MSIのU-505艦内ツァー、司令塔下の制御室までを見てきました。
こうはその後ろにあるユーボートならではの部分、
ディーゼルエンジンルームを通過します。
制御室、コントロールルームのバルブと機器だらけのところを
次のコンパートメントまで移動します。
見事なまでに左右対称に機械がセッティングされているところに
見学者用にMSIが取り付けた通路を進んでいきます。
通路右側の赤い枠の計器はこの場所にあるテレグラムレピータです。
この針のステイタスを見て、現場の人間は
現在の艦長の命令によりボートがどの状態に向かっているかを知ります。
通路両側の縦長の大きな機器には、どちらにも
「Voraus」(先に)と書かれています。
この「Voraus」は、ここから始まる
ディーゼルエンジンのM.A.Nの端部分です。
ちょっと待って、M.A.N.ってなんか聞き覚えというか、
見覚えがあるんですけど。
通路を挟んで据え付けられているM.A.Nは、
9気筒過給式4サイクルディーゼルエンジン、海水冷却式。
それぞれが適切なクラッチを介して
ダイナモーターとシャフトに結合されています。
MAN Diesel SE
は、ドイツの船舶推進システム用大口径ディーゼルエンジンのメーカーです。
2010年にMANターボと合併、現在MAN Diesel & Turboとなっています。
社名は「エム・アー・エヌ」が正式です。
バイエルン モトーレン ヴェルケの頭文字を社名にしたBMWが
「ベー・エム・ヴェー」であるような感じで、こちらは
マシーネンファブリーク・アウクスブルク・ニュルンベルク
(Maschinenfabrik Augsburg-Nürnberg)
の頭文字をとっていますが、口語では「マン エス イー」と呼ばれています。
創業が1758年という超老舗で、教科書にも出ていた重工業の町、
ルール地方で製鉄所として設立されました。
第一次世界大戦で大きく飛躍し、この頃ロコモーション、推進力、
鉄鋼を主要な構成要素としていたため、巨大産業となります。
ところでちょっと余談ですが、ディーゼルエンジンの「ディーゼル」が、
ルドルフ・ディーゼルというドイツ人の名前であることをご存知でしょうか。
ルドルフ・ディーゼル(1858-1913)
ディーゼルエンジン全てが彼の発明かというと、微妙なところもありますが、
初期のアイデアが彼から生まれたことには間違いありません。
1893年以来、ディーゼルは、最初のディーゼルエンジンが完成して
完全に機能するまでの4年間、アウグスブルクの研究室で、
未来のMANエンジニアたちと難問に取り組んでいたそうです。
ルドルフ・ディーゼルの最初のエンジン
第一次世界大戦時から、MAN社は、戦車、潜水艦のディーゼルエンジン、
投射砲や大砲のシリンダーなどを製造しました。
Uボート用のディーゼルエンジンを生産していたのは
アウグスブルクのMAN工場でしたが、パンター戦車の40%を製造していた
ニュルンベルクの工場とともに、第二次世界大戦中は
しばしば連合軍の大規模爆撃の標的になっています。
MANディーゼルエンジンポスター
1930年以降、ドイツでは条約の制約下で軍艦の生産が再び開始されました。
しかし、それも長くは続きませんでした。
ドイツの造船業が復活することができたのは、ヒトラーが
クリーグス マリーン(海軍)を生み出してから以降のことです。
新しいUボート艦隊の起源は、第一次世界大戦で得た経験を基に、
ハーグのドイツ人技術者が1920年代に設計した潜水艇にありますが、
これらの推進力は1930年代初めには完成していました。
この「新興海軍」のためのディーゼルエンジンを製造したのは
1 , クルップ・ゲルマニアヴェルフト/キール
2 , M.A.N. /アウグスブルグ
3, MWM(Motoren Werke Mannheim)/マンハイム
4, ダイムラー・ベンツAG /シュトゥットガルト
の4つの会社で、この順番通りの生産量でした。
ダイムラー・ベンツAGはディーゼルエンジンを担当し、
次第に潜水艇への搭載量を増やしていきます。
M.A.N.エンジンは、さまざまな軍艦に搭載されることになります。
同社で製造された1,000台のうち、330台がポケット戦艦、
