さて、映画「海の牙」ならぬ呪われしものたち、後半と参りましょう。
今日のタイトルは、登場した海軍軍人を描いてみました。
左上から砲雷長、副長、米軍大尉、艦長、輸送船長、
下はUボート出航時の艦長と副長です。
フランス製作の映画のせいか軍事考証が甘く、
ナチスドイツの軍帽のエンブレムの上につける鷲のバッジがなかったので、
こちらで勝手に描いておきました。
■ クチュリエの死
ナチス再興ご一行様が当てにしていた南米の支援者、
ラルガに裏切られ、これを腹立ち紛れに殺害したフォルスター、
実際に手を下したウィリー、Uボートの副長が帰還しました。
つまり、補給先のあてははずれてしまったということになります。
彼らが乗って帰ってきたボートは
舫が解かれ、海に放棄されました。
それを見たジャーナリスト(正体がバレたスパイ)
クチュリエの顔に決心が浮かびました。
上着を脱いで海に飛び込み、ボートに乗り移って逃げようと。
必死で泳ぐクチュリエに、フォルスターは何発も銃弾を撃ち込みます。
この銃の撃ち方で彼の親衛隊での経歴が想像できます。
船端に手をかけたクチュリエの体を銃弾が貫きました。
甲板に脱ぎ捨てられた死者の上着を海に蹴落とし、
この冷酷な男は残った弾をヒルデの目の前で海に撃ち込みます。
■ エリクセン逃亡
艦は出航し、停泊の間閉じ込められていたジルベールはほっと一息。
ウィリーはこれからフォルスターにお仕置きを受ける予定。
(ベルトによる鞭打ち。子供か)
しかし、ここでまたしても事件が起こりました。
ノーマークだったエリクセンがいつの間にか消えていたのです。
彼は甲板下のゴムボートで脱出していました。
ジルベール医師がボートを見つけた時甲板にいたのは彼だったんですね。
娘のイングリッドは、人目を避けるように誰もいない場所に忍び込み、
そこにいた猫を抱いて涙を流しました。
うーん・・・・お父さん、普通娘を置いて自分だけ逃げるか?
■ 通信士の「自殺」
艦長は、工作員は当てにならないので、
付近にいるドイツの補給船に救援要請をしようと提案しました。
救援を打電した通信士は、ジルベールに
補給船に乗り移って逃げるチャンスだと囁きます。
フォン・ハウザーもそろそろ弱気になり始めますが、
フォルスターはいまだに敗北は想定内だった!などと強気です。
「あんたのような腰抜けにはもう任せられないから指揮を執る!」
フォン・ハウザーにはまたしても暇なヒルデが擦り寄ってきますが、
彼は今それどころではないと追い払います。
地位と輝かしい未来あってのトロフィーワイフならぬ愛人など、
そのどちらもが失われそうな今、何の価値がありましょうか。
その直後、通信士が持ち場で死んでいるのが発見されました。
フォルスターは自殺だと言い放ちます。
彼は色々と「知り過ぎてしまった」のです。
■ もたらされた終戦の報
Uボートは補給船と接舷を行いました。
補給船からは船員たちが興味津々で見物中。
敗戦の情報を補給船からシャットアウトするため、フォルスターらは、
たった3人の乗組員を作業に派遣するにあたって、
「補給船の船員とは口を聞くな。何も視るな」
と厳しくお達しをしておいたのですが、口はきかずとも、何も見ずとも、
耳からはいくらでも情報が入ってくるわけで・・・。
艦内に戻った3人は、早速仲間に伝えます。
「終戦だ!」
「本当か?終わったんだな?」
停泊中施錠された部屋に閉じ込められていたジルベールはそれを聞きつけ、
イングリッドにドアを開けてくれるように頼みました。
フォルスター、フォン・ハウザー、潜水艦長の3人は輸送船に移乗し、
輸送船長から終戦の知らせを改めて聞かされました。
デーニッツ直々の指令として送られてきた電文には、
「ドイツ軍全艦隊は最寄りの港に寄港せよ」
フォルスターは、そんな命令が聞けるか!我々には任務がある!
