛艦にも新しい艦載レーダーを設置するようになり、
夜間浮上攻撃してくるUボートの可視性が向上しました。
1942年になると、ドイツ海軍Uボートの司令官たちは、
航空機が目視によるものとは思えないほど頻繁に出現してくることから、
これがレーダーのせいであると察知するようになります。
これに対し、FuMO-30 GEMAのセットは回転式のアンテナを利用しており、
無線室にある手回しホイールで手動で回す必要がありました。
アンテナは水密性がないため、潜水前には収納しなければなりませんでした。
■ レコード
平時の団欒タイムにラジオ波がチューニングできないとき、
ラジオマンはボート全体に聞こえるようにレコードを再生しました。
乗組員の好みは、ドイツの曲のほかに当時人気のあった、英国のジャズ、
そしてフランスのシャンソンなどでした。
映画「ダス・ブート」で、艦長(役名がない)が、
フランスのシャンソン「会いましょう」を、
無線室の横の艦長用ベッドに寝ながら聞いていたシーンを思いだします。
艦長はあのとき、無線士とごく近くで会話していましたが、
実際にUボートを見ると、各自の居場所は通路を挟んで向かいにあり、
それも可能だったんだなとよくわかりました。
■ 項末付録;アメリカ海軍潜水艦スラング DとE
D.A.D.
Day After Dutyの略
通常、夜通し働いた乗組員に与えられる任務後の休息日
"Damn, man, your voice has changed but your breath still smells the same"
"くそっ、声が(下に)変わっても(出るものは)同じ匂いだ"
また、そんなときには、
"Keep talking Lieutenant, we'll find you. "
「お話を続けてください、大尉、わかってますから」
と元凶に声をかけて恥をかかせる
D.B.F.
Diesel Boats Forever
非核潜水艦を描いた非公認のピンバッジ
アメリカのミリタリーショップから個人輸入した本物のDBFバッジ
ディーゼル・ボートの水兵が誇らしげに身につけ、
非公式にも関わらず、上級士官にはおおむね容認されていた
Dicking the dog
「犬をねじ込む」ある仕事に「中途半端な」努力をすること
また "screwing the pooch"『プードルをねじ込む』とも言う
D.I.L.L.I.G.A.F.
Does It Look Like I Give A Fuck?
「私が〇〇してるように見える?」
世界共通の頭字語だが、海軍で広く使われている
Dink
Delinquentの略
本来の言葉は過失を犯した怠慢なと言う意味
潜水艦ではこの言葉は「まだ資格取得前の乗員」
ディンクリスト
Delinquent List
潜水艦という職種にはの資格取得が必要です。
各乗組員は、船のシステムや緊急時の対応について詳しく勉強し、
その知識を実際に使えなくてはなりません。
乗組員の安全、場合によっては生命もが、
緊急時の各人の対応能力にかかっているからです。
資格を得るとそれまでの「ノンクオリティー・ピューク」たちに
クオリティーカードが渡されますが、そうなってから彼らは初めて
「スクール・オブ・ザ・ボート」の講義を受け、
各セクションにスケジュール通りに配置されることになります。
資格取得のスケジュールが遅れた者は「ディンク」(滞納者)リストに載り、
様々な特権(自由、休暇など)が剥奪されます。
ディンク・チェック
通常、映画の直前やクルーがくつろいでいるような場所で行われる
これは、『ディンクリスト』に載っている乗組員が
レクリエーションエリアにいないことを確認するためのもの
たぶん、非資格者がいたらそこからつまみだされる
まあ、それほど潜水艦の資格取得は重要視されているのです。
しかし資格カードができても、そこでよし、とはならず、
資格審査会で口頭試験と筆記試験を受けなければなりません。
これに合格すれば、初めて「潜水艦の資格あり」と認定され、
「ドルフィン」の着用が許可されることになります。
