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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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映画「FBI vs ナチス」〜彼らはアメリカを破壊しにやって来た

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実際に起こった未遂のスパイ事件、「パストリウス作戦」をベースにした
アメリカ制作の戦時啓蒙映画、「奴らはアメリカを破壊にやってきた」
邦題「FBI vsナチス」後半です。

レジスタンス活動がバレてダッハウ送りになろうとしていた女性、ヘルガをエルンスト・ライターに成り済ました主人公、カール・スティールマンが救出したところで前半が終わりました。
ヘルガを護送していた2人は、車ごと、工作員養成学校の授業で使った
ピッチ爆弾で爆破されてしまったという状況なので、
養成学校の学生でありヘルガと接近していたライターが疑われる流れか?
と思いきや、ナチス海軍情報部は全くこの件について動きません。
ここで彼が疑われる流れになると、後半のオチに持っていけないからですが、こういう雑さが如何にも急拵えの二流作品感を免れません。
ゲシュタポってそこまで抜け作揃いじゃないと思うぞ。
さて、カールが死んだエルンスト・ライターの身分を名乗り、
FBIの工作員としてここに来ていることは、彼自身と
FBIのチーフ、クレイグしか知らないことのはずですが、
ここでエルンスト・ライターを知っている人物が出現してしまいました。

エルンスト・ライターの妻です。
彼女は諜報部にいるはずの夫に凸してきました。

いきなりで逃げられないと覚悟したカールは、妻に向かって
自分が訳あって彼の名を騙っている身であると告白します。
まさか彼がアメリカの警察に撃たれて死んだとは言えないので
とにかくこの場を乗り切るため、24時間待ってくれと時間稼ぎします。

その上で、彼はゲシュタポの本部長に、


「妻が精神を病んで、ヒトラー閣下その他高官を罵っています。
わたしのことを夫ではないと言い出しています。
彼女の奇行はもはや国家を脅かすレベルなので・・」
とあることないこと言って彼女を収容所送りにさせようとします。
ドイツ人二人爆破で吹っ飛ばして好きな女性を収容所送りから救った次の瞬間、
次は何の罪もない女性を陥れて収容所にブチ込めですかそうですか。

レジスタンスなら助けられるべき、親ナチの男の妻なら死んでもOK、ってか?
この考えのどこに正義があるのか?と製作者に聞いてみたい。



ところで、この写真の女性をご覧ください。
映画のフラウ(ドイツ語で夫人)ライターの洋服や髪型、ターバンは、
実際のパストリウス事件の裁判に出廷するドイツ人被告の妻のものとそっくりです。



誰の妻かはわかりませんが、美人の彼女は周りを囲まれ、
持っているバッグで顔を隠すも、追い回されてカメラで執拗に撮られ、ニヤニヤ笑う男たちが付き纏っています。

国家的大罪に対する懲罰という大義名分に乗じた男たちからは、フランス革命時に、目の覚めるほど美しい貴族の女性をなぶり殺して陰湿な快感を得ていた連中と同じ匂いがします。
そして、現在の世の中ではこれがネットという媒体を通じて、毎日毎日、
それこそ対象を変え事件が起こるたびに行われているわけですね。
匿名という仮面を得て、マスとなった「正義の民衆」によって。


ゲシュタポの部長にフラウ・ライターを収容所送りにする確約を取り付け、
ほっとして部屋を出ると、入れ違いに夫人がやってきました。



慌てて身を隠すスティールマン。
おそらく夫人は夫を名乗る自分のことを直訴するつもりでしょう。


夫人は、自分の夫を名乗る男をスパイに違いないと訴えます。

しかし、前もってスティールマンから刷り込みされている大佐は
頭から女性の方がおかしいと決めてかかって聞く耳を持ちません。
ここでまともな思考を持つ人間であれば、先ほど出て行ったところの
ライターを名乗る人物を呼び返して二人を対峙させるなり、
仮にも諜報部ならライターの調査資料を取り寄せたりするはずですが、
もちろんこの三文国策映画ではそんな展開にもなりません。

ねえ、ゲシュタポってそんなアホの子の集団だったと本気で思ってる?



とにかくあまりの話の通じなさにライター夫人激怒して、
この無能なゲシュタポの部長を激しく罵ってしまいました。

このときの女性の演説?と手振りは、明らかに
ヒトラー総統の調子を彷彿とさせるものになっており、
この辺りにも作り手の浅薄さが垣間見えてうんざりします。

とにかく、大佐はこれでキレてしまい、夫人を反逆罪で逮捕することに。
さすがに収容所ではなく矯正施設ということですが・・・。


激昂した夫人がカップを投げたりする大立ち回りの末、
連行されて行った後、大佐はため息をついて

「かわいそうなライター・・同情するよ」
と呟きますが、これ、なにかタチの悪いコメディでも見ている気分です。
本作上映時にここで笑いを取ろうとしていたのだとしたら、
つくづく下劣な製作者だと胸糞が悪くなりました。