と怒鳴りますが、潜水艦長は上司であるデーニッツの指令に従うと言い切り、
意外やフォン・ハウザーも敗戦を受け入れて輸送船に残る選択をしました。
二人は輸送船長と共に船内に姿を消します。
ここでお気づきの方もいるかもしれませんが、この艦長です。
司令官とあろうものが、いくら敗戦を受け入れたといっても、
ボートを放棄して部下を残し、真っ先に輸送船に移乗するって・・。
こんなのたとえお天道様が許してもカール・デーニッツ閣下が許しますまい。
今更ですが、こういうときに司令官たる艦長は(民間船であっても)、最低限、艦長命令で命令通り近くの港に入港させる責任を負うものです。
■ ヒルデ惨死
フォン・ハウザーは乗員に命じてヒルデの荷物を運ばせるのですが、
訳のわからない彼女は、持って行かせまいと必死で抵抗。
フォルスターが潜水艦に戻ると、南米でラルガ殺しに加担したあの少尉が、
彼にとんでもない計画を囁きます。
「輸送船を、潜水艦に残っている10名で撃沈しましょう」
この悪魔の所業を提案したのがなぜUボートのNo.2なのか、
ついでになぜ副長クラスなのに彼の階級が少尉なのか、
このあたりが色々と理解できないのですが、何よりわからないのは、
なぜここで輸送船を葬る必要があったか、です。
計画をあきらめて敗戦に従ったフォン・ハウザーと艦長を罰するため?
計画を物陰で耳にしたジルベールとイングリットは蒼ざめます。
そしてヒルデはというと、半狂乱になってフォルスターと揉み合い、
フォン・ハウゼンに知らせるために輸送船に移乗しようとするのですが、
ショックと興奮でわかりやすく錯乱状態に。
フォルスターは一応彼女を止めております。
はて、ヒルデなど邪魔なだけなんじゃなかったっけ。
ひらひらの赤いガウンを翻し、輸送船の梯子に飛びついたヒルデ。
足をかけ損ねてそのままずるずると海中まで滑り落ちていき、
次の瞬間、彼女の体は船体の間に挟まれ、潰されてしまいます。
このシーンですが、本当に女優(スタント?)が水に落ち、沈み、
挟まれるまでが、カメラの切り替えなしで撮影されています。
種明かしをすれば、おそらく船体と見えるのは上から吊った板で、
スタントは水に落ちるとすぐさま板の下を潜って向こうに脱出、
(水中に板の下端らしきものがちょっと見える)脱出が終わると、
輸送船の方の壁をこちらに打ち付けるという仕組みでしょう。
これでも大変危険なスタントだったと思いますが。
いずれにしても超ショッキングなシーンで、誰しも衝撃を受けます。
■ 輸送船撃沈
しかしこいつらはそんな光景にも眉ひとつ動かさず。
補給が完了すると、艦長代行として少尉が命令を下して離艦を行います。
そして、輸送船から遠ざかっていくと見せかけて・・・。
魚雷発射命令。
しかしこの男、少尉にしては老けすぎてないか。
魚雷室、#1と#2が装填を完了。
発射!
魚雷発射シーンは本物です。
が、これは本当に潜水艦?
至近距離から狙われた輸送船はひとたまりもありません。
魚雷爆発&沈没シーンは実際の戦時フィルムから取っています。
救命ボートの映像も実写。
実際こんな状況で沈没したとしたら、誰も避難できなかったと思いますが。
魚雷を発射中の後部魚雷室に、前部魚雷室の魚雷員がやってきて、
「正気か?同胞の船だぞ!」
ちなみにこのメガネの乗組員は士官です。
冒頭のイラストで着ている制服の袖から中尉だとわかります。
はて、もうひとつ謎。
副長が少尉で砲雷長が中尉って、命令系統的におかしくない?