Drinking your dolphins(ドルフィンを”飲む”)
絶滅したイニシエーション
今ならパワハラで大変な騒ぎになりそうですが、ドルフィンを "装着 "したのち、それを "飲む "儀式をこなすまで
資格認定は "正式 "とならない、という怖い時代がありました。
これを文字通り「飲みこむ」(らしい)
少なくとも、1972年ごろのドルフィン獲得者は、
潜水艦基地のクラブでこれをやらされていたようです。
先輩たちがイルカを酒のピッチャーに落として
潜水艦の新米潜水士が、「イルカを歯に挟むまで」飲むわけですが、
・・・つまり、実際にマークを飲むのが目的ではなく、
それほど酒を注ぎ込まなくてはいけなかったということですかね。
つまりアルハラ行為だったわけだ。
しかし、アルコール中毒や実際にイルカマークが喉に詰まるなど、
事故が発生したため、この習慣は正式に禁止されることになりました。
ダイバーズ1MCのアナウンス(艦内放送)
"舷側外にダイバーがいます。スクリューを回したり、舵を切ったり、海から吸引したり、
海に排出したり、タンクを吹き出したり、排出したり、
水中機器を操作したり、ソナーを作動させないでください。
サイドにはダイバーがいます"
ドッグ・アンド・ポニー・ショー
上官の視察のために行われる特別なショーのこと
通常、乗組員は検査官から何か要求されたときでも
決して上級士官に質問しないようにと指示される
ドンキー・ディック
ヘッドバルブインジケーター
(シュノーケルの吸気バルブが開いているかどうかを示す棒)、
曳航式アレイソナーに使用するホース継手、
その他、大体丸くて幅より長いものを指す
”Don’t let your alligator mouth overload your mocking bird ass.”
"お前のワニ口がそのモッキンバードのケツに面倒かけないようにな"
通常、少し生意気になっているノンクヮル(資格を取る前の者)に言う
Douche Kit
シェービングクリーム、デオドラント、アフターシェーブローションなど、
トイレ用品を入れる容器(通常はジッパーで閉じる)
ドゥーシェはフランス語で「シャワー」
Double Digit Midget
二桁の『小さい人』=ショートタイマーのこと
定年退職、EAOS、民間への除隊、帰港まで100日を切っている人
ダイナマイトチキン
チキンア・ラ・キングやチキンカッチャトーレのこと
EAB
Emergency Air Breathingの略
地獄の業火そのものもので、このマスクを装着して
プラグを差し込んで回るのは、潜水艦乗りの最大の悪夢であった
このマスクは「ゴムを吸いこむマスク」と呼ばれ、
装着30秒以内に頭痛と姿勢の乱れを引き起こす最悪の事態に陥る
さらに悪いことに、マスクをしていない訓練モニターを見回すことになる
潜水艦は全員がEABマニホールドの位置を把握し、
照明がなくても見つけられるように訓練を受けています。
「EABレース」と呼ばれる訓練では、EABを装着して
目隠しをした状態で潜水艦の片隅に集合します。
その後、EABマスクや目隠しを外すことなく、
潜水艦のもう一方の端まで移動しなくてはななりません。
また、潜水艦や原子炉を操作する際に、EABを装着し、
そのままEABを外さずに操作を継続する訓練もあります。
“Eat shit and bark at the moon.”
誰かが誰かに言われたことが気に入らないときによく使われる言葉
「fuck off and die」(F.O.A.D.)として知られている
E.S.A.D.
イート・シット・アンド・ダイ
人生を端的に言い表した言葉
E.W.A.G.
Engineered Wild Ass Guess (エンジン技術者)または Educated Wild Ass Guess(高学歴)
アメリカの俗語にSWAGというものがあって、これは
Scientific wild-ass guess (SWAG)
=その分野の専門家が経験や直感に基づいて行う概算
を意味します。
たぶんこれのエンジニア/高学歴バージョンかと。
続く。