さて、こちらアメリカにあるカール・スティールマンの実家。
カールが出奔して以降、寝込んでしまった父親ユリウスのもとに、
カールの友人と名乗る人物が訪ねてきます。

FBIのチーフ、クレイグでした。

用は何かと訝るユリウスに、クレイグは病気であなたが寝込んでいるのは
息子を心配してのことだと思って来たといいます。

なぜそんなことを知っているのかな?
やっぱりFBIの情報網ってすごいってことかしら。
そして、驚くことにクレイグはユリウスに、
カールはFBIのために任務を行なっているので心配するなと言うのです。

「この訪問は例外的であり個人的なものです。
わたしは息子さんとの約束があるから。
あなたたちについて面倒を見るとね」
いやいやいやいや、にしてもそれはダメだろうFBIチーフ。
驚き、次に狂喜して彼の母には告げなくては、というユリウスに、
「女性には絶対に言わないでください。
奥様であってもいけませんよ。彼の命はあなたの手にある」

クレイグは父親を信用させるために、胸ポケットから
FBIのバッジを取り出して見せることまでするのですが、
いやだから、なぜFBIの人間がこんな口が軽いんですか。


しかし、効果はテキメン、父親は喜びのあまりすっかり元気になって、
ベッドから降りて葉巻を探し始めるではありませんか。


「ヘンリエッタ!葉巻だ!」
要するに病は気からってことだったのね。


お手伝いの黒人のおばちゃん、テレサも心配してます。


そこに主治医のドクトル・ホルガーがやって来ました。
二人でユリウスの様子にびっくりです。



そして、父親は、嬉しさのあまり、ホルガー医師に
誰にも言うなといわれた秘密を打ち明けてしまうのでした。
「カールはナチスと戦うアメリカのために働いているんだ」

なに、あのFBIの男は「女性には言わないで」と言ったが、
ホルガー先生は女性じゃないから大丈夫、ってか?

あーもう、お馬鹿さんなんだからー(イライラ)
案の定、ホルガー医師はそそくさと帰っていきました。


さて、工作員学校で目論見通り最優秀学生となり、
エルンスト・ライターことカールは、作戦のリーダーとして
いよいよアメリカに送られることになりました。
実際にそうであったように、Uボートでロングアイランドまで運ばれ、
別働隊はフロリダに上陸すると言う手筈です。

そして、カールらが乗り込むUボートの出航日となりました。


この写真からはわかりませんが、実際に工作員チームが運ばれたのは
U-584だったとされますので、タイプはVIICとなります。映画ではU159と言っています。


Uボートは航行を始めました。
艦内では途端にドイツ語が飛びかいます。



艦長がライターに潜望鏡を覗かせると、そこには
連合国の輸送大船団と護衛艦隊の姿がありました。

逸る様子で「前の艦の下に潜り込んだら1隻はやれる」という彼に、
ライターは視線を落ち着きなく動かしながら、

「いや、それは上の許可が・・・」
「わかってますよ。
あなた方を無事に送り届けるのが我々の使命ですから。
しかし惜しい!」
「いや実に惜しいですねー」(棒)



ちょうどその頃、ゲシュタポのティーガー大佐は
カール・スティールマンという人物がFBIのスパイとしてドイツに入国している、という情報を受けて、心底のけぞっていました。

やっぱりホルガー医師、ナチスと内通していた模様。
そして、アーネスト・ライターこそスティールマンかもしれないと推測し、
夫がすり替わったと訴えていた夫人のもとに駆けつけました。



大佐がライター夫人にスティールマンについて問いただすと、
本当の夫の口から彼のことを聞いたことを思い出します。

「カール・スティールマン・・・親独協会の一員だったわ」
大佐がそれを聞いて息を呑むと、この激しい女性は居丈高に
大佐のミスと自分を収監したことを責め立てます。



「このことが知れ渡ったらあなたはクビね!
すぐに釈放して!」
彼女は知りませんでした。
ティーガー大佐が決して間違いを認めないこと。
愚鈍なくせにプライドだけは人一倍強い人物であること。
「わたしは慈悲深いの。愚かな人物には特にね」

窮鼠猫を噛むではありませんが、徹底的に追い詰めれば
相手は何をするかわからないということを。
「精神異常者の措置は知っているか?総統の指示を守れ」


大佐が去った独房からは、女性の叫びと続いて銃声が聞こえて来ました。
独房でなんの前触れもなく女性を銃殺って、これにはヒトラーもびっくりだ。


今や正体がバレたカールを乗せたUボートは、アメリカ公海に侵入しました。



そのとき、上空に米軍機が襲来しました。
ロッキードハドソンと思われます。

すぐさまUボートは潜航。
この「水平航行」の部分はドイツ語の合間にここだけ英語で
「レベル・オフ」と言っているのが聞こえます。


目標深度は70と言ってますが、これはメートルだよね?