両者の間で揉み合いになります。
輸送船が沈んでいく様子を平然と眺める人たち。
フォルスターがうそぶきます。
「あんな美しい船を連合国に渡すわけにはいかん」
さらにこの老けた少尉、機関銃で救命艇の人々の殺戮を命じます。
生き残って撃沈を証言されたら困るからですね。
煙たいフォン・ハウゼンも、何かと自分に逆らう艦長も、
この世から抹殺できるとご満悦のフォルスター。
■ 反乱
艦内での乱闘は続いていました。
砲雷長が叛逆を甲板に報告しますが、
直後、射殺されました。
悪辣少尉による同胞殺戮は続いていました。
フォルスターは海面を探照灯で照らして殺戮のお手伝い。
そこに艦内での争いに勝ったまともな乗組員たちが駆けつけ、
少尉と銃弾装填を行っていた下士官に襲い掛かりました。
この副長には今までよっぽど嫌な目に遭わされていたんですね。
彼はこの後海にデッキから叩き落とされました。
ザマーミロだわ全く。
フォルスターは隙を見て艦内にコソコソと避難。
武器を持ってきて反逆者を始末するつもりです。
生き残った乗組員たちは食料を積んで、
救命艇で潜水艦から脱出する準備を始めました。
ジルベール医師もイングリッドを連れて彼らのボートに乗ろうとしますが、
丁度艦内に戻ってきたフォルスターに殴られて、気絶してしまいます。
フォルスターは艦内に閉じ込めていたウィリーに、
居丈高にピストルを出せと命じます。
救命艇にむかってまた撃ちまくるつもりでしょう。
フォルスターにピストルを渡したウィリーは、
次の瞬間無言でフォルスターを背後からナイフで刺しました。
DQNの一突きでほぼ即死するフォルスター。
脂肪分厚そうだけど急所だったのかな。
■ 救命艇での脱出
救命艇に乗ることができたのは、結局イングリッドと、
「フォルスターを殺してきた」
と得意げに宣言しながら走ってきたウィリーでした。
いやちょっと待って?
少尉とそのシンパ、諸悪の根源フォルスターをやっつけたら、
もう潜水艦から脱出する必要ないのでは?
Uボートの乗組員なんだし、給油も補給もすませたばかりですよね?
うーん、ここで彼らが潜水艦から逃げる理由がわからん。
■ Uボートでの漂流
ジルベールが気がついた時には、
救命艇はすでに遠ざかっていました。
以来何日間も、無人の潜水艦で一人漂流する毎日。
このまま誰にも知られず死んでいくのかと思うとたまらなくなった彼は、
蝋燭の灯りでノートに回想録を筆記し始めました。
しかし、全くの孤独ではありませんでした。
この猫さんのためにも食べ物が無くなる前に見つかりますように(-人-)
些細なことも全て思い出すままに書き記していきました。
主にここで出会った人々のことを。
「軽率で臆病なクチュリエ、
海に身を投げたガロシ・・・フォルスター。
情緒不安定だった未亡人のヒルデ・・・フォルスター。
不良のウィリー・モールス・・・フォルスター。彼らが語りかけてくるようだ。奇妙な作業だ」
フォルスターが何度も出てきます。
彼らの声を、顔を思い出しながら、彼はひたすら書きました。
ところで、艦内にはそのフォルスターのはもちろん、
何人もの人の死体が転がっていたはずなんですが、
それってせまい潜水艦でかなりやばい状態なんでは・・・。
まあ、映画だからその辺は気にすんなってか。
そして。
■ 「呪われしものたち」
その随想録の最初の読者となったのは、
フランス語を喋るアメリカ海軍将校でした。
ヘラヘラと彼にコーヒーを勧めながら彼の肩を叩きます。
「これで最終章が書けるな。
”最後はアメリカ海軍の魚雷艇に救出された”
・・・あとは受けるタイトルだ。どうする?」
「・・Les maudits. 呪われた者たち」
ラストシーンでは、彼の乗っていた潜水艦が魚雷艇に処分されます。
あ、もちろん猫も一緒に助けたよね?
終わり。