軽巡洋艦、雷撃船、魚雷艇、潜水艦支援船に搭載されました。
また、1933年、戦艦並みの火力を持つ3隻の大型重巡洋艦のネームシップ
「ドイッチュラント」(後の「リュツォウ」)には
8基の7,100馬力のM.A.N.ディーゼルエンジンが搭載されています。
Uボートに搭載されたディーゼルエンジンは、MANの他に
GWとMWMによって製造が行われていました。
1935年以降に進水したUボートに搭載されたディーゼルエンジンは、
4ストロークエンジンで、そのほとんどが
ボッシュBosch製の機械式噴射装置
を備えていました。
参考画像:ボッシュの食器洗い機@うち
機械式噴射装置が何かはさっぱりわかりませんが、
平時では食器洗い機の製造につながりそうではありますね。
これらディーゼルエンジンの出力軸は、クラッチと電気モーター
(発電機としても機能)のシステムを介して
プロペラシャフトに直接結合されていました。
■U-505搭載 M.A.N.M9V40/46型
MANのあとのM9という型番は、気筒シリンダーの数を表します。
M6Vと比べると、470rpmで2,200馬力のM9V40/46は、
同じだがシリンダーが3つ増えていることがわかります。
9気筒のパワーは、当初Uボート「タイプIX」のために設計され、
のちに新型の「タイプXXI」に搭載されるようになります。
右側にコンプレッサーを搭載したM.A.N.エンジンM9V40/46
この新設計は同時代のクルップGWの
9気筒のF46(Krupp-GW社製)よりもはるかに性能が良く、
特に深さ方向の荷重によるショックの影響に対して優れていました。
一方、M.A.N.が新しく開発した2段式ターボチャージャーは、
第1段を機械的に駆動してコンプレッサーに供給する仕組みで、
この結果、470rpmで3,000hpの出力が得られることになりましたが、
なぜかドイツ海軍はこのシステムに対して関心を持たず、
プロジェクトは棚上げされることになってしまいました。
ターボチャージャーと荒波の相性が悪く、事故が起こったため、
1941年、回転式機構を遠心式機構に変更することで問題は解決しました。
変更された右側の遠心式コンプレッサーM.A.N.M9V40/46エンジン
1938年5月にブレーメンのAG Wesser造船所で進水した「U-37」に、
M9V40/46エンジンの最初のセットが搭載されました。
しかし、オリジナルのターボチャージ型エンジンが、
50隻以上のIXa型、IXb型、そして一部のIXc型には搭載されたままでした。
MSIのU-505はそのうちの貴重な一つです。
■項末付録:アメリカ海軍潜水艦スラング【G・H】
Gilly
ギリー - 違法な純穀物酒
別名「魚雷ジュース」とも呼ばれる
ゴートロッカー
チーフの宿舎を指す言葉
年老いたヤギが住んでいる場所という意味
CPO、先任下士官、チーフがなぜ「ヤギ」と呼ばれるのか。
これについては、以前も考察を試みたことがありますが、
ヤギという動物のイメージからなのか、やはりよくわかりません。
頑固で手強くて強情、というヤギの性格が、
確かにこの階級の海千山千に通じるものがあるのも納得ですが、
今回新たに引っ掛かってきたその由来とは次のようなものです。
ヤギはほとんどすべての種類のゴミを食べ、ミルク出すため、
帆船時代から船内で飼われるようになった。
またヤギはほとんど何でも食べるので、
「リサイクル」を必要とするゴミがある船では非常に役立つ。
木造帆船時代に下士官という階級が設けられ、
曹長という階級ができたとき、上級下士官用の寝台が別にある船はなく、
新任の曹長たちは、船のヤギと同じ宿舎を喜んで受け入れた。
通常の下士官の宿舎がどれほどひどいものであったかが窺い知れます。
つまり、上級下士官はヤギと一緒に住んでいたから、
彼らの部屋は自動的に「ゴートロッカー」だったと。
ちなみに、現代、ゴートロッカーは海軍でも尊重されており、
伝統的にすべての者は、士官や指揮官であっても
ゴート・ロッカーに無許可で入ってはなりません。
ゴートロープまたはゴート●ァック
「FUBAR」=Fu●ked Up Beyond All Recognition.