3機は爆弾を落としてくるのですが、これはあきらかにさっきと違う飛行機、
マーティンのPBMマリナー。(水上機だお)しかも今調べたら、PBMには爆弾を落とすボムベイは搭載されていません。
深度を110(メートル?)まで下げてなんとか逃れました。



もうすぐアメリカ本土上陸というときになって、
スティールマンは一人で何やらごそごそしています。



これは確か、ピッチ爆弾・・。自分を無事に連れて来てくれたUボートに何をするつもり?タイマーを聞いたばかりの上陸予定時間より少し後に合わせています。
そして隙を見計らって、(そんなことが可能かどうかは謎ですが)、
その辺の魚雷の窓をねじ回しで開け、中に爆弾を放り込みました。
こいつ、つくづく鬼畜だよなあ。


同時刻、ティーガー大佐はUボート艦長に宛てて、
エルンスト・ライターの処刑命令を打電していました。

ちなみにセリフで言っている実際のU-159はIXC型で、
23隻もの商船を撃沈した殊勲艦でしたが、
5回目の哨戒でこのPBMに爆撃を受けて戦没しました。

ボートからエルンスト・ライターら工作部隊が下艦したそのときです。


Uボートの無線士が本国からの通信を受け取りました。



ウルリッヒ・ハウザー艦長は電報を見るなり、
なにやらドイツ語でいっています。
(シュバインとか聞こえているから豚め!的罵詈だと思う)
そして、上陸前にライターを捕まえるべく、
浮上を命じますが、ちょっとまって?
たしかUボートには時限爆弾が・・・。

どかーん(擬音)

時間通りに爆音が・・・って、水中とはいえ沿岸で
こんな派手な爆音がしたら、気づかれてしまいませんかね?
しかし、爆音を聴いたのはスティールマンただ一人。
同行の同志誰一人気づいていません。んなあほな。


どうした?じゃないっつーの。

そこにやってきた沿岸警備のジョン・カレンという人物も
爆音は全く聞こえなかったようです。

ボートから降りて来た一団を見咎めたカレンは、実際にも誰何し、
ドイツ人たちが口止めに渡したお金を受け取りました。



カレンは買収されたと思わせておいて、それを報告しています。
300ドル要求したのに260しかよこさなかった、と言ってますが、
実際のカレンも260ドルを受け取っています。


実在のジョン・カレン。彼はこのときの迅速な行動が犯人検挙につながったとして、
のちに叙勲されています。


映画では(尺の関係で)急展開、次の瞬間ライターは逮捕されました。


そしてドイツから入国した工作員グループは一網打尽に・・。


しかし、スティールマンだけは、こっそりFBI本部に連れてこられました。

「危なかったな。
君の暗殺命令が出ていたそうだ。
誰かが君を密告したと思われる」
その上で、エルンスト・ライターという工作員の立場で
法廷に立って欲しい、といいます。

「刑の執行まであっという間に進めたい」


そして、実際の被告たちが法廷に引き立てられるフィルムが・・。


彼らは二人を除いて全員死刑判決を受け、
電気椅子による処刑の後、ワシントンの草地に葬られました。
Operation Pastorius - Hitler's Dream to See New York in Flames



さて、映画はあの後味の悪い密告の落とし前をつけねばなりません。
スティールマン家にあのホルガー医師がやってきました。

父ユリウスは上機嫌で迎えます。
息子のカールが無事に帰って来て夫婦で喜びをかみしめているところでした。



「ドイツにいたんだって?
聞かせてくれ、恋人はできたかい?(小指を立てて)
フューラー・・じゃなくって、ヒトラーは見たかね?」

つい地金?を出してしまうナチス党員の医師。

「遠くからちらっと見ましたよ。
そうそう、いいニュースがあります。
僕は工作員の名簿を持って帰国したんですがね」

「本当か?よくやったな」


「先生、あなたはリストのナンバー8でしたよ」



「・・・・というわけさ」

チーフ・クレイグは部下にスティールマンの無実の訳を説明し終わりました。

「スティールマンは今どこに?」
「一般市民として忙しくやってる」

なぜか腑に落ちない表情の彼の頬をポンポンと叩き、
ウィンクして見せるクレイグ、というところで映画は終わります。

事件のセンセーショナルな雰囲気にただ流されて、
構成が雑ならプロットの穴も全く綻びっぱなしの前のめりな映画。
なぜカールがFBIに見込まれたのか、なぜ彼がその依頼を受けたのか、
ドイツのヘルガはどうなったのか、そして何より、
Uボートが大西洋を一瞬で横断できたのはなぜか。
深く考えればキリがないほど溢れ出る疑問の数々。この部下の全く納得いかない表情に、心から共感してしまったわたしでした。
まあ、なんだかんだ言って面白かったですけどね。

終わり。


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