である全ての状況のこと
あえて訳すなら「わけわからんふざけた状態」
ゴートロープはカオスな状態(ヤギをロープで捕まえようとしている)
Gorilla sn●t
コンパートメントの隔壁の詰め物のチューブのシーラー
なぜゴリラかはわからず。
グレープ・シグネチャー
適正でなかったにもかかわらず、
システム専門家がその資格にとにかくサインをすることを指す
グリーンボード
バラストコントロールパネルのステータスが、
すべての船体開口部が閉鎖され(緑のスラッシュ)
潜水艦が潜水可能であることを示しているとき
「ストレートボード」とも呼ばれる
Grotopotamus
グロトポタマス
コネチカット州グロトン周辺に放牧されている巨大な女性
ブレマートン周辺に生息する「ブレマーローズ」に酷似
Grottweiler
グロットワイラー
グロトポタマスと同義
Growler
グラウラー
旧式の潜水艦に搭載されている音波式電話機
あの、これってもしかして、潜水艦の外から撃たれた艦長が
自分を見捨ててハッチを閉め、潜航するようにと
「テイクハーダウン!」言ったあの「グラウラー」から来てる?
だとすればずいぶんブラックなスラングだなあ・・
G.U.A.M.
Give Up And Masturbate
Gun decking the logs
フォームやログに、ほとんど想像上のデータを記入すること
たいていはめんどくさいから、あるいは遅れたから
ハーフウェイナイト
配備の中間地点にさしかかったときに行われるイベント
通常、ハーフウェイナイトは特別なディナー、
クルーによるエンターテイメントなどがおこなわれる
カジノナイトと一緒に行われることも多い
Hall balls
ホールボール全速前進または非常に早く進むこと
Hawaiian Bark Spiders
ハワイアンバークスパイダー
放屁
“He/She made Chief when Noah was a cabin boy”
「あの人はノアがキャビンボーイだったころチーフになった」
非常に年配のチーフのことをこんなふうにいう
“He's/She’s dumber than a box of rocks!”
"岩の箱より馬鹿!"
説明不要の間抜けな人を言い表す普遍的なフレーズ
"He's/She's so full of crap the birds won't land on him!"
”あいつ、くだらなすぎて鳥も止まんねえ!”
これも説明不要、無駄にいつも強気な人に使う
"Hey Messcrank another Gedunk" -
潜水艦の黄金時代によく使われたフレーズで、
(潜水艦種の)資格を得た乗組員が、食堂当番をしている非資格者に
嫌がらせをするときに使う。(クランクは非資格者の隠語)
“Crank, more potatoes” (クランク、もっとポテトくれ)
“Crank what the fuck is taking you so long?”
(クランク、なにもたもたしてんだ?)
など、多くのバリエーションが存在する
「ゲダンク」は、当の海軍さんにも語源のわからない、
海軍艦船内に設られたアイスクリームなどを配るバーのことですが、
単に非資格者の「クランク」と韻を踏んでいるだけかと思われます。
"Hit her in the shitter."
通常、映画の中でセクシーな女性が登場したときに誰かが叫ぶ
このフレーズは、ポリティカル・コレクトネスによって
絶滅してしまったため、現在使うと
日本における「昭和のオヤジ」呼ばわりされること必至
H.M.F.I.C.
Head Mother F●cker In Charge
Head in charge=担当責任者
誰が責任者かを確認するために使われるフレーズ
Hockey pucks
ホッケーパック
スウェーデンのミートボール
IKEAにある的な?
Hogans Alley
ホーガンズ・アレイディーゼルボートのアフターバッテリーにある、
交通のない停泊区画のこと
行き止まりの通りのように、出入り口が1つしかない
これが、FBIの街を模倣した訓練施設から来ているのか、
それともアメリカの昔の漫画「ホーガン横丁」から来ているのかはわからず。
FBIの方によると、漫画「ホーガン横丁」の路地は荒れた地域にあったので、
犯罪が多発するこの町にふさわしい名前だと思って、
この名前を拝借したということを公式に表明しています。
Holidays
ホリデー
配備中は決して存在しない1年のうちの神話のような日
ハリウッド・シャワー
長時間、しかも通常許可されていないシャワーを、
犯人が望むだけの水量で思いっきり浴びること
通常、この犯行に及ぶのは、ソナー技師や放射線技師
馬のコック
昼食や中食に出される、ボローニアや焼きすぎたカルパスの大きな丸太
ホットコック
最新のニュースや噂のこと
the skinny "や "scuttlebutt "(噂・ウォータークーラー)とも
Hot Racking or Hot Bunking
ホットバンク(ベッド共用)から派生した「ラック共用」がホットラッキング
3人の男性が2つのラックを共有する
"奥さんと子供たちはどうしてる?"
通常、対立クルーであるブーマーセーラー(SSBNの乗員)が、
原潜の乗組員に悪意なく(多分)する質問
時には残酷な現実を問われた側に突きつけることもある
要するに相手がそれを「聞かれたくない」とわかっているときに聞くのかな。
いやいや、明日は我が身ですぞ。
続く。